F1 第11戦 ハンガリー

FORMULA 1 QATAR AIRWAYS HUNGARIAN GRAND PRIX 2023
Hungaroring 4.381km×70Laps=306.63km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB19-Honda RBPT)

※7/25 デフリースに関して新しい(追えていなかった)情報をいただいたので、内容を修正しました。

 F1は夏休み前の2連戦に突入、第11戦は追い抜きが難しいけどけっこう色々と印象に残るような激戦や波乱が多いハンガリーです。2021年のルイス ハミルトン1人スタート事件はきっと永遠に語り継がれていくことでしょう。
 そんなハンガリーですが、今回はオルタナティブ タイヤ アロケーションという通常のレースとは異なるタイヤ配分が試験的に行われるレースになりました。本来はイモラで行われる予定だったんですが、中止になってしまったのでこのレースが対象になりました。ATAはタイヤの持ち込み数を削減することで持続可能な競技を目指そう、という理念で行われるもので使用できるセット数が少ないだけでなく、コンパウンドの配分も異なります。
 通常仕様のレースと、これまたちょっと規則が違うスプリント開催時のタイヤも比較してみるとスリック タイヤのセット数は以下の通り。

ハードミディアム
ソフト
通常 2 3 8 13
スプリント 2 4 6 12
ATA 3 4 4 11

 通常から見るとミディアムが1つ増えて、ソフトが4つも減りました。そしてこれに連動する形で予選の際にはタイヤの使用に制限があり、Q1ではハード、Q2ではミディアム、Q3ではソフトしか使うことができません。予選~決勝で使用できるのが7セットだということに変わりはないので、普段だととにかく予選を重視してタイヤを 1/1/5 で残してソフトを使いまくる中団~下位のチームであっても、逆にATAだとそんなにソフトがいらないので 2/3/2 とか3/3/1 とかになると考えられます。
 言い換えれば、7セットを選ぶ際に『決勝と予選のどっちを取るか』ということをあまり考える必要が無くなってしまうので、みんな似たような配分で似たような戦略になるのかもしれません。これが勢力図やレース展開にどう変化をもたらすことになるのやら。なおATAは2戦で試行する予定なので、今年あともう1回出てきて来年以降どうするかを判断する見込みです。

・レース前の話題

 前戦イギリスが終了した後にレッド ブル/アルファタウリが衝撃の発表。ニック デ フリースが離脱し、このハンガリーからダニエル リカードがアルファタウリのドライバーとして起用されることになりました。リカードはマクラーレンでまったくパッとせずにチームを離れて正ドライバーの場所がなく、今年はレッドブルのテスト兼リザーブという形で古巣に戻ってきていました。

 レッドブルいわく、マクラーレンから帰ってきたら以前には無かった変なクセが付いていることがシミュレーターのテストで分かったそうですが、イギリスのレース後に行われたピレリのタイヤ テストにレッドブルRB19で参加。彼の参加は5月の段階で既に発表されていましたが、おそらくデフリースの処遇を考えていた中でリカードがじゅうぶんな走りを見せたので最終決断に至ったと思われます。
 リカードとしては、もちろんレッドブル陣営に戻ってきたのはこういう機会があればF1に再び戻れる可能性があるためでしょうし、レッドブル側も保険として手元に置いていたはずなのでお互いにうまくハマった形です。ここで出てくるのが角田 祐樹で、リカードが角田に及ばない力であれば「なんだこんなものか」と思われて彼のF1は本当に終わりを迎える可能性が高くなり、逆に角田を凌駕するとセルヒオ ぺレスと来季入れ替わるようなことも当然可能性が出てきます。
 逆に角田とするとリカードに勝てばさらに評価される、かというと半年以上休んでた人が戻って来たので基本的に勝って当然という立場から始まるため、状況としてはかなり緊張感がある状況に思えます。負け続けるようだとリアム ローソンあたりと取り換えられてレッドブル離脱に繋がりかねないですし、勝って当然の立ち位置から始まるので、単にリカードに勝つ以上のものを見せないとなかなかアピールにはなりません。逆にそれができれば、あとは運が味方すればもっと良い席が手に入るでしょうし、お互いけっこうF1人生のかかった移籍劇に思えます。

 一方で、デフリースはクビになって激怒し「複数年契約で2025年はレッドブルでの参戦が約束されていた」とかいかにも東スポが好きそうな暴露話をして突然ガーシー化したとの情報が浮上。デフリースは数日はメディアの前には現れませんでしたが、解雇から1週間ほど経過したところでメディアの取材に応じて解雇された流れを振り返るとともに、この暴露話は勝手に流されたデタラメだとし、マネージメント陣は法的措置を取る構えを見せました。
 つい苛立ってあることないことオフの場のつもりで口走ったら書かれたのか、完全にでたらめの飛ばし記事なのか、真相は当人たちにしか分からない問題ですが、デフリースはフォーミュラEへの復帰をするとみられており、日産はノーマン ナトーが退いて後任として獲得を狙っているとも伝えられています。さらにWECでトヨタから参戦する二刀流を考えているとも伝えられているだけに、変なゴタゴタが長引くとイメージが悪くなるので手早く収まってほしいところですね。


・予選

 さてATA方式の予選、Q1はハードしか使えないのにみんな最後の最後にアタックすることを狙ったので渋滞発生、最終コーナー付近は紳士協定無視のちょっと危ない追い抜き合戦になりました。タイヤは冷えるし邪魔されるしで最悪の状態で、この煽りを食ってジョージ ラッセルがQ1で落ちてしまいました。トト ウォルフも思わずこの表情。

 すいません間違えました、こっちです。

 Q1では角田も脱落してしまいました。さらにQ2でもアルファ ロメオが妙に速くて2台ともQ3に進む一方で、フェラーリのカルロス サインツが11位で脱落と、なんか普段と勝手が違うせいもあってか面白い予選になってしまいます。

 そしてQ3、マクラーレンは今回も速くてマックス フェルスタッペン、ランド ノリス、そしてハンガリー職人のハミルトンがポールを争う展開となり、2回目のアタックで最後に魅せたのはハミルトン。最終コーナー手前の段階で0.15秒ほどあったフェルスタッペンとのマージンが、タイヤの温度が上がりすぎたのか最終コーナーでヨレヨレになって貯金を全部吐き出したものの、辛うじて0.003秒差でピレリ ポール ポジションを手にしました。2021年第21戦サウジアラビア以来となる通算104回目のポールです。アタック後はあまりの興奮で叫びすぎてちょっと声が枯れてました^^;


 フェルスタッペンに続いて3位にノリス、そして4位にもマクラーレンのオスカー ピアストリ。ハンガリーは初優勝を生む場所とも言われたりしますが、前3台が1コーナーで全滅してピアストリ初優勝とかあるかもしれません。5位はなんと周 冠宇で予選の自己最高位、シャルル ルクレールが6位です。バルテリ ボッタスも7位にいてあろうことかフェラーリがアルファロメオに挟まれました。リカードは13位と大健闘。

・決勝

 上位8人はミディアムを選んでのスタート、9位のペレスが逆張りでハード、ちょっと違う発想でソフトでスタートする人が中団以降に4人。スタートではハミルトンの動きが悪く、内側にフェルスタッペン、さらに外にノリスの3ワイド。ターン1でフェルスタッペンが先行しますが、みんなで外の方へ行ったため4位のピアストリががら空きの内側をついて2位になりました。惜しい、もうちょっとで予言通りだったのに!w

 事故が起きたのは後方で、ジョウが驚くほど出遅れてしまって一気に後退した上にターン1でリカードに追突。ここから玉突き事故になってアルピーヌの2台が接触し2台ともリタイアに追い込まれる悲しい結末になりました。ガッスリー後ろからぶつけられてしまったけどあんまりオコンないでね。
 リプレイを見るとジョウはシグナルを見ていなかったのかと思うぐらいスタート時にエンジン音がせずに動き出しも遅かったですが、本人やチームの話だと何らかの不具合でスタートの直前にスロットルを踏んでもエンジン回転が上がらなくなってしまい、目いっぱい踏んでたけど全然回転数が上がらない状態でスタートになったのでものすごく遅かった模様。チーム側はブレーキにも問題があって追突したと言っています。ブレーキはどうだったか分かりませんがスタート時に車に何かあったのはおそらく事実でしょう。事故原因を作ったので5秒ペナルティーも受けたジョウは16位でした。

 さてレースに話を戻すと、フェルスタッペンは2位がピアストリになったということもあり対戦相手不在といった状況、一方で8位のアロンソを筆頭に大渋滞が発生しており、これを抜け出すために9周目から早くも後ろの人達が1回目のタイヤ交換へ向かいます。このサイクルで、せっかくソフトでスタートして11位に上がっていた角田はタイヤ交換で大失敗しほぼビリになってしまいました。

 16周目、スタートの失敗を無線で謝っていたハミルトンがピットへ。3.7秒ほど前方にいるノリスを揺さぶりにいきますが、ミディアムからハードに繋いでのアンダーカットはちょっと出足が遅いので、この差だと逆転は難しいだろうなと思いました。ところがこの後ちょっと頭が混乱する状況が起こります。
 これを受けてマクラーレンは当然翌周にノリスをピットに呼んでハードに繋ぎますが、コースに戻るとなんとハミルトンより6秒も前方にいてピット前よりも差が広がりました。見間違いか、3.5秒差が記憶違いだったのか、目が点になりました。
 調べてみると、イン ラップのタイム自体がノリスの方が0.6秒ほど早かったというのもありますが、それよりも極端にアウト ラップで差が出ており、ノリスが結局アウトラップを1分40秒5で走ったのに対して、ハミルトンは1分44秒6と4秒も差がありました。
 厳密にいえば、ピットを出た時点の差というのはアウトラップの比較ではなく、先に入った人のアウトラップ(のセクター タイム)と後からピットに入った人のインラップ(のセクタータイム)を比較しないといけないんですが、アウトラップのハミルトンが走っていた44秒というペースはハースあたりと同じ水準でかなり遅い部類でした。ミディアムを使いきりにいったノリスのインラップとハミルトンのアウトラップでも4秒近い差はあったと考えられます。
 マクラーレンはこの翌周にピアストリもピットに呼びますが、ノリスを先に呼んだためにここでピアストリをアンダーカットして順位が入れ替わってしまいノリスが実質の2位へ。ピアストリからすると納得いかないかもしれませんが、チームとするとやむなしという感じです。そのピアストリですらアウトラップは1分42秒5から入っていて、ハミルトンとの差はピット前の5.8秒から9秒へとこれまた広がっていました。タイヤを壊さないよう慎重に行きすぎたか、ハードに熱が入らなくて苦労したのかどっちか分かりませんが、ハミルトンは追いつくと思った相手にむしろ気が遠くなるほど離されてしまいました。


 一人だけ別の世界でレースをしているフェルスタッペンは23周を終えてピットに入り1位のまま復帰、一方ハミルトンはマクラーレンを捕まえられないだけでなく後ろからペレスが来ています。28周目あたりからピアストリはちょっとヘタってきてハミルトンが最大12秒ほどあった差を少しずつ詰めていくことになりますが、ペレスはこの2人を上回る速さ。「(3位のピアストリと)7秒差だ、表彰台が見えたぞ!」と4位のハミルトンはそもそも眼中にない様子でいないことにされています^^;

 42周目にはペレスがまずハミルトンを捕まえますが、コース上ではハミルトンを一発で抜けず、それならば、とこの周にピットへ。マクラーレンもこの動きを見ており、何もしないとピアストリがペレスにアンダーカットされてしまうので先回りして同じ周にピットに入りました。ピアストリのこのヘタリ具合とMCL60の特性、イギリスGPでのタイヤ戦略を考えると連続でハードを使うのかと思ったら、なんとびっくりミディアムに繋ぎました。
 当然この後ノリスもピットに入ってこっちもミディアム。ハミルトンは前後の車が先にピットに入ってしまった時点で特に採れる作戦がないため、とりあえずなにか起きるの待ちでコース上待機となり49周目まで引っ張ってタイヤを換えました。もうハードはこりごりなのでミディアムです。

 コース上ではペレスが47周目のターン1~2でピアストリを抜いて3位へ。抜かれたピアストリは若気の至りでついつい無茶な抵抗をしてターン2で外から抜き返そうとしてコースをはみ出してしまいます。この辺、ノリスって1年目から事実上順位を争っていない相手に対しては変な抵抗をせずチームと自分にとって最も必要な行動を冷静に取っていた気がするので、言うのは簡単なんですけど大したものだなと改めて思います。消極的で何もしない人が超一流になれるわけはないんですが、冷静に俯瞰して物事を見れる能力もまた非常に大事です。私はイケイケよりもそういうタイプのドライバーが好みなのでノリスを推してますw


 この後2回目のピット サイクルも終了、ハミルトンはミディアムを履いて復活したようでピアストリと最大7秒ほどあった差をあっという間に破壊。57周目にピアストリをかわして4位を奪還しました。ピアストリはハードのほうが良かったんじゃないかなあとも観戦時には思いましたが、ハミルトンのペースがえらい上がっただけで、極端にピアストリが遅くなったわけではない様子。摩耗度合いとタイヤの性能差を考えたら、どっちを履いても結果は似たような感じだったかもしれません。あとはF1GPニュースに任せたw

 一方、2位のノリスの方もペレスに追い上げられており、45周目には9秒あった差が60周目には3.2秒になってしまい、直近の数周では一気に詰められました。これは時間の問題かな、と思ったらここでまたもマクラーレンがビックリパフォーマンス。周回遅れをかき分けながらではありますが、ノリスがペレスとの差を反転させて5秒以上に突き放してしまいました。むしろ後ろのハミルトンがえらい速いのでペレスとの差を詰めていき、元々12秒ほどあった差を気づいたら3秒以下にまで詰めてレースは終盤へ。

 ただハミルトンの見せ場もここまででした。全然テレビに映らないフェルスタッペンがなんと2位のノリスに33.731秒差をつける大差で優勝、ノリス、ペレスのトップ3で、ハミルトンは1.5秒ほど届かず4位でした。フェルスタッペンが2位につけた33.731秒差というのは、2021年ロシアでハミルトンがフェルスタッペンに対して53.271秒差を付けて優勝して以来となる大きな差での優勝でした。まあこんだけ差があるとたいていファステスト狙いでタイヤを替えてしまうのでそのせいもあるでしょうね。

 これでレッドブルは昨年から12連勝で1988年のマクラーレンが持っていた記録を塗り替える史上最長記録を樹立、開幕から11連勝でこれもマクラーレンに並びました。

 ピアストリはタイヤの摩耗という面でまだまだノリスには及ばなかったとはいえチームの力を示す5位、そして6位には18位スタートから追い上げたラッセルが来ました。7位のルクレールはある意味で良く目立つレースで、1回目のピットではタイヤ交換の際にレンチが壊れたようで予備と取り換えて7秒近く余分に時間を要し、2回目のピットではルクレールが入り口で速度違反して5秒ペナルティー。都合10秒ほどのセルフ制裁をしてしまい、見た目上6位で帰ってきたものの5秒加算でラッセルに敗れました。といっても今日のフェラーリはちょっと上位3チームには対抗できない感じでしたね。

 ぶっちゃけ何か大きなことが起きなければフェルスタッペンの勝ちしか考えられないのでレースは時々他の作業をしたり水を飲みに行ったりしながら気楽に見てましたが、マクラーレンは1回目のピットでの対ハミルトンと、終盤のノリスの対ぺレスで2度驚かせてもらいました。
 レッドブル/フェルスタッペンは"勝って当然"な立ち位置ではありますが、この領域に来た方々はどの世界でもだいたい皆さん『勝って当然と言われるが故の苦しみ』的なことを口にします。本当にそう思いますね。それに、2015年に参戦を開始した時にはまともに連続して完走すらできなかったあのホンダPUが壊れもせずにこうやって連勝していることを考えると、ここまで積み上げてきた過程に対してやはり最大の賛辞を贈りたいです。
 私は「メルセデスばっかり勝ってつまらん!」とか言われていた時も、「別に魔法で突然何も無いところからすごい道具を生み出したわけではなく、働いている人が一生懸命考えて仕事をした結果凄いものを作り出したんだから、勝ってつまらんぐらいの状況を起こせるようなものを生み出した人たちがすごい」というちょっと変な視点でそれはそれなりに楽しんでいたので、今もまた同じ心境です。
 鉄道好きミュージシャン・土屋 礼央(RAG FAIR/TTRE)の『企業努力鉄』みたいなもんですかね。(礼央さんは鉄道好きのよくあるジャンル、『撮り鉄』『乗り鉄』のようなものではなく、『お客様に快適に過ごしていただくために日々努力をしている鉄道会社のサービスや姿勢に感銘を受け楽しむ』という『企業努力鉄』を自称している)
 
 とはいえやっぱり番狂わせが見たいと思いつつ次戦は夏休み前の最終戦、ベルギーへ向かいます。レッドブルとするとまずはてるてる坊主を作って雨が降らないように備えたいですね。

コメント

W.Jiyang さんのコメント…
こんにちは。
いつも楽しく記事を読ませていただいています。
デ・フリースのレッドブル批判報道に関してですが、本人は発言を否定しているようです。
https://jp.motorsport.com/f1/news/de-vries-seeing-alphatauri-f1-chance-end-hurts/10497446/
最後の最後までいろいろありましたが、彼には新天地での活躍を期待したいですね。
SCfromLA さんの投稿…
>W.Jiyang

 情報ありがとうございます、続報に気づいていませんでしたので情報を足して本文を修正しました。デフリースのF1での実力が実際どんなものなのかは難しいところではありましたけど、レッドブル系チームってよっぽど特筆した成績を最初から残せる限られた人以外にとっては、なんというかあまり居心地の良い環境でも人を育てる環境でもなくて「選手が実力を発揮しやすい環境にする」という空気を感じないように思えるんですよね。
ビッグモーターじゃないですけど、成果主義の負の部分が多すぎような、そんな印象を受けてしまいます。ぜひ他の分野で成功して見返してほしいとフォーミュラE好きとしても思います。