フォーミュラE 第11戦 ジャカルタ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 GulaVit Jakarta E-Prix
Jakarta International e-Prix Circuit 2.37km×38Laps=90.06km
winner:Maximilian Günther(Maserati MSG Racing/Maserati Tipo Folgore)

 フォーミュラEジャカルタ、昨年は1戦だけの開催でしたが今年は2連戦。2日目は前日よりも2周レース距離が伸びました。それでも90kmなので短い部類に入りますが、使用可能エナジーは36kWhしかないのでそこそこ絞られた設定です。前日よりはいくらか温存が必要になります。

 ところで、その温存のためには相手の後ろに付いてわざと抜かないのが手っ取り早く、これは今季に限った話では無くてずっとそうやってきたわけですが、中身を見るとGen3とGen2以前では相手の後ろについてスリップストリームに入ることで相手よりも多くエナジーを残す、という結果は同じでも、The Raceが伝えた話をまとめるとその中身が異なる模様。
 Gen2までは、どちらかといえば空気抵抗を減らすことで相手よりも早く最高速に到達して早めに回生ブレーキやリフト&コーストを使い節約する、ざっくり言えば『加速で使う量を減らす』ことで前の車よりも消費量を抑えていました。
 ところがGen3では、後輪からの350kWの力行に対して回生は前後輪から合計600kWという大きな力が備えられているので『相手と同じエナジーを使って相手より高い速度に到達させ、そこから回生させて相手より多く充電する』という『減速でエナジーを貯める』ことに主眼が置かれているそうです。運動エナジーは速度の2乗に比例するので、大きな回生力を持ったGen3車両では相手よりたとえ1km/hでも高い速度から回生を使うと、積もり積もってかなり差が生まれるという話。
 外観重視のGen3車両はスリップストリームがGen2より効きやすくなったというわけではないようで『Gen3はスリップが効きやすいから先頭を押し付けている』というわけではないですが、高出力化で単純に速度域が上がった分だけ空気抵抗の影響は増えているはずです。そこに周回数と使用可能エナジー量の設定、コースのレイアウトに起因した回生のしやすさが全部条件にハマると、誰も前を走りたがらないレースが完成するわけです。
 その点昨日のジャカルタは節約がほぼ不要の"普通の"レースに近かったので、運営としては何をどのぐらい重要視して設定するかということになります。

・グループ予選

 2日目になると路面状況がかなり良くなっているのか、A組の最初の段階でキャシディーが前日のデュエルス並のタイムを記録。最終的にデニスが1分8秒434までタイムを伸ばしてこの組の最速を記録しました。サッシャ フェネストラズ、エバンス、ジェイク ヒューズの4人がデュエルス進出、キャシディーは2回目のアタックでミスって記録を伸ばせず、ヒューズに0.023秒及ばず今日もグループ5位で脱落。1位から11位までたった0.5秒差の接戦で、代走のベックマンも9位に入りきっちりタイムを出しています。
 B組はステランティスの4台とポルシェのワークス2台が入ってしまって潰し合いの顔ぶれ。1回目のアタックを終えて1位から5位まで0.066秒差とかいう意味の分からん接戦を経て、グンターが1分8秒416まで伸ばして最速。モルターラ、ベアライン、バンドーンまでがデュエルスへ。ベルニュはチームメイトに0.001秒及ばず5位で脱落しました。ちなみに、仮にA組でこのタイムだとしてもヒューズに0.003秒届かずやっぱり5位で脱落でした。なおメリーは1位から1秒落ちの11位でそう簡単には乗りこなせない様子です。

・デュエルス

 350kWを路面に伝えるのは容易ではないようで、グループ予選から0.2秒ぐらいしか上げ幅がなかったり、タイヤがくたびれてきたのかむしろ遅くなったりしたデュエルス。A組の準決勝ではデニスがエバンスを0.001秒差で破る激戦。一方のB組はマセラティー対決を今日もグンターが制して決勝はデニス対グンターという昨日と同じ対決に。
 準決勝ではデニスの方が早かったので今日は先攻となったグンターでしたが、ここではセクター1から完璧な走り。この週末最速となる1分7秒753という笑うしかないタイムをここで記録してデニスを圧倒し、2日連続でのポールを獲得。デニスは昨日偶数列スタートで損をしたので奇数が欲しいと言っていましたが、今日もまた偶数を引いてしまいました。


 スタート順位はグンター、デニス、エバンス、モルターラ、バンドーンのトップ5。昨日の勝者・ベアラインが6位、フェネストラズ、ヒューズと続きます。昨日は10位スタートで7位止まりだったキャシディー、今日もまた10位スタート。

・決勝

 スタート直前、グリッド上でバタバタしているのでまた抗議活動でも起きたのかと思ったら、バードの車に不具合が発生してピットへ急いで撤去。ちょっと変な間が空いてからスタート手順に入りました。バードは結局決勝を走れず終了、現在来季に向けた契約交渉の最中だと伝えられており、チームメイト撃沈の前日から、取り返す機会すらない不出走で2連戦を終えて首筋が寒くなってきました。
 スタートではデニスが昨日の教訓から左に車を向けて停車し、最初から3位のエバンスを露骨に意識。シグナルが消えるとやはり蹴り出しが遅い中でエバンスを牽制して作戦成功かと思ったら、5位スタートのバンドーンにがら空きの内側を衝かれかけて慌ててこっちもブロック、なんとか2位を守りました。上位3人の順位はそのままで、バンドーンはデニスに行く手を阻まれたので失速し、フェネストラズがうまく立ち回って7位から4位に大きく順位を上げました。
もぐら叩き的に後続を抑えるデニスさん


 リーダーのグンターには「誰も前に出たがってないからターゲットが大事だぞ」「0.4秒広げてアタックだ」と立て続けに指示が飛び4周目に最初のアタック。翌周にデニスもアタックに入ると、グンターをオーバーカットして見た目上の2位、6周目にエバンスも入ったので最初のサイクルを終えてデニスが先頭になります。昨日より節約が必要なレースですが、先頭を引き受けてさあどうする。
 ところが今日はどうやら"ほどほど節約レース"らしくペースはグループ予選の3~4秒落ちと極端に遅くはない様子、9周目に3位のエバンスがブレーキングで2位のグンターをかわしますが、2周後に中盤の狭い区間でグンターが抜き返しました。わざわざそんな場所でまで前に出たいということは、簡単に抜けないレースだと認識している可能性があります。

 デニスは1分12秒台と抑え気味のペースではあるものの、じゃあわざと2位になるかというとグンターをブロックする動きを見せているので、人の後ろに付いてまで強引に節約しようとは思っていない様子。すると15周目、デニスが2回目のアタックに入って3位で合流しました。
 ここでグンターは前が空いたのでセクター1で自己ベスト、セクター2は全体ベストといきなり飛ばした上で2回目のアタックに入り、うまくデニスとエバンスの間に合流。1回目のアタックでオーバーカットされたデニスを今度はオーバーカットして実質の1位に返り咲きます。

 19周目、中継映像がリプレイになっている間にキャシディーがベアラインと接触してウイングを落っことし予定外のピットで入賞圏外へ。自分からうっかり内側に飛び込んでウイングを踏まれたような形なので自滅に近く、レース後も自分の失敗を認めてチームとベアラインへの謝罪を口にしました。「我慢するよう努めていた」とは言うものの、最近ずっと上位にいたので抜けないことに多少焦りを感じた面は否定できなさそうです。

 一方で優勝争い、エバンスはすぐにはアタックを使わず3周にわたってグンターをブロックしてからアタックへ。これで3位に戻りますが、前の2台よりも残量が2%ほど少なくて追いかけるのは難しい状況。エバンスの蓋が外れるとグンターは一気にペースを上げて1分10秒0近傍のペースへ。さっきエバンスは11秒台で目いっぱいだったので全くペースが違います。
 当初はデニスも一緒に逃げていましたが、やがてデニスすら置いてけぼりになってグンターの独走態勢へ、このペースはもはや節約ほぼ不要の全力走行で、エバンスに抑えられている数周の間にすっかり飛ばせる準備が整っていたわけですね。ここからフォーミュラEでは異例の独走劇発生、エナジー不足のエバンス以降は集団になっているのでこっちは普段見慣れたフォーミュラEの光景ですw


 その後もグンターは独走で、ファステストを狙えるのかどうか無線で聞くほどの状況。全く付け入る隙を与えずに38周を走りきりグンターが今季初勝利。BMW i アンドレッティーに所属していたシーズン7 第10戦ニューヨーク以来の通算4勝目で、マセラティーとしても初の優勝、そしてGen3車両を使用したレースで初めてのポール トゥー ウインでした。

 マセラティーと言っても実質は『DS-ベンチュリー』なわけですが、ベンチュリーとすると昨年の最終戦以来となる通算9勝目です。チーム体制として引き継がれているのでフォーミュラEの公式サイトでもベンチュリーからの継続チームとして通算成績が掲載されていますね。同様にマクラーレンのページはメルセデスEQからの継続として扱われています。
 本来マセラティーのドライバーはニック デ フリースだったはずで、彼がたまたまイタリアGPに代走で出場することになり、たまたまものすごい結果を出してF1への道を選んだことでグンターは今ここにいるわけです。デフリースはF1で苦戦してグンターもここまで苦戦が目立ってはいましたが、ジャカルタでは間違いなく主役でしたので何がどう転ぶか本当に分からないですね。

 2位はデニスで今季5度目、でも今日はベアラインに邪魔されなかったし、33周目にファステストも出してやれることはやり切った上での完敗なので昨日よりも満足そうでした。エバンスは電力不足で困っていましたが、4位以降が争って空間ができた隙に0.5秒ほどペースを落とすことで一気に節約し、その後はそこそこのペースでごまかして逃げ切りました。フェネストラズ、ノーマン ナトーの日産勢が4位、5位を獲得。
 ベアラインはこれに続く6位で8点の獲得にとどまりましたが、キャシディーが自滅したのでドライバー選手権で1位に返り咲きました。ただしデニスが僅か1点差の2位、キャシディーが6点差の3位、エバンスも25点差なのでギリギリ踏みとどまっている状態です。

 
 今日のレースは前日より2周増えたので最初からほぼ全開のレースとはいきませんでしたが、やはりお先どうぞレースにはならず展開としては時間制レースだった昨シーズンの展開と比較的似たパターンでした。グンターはレースでやや脆いイメージがありましたが、今回はとにかく車に自信を持っているので全然慌てないし、極端な駆け引きが不要だったので本来彼が持つ速さの面が活かされたと感じました。
 エバンスが2回目のアタックに入るまでに3周引っ張りましたが、結果としてはここでグンターは最後まで自由に飛ばせる電力貯金を作ることができたので、追いかけるデニスとするとむしろあの3周は目障りだったかもしれません。2回目のアタックでのオーバーカットが勝敗の分かれ目でした。

 昨日も書きましたがお先どうぞレースになるかどうかは運営のさじ加減であり、効率性を競うという点と、接近戦や追い抜きを増やしたいという点からわざとそういうレースになるように設定を組んでいます。ベルリンあたりはそれが行きすぎてしまいましたが、緩めると2位と3位が15秒も開いてしまうような展開は起こってしまうので、じゃあ最終戦のロンドンはどうしようか?というのは運営側の結構難しい課題です。
 フォーミュラEの運営会社では、2019年9月から2代目のCEOを務めてきたジェイミー ライグルが近く辞任して後任に席を譲る見通しとなっており、なんとかGen3を立ち上げて車を間に合わせてここまで持ってきた中でひょっとすると『ロンドンのレースをどういう展開に導くか問題』はライグルさんにとって最後の大仕事かもしれません。ひょっとしたら後任の人が来年に向けてもう仕切ることになるかもしれませんけど。

 最終戦のことも徐々に気になり始めましたが、次戦はアメリカのポートランド。ちょうどこの週末にNASCAR Xfinity Seriesのレースが開催されていたポートランド インターナショナル レースウェイという完全に常設サーキットです。これ盛り上がるのか?w

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