フォーミュラE 第10戦 ジャカルタ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 GulaVit Jakarta E-Prix
Jakarta International e-Prix Circuit 2.37km×36Laps=85.32km
winner:Pascal Wehrlein(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3)

 ABBフォーミュラE、第10戦と11戦はジャカルタでの2連戦、昨年に続く2度目の開催です。アンチョールというリゾート観光地に作られた、元々の公道ではなくどうやらフォーミュラE用にわざわざ整備したコースだそうです。とても蒸し暑い環境で車にも人間にもなかなか大変そう。


 今回もまたレースの設定が少しいじられており、決勝での使用可能エナジーは前戦での38.5kWhからさらに減らされて36kWhへ。そしてほとんど役に立っていないアタックモードの設定も変更され、従来の合計4分から倍増して合計8分になりました。配分も単純に2倍されて2+6、4+4、6+2の3パターンから選択します。そもそもアタック チャージを前提にして合計4分の規定だったので、無いなら無いで最初からそうしておけばよかった気がしますね^^;
 決勝のレース距離は土曜日が36周、日曜日は38周と土日で距離もいじりました。36周=85kmはわりと『ぬるめ』の設定で今季最短のレース距離です。ちなみに大会スポンサーの GulaVit、フォーミュラEのスポンサーだからまた環境関連の会社かと思ったら全然違って、『ビタミン入りグラニュー糖』だそうです。PT Pesona Inti Rasaという会社が製造・販売しているとのこと。日本語で調べても何も出てこないw

・レース前の話題

 今回2チームでドライバーが変更されました。アンドレッティーはアンドレ ロッテラーがル マンのテストに参加するためにリザーブのデイビッド ベックマンが初参戦。来年ロッテラーが継続するかどうか不明なので、ベックマンにとっては限られた時間ですが来年へのオーディションという側面もあるようです。
 一方、マヒンドラはなんとオリバー ローランドがチームの競争力のなさに嫌気が差してシーズン途中で契約を解除してしまい、ベルリンの新人テストに参加していたロベルト メリーが急遽起用されることになりました。メリーはSUPER GT 第3戦の参加者名簿に名前が載っていましたのでかなり急に決まったものと思われます。もちろん時間帯が被ってますのでGTは欠場です。メリーの所属先はチームルマンでしたから、どっちのドライバーにも"ルマン"が関係してますね。

・グループ予選

 砂浜がすぐ近くにあるのでA組の走行開始時点ではもうもうと砂埃が巻き上げられるコース状況。練習走行からDSパワートレイン勢が好調で、こちらの組ではストフェル バンドーンが2位、ジャン エリック ベルニュが3位となってデュエルス進出、ただし1回戦でいきなり当たってしまいます。最速はジェイク デニス、4位はなんとアプトのロビン フラインスで、選手権リーダーのニック キャシディーはグループ5位で脱落、メリーは車を手懐けるのに苦労といった印象でデニスから1.5秒離された最下位。
 B組はFP1、FP2いずれも最速だったマキシミリアン グンターがここでも最速、エドアルド モルターラが4位でDSの4台はすべてデュエルス進出、ただしこっちも1回戦でいきなり当たってしまいます。予選での改善がチャンピオンを争う上で必須だったパスカル ベアラインが2位、レネ ラストが3位でデュエルスへ。ベックマンはデュエルスまであと0.335秒という良い線まで行き、ルーカス ディ グラッシを破ってグループ10位でした。

・デュエルス

 準々決勝はベルニュvsバンドーンのDS対決が白熱した以外はまあまあ差がついてしまう展開。DS対決を制したベルニュでしたが準決勝でデニスに敗れてしまいます。B組からはグンターが余計な横滑りのない安定した速さを見せて順当に勝ち上がり、デュエルス決勝はデニスとグンターの対決に。
 デニスは壁いっぱいまでかなり攻め込んだ走りを見せましたが、速そうには見えなくてもやっぱり速いグンターが準決勝のタイムをさらに更新し初のポール ポジションを獲得しました。決勝のスタート順位はグンター、デニス、ベアライン、ベルニュ、バンドーン、モルターラ、フラインス、ラストの順。キャシディーは10位スタートとなりました。
FP1からずっと速かったグンター

・決勝

 予選から数時間放って置いたらまた砂っぽい路面、スタートは奇数列がやや優勢っぽくてデニスが順位を下げ、1周目はグンター、ベアライン、バンドーン、デニス、ベルニュの順となります。ベアラインは様子見で行くかと思ったら4周目に早くもグンターをかわして自ら先頭へ。
 その4周目には早くも3位のバンドーンがアタックに入って長い6分を先に使ってしまいます。翌周にベアラインとベルニュ、さらに翌周はグンターとデニスが入ってサイクルが一巡し上位4人は使用前と同じ順位に落ち着きますが、ベアラインは8周目にもう2回目も使ってしまいさっさと義務を完了。このあとも使い切った人から順次早めに2回目を使ってしまう流れになります。
砂(っ ◠‿:;...,

 36周だと極端なリフト&コーストは必要ないとみられ、いつもの極端なお先どうぞレースではなく最初からある程度レースをしている感じのスピード感。デニスは17周目とちょっと他より遅くに2回目のアタックを使い、これでベルニュをかわして3位となりさらに前を追います。他のドライバーより残量に少し余裕があり、今年にしては珍しくちゃんと350kWを活かした追い抜きでした
 20周目、デニスがグンターも抜いて2位となり、その後方では6位まで上げてきていたキャシディーがベルニュを抜こうと内側へ。しかしベルニュも内側を締めたので接触してしまい、キャシディーはやらかしたかと思ったらカウンターを目一杯当ててスピンを回避。ベルニュが締めたと考えるか、汚れた路面で止まれないのにちょっとキャシディーが無理をしたと捉えるか、ギリギリな攻防でした。

 砂っぽい路面でベアラインとデニスが争うとディリーヤでのシーズン序盤戦を思い起こしますが、24周目のターン1でデニスが仕掛けようとしたもののベアラインが鬼ブロック。この争いで一時上位6台が集団になったものの、節約があまりいらないレースなので各車の"素の速さ"が現れて、30周目になるとベアライン、デニス、グンターの3台が後続のDSペンスキー2台をやや置いてけぼりにしました。

 残り3周、10位のサム バードがチームメイトのミッチ エバンスに追突する大失態。今季2度目のバードミサイルでエバンスはリタイア、バードもこの後最終周に接触されて20位で終了。チームもなんだかいやーな雰囲気です。なんかバードは色々と精神的に焦って、いつぞやのWRCでのヤリ マティ ラトバラとか、自分でもよく分からないうちに同じ失敗をしてしまう結構マズい精神状態に追い詰められてないか本気で心配になります。
 一方優勝争いは膠着したまま最終周、ベアラインは残量で少し負けてはいましたがじゅうぶんペースを保ったまま走れる量を持っており、そのままデニスを従えてチェッカーを受け第3戦以来久々の今季3勝目を挙げました。2位のデニスは今季4度目の2位でしたが、ベアラインにかなり危ないブロックをされたのでレース後はかなりお怒りの様子。

 ポールシッターのグンターが3位で、ベルニュ、バンドーン、モルターラとDSパワートレインが3位~6位に全部入りました。現地放送だとステランティス パワートレインと表現していたのでそのうち私もパクるかもしれませんw
 キャシディーは7位とファステストで7点を獲得、この結果ドライバー選手権ではキャシディーが変わらず1位ですが、ベアラインが僅か2点差で2位、デニスも14点差の3位でまだ食いついています。エバンスは無得点でキャシディーから34点差になってしまいました。エバンス推しの私とすると「バード何してくれんねん」ですが、たぶん彼の知見はチームのエンジニアリングに役立っているはずなので、見えてる部分だけで言ってもしょうがないんですよね。分かってる、分かってはいるんです。。。(T T)

 デニスはレース後も怒りがおさまらず
「ベアラインのやり方はバカげているよ。追突を避けるために強くブレーキを踏まなければならなかった」
とベアラインの動きに対する不満を口にした末に
「彼らに抗議することはできない、なぜなら彼らもポルシェのパワートレインを持っているからさ。そうだな…ちょっとバカげてるね。」
と、ワークスとカスタマーという立場上文句が言えない、といった趣旨の発言まで残した模様。この2人が1位、2位の組み合わせになるのは開幕からの3戦連続に続いて4度目のことで、タイトルを争っている状況でもあるので、この緊張関係が続いてしまうと最終戦のロンドンはけっこうえらいことになるかもしれません。

 今回のレース、冒頭にも書いた通りのぬるい設定だったので極端な節約が不要でした。グループ予選でのタイム水準が1分9秒前半だったのに対し、決勝のペースは序盤からほぼ一貫して10秒中盤と1秒ちょっと落ちでした。ここ数戦、私は『予選タイムに近い、ほとんどリフト&コースト不要で走れるタイミングの見極め』が鍵だと書いてきましたが、このレースはそれが『最初から』でした。
 そして、シーズン序盤にポルシェが効率的に速く走れた要因として『コーナーでの最低速度が高く無駄な加減速が少ない』ことがあり『逆に大きなブレーキングは苦手』だと自分たちでも分析していました。ジャカルタは長い直線とブレーキの構成というよりは、回り込んだコーナーが常に続くような設定なのでレイアウトもポルシェ向きだったのではないかと思います。
 運営側とすると、とりあえず今回は『お先どうぞレース』ではなく『ほぼガチレース』をやってみた、というところだと思いますけど、これでも何も起きずに終わるわけではないのでレースとしてはむしろ多くの人に面白く見てもらえる内容だったと思います。
 フォーミュラEの方向性は『効率を競う』なので、全力で普通に走れてしまうレースであっては困る、という原理原則と、見た目としてドライバーが一生懸命走って競ってこそレースだろう、というモータースポーツの従来からの原理原則とのせめぎ合いなわけですが、1つGen3における新しい知見は得られたので運営としても良いレースだったかな、と勝手に思いました。次戦も続いてジャカルタです。

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