F1 第6戦 モナコ

Formula 1 Grand Prix de Monaco 2023
Cuircuit de Monaco 3.337km×78Laps=260.286km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB19-Honda RBPT)


 F1の第6戦は本来1週間前にイモラで開催されているはずでしたが、イタリア北部・エミリア ロマーニャ地方を記録的な洪水が襲ったためF1は現地入り前の早い段階で中止を決定しました。現実的に代替戦の開催は難しいのでそのままシーズンは1戦少ない状態で継続されるとみられます。

・ホンダ、F1に復帰

 エミリアロマーニャGPが中止になった後、急に現れたのが『ホンダがアストン マーティンにパワー ユニットを供給して2026年からのF1に復帰する』という情報でした。レースが中止になってネタがないライターがテキトーに書いた記事かと思ったら、5月24日に正式に発表されました。

 元々撤退の理由は、人的にも資金的にも会社が掲げる2050年までにカーボン ニュートラルを達成するという目標へ向け、今後はF1に投じていたものを車両の電動化開発投資に活かしたい、というものでした。そして戻ってくるお題目としては、『2030年までにカーボン ニュートラルを達成するという目標はホンダの考えと一致している』『次世代PUは電動化率が高く技術的に意義がある』というもの。
 ただ、F1の2030年カーボンニュートラル目標はホンダがF1撤退を発表するより前に既に出されており、当時も『撤退理由として辻褄が合わない』と言われていました。この段階ではまだ次世代PUの決定はしていませんでしたが、ある程度の議論と方向性はあったはずでそれを一切知らないということもないでしょう。
 本音としては『辞めると言った後に勝てるようになった』『販売の主戦場であるアメリカでえらくF1の人気が高まった』『しかもそのアメリカ企業のフォードが復帰するなど他社が今になってF1を宣伝に使うことに前向きになってきた』といった面がそれなりに大きいと考えられます。

 いわば本社に対して『自分たちの作ったPUの性能でF1活動を認めさせた』ような形になりましたので、開発現場にいた皆さんは非常に誇らしい出来事だったと思います。一方でホンダ本体側とすると、2008年に経済危機でF1から急ぎ足で撤退し、2014年に『参戦したり復帰したりを繰り返す印象を与えるから第〇期という表現は使いたくない』と、今度はじっくり居座る姿勢を見せて復帰。しかしこれを忘れたかのように2020年に撤退を発表し、今回は『参戦終了』『再参戦する考えは無い』と表現。それがたった3年弱での今回の動きです。
 もちろんトップ企業の経営者が何百億円のお金の配分を巡って議論して決めたんだからそんな簡単なものでは実際には無いんですが、印象としては『場当たり的』に見えてしまいます。背景の1つとして、ホンダの利益水準や年間の設備投資額からすると、F1に投じる数百億円とされる予算は決して安いものではなく、株主からすると「そんなことより配当金に回せ」という声があることが制約になるという話はよく耳にします。
 F1を支持する人からすると「株主うぜえ」と思われるかもしれませんが、投資家がリターンを望んで会社に意見するのは当たり前の話で、会社に求められるのはそうした声に対して意見を交換し、それでもお金をかけるのならなぜそれが必要なのか示すことだと思います。ところがホンダはどうもこの辺りをあまり明確にしていない、現にF1活動に関して対投資家という視点で何かを発信しているという印象はあまりなく、とりあえず波風立てないような原稿を作って読んでいるような印象しかありません。
 レースを研究開発の場とするホンダなので『宣伝効果がこうです』といった表現は理念と相反するから言いにくい、といった別の事情もありそうですが、こうもコロコロ言うことが変わると肝心のブランド力や信用は生み出せないと思います。
 販売する市販車に対してF1活動を落とし込んだようなものを盛り込んでレースと市販車の繋がりから参戦の意義を伝えブランド力に繋げる、ということもあまり見受けられず、ともすると「カーボンニュートラル実現の技術開発で参加してます」と言いつつ「排気ガスバラまいてる騒音公害祭りに参加してるってお客さんに知られたくない」と考えてるのかなとすら思えるので、会社として今度こそきちんと『F1に参戦するとは何なのか』というのを整理してもらいたいと感じました。
 そういう点で、今回の会見の場で「これまでのホンダF1活動ではあまり有効に行えてこなかったマーケティングやブランディングでもF1を有効活用する」という話があったみたいなので、ファンとすると「今度こそお願いしますよ」と思います。

・予選

 さて、モナコGPの予選はQ1開始から7分ほどでセルヒオ ぺレスがターン1で失敗してクラッシュし赤旗発生という波乱から始まりました。ぺレスはこれで予選最後尾の逆ポール ポジションを獲得です。
 Q3、ポール争いを先導したのはフェルナンド アロンソ。2回のアタックはいずれも切れ味鋭く、暫定1位の状態で他のドライバーを待つことに。ここに最後に挑んだのはマックス フェルスタッペンで、セクター2まではアロンソから0.2秒以上遅れた状態での通過でしたが、最終区間で逆転し0.084秒差でピレリ ポールポジションを獲得しました。
惜しい!

 元々アストンマーティンは最終の小さいコーナーでは車の良さがあまり出ない上に、映像を見ているとアロンソも少しだけ安全に行ったように見えたのでその分だけフェルスタッペンに逆転の芽があったようです。正直セクター2を0.2秒落ちで通過した時点でひっくり返るとは思いました。「マジかあ、ぬか喜びやん」みたいな表情をしつつも大健闘の2位を祝うアストンマーティンのクルーの反応がなんかよかったですw
 3位からシャルル ルクレール、エステバン オコン、カルロス サインツ、ルイス ハミルトンの順でしたが、ルクレールはエンジニアとの連携不足かトンネル内で思いっきり他の車のアタックを妨害してしまって3グリッド降格処分となりました。これは痛い。

・決勝

 フェルスタッペンのミディアムに対してアロンソはハードを選択、以降もミディアムとハードがまちまちというタイヤ選択で決勝スタート。フェルスタッペンの蹴り出しはそんなに良くなかった気もしますが、結果的に上位13台は全く予選と変わらない順位で1周目を終えました。ヘアピンで接触があった関係で渋滞が起きて最後尾のペレスはほとんど一旦停止しとったぞw
車がデカすぎる・・・

 そのペレスはミディアムでスタートして1周でハードに交換する実質ノーピット作戦を実行しコース上で最速、一方でフェルスタッペンは後ろのアロンソを見ながら走っているようで少しずつ差が開いていく状況。3位のオコンが全然アロンソ先輩にはついて行けないために2位と3位の間に大きな空間ができてしまいます。
 そんなオコンに詰まっていたサインツ、相手がタイヤで苦しんできたら仕掛けようぜ、と後ろで狙っていましたが、11周目のシケインで抜こうとしたというよりは距離が近いので揺さぶろうとしてうっかり追突した様子。ウイングの左端を踏まれてしまいますが、とりあえずそのまま走行を継続します。ただこれだとオコンを追えないですね。
 さらに13周目にはアロンソが「右フロントがパンクしたかもしれん!」と言い出して唯一のこのレースの見どころが早々に消えるかとヒヤッとさせられましたが、チーム側からは異常なしと伝えられます。

 22周を終えるとフェルスタッペンとアロンソの差は10秒を超え、アロンソとオコンの差はさらに大きい16秒。フェラーリはサインツをピットに呼んでアンダーカットを狙う構えを見せて放送されているだけでも2回ピットの指示が出ましたが、サインツはお断りした様子でそのままオコンに付いていきます。モナコはアンダーカットよりもオーバーカットの方が成立しやすいとされるので安易に動きたくないんでしょうね。そして何よりチームが考える戦略を信用していない^^;

 このまま何も起きずに終わるのかと思ったら、レースの後半に雨が降るかもしれないという天気予報、しかも早いところでは35周目あたりに降るかもしれないと予想するチームすらあり、こうなると走れるだけ走って様子を見たい流れになります。ミディアムでスタートした人は特に限度があるので、いつどのぐらい降るのか気が気ではありません。持久戦突入モード。
 フェルスタッペンはやや左前のタイヤ摩耗が気になる上に、30周目あたりから周回遅れの大集団に詰まってしまい楽ではない状況。こういう時に抜け目なくペースを上げたアロンソが追いついてきますが、かといって自分から動いてその後雨が降ったら損なので我慢。

 上位勢では31周目に5位のハミルトンがまずピットに入ってミディアムからハードへ。32周目には3位のオコンも同じくミディアムからハードへ繋ぎますが、作業に少し時間がかかってしまいました。これを見てハードでスタートしたサインツも33周目に入り、壊れたウイングはそのままでタイヤだけ換えてピットを出ましたが、戻った場所はオコンの後ろ。
 オーバーカット失敗だなあと思ったら、どうもエンジニア側はハミルトンにアンダーカットされないためにピットに呼んだようで、しかしサインツはオコンを抜くことを考えていて後ろなんて眼中にないので話がそもそもかみ合っていませんでした。無線でサインツ激怒、お約束のフェラーリ劇場になってしまいました。

 41周目、周回遅れの壁を超えて1位と2位の差は9.3秒。雨という要素があるためにみんな動きたくても動けないところですが、じゃあ降らなかったらどうするの?という悩ましい時間帯となりました。フェルスタッペンとすれば最悪タイヤを替えた直後に雨が降って2ピットになったとしても、3位以下があまりに離れているので2位は確保できている状況なんですが、このチームにそういう甘い考えは無いようであくまで優勝への最善手を狙っている様子です。
 あまりに雨待ちの降る降る詐欺状態なので50周目に入ってもまだ10台がタイヤ交換をしていない珍しい状況となりますが、この周にラッセルから「ターン3でパラッと来た」と待望の(?)無線が入ります。その間にこちらテレビ観戦している大阪では先に雨が降り始めました、たまにマジで画面の向こうの天候と自分の居場所の天候がごちゃまぜになるときあります。みなさんありません?w

 53周目にはカジノからトンネル入り口あたりまでの狭い範囲だけやたら大粒の雨が降ってきたので、後方のドライバーは賭けでインターミディエイトへ交換を開始。ただそれ以外の区間は乾いているので判断がかなり難しくなりました。
 すると54周目、アロンソが先に決断してピットに入りハードからインターへ、と思ったらなんと履いたのはミディアムでした。これに対して55周目、フェルスタッペンも入ってインターへつなぎました。そのころにはサインツがミラボーへの下り坂を全く止まれず滑っていくなどセクター2がもはやスリックでは耐えられない状況になってしまい、さすがに危なすぎてアロンソも1周で諦めてインターにする2ピットとなりました。
だ~れ~か~と~め~て~~~~・・・(ドスッ)


 ほどなくコースは全域で雨となり、結構雨量が酷いのでタイム的にはインターどころかウエットのタイム水準。『土砂降りになるだろうからインターをすっ飛ばしてウエットへ繋ごう』とチームが裏の裏を読んだために放置されていたケビン マグヌッセンは57周目になってようやくピットの指示が出ましたが、ピットを目前にラスカスでバリアに突っ込みました。あまりに速度が遅かったのでウイングを壊しただけで脱出し無事にピットに入れましたが、さすがに『ウエットが使える雨量までスリックで待つ』は無理があります^^;

 その後雨はやんで少しずつ全体にペースが早くなっていく展開。もう優勝争いは決着がついた感じですが、予選9位からそのまま9位を維持してきた角田 裕毅に対して後ろからランド ノリス、オスカー ピアストリの2人が一気に追い上げて入賞圏の争いが激しくなります。角田はドライの状況では前からは離されたものの後ろともほどよく差があって良い感じだったのに、雨になって急に苦戦を強いられました。
 エンジニアからは角田に対して「難しいとは思うけどブレーキを頑張る必要がある」と言われますが、角田は「無理だよ、このブレーキゴミだろ!」「俺に事故れって言うの?」と反論。ただ結局ゴミブレーキを解決できずに角田はこのあとあっさりマクラーレン2台に抜かれて11位に後退した上に、その後もミラボーで止まりきれずに飛び出すなどまともに走れなくなって15位でレースを終えました。

 晴れ用のブレーキ冷却設定で雨になったので温度が下がり、冷えてブレーキを踏んでも踏んでもきかないからペースが落ちて、ペースが落ちるとブレーキが冷えて、の最悪の穴にハマったようです。ブレーキの表面が鏡のようにツルツルになってしまい、摩擦力が無いのでブレーキが信じられないほど効かなくなるグレージングという現象がありますが、おそらく角田はこの状態だったと思われます。

 優勝争いの方はフェルスタッペンが20秒以上差があるにもかかわらず壁に軽く当てたりして大人を心配させますが、結局は28秒近い大差でモナコを制しました。フェルスタッペンはこれでレッド ブルで通算39度目の優勝となり、セバスチャン ベッテルを抜いて所属ドライバーとして最多勝利になりました。また、このレース中には史上7人目の通算2000周リードに到達しています。
毎度おなじみプラネットスシ

 41歳のアロンソは2位となり、モナコGPでは1970年にジャック ブラバムが44歳で表彰台に乗って以来の年長表彰台を獲得。2位は今季初で2014年のハンガリー以来、モナコでの表彰台は2012年以来。アロンソが走ると"〇〇以来"がゴロゴロ出てくる状態です。オコンは3位を守ってこちらは通算3度目の表彰台。これにハミルトン、ジョージ ラッセルが続きました。
 一方ペレスはというと1周目にミディアムを捨てて空いた場所を走ったまでは良かったですが、当然すぐに集団に追いつくと全く前に出られず。フェルスタッペンが追いついてきて周回遅れになったタイミングは一緒にくっ付いてごっつぁんするチャンスでしたが、ここで他車との接触で2回目のピットに入るなどグダグダになってしまい、最後にはコース外から危険な戻り方をしてきたラッセルにぶつかるなど散々で2周遅れの16位でした。


 終わってみればフェルスタッペンの圧勝なわけですが、アロンソと完全に一騎打ちになったので『ひょっとして何かあれば・・・』という期待感だけはあるレースでした。その何かは他人がやらかした時のSCか雨しか無いわけですが、勝負手は不発に終わりました。アロンソからするとコースの大半は乾いていたのでインターミディエイトは無謀に感じたようですが、いざタイヤを換えて出ていったら状況が一変していたので、このあたりは先に動いて揺さぶる側のデメリットがモロに出た形です。
 とはいえ、じゃああそこでインターにしたらフェルスタッペンを抜けたかというとそうはならないでしょうし、確かに差は詰まったと思いますがその程度で焦ってミスるようなドライバーではないので、アロンソ側からするとどのみち勝てる手札は持ち合わせていなかったと思います。むしろ3位との大きな差を活かして思い切って攻めた、と前向きな出来事に感じました。アロンソでなかったらチームもスリックなんて託さないでしょうし。
 もしアストンマーティンが既に強豪チームで、レースを俯瞰して見れるエンジニアと、その作戦に全幅の信頼を置けるだけの関係が構築できていたのなら、タイヤ選択やタイミングはまた違ったものになったかもしれませんけどね。

 あの大雨でよく一度もレースを止めずに終わったなあと後から思うと結構不思議なレースでした。次戦はスペインです。

コメント

某NASCARFun さんのコメント…
ふむふむ
で、次はいつ撤退するんでしょうね?
しかし余りにもF1活動を生かしていないですよね。やっぱF1の技術をふんだんに使ったスーパーカーを出さなきゃ!
SCfromLA さんの投稿…
>某NASCARFunさん

 そう皮肉りたくもなりますねw 研究開発目的だとしても、もちろん必ず成果が出るわけではないのでそれは良いとして、「今この車に使われているこれこれはまさにF1の場で培ったこの技術が・・・」と胸を張って説明するぐらい正面から向き合ってほしいなと思います。もちろん高性能車も欲しいですけど、なんかそういう尖ったものはもうソニーとの共同開発車両に全部お任せしたようにも見えますねえ。。。