フォーミュラE 第13戦 ローマ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 Hankook Rome E-Prix
Circuito Cittadino dell'EUR 3.385km×25Laps=84.625km
winner:Mitch Evans(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6)


 ABB フォーミュラE、シーズン9は残りが2ラウンド/4戦となりました。この週末はイタリアのローマで2連戦。平坦な場所が多い市街地レースにおいて、ローマはコース前半に高低差がありちょっとゲーム的な形状の市街地コース、70秒程度のコースが多い中でここは100秒コースと1周が長いのも特徴です。
 ターン1・2は滑り台のような長い坂を下りながら左右に緩く曲がる中速コーナーでどこかで滑ったら収集がつかず、ターン4を過ぎると今度は坂を登りながら狭い高速のS字になっている上に、途中路面に凹凸があって車がわずかに離陸します。しかもちょうどブレーキを踏む場所にもでっかい凹凸(っ ◠‿:;...,
 ただこの区間、誰かやらかすと後続は絶対避けられない事故になる上に、Gen3で車が速くなったので安全性ではちょっと問題があると感じます。2021年のレースでは実際にそこそこの多重事故が起きました。
 今回の決勝での使用可能エナジーは37kWh、周回数は土曜日が25周、日曜日は1周減らした24周となっています。連戦で2日目の方が距離が短く設定されるのはおそらくフォーミュラEで初めてですね。ドライバー選手権はレース前の段階で

1  ジェイク デニス  154
2  ニック キャシディー  153
3  パスカル ベアライン  138
4  ミッチ エバンス  122

 チャンピオン争いはほぼこの4人に絞られました。ちょっと離されているエバンスですが、なんと言っても私のイチオシなのと、ローマでは過去3勝、昨年は2連勝と相性が良いのでまだ圏内にいるとみなしますw

・レース前の話題

 本来なら今季はマセラティーと契約していたはずが、思いがけずF1へと旅立ってしまった元チャンピオン・ニック デ フリース。しかしデフリースはレッド ブルのお眼鏡に叶わなかったようでクビになってしまいました。The Raceによれば、仕事を失ったデフリースはふたたびフォーミュラEで職探しをすることになりそうで、候補として考えられるのはマセラティーと日産ではないかと伝えています。
 マセラティーならエドアルド モルターラは契約が残っているとみられており、マキシミリアン グンターとの入れ替わりになります。ただ、グンターはずっと結果が出なかったところからジャカルタから上向き。優勝を含めここ数戦は上位で争って、チームとしてモルターラより多くの点数を稼いでおり安易に替えて良いのか悩ましいところ。
 一方、日産ならノーマン ナトーが入れ替わる対象となりそうです。デフリースの古巣・メルセデスEQは現在のマクラーレンにあたるのでこちらも可能性があるかもしれませんが、切られるとしたらレネ ラストになるでしょうか。何にせよ、優秀なドライバーが予算内で手に入るのであれば欲しいところはありますし、弾かれるドライバーがいるとフォーミュラEはけっこう移籍が玉突きで起きるのでデフリースの動きには注目です。

・グループ予選

 A組ではサッシャ フェネストラズが圧倒的なタイムを記録。サム バード、デニス、グンターの4人がデュエルスに進み、ベアラインは5位で脱落。ところが、バードは黄旗区間を通過してのタイム更新だったのでセッション後にポルシェの代表・フローリアン モドリンガーがお怒りの様子。結局記録が無効となり、これでベアラインに順位が戻りンガー、繰り上がって4位でデュエルスに残りました。

 グループBではみんなが2回目のアタックに入っていた残り18秒、ジェイク ヒューズがターン6の凹凸で跳ねて制御を失い大クラッシュ。即座に赤旗になってセッションが終了し大半のドライバーは消化不良でした。
 エバンスは1回目で良いタイムを出していたので1位通過、セバスチャン ブエミ、ラスト、モルターラの4人が通過、ヒューズは赤旗を出した原因なので最速タイムが抹消され、計測は1周しかしていないのでタイム無しで最下位、キャシディーは5位でデュエルスに進めませんでした。

・デュエルス

 事故があったので処理のために少し待ち時間ができる中、A組で黄旗によるタイム抹消を受けた人が納得いかなかったようでさらに調査された模様、ジャガーの代表・ジェイムス バークレイもいつもの怖い顔で対応し、バードには車を降りないよう指示します。するとこの主張が認められたようでデュエルス開始直前になってバードのタイムがなんと復活、ベアライン、ぬか喜びでデュエルスには進めませんでした。
 この出来事は結果に大きく影響し、バードは快走してA組を突破、一方のB組はエバンスが順当に突破してデュエルス決勝はジャガー対決になります。こうなるとチャンピオン争いを考えると茶番になるわけで、バードが少し抜いて走ったのでエバンスがジュリアス ベア ポールを獲得しました。珍しくちょっとお茶目な表情を見せるバークレイさんゴキゲンです。

 スタート順位はエバンス、バード、フェネストラズ、ブエミ、ラスト、モルターラ、デニス、グンターとなり、キャシディーが9位、ベアラインは10位で5列目に並びました。

・決勝

 気温32℃、路面温度がなんと60℃と聞いただけで暑い午後。ここはスタート地点がターン3と4の間にあるので、スタートから最初の1周は『0周目』として数えられます。ですから実際のレース距離は86.5kmぐらいありますね。私は日曜の朝に録画で見てたんですが、近所からセミが鳴いてるのかと思ったら現地でもセミが鳴いているので段々テレビかリアルか分からなくなりましたw
 スタートではエバンスがうまくバードだけを前に出した感じでジャガーは狙い通り順位を入れ替えて風よけづくりに成功。後続はターン7にかけて場所取りゲームになりましたが、うまく切り抜けたデニスが0周目を追えた時点で5位、キャシディーも前がごちゃついた脇をすり抜けて、ちょっとデニスとは距離ができてしまいましたが6位となります。一方ベアラインはウイングを踏まれて壊してしまい緊急ピット。
落ち葉がすごい

 3周目、エバンスがバードを抜いてまた順位が入れ替わりそうでしたがエバンスは引いて2位のまま。するとその直後にアンドレ ロッテラーがターン7の手前でクラッシュしておりSC導入となります。ロッテラーは精彩を欠くレースが続いており、デニスとするとチームメイトからの援護が全然得られないのが少し不満っぽいですね。。。
 5周目にリスタートするとエバンスはターン7で今度こそバードを抜いて先頭へ、翌周にはフェネストラズ、7周目にはラストが順番にバードをかわしていきます。この辺はチーム戦略なのかただ抜かれてしまったのか不明ですがとりあえずジャガー分断。
 その7周目にエバンスは上位で最初にアタックに入り2分を使用、2位で合流します。翌周にはフェネストラズ、ラスト、バードが一斉アタック、ここでフェネストラズは1位のまま戻ってエバンスをオーバーカットしましたが、エナジー残量で2%近く負けています。

 ところが一斉アタックの翌周に悲劇が起きました。バードが予選のヒューズと同じようなスピンを喫し、5位のデニス、6位のキャシディーまでは脇をすり抜けたものの、7位のブエミは避けきれず接触し、以降は現場を通過した多くが巻き添え、特にモルターラはまともに衝突しました。

 ブエミは接触の衝撃で左前サスペンションが一発で大破、宙ぶらりんになった車輪がヘイローに当たっており、もしヘイローが開発されていなかったら頭部に直撃して無事ではなかったかもしれません。懸念していた事故が起きてしまいました・・・

 規定では中断されたレースには3時間規則が適用されるので一生懸命事故車と現場をお片付け、案外早く作業が終わって事故発生から約40分後の現地時間16時5分に赤旗解除となりました。9周目をSC先導走行で過ごした後、10周目にスタンディングでのリスタートです。フォーミュラEで赤旗後のグリッドスタート規則が適用されるのはたぶん初めてですね、あの事故の後だと気が進まないように思うんですが・・・

 ともあれ10周目にリスタート、4位のデニスが積極的でターン4でラストをかわすとエバンスも狙っていきます。何せフェネストラズは残量不足でペースが上がらない中でブロック ラインを取ってくるので、エバンスは自分もブロックするために内側を走るとフェネストラズに詰まるし、かといって外へ行ったら内側ががら空きになるし、でもできれば風よけに居てほしいから抜きたくはないし、間に挟まれて大変です。
 デニスは何度ターン7で仕掛け、毎回エバンスにブロックされて詰んでいましたが、15周目に意表をついてターン1〜2の下り坂でラインを変える奇策。これでエバンスをかわし、ターン7でフェネストラズも仕留めて先頭へ。

 こうなるとデニスを逃がすわけにはいかないのでエバンスも16周目にフェネストラズをかわして2位へ、ただデニスはもう2秒も前方におり、1回目のアタックに入って悠々と1位のまま合流しました。これでデニスもエバンスもアタック1回残しの同条件です。

 18周目、デニスが2回目のアタックに先に入ると前が開けたエバンスは最速ラップを連続で記録。するとここでデニスが珍しくエナジー残量でエバンスより3%も負けていることが分かり、エバンスには有利な材料となります。効率に優れているはずのポルシェ、どうした。
 ところが20周目、エバンスは満を持してアタックに入ったはずが3つ目の検知点をきちんと通れずまさかの空振り、無駄にデニスに抜かれただけになってしまいます。ただ、幸い3位のキャシディーとはまだ差があったので翌周に改めてアタックに入って2位のまま合流、そして22周目のターン7で残量が足りないデニスからあっさりとリードを取り返しました。デニス陣営はどうも計算を間違えたっぽくて「もう死に体だよ」「6位まで落ちるよ」とデニス本人は諦めムード。

 レースは2周の追加が発表され、リーダーはエバンス、2位キャシディー。ただ2台は2秒弱の差があり、残量にも差がなくて節約の必要性も薄れてきたので自力では追いつけない状況です。そのままエバンスが優勝し、ポール、ファステストも獲って29点全て持っていきました。


 2位にキャシディー、3位にはグンターが入りイタリアのブランドであるマセラティーとしては母国での表彰台ということになりました。チームとしては一応モナコ国籍で登録されています、念のため。
 デニスは終盤にターン7の手前で黄旗が出たことにも多少助けられてなんとか4位、一方フェネストラズはどこへ行ったのかというと10位まで転げ落ち、リスタート時には最後尾だったナトーが7位だったことを考えると壊滅的でした。ベアラインは0周目に緊急ピットしたことを思えば入賞できただけマシとはいえ、レース後に赤旗中の速度違反で5秒加算を受けて9位に終わりました。

 フェネストラズもデニスも、後退の一因はチーム側が周回数やエナジー配分の計算について混乱したことがあります。フォーミュラEではありがちですが、ローマのコースはコントロール ラインとスタート位置が異なる設計になっています。それだけならまだしも、ピットがコースに対して平行に作られていない奇妙な形状をしているので、ピット内にコントロールラインが設けられていません。
 アンドレッティー陣営は赤旗からの再開手順の際に、こうした状況が背景となって『何周目から再開されてあと何周あるのか』という最も基本的な部分で混乱が生じてしまい、デニスに伝えた目標値が完全に間違っていたようです。また、赤旗解除からグリッドに付くまでの1周とちょっとのSC先導走行が延長戦の計算に含まれるかどうかというのも混乱していたっぽいですね。

 これでレースを終えてのドライバー選手権は

1  ニック キャシディー  171
2  ジェイク デニス  166
3  ミッチ エバンス  151
4  パスカル ベアライン  140

 ジャガーとすればエバンスが最大の点を得られたのは狙い通りでしたが、競争相手のキャシディーも2位に来てしまってあまり差が詰まらなかったのが惜しい部分でした。ミスをしたくてするわけではないし他のコースには無いような区間なので仕方ない部分でもありますが、本来なら間に入ってチームに貢献するはずだったバードが車を大破させた上に相手の得点機会を増やしてしまったので、バードの立場はより厳しくなったように思えます。今日こそはチームに貢献するぞ、と思って決勝の最初までは完璧だったのに大事故でレースが終わることになって、体よりも精神的ダメージが心配ですね。

 それにしても、危ないだろうと思った箇所で予想通りに大事故が起きてしまい、今回けが人が出なかったのが救いですが、コースの形状には再考が必要になりそうです。バードはマンホールの蓋で滑ったと見られていますが、根本的にこのあたりは公園の外周道路で、地下には大きな木の幹が通っており、路面が大きくうねる要因となっているとみられています。
 同じレイアウトで走るのであれば、せめて道路管理者や自治体と相談してこの簡単に車がスピンするうねりを減らすように工事をするか、あるいはこうしたコースでは最大出力を従来の220kW程度に下げるような仕組みを設けて速度を下げるか、何かしら考えないといけないでしょう。「これだけの事故が起きてもドライバーはみんな無事だったので安心してください」では通用しないと思います。

 次戦も引き続きローマ、大事故の次の日にまたレースするってどんな気分なんだろう、とか思ってしまいます・・・

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