SUPER GT 開幕戦 岡山

2023 AUTOBACS SUPER GT Round1 OKAYAMA GT 300km RACE
岡山国際サーキット 3.703km×82Laps=303.646km
※赤旗により62周を完了時点で終了
GT500 class winner:MOTUL AUTECH GT-R 松田 次生/Ronnie Quintarelli
(Nissan Z GT500/NISMO)
GT300 class winner:UPGARAGE NSX GT3 小林 崇志/小出 峻
(Honda NSX GT3/TEAM UPGARAGE)

 2023年のオートバックス スーパーGTが始まります。今年もシリーズは全8戦、開幕戦はお馴染みの岡山国際サーキット。ここ数年、安全性の観点からGT500クラスでは開幕戦だけ最大燃料流量を通常より絞った状態で開催されていましたが、コース側で一定の安全改修が行われたために制限解除、今回は通常の95kg/hでの開催です。今年も中継映像だけでは分からないところを勝手に掘り下げつつ観戦です。

・開幕前の話題

 今年の変更点等をおおまかに。まず、今年のレース距離は岡山、SUGO、もてぎが300km、他の5戦は全て450kmとなりました。鈴鹿と富士は既に長距離レースの開催実績が豊富ですが、オートポリスでも初めての450km。おそらくシリーズの歴史上でも鈴鹿、富士以外で300kmを超える距離のレースは初めてだと思うので、九州のお客さんはレースを長く見れて楽しみ、走る方は未知の要素です。
 一方で、長距離レースを走るために大事なタイヤは持ち込みセット数が昨年より1セット削減され、ドライ タイヤは300kmで5セット、450kmの場合は6セット(厳密には300km超の場合その都度個別に決定される)となっています。チームの事前予想通りにタイヤが機能するぶんには影響は少ないと思われますが、本命だと思っていたタイヤが機能しなかった場合に影響が出る可能性があります。ただし、シーズンで未勝利のタイヤ企業には1セット追加の救済措置があります。
 運営側としては、より長い距離を少ないセット数で走る≒幅広い条件で長持ちするタイヤ開発を促し、製造や運搬にかかる費用や温室効果ガス、資源の削減も図る考えです。ただ、お金とタイヤ屋さんの製造能力次第ですが、タイヤを持ち込んで登録するギリギリまで判断を待つため、サーキットの近所に予備のタイヤを待機させておいて天候をギリギリまで見て最終決断することは一応できるはずです。

 環境対策は燃料の側でも行われ、今年からCNF(カーボン ニュートラル フュール)が導入されます。植物由来の成分を原料とした化合物で、いわゆる化石燃料を使用していないというのが特徴、残念ながら日本の企業製ではなくドイツのハルターマン カーレスという会社が製造する ETS RENEWABLAZE GTA R100 という燃料が使用されます。CNFって聞くと私はセルロース ナノ ファイバーの方を思い浮かべるんですけどねえ、まあこの燃料の原料もセルロースだしいいか(謎)
 GT500クラスはエンジン開発ができるので各車が適合を進めていますが、GT300クラスは多様なエンジンが存在し、ほとんどの車はエンジンを根本的にいじれないので調整できる範囲が限られます。結果、テストの段階で燃料との相性に差が見られ、ターボ車で特に従来燃料からの性能低下が大きかったため、GT300だけ導入開始が第3戦に先送りされました。

 車両側では、GT500は空力開発が凍結されているので見える部分に変化は無くエンジンと見えない部分の開発競争、GT300ではaprがプリウスに代わって新型のGT300車両・LC500hを投入しています。GT300規定に関しては床下の空力規則が抜け穴を防ぐように変更され、外観上に影響がある小規模な変更も行われましたが、ディフューザーの全長は旧規定より長くなって、うまく使えばダウンフォース全体量はあまり変わらない様子。既存車両は経過措置として旧規定のまま走行も可能ですが、GT300規定の特徴である開発ができないなどの制約が加わります。

・予選

 残念ながら雨に見舞われ、各セッション時間を5分長くする特例発動。GT300はQ1のA組だけ雨が酷すぎて赤旗で途中終了になるSUPER GTでは珍しい出来事もありましたが、何にせよ速かったLEON PYRAMID AMG・蒲生 尚弥がポール ポジションを獲得しました。雨量が多い時間帯はダンロップが速いけど、乾き始めるとブリヂストンが強い印象でした。


 2位からmuta Racing GR86 GT、Studie BMW M4、JLOC ランボルギーニ GT3、グッドスマイル 初音ミク AMG、apr LC500h GTと続きました。M4はGT初参戦のブルーノ スペングラーがQ2を担当しましたが昨年のアウグスト ファルファスと同様にいきなり走ってもやぱり速いですね。

 GT500は雨になるとミシュランが圧倒的で、MOTUL AUTECH Z・松田 次生がほぼ毎周延々とタイムを更新し続けてポールを獲得。なんと2010年第4戦セパン以来13年ぶりです、当時はインパルにいましたが相棒はやっぱりロニー クインタレッリでこのレースを制しています。
 2位のNiterra MOTUL Z・高星 明誠とは2台で並んでアタックし、セッション序盤はお互いに最速を更新しあっていましたが、段々高星の伸びが無くなって行き、最終的に1.2秒近いタイム差になりました。ちなみにNiterra(二テラ)というのは日本特殊陶業の海外向け社名です。日特はNGKスパークプラグなどの製品でお馴染みの会社ですね。

 3位からModulo NSX-GT、ENEOS X-PRIME GR Supra、WedsSport ADVAN GR Supra、Deloitte TOM'S GR Supraと続きました。ヨコハマは熱が入るのに10分以上かかり、ブリヂストンは特にNSX勢でフロントは熱が入らないのに、熱入れのために攻めてると後ろが先にダメになってバランスが取れないまま終わったように見えました。

・決勝

 決勝は開始前にはまだマシな天気だったものの、大気の状態が不安定で開会宣言のころには空が暗くなり始め、パレード周回で警察車両のクラウンがやたら攻めた走りを披露している間に小雨が降り始めました。
 GT500はミシュランの目覚めがいつも通り良いのでクインタレッリ、千代 勝正のトップ2が逃げた一方、3位のModulo・伊沢 拓也はダンロップの目覚めが悪く防戦。ターン5~6で細かい接触もあった様子でウエッズ・国本 雄資に抜かれ、その後も順位を下げて当面6位となります。
 昨年まではヨコハマもまた目覚めが悪い場面が多かったので、それを思うと国本の走りからはそれを感じない速さが見えましたが、それ以上に速かったのが8位スタートのSTANLEY NSX-GT・牧野 任祐でした。スタートで2台を大外刈りすると、3位争いがごちゃついたタイミングでまた2台抜いて4位、3周目には国本も抜いて3位へ。
 一方GT300は上位6台の順位に変動なし、LEONの篠原 拓朗は初めてのポールからのスタートを無事切り抜けますが、muta GR86・堤 優威がしっかり付いています。

 7周目にはGT300の大集団にGT500の先頭が追い付いて混雑、さらにこの頃からいよいよ分かるレベルで雨が降り始めたので、そら当然何か起きるやろ、と思ったら案外何も起きずに13周目には混雑を突破。上位5台の距離がすごく縮まっただけでした。
 15周目には雨量が急に増えて、実況のサッシャも「この雨は、雨でしょ」と謎の実況。この周の終わりには手に負えない雨量になってリーダーのクインタレッリをはじめ9台がピットに入りました。


 もう次の周には絶対入らないとあかん状況になってしまいますが、その前にターン1でDOBOT Audi R8 LMS・片山 義章が飛び出してハマってしまいFCYに。ちょうどピット入り口付近まで来ていた千代はステイアウトしましたが、牧野はピットへ。ただ、FCYボードが掲示される前にピット内に入れていたのか微妙で、それと分かる映像も出てきません。牧野よりも後ろで入ったデロイトトムス・笹原 右京も同様です。
 さらに問題は続き、タイヤを換えたGAINER TANAX GT-Rの右後輪が裏ストレートで脱輪、RUNUP RIVAUX GT-Rも右前輪がハマっていないようでピット出口に止まってしまい、あまりに処理案件が増えたのでSC導入となりました。雨はさらに酷くなって雹まで振る始末。GT500は4台がステイアウト、GT300の方はリーダーの篠原を筆頭に15台がステイアウトです。みんな1周待ったらFCYが原因で入り損ねた人と思われ、スリックで置き去り状態です。

 19周目、リスタート手順が整ってピットが開くとステイアウト組はピットへ。LC500hはFCYの前にタイヤ交換を済ませていたので有利になるはずが、ワイパーが前に倒れて窓ではなくボンネット掻くという見たことの無い問題に見舞われて緊急ピット、この後も不具合等で苦戦したとみられるLC500hは16位で終えました。

・リスタート

 23周目にリスタート、路面水量はものすごいけどもう空が明るくなって晴れているという頭の整理が追い付かない状況です。GT500はFCY時にタイヤを換えた牧野と笹原がトップ2。3位にクインタレッリですが、ミシュランはあまりに路面水量が多い状況では強くないので、この後早々に3つ順位を下げてしまい、代わって3位にはau TOM'S GR Supra・坪井 翔が浮上。

 一方GT300のリスタート時点でのリーダーはFCY交換組のPACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG・阪口 良平。本来ならこの後ろにもFCY組が並ぶはずなんですが、実際に2位にいたのはSC中にタイヤを換えた篠原、3位も同じくSC中に交換した埼玉トヨペットGB GR Supra GT・川合 孝汰で、4位にようやくFCY組のYogibo NSX GT3・岩澤 優吾でした。リスタート後は圧倒的に速い篠原がすぐにリードを奪還。2位に川合、3位に堤とブリヂストンの3台が抜け出しました。


 なぜこのリスタート順になったのか状況が正確に追えないんですが、スリック組で最下位となる15位にいたマッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号が、スリックではSC下でも隊列に付いていけず遅れてしまい、FCY組はこれに詰まってしまってレオンがピット作業を終えるまでにストレートに戻ってこれなかった可能性がありそうです。
 パシフィックもマッハ号の後ろにいたはずなのでどうやって抜け出したのかが謎ですが、どこかで思いっきり滑るなど追い抜きがやむを得ない事情があったんでしょうか。公式の車載映像などさらにヒントが無いとこれ以上調査不能、何にせよ大幅に順位が落ちるはずだったステイアウト組の上位は思いがけず前方からリスタートできて得しました。

 28周目、リスタート後に好調の坪井が牧野をかわしてGRスープラが本日初リード。牧野の様子を見ていると予選と似た状況で曲がっていない印象を受けます。後の情報では彼らはレインの中でもソフトを選択していたので、ひょっとすると他陣営はハード側だったのかも、とのことでした。この後笹原も牧野を抜いてトムスのワンツー。
 しかし路面の水が蹴飛ばされるとミシュラン無双のお時間となり、31周目にクインタレッリは笹原をかわし坪井を追撃。そしてここでFCY時のピットについて、スタンレーNSXも、その後ろにいたデロイトスープラもFCYボード掲示後にピットに入ったとして60秒停止のペナルティーが決定しました。
 YouTubeのコメント欄を見ると「60秒は厳しすぎる」「10秒ぐらいで良い」といったコメントがけっこうありましたが、FCYやSC中にピットに入って得られる利益は最大で丸々1周分にすら到達することがあるため、違反した者勝ちを防ぐために罰則は『60秒以上』と規定され、各サーキットごとの1周のタイムを鑑みてレース毎に長さを設定しています。
 今回は豪雨でピットに入るしかない状況で、水煙でドライバーからはボードの確認もままならない厳しい環境、かつ車載モニターのFCY表示も遅延が発生していたそうで運転手さんには気の毒でしたが、チーム側には対応の余地もあったはずですし、毎回酌量の余地を検討していたら競技が成り立たないのでそういうものだと思うしかないですね。

 
 GT300のチームが徐々にスリックへ交換し始めた37周目、もう水を探すのが大変な状況になってくるとクインタレッリがとうとう坪井を捕まえ、41周目の最終コーナーで坪井がGT300に詰まった隙を衝いて外に並べることに成功。乾いた路面を捉えてターン1で外からリードを奪い返しました。
 GT500で色々ありすぎて中継もGT300を追いかけられていない中、路面が乾くと事情がかなりリスタート後と変わっており、篠原は17秒の大量リードで安泰な一方、リスタート直後に一旦順位を下げた阪口が2位に復活。UPGARAGE NSX GT3・小出 峻もリスタート時の9位から4位に上げており、ヨコハマがこの時間帯はちょうど良い具合に昨日している様子を感じさせます。小出は昨年のFIA-F4 日本選手権のチャンピオン、これがGTデビュー戦でいきなりややこしい状況を任されたのに、生き残るだけじゃなくて順位を上げてて驚きです。

・ピットサイクル

 GT500のピット サイクルは41周目あたりからで、同じころ・GT300の39周目にGT300のリーダー・LEON AMGも入って篠原から蒲生へ繋ぎます。2位と18秒、3位以下とは20秒以上の差があったので当然1位だろう、と思っていたら、実はこのピットでアップガレージにアンダーカットされていたことが後から分かります。
 アップガレージは37周目にピットに入りましたが、最初のFCY前にピットに入った際におそらく燃料を目一杯入れていたと思われ、この2回目の作業時間が短かったと思われます。これでピット前には25秒以上の差があったレオンに追いつき、蒲生がまだタイヤに熱が入っていないうちに抜いてしまったようです。中継を見てても気付くのはほとんど不可能でしたw
気付いた時には1位だった

 そんな後から分かるGT300のトップ争いと違って、GT500は上位2台と3位以降に差があるのでさらに様子見を継続。45周目に2位のauが坪井から宮田 莉朋へ繋ぐと、これを見て翌周にMOTULもクインタレッリから松田へ。宮田はここが最大の勝負どころなので猛追し48周目には背後に姿を見せましたが、このタイミングでSUBARU BRZ R&D SPORT・山内 英輝がブレーキで頑張ろうとしてすっ飛んでしまいターン5のスナーバックス入店。これでFCYとなり、そしてまたもや天候が悪くなってきました。
 FCY中には作業中のターン5にリアライズコーポレーション ADVAN Z・平手 晃平がスピンして停止。処理作業が2つに増えたので時間がかかり、51周目の途中でようやくFCYが解除されました、が、再開直後にパシフィックAMGとJLOCウラカンがクラッシュ。
 パシフィックの後半担当は新人のリャン ジャトンでしたが、FCY明けに周回遅れを抜こうとしてもたついてしまい、後ろから来た小暮 卓史と接触したようです。ちなみに、SUPER GTにはこれまで香港国籍で出場したドライバーはいましたが、中国として表記されるのはリァンが史上初、漢字表記だと 梁 嘉彤 みたいですね。リァン=梁 は想像付きましたけど名前は全然思い浮かばない文字でした^^;


 それはさておき、ニスモはここでSCボードが出る前に松田をピットに呼びました。確実にSCが出て、SCが終わるころにはもうスリックでは無理だろう、という先回り思考。その想定通り雨が強くなってきたのはよかったんですが、コースの近くで落雷が観測されたために予想外に赤旗になってしまいました。このまま終わったらニスモは順位を捨てただけ^^;

・赤旗地獄

 赤旗は幸いにして20分ほどで解除、なんか運営が手順を間違えて無駄にGT300を1周させたような気がしましたが、SC先導走行に戻りました。スリックを履いているほぼ全車はSC中に交換するしかないのでピットが大繁盛。ここで最悪の事態が起こり、2位で復帰するはずのauが左前輪をまだ装着していないのにジャッキを落としてしまうNASCARのような失敗。そのままピットを出ていき、走行不能であえなくターン2に車を止めました。

 この後61周目にリスタートするはずが、今度はmuta GR86がターン1で脱輪しSC延長。この間にまた落雷があったようでまた赤旗になって21分ほど待機。16時20分にSC先導に戻りますが、レースの最大延長時間が16時30分なので残りは10分。レース距離の75%が62周なのでなんとかSC先導で62周を超えた後、最後もまた雨が多いしもう時間も無いので3度目の赤旗でそのままレースは成立し終了となりました。
 公式結果は61周で記録されているので75%にギリギリ届かなかったように見えますが、これは規定で『赤旗の場合その1周前の通過タイムを採用する』ことになっているため。赤旗終了で61周と記録されている=62周を走り終えた証ということになり、75%をギリギリ超えているので点数は満額回答で手に入ります。

 GT500はMOTUL Zが優勝、2位にNiterra Zで結果としては予選も決勝もワンツーでした。最初のFCYで大損した日特号ですが、開き直ってその後のSC時にしっかり給油し、ウエットでの車は抜群に速かったのでピットサイクルを終えた時点で既に3位まで追い上げていました。展開に泣かされた後、展開に助けられて差し引きゼロとまでは行かないけどマイナスは最小限でした。


 GT300はUPGARAGE NSXが優勝、アップガレージの小出はなんとデビュー戦で勝利、先生役の小林 崇志はGT通算100戦目だったのでお互いにキリの良い数字での優勝となりました。勝ったと思ったらひっくり返されたLEON AMGが2位。3位にはこれまたどこから来たのかHACHI-ICHI GR Supra GTでした。この車、赤旗前はリードラップ最後尾の13位にいたんですが、その後のSC中のピット大混雑の際に出口よりのピットだったことが幸いして前の車を大量に抜いたみたいです、隊列最後尾にいたのは覚えてたので変だなとは思ったんですが、これも後から調べないとよく分かりませんでしたw

・恐るべしミシュラン

 予選でも決勝でもGT500のミシュランのレインタイヤは驚異でした。普通レインタイヤと言うと、内から外へ向かって複雑な曲線で溝が刻まれているような印象があります。ブリヂストンはこんな形状。

 ところがミシュランのタイヤは

 ザ・直線。一生懸命複雑な曲線を考えた人からするとバカにされてるような形状です。たしか昨年からこのタイヤになりましたが、ライバルはこれで本当に排水できるのか興味深々、戦々恐々、という感じでした。水量が多い時は弱いと書きましたが、想像するにミシュランは大雨の状況をあえて捨てているように思えます。
 ものすごい水量なのにレースが中断されることもなくその水量のままレースが続く、なんてことは滅多に起こらず、普通は段々乾くかそうでなければ赤旗です。だったら、そんな特殊な状況は追い求めずにそれ以外を考えた時にたどり着いたのがこの形状だったんでしょう。もちろんライバルも基本的には同じだと思いますが、割り切りと発想で相手を出し抜いた感じです。
 溝があるから雨が降っててもちゃんと走れるけど、感触や耐熱性の面ではよりスリックに近い性能を与えているんだろうなと思いますが、レインは作動温度領域を低くしておかないと役に立ちません。その点、普段から異様に早く作動温度領域に入るスリックを使っているので、その技術も活かされているのではないかと思います。レインタイヤの溝はシーズンを通じての登録制、かつなかなか実走テストも限られているので、ライバルはそう簡単に模倣もできません。いやホントすごい。

 作戦がどうとかいう話ではなく、目の前の状況にいかに対応するか、ミスをしないか、ということが大事なレースでニスモは最も仕事をこなした、というのが今回のレースでしたが、ミシュランの今回の貢献度はめちゃくちゃ大きいです。

・把握しきれないことが次々と・・・

 途中で書いた1回目のSC時の謎もそうですが、とにかく見ていて情報量が不足して何が起きているか分からんことが多いレースでもありましたね。一番「???」だったのは2回目の赤旗の際にARTA MUGEN NSX-GTの16号車がピットに入った件。この車は1回目のSC明けからレインで走り続けてまだドライバー交代をしておらず、いよいよ最大運転時間の54周が迫って来たぞ、というところにまたFCY/SCが出てしまい、挙句の果てに赤旗になって完全に機を逸しました。
 規則ではこういう場合特例で運転の延長が認められているものの、チームは競技長に確認をとった上で赤旗にもかかわらず1台だけピットへ。しばらくあれこれとやり取りした後にドライバー交代等全ての通常作業を行いました。赤旗では作業をしてはいけないのが原則なので非常に謎でしたが、規則では競技長が裁量で作業を許可できることになっているので合法的に作業できたようです。これは規則をきちんと読み込んだ好判断だったことになります。
 ただし、赤旗の際にはピット内にある『赤旗ライン』という場所で停止しないといけなかったのにチームはこれを失念。この違反に対して100秒加算のペナルティーを食らってしまいました。見た目上5位でチェッカーを受けたものの正式結果は11位。ただ、それ以上に「どうして作業してるの?」「違反内容は赤旗ライン、ってことは赤旗でも作業しても良いの?」「どういう根拠で許可したの?」というあたりがおそらく大半の人には理解できません。
 公式サイトの結果で、ペナルティーの『アンセーフリリース』が全て『アンセーフりリース』と平仮名が混ざったりしているので運営側も色々ありすぎてごった返してる感がありますが、翌日は休みを取るにしても2日後には公式から最低限の補足説明なんかは入れてほしいなと感じます。
 中継映像にしても、NASCARだとカメラが追いきれなければ固定の監視用カメラ映像から事故の瞬間を引っ張ってきたりするので、そういう仕組みはないものかと思います。2クラス混走でカメラの台数も限られているために中継でも何が起きたか分からない事案が多いレースになっていますが、コーナーポストの固定カメラなら最低限誰がどうなってぶつかったか、ぐらい見えることも多いはずなので、仕組み上どうにかできないものかともう10年ぐらい思っています。20年やってもできないということはできない事情があるのかもしれませんが。


 古い話ですが、2004年の開幕戦・フェアレディZのデビューとなった岡山でニスモは今回と同様に予選でワンツーでした。で、決勝はスタート前に雨が降ってタイヤで悩み、ポールのモチュール ピットワーク Zはスリック、2位のザナヴィ ニスモ Zはグリッド上での作業が認められている時間を過ぎてから違反覚悟でレインに交換。
 これが明暗を分けて、スリック大失敗のモチュールはボロボロで9位、一方ザナヴィはペナルティーをはね返して2位かと思ったら、トップのデンソー サード スープラ GTが残り5周で黄旗追い越しによるペナルティーを食らったために逆転優勝し、最終的にその年のチャンピオンになりました。20年近く前のレースをちょっと思い出しましたね。

 次戦はお馴染み大型連休の富士450kmです。なお、植毛ケーズフロンティアGT-Rは19位でした。

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