フォーミュラE 第9戦 モナコ

AB FIAFormula E World Championship
2023 Monaco E-Prix
Cuicuit de Monaco 3.337km×29Laps=96.773km
winner:Nick Cassidy(Envision Racing/Jaguar I-Type 6)


 フォーミュラE 第9戦はF1より一足お先にモナコです。F1にとっては狭くてバンピーで低速なモナコも、フォーミュラEにかかれば普通の道幅で高速で綺麗な路面のレース。フォーミュラE的にはけっこう長い全開区間がある中でレース距離は96km、使用可能エナジーは38.5kWhなので、お先どうぞレースがまた白熱(?)しそうです。

・トラクション コントロールの監視強化

 フォーミュラEではトラクション コントロールを使用することは禁止されていますが、Gen2車両の時代から『出力の巧妙な制御によってトラクションコントロールっぽいものを実質的に使用しているチームがいるのではないか?』という疑義がもたれ、FIAはセンサーを使って監視してきました。トラコンもどきを使うと独特の振動が出たりするので、トルクと振動の検知で判断しているそうです。
 ただ、The Raceによると出力の強化にあわせてドライブシャフトが段々太くなってきたことで細かな振動を検知するのが難しくなってきて、結果的にトラコンもどきを見分けるのが難しくなってきているとのこと。そこでFIAはさらに細かい測定が可能な新しい測定体制を整えてインチキ防止に努めるようです。通常起こる車の振動と誤認して冤罪を生むわけにはいかないので、取り締まる側も細かい情報と根拠が無いと取り締まれないですからね。
 
・グループ予選

 グループAでは日産が2人そろって速さを披露し、ノーマン ナトー、サッシャ フェネストラズがワンツー。ダニエル ティクタム、ミッチ エバンスまでがデュエルスに進みました。一方グループBはマセラティ―が強く、マキシミリアン グンター、ジェイク ヒューズ、エドアルド モルターラ、セルジオ セッテ カマラの4人がデュエルスに進みました。グンターからセッテカマラまでたった0.095秒差でした。
 このグループ予選ではタイヤ内圧違反が連発し、A組はDSペンスキーが2台とも全タイム抹消で撃沈。B組も3人が違反しましたが、彼らは1セット目のタイヤだけ違反していたようで自己ベストを出した2セット目のタイムが有効だったので順位に影響がありませんでした。それにしても多かったですね。

・デュエルス

 準々決勝ではNIOが指示を間違えたらしく、セッテカマラがピット出口の信号とその手前の予告信号を勘違いする珍しい問題が発生。せっかくグンターを破ったのに失格になってしまいました。
 日産勢はここでも好調で、デュエルス決勝は日産のフェネストラズとマクラーレン日産のヒューズの対決。ヒューズはタイヤの準備に失敗したっぽくてターン1から完全にオーバーステアで、ヌーベル シケインでとうとう姿勢を乱して真っすぐ通過してしまいコース外走行なのでタイム無し。
 これでフェネストラズが楽々とポール ポジションを獲得した、はずだったんですが、出力スパイクがあったのか350kWを超過したという判定が下って記録抹消。結果、デュエルスの決勝は『1周したけどタイム無し』のヒューズが、『出力違反で無効』のフェネストラズを倒した形となってポールを手にしました。
 ちなみにデュエルスでのタイムは概ね1分28秒後半。モナコも段々安全対策で使える道幅が広がったり、コーナーが緩くなったりしているのでもちろん単純比較はできませんが、タイム的には1960~1970年代のF1のタイムがこのぐらい。ちょっと古いですが2012年のGP3とほぼ同じです。あ、このレースにエバンスが出てますね。
なんか分からんけどポールになったヒューズ

 スタート順位はヒューズ、フェネストラズ、ナトーと日産パワートレインが独占。4位からグンター、ティクタム、エバンス、モルターラ、セッテカマラとなりました。選手権リーダーながら4点差まで迫られたパスカル ベアラインは12位、追いかけるニック キャシディーは9位からのスタート。

・決勝

 蹴り出しでフェネストラズが見るからに出遅れたのでヒューズがまずは安心してターン1を通過。最初からティクタムが積極的に見え、グンターをかわしてナトーに対してもかなり内側を伺いに行きます。ナトーはブロックせざるを得ないので走りにくそうで、フェネストラズから見るとミラーに姿が映るので、この後無線でナトーが抜いて来ないかを確認する場面がありました。

 予選から10秒落ちの1分40秒台で流れ始めたレース、キャシディーもけっこう積極的で、5周目にはヘアピンで渋滞する先行車を大外刈りして2台抜きするなど早くも5位まで順位を上げます。さらに6周目のラスカスでこれまた外からティクタムを、続く7周目のターン1でナトーも抜いてあっという間に3位です。11位スタートのジェイク デニスもくっついていって順位を上げている様子。
F1ではできない大外刈り


 その7周目にヒューズが上位で初めてアタック モードを使用、翌周にフェネストラズ、9周目にキャシディーとナトー、と先頭に出た人がアタックに入るお馴染みのパターン。この中でヒューズはアタックを使った後にむしろ節約走行に入った様子で、集団でカモにされて少し順位を失います。

 11周目、暫定で1位だったエバンスがアタックを取りに行ったので、これで順当に行けばフェネストラズは先頭に戻るはずでしたが、節約したい状況なのでエバンスに付いて行って2回目のアタックへ。これで見た目上の1位はキャシディーが押し付けられました。
 ちょうどこの頃、カモにされたせいでごちゃついたヒューズのペースがやや上がらずに4位と5位の間に大きめの空間ができてしまい、前を走る人たちはアタックを使いやすい状況。上位勢のアタックがぐるっと一巡すると、リーダーはキャシディー、これにエバンス、デニス、フェネストラズが続きます。

 どうも各車は効率よく走るデニスを最も警戒している様子なので彼の動きに注目したいなと思っていると、16周目にエバンスがキャシディーを抜いてリーダーに。しかしその2周後、キャシディーはエバンスを抜き返します。毎度おなじみのお先どうぞかと思いきや、その後のエバンスの動きを見ていると前に出たそうにしており抜かれるのは想定外だった模様。この時点でキャシディーはエバンスより残量が1%少ないんですが、鬼ブロックを始めていてここから残りを全部抑え込むつもりです。
 ペースは最初の1分40秒から、一旦アタックのタイミングで32秒台まで出した周もあったのにまた37秒に戻り、このあたりは35~36秒にじわじわと上げている状況。予選タイムから5秒落ちなのでまだけっこうリフト&コーストもしていると思われます。このままだと1%負けている状況で抑え続けるのはかなり苦しそう。


 ところが21周目に事件発生、ラスカスで4位からの玉突きが発生した結果、後ろでティクタムがナトーに軽く追突。これでナトーは車に問題を抱えて失速、ティクタムの方はウイングを壊してタイヤと干渉しますが、とりあえずそのまま走行を継続します。
 しかし続く22周目のターン1を通過した先の上り坂で、加速が鈍いと思われるティクタムに後ろからグンターがまともに追突。これでグンターの車がコース上で止まってしまい、レース終盤でSC導入となってしまいました。ティクタムは「グンターが真後ろから突っ込んで来た」、グンターは「ティクタムが進路を塞いで来た」とお互いに平行線のようでした。

 規則では周回数の80%を超えるとその先はSCが導入されていても延長戦にはなりません。22周目からのSC先導走行だったので、1周加算に該当する4分間が経過するよりも前に23周目に入ったため本日の延長戦は無し。ということは、各車は単純にこの時間帯だけエナジーを節約できました。
 25周目にリスタートして残り5周の短距離戦。さっきまで1分37秒とか35秒とかで走っていたキャシディーが32秒台の最速を叩き出して、映像を見てもはっきりと分かるほど各車さっきとは攻め具合が全然違います。こうなると予選の2秒落ちぐらいなのでコーストした相手を抜くというやり方が使えません。普通にバトルして抜くしかありませんが、ここは絶対抜けないモナコモンテカルロです。

 そのままキャシディーがリードして残り2周、接触によりウイングが無い状態でなぜか10位を走っていたニコ ミュラーがターン1でサム バードと接触し、外に弾き飛ばされてクラッシュ。完全にライン上に止まっているのでSCを出すしかなく、これでレースは事実上決着しました。キャシディーが前戦ベルリンに続く2連勝でポイントを荒稼ぎ、今季初めてドライバー選手権で1位になりました。

 2位からエバンス、デニス、フェネストラズ、ヒューズ、ティクタムとなり、日産パワートレインは予選でトップ3を独占したものの表彰台には誰も届きませんでした。追突されたナトーは18位。ベアラインは10位で1点しか獲れずに首位陥落、逆にデニスが2戦連続表彰台と息を吹き返している状況です。

 前戦ベルリンに続き、またしてもキャシディーはライバルに先駆けて節約モードから本気モードへと転換し、そこに幸運なSCが重なって9位からの見事な逆転劇を演じました。エバンス陣営とすると、自分の方が手持ちの残量が多いしまだ今から攻めると最後に苦しくなりそうなので、自分も攻めないし、当然キャシディーもすぐにはわざわざ抜き返してこないだろう、と考えていたと思います。
 ところがキャシディー陣営は、相手より残量が少なくて、しかも同じジャガーのパワートレインだから性能にほぼ差は無いのに「行ける」と判断して前に出ました。実際問題SCが出なかったら最後までもったのかは分かりませんが、SC出動リスクと自分たちの電池切れリスクまで考えた上でおそらく『まあここから攻めたら、最悪抜かれても3位とかでは帰って来れるだろう』ぐらいの割り切りがあったのではないかと思います。
 9位からの順位の上げ方も上手いなあと思ったのは、ヘアピンやラスカスなど、みんながリフト&コーストして抜かない結果、節約を超えてただの渋滞になっている場所で外から抜いていきました。通常、リフトする相手を抜けば自分はアクセルを長く踏んでいるのでエナジーを余分に使いますが、渋滞まで行くとブレーキを踏みすぎてるし加速も余分に必要なので、これを抜いて行く分にはおそらくほとんどエナジー面で損はしていなかったはずです。
 どのドライバーも、早く戻す、回生する、前についていく、が染みつきすぎてぽっかりと空いてしまった穴にうまく入った感じで、外から見てたら簡単そうに見えるけど案外みんなやらなかったことを的確に衝いたと思います。この辺のレース勘やデータの扱いには、バージン レーシングとして1年目から参戦し続けている経験値という無形の資産も僅かながら貢献してるんじゃないかな、とも思いますが、2戦連続でチームとドライバーの思いきりが大きな結果をもたらしました。
 実はキャシディーの車、練習走行後に車の振動に悩まされて満足いく走りができず、その後フロントのドライブシャフトを大急ぎで交換してギリギリ予選の数分前に作業が終わった、という中で予選から決勝へと進みました。そんな中でもレースになるときっちり走らせたわけですから、チームもキャシディーも本当に今一番勢いがありますね。

 一方ポルシェは開幕から数戦の圧倒的優位が消し飛ぶ苦しいレースでした。こちらもFP1でソフトウェア系の不具合があって走行できない時間が長く、とりわけ予選でもっと速く走りたいのに車のセットが煮詰まらない、という苦しいスタートをそのまま最後までひきずった模様。ここ2戦デニスが表彰台に乗って復活したことから車はちゃんと仕上げたら速いはずなんですけどね~。
FP1 ピットで何やら作業してて走らないポルシェ

 次戦は6月3日、4日にジャカルタでの2連戦です。ちなみにモナコ公国の国旗は上が赤、下が白のデザイン、そして次戦のインドネシア共和国もやはり上が赤、下が白の国旗です。厳密には縦横比が違っていてインドネシアの方が横長の形状ではあるんですが、フォーミュラEの公式サイトは国旗に割り当てる縦横比が決まっているので、画面上全く同じ国旗に見えています。

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