SUPER GT 第3戦 鈴鹿

2023 AUTOBACS SUPER GT Round3 SUZUKA GT 450km RACE
鈴鹿サーキット 5.807km×77Laps=447.139km
※59周終了時点で赤旗により終了
GT500 class winner:WedsSport ADVAN GR Supra 国本 雄資/阪口 晴南
(TGR Team WedsSport BANDOH/Toyota GR Supra GT500)
GT300 class winner:Studie BMW M4 荒 聖治/柳田 真孝
(BMW Team Studie × CRS/BMW M4 GT3)

 オートバックス SUPER GT 第3戦は鈴鹿。この週の日本列島は一時スーパー台風まで発達した台風2号の接近に伴って記録的な大雨に見舞われた地域が多く、私も勤務先の近くの河川が一時氾濫危険水位を超えたのでかなりビビりました。三重県もかなりの雨でしたが、6月3日には大雨は通り過ぎてこのレースは予定通りの開催となりました、土砂降りが嘘みたいに晴れています。

・レース前の話題

 今年から採用された非化石由来の新燃料・通称CNF、GT300クラスはエンジンを根本的にいじれない車も多くて相性の可否が生じてしまったので開幕からの採用が見送られており、第2戦終了後に改めてテストが行われましたが状況が変わらないため今期中の採用は行わないことが発表されました。

 そしてGT500クラスでは、ニスモとNDDPレーシング(メンテナンス担当はニスモ)にタイヤを供給しているミシュランが今季限りでGT500の活動を終了すると発表しました。元々、世界のモータースポーツにおいて数少ない技術競争の場であることからわざわざ遠くフランスからタイヤを運んできてでも参戦していたミシュランですが、社内事情が変わったようです。


 そうすると来年から新しいタイヤが必要なニスモ、普通に考えたらGT500の定番であるブリヂストンかと思いますmotorsports.com(海外版にのみ掲載されている記事っぽい)によればどうやら事情はそう簡単ではない様子。ブリヂストンのタイヤ供給能力は現状ですでに手一杯、今年ARTAと無限が組んでGT500でブリヂストンが1台増えただけでも、GT300からARTAが引いて1台分の供給枠を開けてなんとか用意した、とこの記事の執筆者・ジェイミー クラインは記しており、ここからさらに増やすのは容易ではないようです。
 今季非常に向上が見られるヨコハマをさらに拡張して「ワークスタイヤ」とするのか、1台だけになっているダンロップに声をかけるか、やはりブリヂストンをひねり出すか、その場合インパルを含めたメーカー内で配分に変更はあるのか、けっこう注目の出来事になりそうです。一方で、ミシュランが後日撤退理由として説明した内容としては、要約すると

・より長寿命のタイヤを目指したい会社の方針に対して、SUPERGTは150km程度の短距離での性能向上が主眼になっている
・環境対応の面でも、空力部品と違ってタイヤには厳密な規則が適用できないので、タイヤ競争下では環境対応素材の配合といった開発もできない

 ということで、ほんの10年前には『世界で唯一競争があることが魅力』だったはずのレースが『もやはこの競争には魅力がない』と言われた、と解釈しても過言ではありません。もちろんこうした表向きの理由だけが全てではないものの、世界で唯一といえるタイヤ構想がスゴイ!と運営側も報道側も宣伝しているシリーズが、ひょっとすると曲がり角に来ているのでは?とも思えます。案外数年後に『ああ、あのミシュラン撤退ってすごく転換点だったよね』となることがあるのかもしれません。

・予選

 GT300のQ1、A組ではapr LC500h GT(9kg)・小高一斗が最速を記録すると、B組ではANEST IWATA Racing RC F GT3・イゴール フラガが最速と、今季話題になっている2台が名前を連ねます。
 しかしQ2では空力の鬼・SUBARU BRZ R&D SPORT・山内 英輝が本領を発揮、唯一の1分55秒台を記録して貫禄のポール ポジションを獲得しました。これで山内はGT300通算13回目のポールで歴代最多タイとなりましたが、むしろ待っていた相方の井口 卓人がちょっと泣いてました、今年は苦戦してましたから込み上げたんでしょうね。予選中ずっとホームストレートで追い風になっており、これはS字で向かい風になる鈴鹿でタイムが出やすい条件、空力車両のBRZには特に効いた可能性がありそうです。

 2位からGAINER TANAX GT-R、Stintium LMcorsa GR Supra GT(9kg)、muta Racing GR86 GT(45kg)、HOPPY Schatz GR Supra GT(3kg)、シェイドレーシング GR86 GTと続きました。6台中5台がGTA-GT300規定で、6台中4台はダンロップ使用車両でした。LC500hはQ1よりわずかにタイムを落とし11位。
 
 GT500はヨコハマとミシュランの発熱が速いようで遅くに出て行ってささっとアタック、Q1はWedsSport ADVAN GR Supra GT(4kg)が最速、リアライズコーポレーションADVAN Zが2位で続きました。ミシュラン装着車はウエイトが重いのでMOTUL AUTECH Z(50kg)が9位、Niterra MOTUL Z(42kg)も13位となりQ1脱落。

 Q2でもヨコハマ勢はやはりアウト→プリップ→アタックの構成で一発勝負、最後に計測ラインを通過したリアライズZ・平手 晃平が最速を記録しポールを獲得、と思われました。ところが予選後の車検で燃料タンク容量が規定に即していなかったとしてまさかの失格裁定を受けてポールは幻に。
リアライズぬか喜びZ

 かわってポールはau TOM'S GR Supra(40kg)・坪井 翔が手にしました。2位に0.094秒差でウエッズスポーツ・国本 雄資。3位からSTANLEY NSX-GT(32kg)、MARELLI IMPUL Z(14kg)、DENSO KOBELCO SARD GR Supra(12kg)、16号車のARTA MUGEN NSX-GT(2kg)となります。リアライズZは予選全体の結果が抹消されたので、Q1で落ちた人たちも全員順位が繰り上がる形になりました。
 燃料タンクの上限は100Lですが、液体は環境で体積が変わるので少し大きめに作った上で樹脂製の何かしらの物体をいわば詰め物にして調整して運用されているそうです。そもそも予選後に燃料タンクを測られること自体が珍しいことだったそうで、実際問題予選の成績には影響がないんですが、チームとしては計測値を出されて違反だと言われたら受け入れるしかありませんでした。でも決勝後に計測されてたらレース結果が飛んだかもしれないので、不幸中の幸いと考えるしかなさそうです。

・決勝

 気温28℃、路温46℃、前日のような強風もなくちょっと暑いかも。スタートでは両クラスともやや車間距離開け気味でGT500は全車スタート順位通り1周を終了、au・坪井がリードします。GT300もほぼ変動のない1周目、富士だとスタート直後にタコ殴りに遭いやすいBRZですが、鈴鹿だと最初に得意な高速コーナーが来るので山内が逃げました。そしてGT300はいつも通り1周目からピット義務を消化する車が出ます。今回も2回の給油義務ありです。


 7周目、GT300でタイヤ交換したばかりのUPGARAGE NSX GT3から右後輪が脱落。しかもヘアピンの途中でコース上に車を止めてしまいSC導入になってしまいました。すでにピットを終えた皆さんはこれで大儲け。 
 GT500の13周目にリスタートされ、現状でGT300の実質的な1位は1周目に義務を消化している埼玉トヨペットGB GR Supra GT(51kg)・川合孝汰。20位スタートからお約束の作戦で有利な状況を作り、続くのが前戦でも大活躍だったmuta GR86・平良 響です。

 GT500では18周目から早めに入る作戦を採るチームのピット サイクルが始まり、19周目に3位にいたマレリZ・ベルトラン バゲットが上位で最初にピットへ。坪井、国本のトップ2は無反応なのでおそらく均等割り作戦と考えられます。
 一方のGT300、見た目上は2位に7秒差で独走の山内が21周目にピットに入り後輪だけの交換でピットを出ました。それでもけっこう順位が下がってしまい義務消化組で8位、自力だとなかなかSCで儲けた人たちには追い付けないのが実情です。燃費の問題で変則作戦に限度があるBRZはこのパターンで勝てなかったことが過去にも何度かありましたね。

 26周目、GT500の2位・ウエッズスポーツがピットに入って国本から阪口へ。これに対してトムスは3周後の29周目に動いて坪井から宮田 莉朋へ.。ピットを引っ張った分だけ宮田はコース上でかなり順位を失っており、実質4位での合流となりました。


 一方GT300は実質的な1位争いに変動、まだピットに入っていなかったHOPPY GRスープラ・菅波 冬悟に川合が詰まり、この隙を衝いて平良が川合をかわしました。これで実質の1位を確保、しかし詰まっている間に実質3位のStudie BMW M4・荒 聖治も追いついてしまいます。M4は16位スタートから早めに義務消化作戦で得をした1台です。

 1回目のサイクルを終えてGT500はウエッズスープラ・阪口、マレリZ・バゲット、モチュールZ・ロニー クインタレッリ、そしてauスープラ・宮田の並び。クインタレッリは1回目のピットで給油時間を短くしてトラック ポジションを重視したと思われます。そして少し曇って路面温度下がったせいか、バゲットが徐々に阪口に迫って1位争いは新たな局面へ。
 GT300はmuta・平良、グリーンブレイブ・川合、Studie BMW・荒のトップ3ですが、36周目に川合と荒は2回目のピットへ。それぞれ吉田 広樹と柳田 真孝に交代しましたが、グリーンブレイブは右後輪を交換する際にナットが飛んでしまって取っ散らかり、作業時間1分10秒の失敗ストップでM4から10秒以上遅れてピットを出ていきました。
 この2周後にmutaもピットに入って堤 優威へ繋ぎますが、堤はいきなりターン1ではみ出してしまい、その間に柳田が追いついてデグナーで入れ替わり。これで柳田が実質1位となり、M4は昨年に続いて春の鈴鹿連覇に近づきました。ミシュランの発熱の早さもこの展開に一役買ったようです。

 GT500では42周目、阪口の背後まで迫っていたバゲットがここでピットへ。19周→23周→35周の割り振りで、35周=約200kmは航続距離のほぼ上限。36.6秒の静止時間で作業を完了し平峰 一貴に繋ぎました。鈴鹿は抜けないコースなのでトラックポジションが大事な一方で、タイヤの消耗もハゲしいので燃料ウインドウが開いた瞬間にピットに入ると後半ボロボロになるケースはけっこうあります。35周の長旅へ。
 これに対して46周目にウエッズスポーツとモチュールが同時にピットへ、坂東さんのところはさっきのピットから20周しかしていないので給油時間が短く26秒で作業を完了、一方ニスモは給油量が多いので40秒以上かかってコースに戻り実質3位、こちらはクインタレッリから松田 次生へのドライバー交替も行っています。
 一方、最初のスティントをリードしていながら1回目のピット後に存在感が消えてしまった宮田ですが、48周目にピットに入るとやはりこちらも給油量が少ないので復帰してみたら実質2位、平峰のはるか前方で戻りました。ただスティント終盤にS字ではみ出たせいもあるのか、前の阪口とはまだ差があります。

 一方GT300はピット直後に前に出た柳田ですが逃げることはできず堤との睨み合い。ロング ランではややGR86が優勢かな、という印象ですが鈴鹿は抜けないしGR86も追い抜きはあまり得意ではない車なのでできれば後半勝負といきたいところですが、にらみ合っている間にグリーンブレイブの吉田も少しずつ追いついているので、堤はさっさと仕掛けるのか待つべきなのか悩ましい時間帯です。


 一方そのころ、放送席にはGTアソシエイション会長の坂東 正明がゲスト出演。坂東組長は「1周目に給油で義務が消化できてしまうならもうちょっと距離増やそう」とか「これでBMWが勝ったらあの外国人ドライバー(=ブルーノ スペングラー:本日は欠場)いらなくね?」とか「柳田こんなに頑張るとは思わんからね」とか言いたい放題言ってます。面白いんだけど、言っちゃいけないことをうっかり言わないか悩ましい時間帯ですw
 
 ここからはゴールまでのコース上での闘いになりしばしレースは膠着、といっても素晴らしい闘いが展開されて見応えのある内容になりましたが、58周目の130R先で大事故が発生しました。中継映像では、ちょうどこの10秒前まではまさに当該位置の争いを映していて、ちょうど別の場所へと話題を移した直後のことでした。担当さんの指示があとちょっと違ってたら全部映ってたと思われます。


 事後情報や現場を撮影したとされる動画から総合すると、関係したのはBamboo Airways ランボルギーニ GT3・松浦 孝亮、apr GR86 GT・織戸 学、そしてMOTUL AUTECH Z・松田 次夫の3名。130Rの手前で松浦はGT500の平峯に抜かれ、これで少し通過速度が落ちたので織戸がシケインでの追い抜きを狙って130Rの立ち上がりから並走しました。松浦はコースの右端から車1台分ぐい空けた場所を走り、織戸はその松浦に接触しないようこれまた少し空間を空けてコースのやや左寄りにいたので、コースの中央を挟んで左右に車がいたような感じです。
 その2台の後ろにいたのが松田で、シケインの入り口で詰まりたくないと考えたかコースの左端から織戸の車を抜きにいきました。といってもコースの真ん中を挟んで左右に車がいる状況なので、隙間は車1台ピッタリか僅かに足りないぐらいしかなかったと思われます。それでも、織戸は車が入ってきたので車を少し右に動かし松田が通過するにはじゅうぶんな空間を作ったはずでした。
 ところが、芝に少しタイヤが触れたせいなのか、見切りを誤ったのか、松田の車はコース左端ではなく少し中央へ向けて進んで行き、完全に追い抜く前にZの右後部とGR86の左前部、角同士が引っかかりました。引っかかって松田は右回転でスピン、回った先には松浦のウラカンがいましたので横を向きながら突き飛ばされる形になり、そして床下に空気が入って車が宙に浮いた直後にフェンスに衝突。松浦もまた接触のせいで操舵が効かずまっすぐ壁に向かったと思われ、こちらもタイヤ バリアに直撃して反対側に跳ね返りました。
 後続はさらに7台ほどの車が続いており、外れた車輪がスタンレーNSXのルーフを直撃したものの2次災害は幸いにして起こらず、車が大破したものの松浦は無事。そして原型をとどめない壊れ方をしたモチュールZでしたが、松田は意識のある状態で病院へ搬送され大きな外傷はないと発表されています。ただし外傷以外の詳しい状況は現時点で明らかにされていないため非常に心配です。

 これでレースは赤旗となり、コースの破損が酷すぎる上にレース距離の75%は走ってしまってフル ポイントのレースとして確定しているので、59周を走り切った段階で打ち切り、58周目の結果をもって終了となりました。途中終了は雨で荒れた岡山に続いて今季2度目、あの時は75%ギリギリでしたが、今回も75%は58周なのでギリギリでした。ところが思わぬ問題が発生してしまいます。
 GT500で唯一二テラZだけが逆張り作戦でまだ2回目の給油をしていませんでした。ところが、規則上はこの2回給油の特別規則に関して途中終了の場合にどう取り扱うかが明文化されておらず、罰則規定が設けられていなかったようです(SUPER GTは競技規則自体が外部へは有料会員限定公開、大会限定の特別規則はおそらく非公開なので詳細な文言は不明)。そのため、レース終了直後の暫定結果では二テラZが優勝として扱われます。

 しかし昨年の第2戦富士、これもまた大事故が起きた影響で赤旗になってしまったレースでしたが、この際も2回の給油義務を終えていない車がいて取り扱いに疑問が生じていました。ただ、この時はまだGT500は2回目のサイクルが来ておらず大半の車は義務を果たしていない状況で2回義務を終えたのはむしろGT300の少数派、当時会見では「75%を超えていないので今回は不問。もし75%を超えていたらペナルティー対象」という旨の説明がされました。罰則を課したらGT500全滅になっちゃいますからね。
 ところがこの話はいわば『口約束』の状態で特別規則に具体的に盛り込まれていませんでした。しかしこの結果がまかり通ると明らかなご都合主義になってしまうので、GT500のなんと10チームが抗議を提出、大会審査委員会がこれを受けて夜まで考えた末に、21時を過ぎてから『No.3は義務未消化で60秒加算のペナルティー』という結論を下しました。結果、優勝者は『本来1位だった』WedsSport ADVAN GR Supraとなりました。レース後に決まったので公式のダイジェスト動画でもピット以外にほとんど映ってません^^;
こちらフリー走行

 近年予選ではたびたびポールを獲得して予選後のインタビューでも盛り上げてくれるチーム坂東ですが、優勝は2016年第7戦タイでチームとしてGT500初勝利を挙げて以来でした。2位にau、3位マレリという結果になりました。

 60秒加算の二テラZは、それでも58周終了時点の計時に対しての60秒加算で4位という好結果にはなるんですが、NDDPレーシングが結果を不服として控訴したためこの日の時点では暫定になっていました。しかし6月12日、NDDPは改めて運営と協議を行い『今後の規則の明確化を約束してくれた』ことから、手続きを取り下げて順位が確定しました。

 GT300クラスはStudie BMW M4が優勝、こちらは全員2回の給油を終えていたのでピット義務の揉め事もなく春の鈴鹿で2年連続の優勝となりました。荒は昨年のこのレース以来、柳田は2020年の第2戦鈴鹿でエヴォーラに乗って勝って以来です。2位は2戦連続となるmuta GR86、3位はこれまた2戦連続のグリーンブレイブでした。植毛ケーズフロンティアGT-Rは25位でした。


・鈴鹿の安全性、どう確保する?

 鈴鹿の130R出口では3月に行われたスーパー耐久でも事故があり、SUPER GTでもたびたび事故が起きています。それぞれ状況は異なりますが、事故が大きくなる要因の1つとしてコース外のいわゆるラン-オフ エリアが130R入り口付近では広くとられているものの、シケインに向かって段々と狭くなり、最後は急激に絞り込まれて『出っ張り』のような形状になっている点が挙げられます。
 当ブログで私はレースの安全性に関してかなり色々と好き放題に言ってきましたが、恥ずかしながら鈴鹿に関してはここが危ない箇所だと知っていながら、なんとなくそういうものだと思って問題意識を正直持っていませんでした。今年の2件の事故は重大な警鐘ではないかと思います。

 といっても、物理的に対応が難しいというのが現実ではあります。鈴鹿は八の字レイアウトで130Rの外側はターン7~8がありますからこれ以上外へは拡張できず、壁が無いと最悪の場合飛び出した車が『対向車線と正面衝突』してさらに危険、かといって壁で囲んでモナコみたいにするとこんな高速のコーナーであまりに危険すぎます。ここに手を加えようとすると、ピットの位置から何からコース全体を作り直すぐらいに辻褄が合わないところがあります。
 130Rをもっと奥へやった上でここを鋭角にしてしまうとか、逆に130Rを少し緩めつつ、そのすぐ先で左→右のシケインを作る、なんてこともありそうですが、どうやってもランオフが狭いので止まり切れない車が即座に壁に突っ込むのが難点です。
 唯一土地の制約がやや少なくて改造しやすいのはスプーンの部分なので、あそこをV字の低速コーナーにして現行のスプーンよりも脱出速度を下げ130Rへの進入速度そのものを抑制する、という手段もありそうで、ここに130R逆向きシケインレイアウトを組み合わせると多少ランオフが少なくても行けるんじゃないか、とか浅はかなことも考えたりしますが、現行のコースとはかなり変わってしまいますし、これでもかなり費用がかかりそうです。
 何にせよ「レースに危険はつきものなんだから、たまたま事故が起きるたびにそんなこと言ってたらレースなんてできない!変更不要!!」と思考停止しているといずれ取り返しがつかないことになると思います。今すぐ実行できることはごく限られているとは思いますが、『今のままで問題なし』と運営・施設側が決めてしまうことが一番危ないと思います。
 そしてもちろん、運営と施設任せにするのではなく、まずは参加しているドライバーが安全を何より最優先に考えた上で走行することも当然ながら重要です。

 今回の事故では、次夫選手に対してレース後に危険な運転行為のペナルティーが課せられており、事故の責任の相当程度は彼にあるとレースを判定する側はみなしたと思われます。これは過去にも書いていると思いますが、次夫選手は元々『飛び込んでも良い距離感』について他のドライバーよりも『距離が長い』ところがあり、GT300の内側に飛び込んで接触する場面がやや多いです。
 まだ本人が今回の件について語れる場がない中ですのでいくぶん早計になるかもしれませんが、状況証拠や判定結果からすると、次夫選手は後ろから追われていて先を急ぐ中、芝を踏んだ影響があったかどうかは別にしても、ちょっと無理に狭い隙間に入ってしまったところが事故の起点になったと考えられます。右に動いた理由が車の不具合だった可能性も完全に排除はできませんので、その点は念頭に置く必要があるとは思います。
 SUPER GT+なんかではけっこう次夫選手がペナルティーに文句を言っている無線が放送されていたので余計にそういう印象が付いているのは否めませんが、チーム側が過去にこうした場面で彼にどう伝えて来たのか、というところも個人的には気になります。チームとしてきちんとレース後に「あれは入っちゃダメだよ」と言ってきたのなら、それでも入ってしまうのはかなりの部分でドライバーの責任ですが、もしチームも遠慮して「今回は運が悪かったね」みたいな声かけと認識だったのなら、そこはチーム側も考えないといけない部分が出てきます。
 こういう時に「500のドライバーは300を下に見ている」「次夫は300に敬意を払ってない」みたいな事を書いてる人を見ますが、そういうことではなく単にレースの見切りの問題だと思います。一方で「プロとして生き残るために必死でやってるんだから責めてはいけない」という趣旨の意見も目にしましたが、速い車に乗っている以上は最低限安全にレースを行うために課せられた責務や、起こった結果への結果責任が伴うのもまた事実です。

 次夫選手は集中治療室から病棟に移った報告がありましたが、250km/h超の速度域でほとんど減速もせずにフェンスでいきなり0km/hになったような状態でしたから脳、骨、内臓といった『外傷』ではない部分への影響は非常に気になります。たまたま次戦まで2か月あるから復帰する時間が、とかいう話ではなく、とにかくまずは健康体で戻ってこれることを願います。

・規則はちゃんと決めましょう

 それとレース後の罰則のゴタゴタですが、たぶんあまりに細かく規定を書くと規則が作戦を実質的に縛ってしまうので、あんまり明確な何かを書きたくなかったのかなと思いますが、昨年自分たちで言った以上は75%ルールとの兼ね合いぐらい記載しておくべきでした。
 結局取り下げられはしましたが、NDDPの控訴は『規則の趣旨か、規則の文言か』という裁判をやっても判断が非常に割れる物事でしたので、本気でやりあったら結果がひっくり返った可能性もあるような物事でした。最終戦でチャンピオンがかかる出来事がこの状況だったらまず取り下げないでしょうから、運営は控訴が無くなったから大丈夫、ではなくきちんと詰めるべき課題です。
 それと、文言を書くにしてもタイム加算は110秒サーキットの鈴鹿ならまだマシですが、90秒サーキット、かつピットのロスが長い富士だと最悪2位以下が全員一時的な周回遅れでタイム加算が無力化される恐れもあるので、義務の意味を考えて文言は作成しておかないとまた厄介ごとが起こるかもしれず気を付けないといけません。作った規則にまた落ち度があるというのは最悪のパターンです。

 次戦は2か月後・8月の富士です。最後にかなり怖い出来事があったので、落ち着く時間があるというのはたまたまですが良い日程になったかもしれません。有野課長は2週間経ったら挑戦ソフトの内容をすっかり忘れてしまいますが、私も2か月経ったら前のレースのことはかなり忘れてしまいます。ただ今年に関してはさすがに忘れなさそうです・・・

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