フォーミュラE 第14戦 ローマ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 Hankook Rome E-Prix
Circuito Cittadino dell'EUR 3.385km×24Laps=81.24km
winner:Jake Dennis(Avalanche Andretti Formula E/Porsche 99X Electric Gen3)

 ABBフォーミュラE、ローマ2連戦の2戦目です。前日は決勝で大事故が起こりましたが、幸いけが人だけは出ずにレースもきちんと走り終え、チャンピオン争いではキャシディーが1位に浮上、エバンスも20点差と追い上げ、ベアラインはかなり後退してしまいました。この日もローマは快晴、というかヨーロッパは熱波に見舞われています。


・モノコック争奪戦

 昨日の多重事故では複数の車にモノコック交換が発生、多くのチームは修復作業に深夜までかかってブラック職場と化しました。外装部品が壊れるだけであれば部品を付け替えるだけなのでまだマシですが、車の基本骨格であるモノコックが壊れてしまうとそうはいきません。
 ところが、毎回大量の予備を運んでもお金がかかるし大変なのでモノコックは全チームが予備を何個も持っているわけではなく、パワートレインのメーカーごとに1台の予備を共同所有している状態とのこと。つまりNIO以外はワークスとカスタマーの4台で1つの予備を共有しているわけですね。
※モノコックは壊れてないけどバッテリーが壊れて
FP3をずっとピットで過ごしたフェネストラズ


 そもそもあの事故の前からモノコックを巡ってはちょっとした事件が起きていました。日産はナトーがフリー走行でクラッシュしてモノコック交換しその状態で予選ではマクラーレンのヒューズがクラッシュしてモノコック交換が必要になったので、ヒューズの修理に使えるモノコックが日産陣営にはありませんでした。
 そこでFIAと全チーム合意の上で、日産にモノコックを貸し出すチームを決める抽選を行い、結果当たりくじ(?)を引いたポルシェからレンタル。ただ、モノコックからくみ上げるだけでも大変なのに、各メーカーの予備モノコックはある程度の部品を取り付けてすぐ使いやすいようにしているため、ポルシェから日産へ引き渡すとさらに余分な作業時間が必要になって、ヒューズは第13戦に出場できませんでした。この時点ではまだみんなあんなことが起きるとは思っていません。

 そして決勝、多重事故でポルシェもアントニオ フェリックス ダ コスタの車が壊れてモノコックが必要になりましたが、もう彼らの予備はヒューズの車になってしまって今さら返却できないので、ところてん方式でNIOから予備を借りました。
 ジャガーはバードとエバンスの2台が全損に近い壊れ方をしましたが予備は1つなので、ワークスであるバードの車はジャガーの予備モノコックで、ブエミの方はシャシーの開発元であるスパーク レーシング テクノロジーズが保有するものを使うことになりました。もう最後の頼みの綱という感じです。
 そしてモルターラが全損したマセラティーはDSと共有する予備があるのでこれを使用しましたが、この予備は遡るとベルリンのレース1でダニエル ティクタムと絡んでぶっ壊れたストフェル バンドーンがその後ポートランドまでの5戦で使用し、この週末からふたたび予備モノコックへと役割が格下げされていた"中古"の予備モノコックだという情報です。そもそも高価なものだしおいそれと増備もできないんですね^^;


・グループ予選

 グループAにはモノコック交換を終えて綺麗に修理されたバードが登場、1回目のアタックはあまりしっくり来ていない様子でタイムも伸びませんでしたが、2回目のアタックで最後に帰ってきて最速を記録。バード、キャシディー、ティクタム、エバンスの4台がデュエルスに進みジャガー製パワートレインは今日も速さを見せますが、デュエルス1回戦がいきなりバードとエバンスの組み合わせになってしまいました。
 B組は2回目のアタックでヒューズがターン7を止まりきれずコース脇に停まってしまい黄旗、前日に続いてまたタイムが有効か無効かという話になり、ここにアタック妨害による審議も加わりましたが、なんと調査は予選終了後となったので結果に影響なし。というわけでとりあえずデニス、ブエミ、ナトー、グンターのトップ4がデュエルスにはそのまま進みました。本当はちゃんと結論を出してからやるべきでは^^;

・デュエルス

 本気か茶番か注目されたジャガー対決、途中まではお互い攻めていた様子ですが、タイムを見ながら最後はバードがスロットルをちょびっと抜いてやっぱり譲りました。ただバードは絶妙な戻し方だったので結果的に敗退組で最上位となる予選5位を獲得。エバンスの方は準決勝でキャシディーに敗れて4位となりました、昨日ほどの速さが無い様子。
 一方B組は、昨日チームのエナジー管理が無茶苦茶だったので無線でキレていたデニスが勝ち上がり、決勝はキャシディーとデニス、選手権の1位と2位の対決になりました。キャシディーは準決勝とほぼ同じタイムでまとめたものの、デニスはターン1でちょっと滑りかけた以外は見事にまとめてジュリアス ベア ポール ポジションを獲得。デニスにはグループ予選でのアタック妨害の審議がありましたが、これは処分の必要なしと判断されました。
 スタート順位はデニス、キャシディー、ナトー、エバンス、バード、グンター、ティクタム、ブエミの順。ベアラインはかなり仲間外れの15位でいよいよチャンピオン争いは崖っぷちです。


・決勝

 気温35℃で猛暑日、路面温度は今日も60℃、って大阪より暑いやん。スタートから積極的だったのはナトーで0周目にキャシディーをかわして2位になりますが、キャシディーもすぐさま1周目のターン2という意表をついた場所で抜き返します。ナトーはターン3の脱出で遅れたので、エバンスもこれを抜いて3位へ。抜くときにエバンスの右後輪がナトーのウイング左端を踏みましたがどうやらお互い大丈夫そうです。
 一方、先頭のデニスはペースを抑えているようで後続は追突事故がそこかしこで起きそうな怖い状態。すると翌周にまた悲劇が起きました。

 デニスとキャシディーがターン7へのブレーキで並走、後ろにいたエバンスは追突しそうになったので最後にちょっとブレーキを強めたんだと思いますが、そこに路面の凹凸が悪さをして姿勢を乱してしまい追突、当たり方が悪くてキャシディーの車に乗り上げる危険な事故です。
 幸い車は横転せず、ロール フープが機能してキャシディーも無事でしたが、キャシディーの車はフープ上のカメラがもぎ取られる大きな破損、エバンスはこの状態からドスンと着地したので外見上のウイング破損以外もおそらく色々ダメな様子。汚い話、レースを続行しておけばペナルティーをレース中に受けられるのでなんとか続けたかったんでしょうが、結局リタイアとなり次戦5グリッド降格のペナルティーを受けました。他にも後続で追突事故が複数起きました。
バークレイさん・・・


 4周目にリスタート、有力選手2台が消えてデニス、ナトー、バード、ティクタム、モルターラのトップ5。バードとすればここはデニスの前に出て相手の得点機会を奪うか、もしくはバードミs・・・
 そんな中2位のナトーは6周目にデニスと軽く接触、またウイングを踏まれてしまい、今回は右を踏まれたらステーが折れて左側が落っこちてウイングが傾いてしまいました。さっきエバンスに軽く踏まれてるので左の強度が落ちてたのかもしれません。ナトーは「閉められた」と思っているでしょうが、全然並んでもいなかったのであれは入っちゃダメなやつですね。
 8周目、デニスとナトーが同時にアタックに入り、デニスはちょうどバードの目の前で合流。バードは残量が周囲より2%ほど多いので速さは持っているはずで、真後ろについて狙っています。デニスもブロックしてるんですが、内心「やらかすなよ」とは思ってると思います^^;
 
 13周目、デニスの鬼ブロックをどうにも超えられないバードが1回目のアタックへ、一旦4位に落ちます。するとこれを見てデニスとナトーがまた同時に14周目にアタック、そのまま1位と2位で戻って義務を消化しました。ナトーは1回目のアタックでバードに対して失った順位を取り戻したことになります、でも失ったウイングの部品は戻ってきません。バードからするとナトーに前に出られたのは痛手です。
 
 18周目、バードが2回目のアタックに入って3位のまま順位を失わない無料キャンペーン。ただ先に6分を使ってここは2分なので追い抜きには使えそうもなく、なんとかナトーを抜かないことにはどうしようもありません。元々昨日より周回数が少ない上に、1周追加にならない長さのSCだけが出たのでエナジー的には非常に楽になってしまって、バードは余分に持っていてもそれを活かせる状況でなくなっています。

 結局レースはそのまま何も起きずに最終周へ。デニスは結局フォーミュラEでは非常に珍しいポールポジションからの全周リードで優勝、開幕戦以来の今季2勝目を挙げました。レース全体の最速ラップは記録できなかったものの、上位10台の中では最速だったのでファステストのボーナス1点も獲得する『ほぼグランドスラム』達成で、チャンピオンに大きく近づきました。ちなみにデニスは2021年第6戦のバレンシアでも全周リードで優勝しています。

 ナトーはエナジー残量がカツカツでしたが逃げ切って2位、バードは最後まで抜けずに3位でした。モルターラ、ブエミ、グンターと続き7位にベアライン。ドライバー選手権でデニスとは49点の大差がついてしまい、数字上は可能性が残っているもののほぼチャンピオン獲得は潰えました。ポイントを確認しておくと

1  ジェイク デニス  195
2  ニック キャシディー  171
3  ミッチ エバンス  151
4  パスカル ベアライン  146

 キャシディーもエバンスもこのレース無得点、デニスはロンドンでの2戦で36点以上獲れば自力でのチャンピオン獲得です。もうこれはデニスとキャシディーの争いに絞られましたね。この2人にも24点とほぼ1勝分の差があるわけですが、ロンドンも事故が起こりやすくて抜きにくいコースなので、予選でやらかすと1戦目を終えたらほぼ同点、みたいな展開は起こりえます。もっとも、デニスにとってロンドンは通算4戦で2勝と2位が1回という得意の母国レースです。
 キャシディーは来季にはエンビジョンからジャガーへと"昇格"し、エバンスとニュージーランドコンビになる可能性が高いとされています。それがミスで2台ともチャンピオンの可能性を失った可能性があるので、コンビを組む前からちょっと余計な問題を抱えてしまいました。エバンスは今季2度もチームメイトからぶつけられてレースを失っているだけに、やらかしたことの意味はよく分かっていると思いますけど^^;

 というわけでいよいよ2週間後、ロンドンでの2連戦でシーズン9のチャンピオンが決まります。去年はここでバードが骨折したので事故は要注意!

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