F1 第4戦 アゼルバイジャン

Formula 1 Azerbaijan Grand Prix 2023
Baku City Circuit 6.003km×51Laps=306.049km
winner:Sergio Pérez(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB19-Honda RBPT)

 本来なら中国GPが予定されていたのが中止になったので3週間も間が空いたF1、第4戦はアゼルバイジャン。このレースを皮切りに今年は合計6戦のスプリント方式を採用したイベントが開催される予定ですが、そのスプリントの規則が開催直前になっていきなりごっそり変更され、現場も見てる側もなんかよく分からん状態で週末に突入しました。

・新スプリント方式

 元々は予選レースの意味合いだったスプリント、初年度は「たった1つのスタート順位を得るためにも、貰える得点を考えても割に合わない」と言われ、昨年は8位まで点数が貰えるようにご褒美を増やしましたが、それでも「基本は決勝のスタート順位が大事だから攻めるほどでも・・・」となりました。そこでとうとう『予選レース』という考え方そのものを放棄することになりましたが、最終決定が4月25日と本番の3日前でした。

 金曜日は午前にFP1をやって、午後に予選。この予選結果は『決勝のスタート順位』を決めるものになりました。練習する機会が週末を通じて最初のFP1しかありません。

 土曜日は午前から『スプリント シュートアウト』という、いかにもアメリカの運営会社らしい名前が付いてますが要するにスプリント用の予選で、普通の予選と同じくSQ1~SQ3の3段階方式。セッション時間が短くて使用できるタイヤにも事前に制限があるのが予選と異なる部分です。スプリントのクオリファイなのでSQという略称ですが、私はどうしても『特別清算指数』という単語が頭に浮かびますねえ。
 午後にスプリントを開催、タイヤは自由選択で距離は約100km、8位までに得点が与えられる、という要素は昨年と同じ。レース結果が日曜日の決勝には全く反映されないのでリスクを考えずに攻められる、というのがお題目ですが、逆から言うと12位とかの人は途中から順位を争う意義が薄くなってしまわないかが心配です。練習走行の時間が少ないので、とりあえずデータ集めとして走るのは走らないといけないでしょうね。


 で、日曜日は金曜日の予選結果に基づいたスタート順位で300kmの普通のレース。フリー走行を削って競争環境の時間を多くすることでお客さんのため、という建前で実際はもっと放映権料やらなんやら回収したい意図でしょうが、NASCARじゃないんだからさすがにメカニックさんとかを酷使しすぎてませんかねえ。
 他にも、パワー ユニットのうち内燃機関、MGUといった部品の使用制限が年間3基から4基に増えたり、決勝前のスタート手順の開始時刻がセレモニー等の時間確保のために10分繰り上がったりと、何で3戦してからいじるんだという謎の変更も含まれました。

・予選

 FP1で調子が良さそうだったニック デ フリースがいきなり自滅。ピエール ガスリーはFP1で壊した車をクルーがなんとか直してくれたのにまた破壊、と開始早々に荒れた予選。Q3の1回目のアタックではマックス フェルスタッペンとシャルル ルクレールが完全同タイムを記録したのでこれで終わっても面白かったですが、2回目に大きく更新したルクレールがピレリ ポール ポジションを獲得しました。3位にセルヒオ ぺレス、4位はカルロス サインツ。

 翌日のシュートアウトに向けては、SQ1とSQ2は新品ミディアム、SQ3は新品ソフトで走行することが義務付けられているためにその分は残すのが定石と思われましたが、ランド ノリスと角田 祐樹はソフトを全部使い切って7位、8位。『走行』することは義務でも『残す』ことは義務ではないので、「まあ仮にSQ3まで進んだら走らんかったらええわ」という考えでとにかく決勝を重要視しました。

・スプリント シュートアウト

 こちらもルクレールが好調。1セットのタイヤしか使えない条件、かつ路面温度が前日よりも高くなってしまい、最後の最後にタイムを塗り替え続けるのは難しい情勢でした。ルクレールもSQ3の1回目のタイムが最速で、2回目はミスって壁にぶつけてしまいウイングがボロボロ。それでも誰もルクレールのタイムを超えられずにスプリントのポールも獲得し、壊れた車が『1』と書かれたボードの前に誇らしげに(?)停められました。2位にぺレス、3位フェルスタッペン。


・スプリント

 17周のスプリント、1周目に後方でデフリースと角田が接触し、ウイングを壊した角田が壁にもぶつけて右後輪からタイヤだけ外れてコースをコロコロ。VSCを出す判断が遅いレース ディレクターも謎ならば、強烈に壁にぶつけたのに十分に車を確認せずタイヤ交換だけして角田をコースに送り出したアルファタウリのクルーも謎でした。角田は1周をまるまるカニ走りさせられた末にリタイア。
 アルファタウリはとりわけ今季の成績不振から体制がギクシャクしている様子で、長く代表を務めたフランツ トストが今季限りで職を辞することが唐突に発表されてなんかぐちゃぐちゃですね。
 8周目にリスタートすると2周後にペレスがルクレールをかわし、直線の速さを活かしてその後は相手を寄せ付けず。フェルスタッペンの方はスタートで失敗してジョージ ラッセルと争う中ターン2でぶつけられて車体の左側に穴が開いてしまい、ルクレールを攻略できませんでした。スプリントはペレス、ルクレール、フェルスタッペン、ラッセル、サインツのトップ5でレース後にフェルスタッペンとラッセルは軽く口論になりました。

フェルスタッペン「お前車見てみろよ穴空いたやんけ、市街地やねんからあんなんネズミ入るで、どないしてくれんねん。」
ラッセル「え~?マイアミ行く前からディズニーランド気分でよかったやん。というわけでワシに入場料払ろてくれ。」
フェルスタッペン「明日からお前のことデサンティスって呼ぶぞアホ!」
(※もちろん想像です)

・決勝

 前日のスプリントよりも時間帯が早いので路面温度が高く、ミディアムとハードでの1ストップ以外に作戦の取りようがない決勝、ほぼ全車ミディアムでスタート。とりあえずスタートは決めて最初の2周をリードしたルクレールでしたが、DRSが解禁されたら打つ手が無く4周目にフェルスタッペン、6周目にペレスと相次いでかわされました。とはいえもうこれは想定内で最初からレッド ブル以外としか戦う気がないようにも見えます。

 タイヤの性能劣化が思いのほか早く、中団勢は8周目あたりにはもうピット サイクルとなって続々とタイヤ交換、そんな中でペレスはこれまた思いのほか健闘してフェルスタッペンとの差を詰め始めます。これでフェルスタッペンは10周目に先にピットに入ることを選択しますが、ちょうど同じころにデフリースがターン5の内壁に車をぶつけてそのまま停止。コース脇から動けずにSC導入となってしまい、まだ入っていなかったペレス、ルクレールがSC中のタイヤ交換で得をしました。


 これでペレス、ルクレール、フェルスタッペン、サインツ、フェルナンド アロンソの並びになって14周目にリスタート、ここからハードでの戦いなので冷え冷えのタイヤは怖いですがフェルスタッペンはすぐさまターン3でルクレールをかわし2位へ。その後ろではアロンソがサインツをかわして4位となり、今日もまた表彰台を狙います。
 30周以上をハードで走り切る持久戦になので、みんな壁とタイヤ摩耗に気を付けながらの戦いになってあまり何も起きません。ペレスとフェルスタッペンの差は1.5秒前後でずーーーっと変わらず。ターン1とか15とか、いや~な出っ張りが時々あるので油断できないんですが、フェルスタッペンは出っ張りに貼ってある広告バナーかすめて走っとる(;・∀・)


 タイヤの摩耗が心配で抑え気味だったルクレールに対し、アロンソが1秒強の差まで追い付いて行ったものの、タイヤの心配が薄れて来るとルクレールは盛り返して4秒差。ペレスとフェルスタッペンの差も徐々に開いて40周目には3.5秒差まで開き、本当に何も起きません。このコース、何も起きないか荒れるかの両極な気が。おかげで私はレースをあまりちゃんと見ないで他所のブログにコメントを書いたりしている状況です。さあ誰か、私の興味を惹かせるのだ!
 
 そんなことを書いてたらちょうど40周目あたりから6位のルイス ハミルトンがサインツに対して攻撃を開始。フェルスタッペンも少しペレスとの差を詰めて、終わりが見えて来たのでみんないよいよ守りから攻撃に考えを切り替え始めた印象です。この時点でハードでスタートした人が未だにピットに入っていないので、40周ぐらいタイヤがもつことはもうだいたい把握できましたしね。ハミルトンといえば昨年はあまりの車の振動で車から降りられなくて大変でしたよねえ。。。

 この後は残り5周あたりから最速ラップを数名が更新し合う展開、フェルスタッペンがいつも通り最速を叩き出したと思ったら、意外なことにアロンソがこれを塗り替えて行きます。その勢いでルクレールに対してちょっと重圧もかけて急接近。
 そのままレースは最終周、ちょっと空が暗くなってきて風も強くなったみたいですが、ペレスがSCで得たリードを全く明け渡すことなくトップでチェッカーを受けました。2位のフェルスタッペンは最速を塗り替えましたが、最速狙い作戦で最後の1周だけソフトで攻めたラッセルに塗り替えられてしまって今回は追加のおみやげ無しでした。

 3位はルクレール、4位のアロンソはとうとう1秒以内に入ってDRSを開くところまでいったので、あと一歩攻め時が早ければ届いたかもしれない、というレース巧者の戦いでした。アロンソに関しては、レース中に自分のブレーキ バランスを「これ良いからランスに教えて」とチームメイトに走りながら情報提供。
 開幕からランス ストロールはうっかりアロンソにぶつける場面が既に2回ほどあったので揉めても不思議では無いところ、チーム力向上のために努力を惜しまないアロンソ兄貴に影響されたか、今日はストロールも「フェルナンドに『俺は攻撃しない』って伝えて」と、2台共闘を申し出るなど協力プレイが放送でも強調されました。効果があったのかは分かりませんが、ストロールも7位できっちり入賞しました。

 最終周にはかなり危険な場面もあり、ハードで50周走ったエステバン オコンが義務消化のためにピットに入ると、レース後の式典のための準備をスタッフさんが既に開始しようとしていて、そこに取材陣も集まってピット入り口付近が人だらけ、あわや大量の人間が轢かれるところでした。オコンは1周遅れに近かったのでもう誰もピットに入らないと誤解したのかもしれませんが、責任ある立場の人はちゃんと教えてあげなさいよ・・・
 ハードでスタートした人にとって序盤のSC導入は作戦的に全く美味しくない最悪の展開で、ミディアム→ハードで我慢して走った角田が2戦連続で10位に入って混乱するチームに1点をもたらしました。今回はいくぶん車の状況が改善したようで、8位スタートから元々格上のラッセルとストロールに抜かれただけの10位ですから、必要な仕事をきちんと果たして帰って来た形です。デフリースはちょっと世間からの風当たりが強くなってきた感ありますね^^;

 ペレスはもしフェルスタッペンに一度でもDRS圏に入られていたら、フェルスタッペンはギャンギャン攻め立てつつ無線で「先に行かせろ」と言い出したでしょうから、とにかくその状況を作らないことが必要でした。昨年は思ったよりタイヤを早く傷めてしまった印象がありましたが、今年はペレスらしいストップ&ゴー巧者、後輪摩耗管理マスターの本領が発揮されていて、何も起きなかったんですけど何も起こさなかったというのが印象に残るレースでした、変な話ですけどねw


 新しいスプリント方式、まだ1戦だけなのでまだまだ試しながらというところだと思いますが、F1って元々の存在として短距離戦をやらせて面白いようにはあまり出来ていないので、300kmの本番+100kmのおまけでは根本的には変わらない印象を個人的には受けました。
 イベントのやり方には規模や顧客層等に合わせて色んな手法があるとは思うんですが、国際的に知名度の高い最高峰の競技があまり俗っぽい施策を行うと、全体的な価値観が落ちないかが懸念材料だと思います。サッカーでもFIFA ワールドカップが出場チーム数を急拡大させることで価値が落ちるんじゃないか、と言われていますが、なんかそれと似たものを感じます。
 予算制限がある中でレースを増やしたってみんな車を壊したくないし、最初にも書きましたけど動かしているのは人間で、車を運んで組み上げる作業は今も昔も人間の労働によってもたらされているわけで、ドライバーも大変ですけどドライバーを無事送り出すための人たちにかかる負担もかなり大きいと思います。
 元々年間23戦もあって負担がかかっているところにこれを持ってきて、働いている人たちの質が低下してしまえばいずれそれは必ず競技全体の質にも影響をもたらしますから、本当にそこまで考慮されているのか、私は目先よりも先行きがちょっと不安ですね。

 規模を拡大する→もっとお金がかかることをする→放映権や入場料が上がる→収入が増える→規模を拡大する→

 の過程は好循環に見える一方で、その過程でどんどんと顧客層を狭めて行ったり、何かの拍子に循環に穴が開くと一気に崩壊する危険性がありますし、しかもその規模拡大に人権や体制上問題が指摘される国のお金にかなり頼っている、というのも大きな課題だと思います。
 サッカー界では、アメリカのオーナーを中心に各国の強豪だけで新しいリーグを作るスーパー リーグ構想が立ち上げられたら拝金主義だと袋叩きに遭ってあっさり撤回され、ゴルフではサウジアラビアが旗振り役になったLIVゴルフが『拝金主義のPGAツアーに変わる新しいツアーを!』と言いつつ札束でPGAの選手を集めて批判を浴び、ゴルフ界は未だに2つの組織の溝によって大きな傷を負ったと言えます。
 F1の場合は、過去に現行体制に批判的な人たちが新カテゴリーを生み出そうと画策して失敗したぐらいのもので、競合する何かが同一業種に無いのでこうしたことにはならないでしょうが、方向性としては非常に似ているので「俺たちは状況が違うから関係無い」ではなく、参加者側も含めて念頭に置いていただきたいなと思う昨今です。まさか、収益が増えた結果F1チームが2倍の人を雇えて、なんとスタッフさんの給料そのままで仕事が半減する、なんてことは起こらないでしょうし。

 で、そんなことを言いつつ次戦は遥か遠くアメリカのマイアミへ、今年は裏でやっているNASCAR Cup Seriesがカンザスでちょっとインパクト弱めなので、ひょっとして視聴者数が逆転するんじゃないかという全然レースと関係無い点が注目ですw

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