フォーミュラE 第7戦 ベルリン

ABB FIA Formula E World Championship
2023 SABIC Berlin E-Prix
Tempelhof Airport Street Circuit 2.355km×40Laps=94.2km(規定により43周に延長)
winner:Mitch Evans(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6) 

 ABB フォーミュラE シーズン9、第7戦・8戦はベルリン2連戦。初開催のイベントが続いていましたが、ここで久々に馴染みのある開催地が来たのでみんな実家に帰ったような安心感でしょうw
 とはいえ、今年から新しく導入されたハンコックのタイヤとテンペルホーフ空港のコンクリート舗装がどういった摩耗特性になるのか未知数ですので、2日間で3セットしか使えないタイヤをどうやりくりして、どうすれば最大の性能を引き出せるのか、各陣営とも頭を抱えそうです。ミシュランと比べると耐久性重視で固いので、端的に言うと予選ではミシュランは『待ち時間にいかに冷やすか』だったのが、今年のハンコックは『待ち時間にいかに冷やさないか』になったぐらい求められる要素が変わったみたいです。

・レース前の話題

 前戦サンパウロで序盤の混戦からマキシミリアン グンターの車に強烈に追突したセバスチャン ブエミ。前戦の記事では『手首に包帯を巻いて病院に向かい、骨折していないか心配』と書きましたが、やっぱり骨折していました。1か月ほど間が空いたとはいえ、まだ完治していない中での参加となります。
 一方ブエミの古巣・日産はチーム力強化の一環として、スパーク レーシング テクノロジーのテクニカル ディレクターだったテオフィル グージンを招聘しました。スパークは言わずもがなフォーミュラEのシャーシを供給している提供元なので、スーパーフォーミュラで言えばダラーラの要職にあった人がダラーラをやめて特定のチームに加入したようなものです。
 フォーミュラEでは今季の開幕前にも、FIAの次世代モータースポーツ担当でフォーミュラEでも要職にあったフレデリック ベルトランが同職を離脱してマヒンドラの代表に就いており、直前までカテゴリー全体に影響力を持っていた人が特定チームにいきなり加入する人事について公平性への懸念も持たれています。
 余談ですが、マヒンドラの代表をやめたディルバク ギルはインドでACE エレクトリックという電気自動車の入門カテゴリーを立ち上げるつもりで、用済みになったフォーミュラEのGen2車両の車体を流用・改造する考えのようです。グージンはスパークを退職して、この構想の初期の立ち上げにもどうやら少し絡んだ後に日産へ行ったみたいですね。


 そして、開幕前あたりの噂では早ければこのレースからアタック チャージが導入できるのでは?と言われていましたが登場せず。テストしていないので信頼性に懸念があるほか、「シーズンの途中から新しいルールを導入すべきではない』という声もチーム側から上がっているようで、来年に持ち越される雰囲気も出てきました。運営とすれば今年のうちにやっておきたいんでしょうけどねえ。

・使用可能エナジー、38.5kWhに

 今回のレース、決勝で使用可能なエナジーは38.5kWhとなっています。元々技術規則には38.5kWhと記載されており私もそれを引用して開幕前の記事を書きましたし、いくつかのチームの車両紹介にもそう書いてあるんですが、実際は開幕戦でのエナジーは41kWh、第2戦以降は40kWhでした。
 なぜ違うのか謎だったんですが今一つ答えが良く分からず、試しに話題のChatGPTに聞いてみたら『私が学習データを締めきったのは2021年9月なので』とシーズン8以前の旧規則で答えが帰ってきて「なるほど、そうだったのか」と別のことが勉強になりました。使う前に知っておかないといけないんでしょうが、皆さんもご注意下さい。現時点でChatGPTの基礎として入っているのは2021年9月までに放り込まれたデータです。
私とChatGPTさんの会話の様子、
規則書が英語なのでカタコトの英語で聞いた^^;

 ちなみにGoogle Bardで聞いたらアルゴリズムが違うからかちゃんと38.5kWhだという答えが来た一方、フォーミュラEの基礎的知識として『チャンピオンはベンチュリーのエドアルド モルターラ』という謎情報を教えてくれましたw
 仕方ないので自分で頭をひねった結果、エナジーの上限が38.5kWhだという内容を含む文言が書かれた技術規則7.5には All this information will be permanently policed by the FIA という一文が添えられているため、実際にはFIAがその場その場で実際のバッテリー容量の範囲内で設定できるという解釈なんだろうな、と考えてとりあえず納得することにしました、いくらかバッファーはあるわけですが、実際のバッテリーの最大蓄電容量って何kWhなんでしょうね?
 ちなみにこの変更は、より使用量を厳しくしてドライバーとチームをいじめてやろうとしているわけではなく、シーズン後半もバッテリーが性能を落とすことなく最後まで使えるようにするための寿命管理が目的だとジャーナリストさんが伝えています。

・グループ予選

 気温が18℃あたりまで上がって来たグループ予選ですが、2周かけてタイヤに熱を入れないと全然車が曲がらない様子。そして、2セットのタイヤを注ぎ込んでも不思議なことに後半はあまり自己ベストを更新できないのが両組とも共通でした。このあたりはラバーが乗りにくいコンクリート舗装の影響もありそうです。
 グループAからはストフェル バンドーン、ブエミ、ニック キャシディー、セルジオ セッテ カマラの4台がデュエルスに進出。最後の最後にセッテカマラがミッチ エバンスを圏外へ押し出しました。グループBはサム バード、グンター、ダニエル ティクタム、ジェイク デニスの4人がデュエルス進出です。NIOは初の2台デュエルス進出。
天気が良いと金ピカがよく光る!

・デュエルス

 A組の側はバンドーンが順当かと思いきや準決勝で伸びを欠き、勝ち上がったのはブエミ。一方B組はバードが順当に勝ち上がって決勝はブエミ vs バードの対決になりました。ジャガー本家とカスタマーによる対決ですね。
 決勝は両ドライバーとも準決勝より0.2秒ほどタイムを落としてしまいましたが、バードの方がやや横に力が逃げてしまっている感じでブエミが勝利。今季ここまでポール ポジションは全て違うドライバーが獲ってきましたが、ブエミが今季2度目のポールとなりました。スタート順位はブエミ、バード、バンドーン、ティクタム、デニス、キャシディー、セッテカマラ、グンターの順となりました。ちなみに昨年のベルリンと比べると少しだけタイムが向上しており、なんとかGen3の面目を保ちました。


・決勝

 3位のバンドーンが抜群のスタートで一気に2台抜きする、と思ったら「あ、前は出たら不利やわ」というセリフが目に見えるように加速をやめて引いてしまいました。そして内側に3台がかたまったその隙を見て大外からティクタムがなんと3台全部抜いてリーダーへ。ブエミはちょっと想定と違う形で前に風除けができました。
 ここからレースは目まぐるしく動き、3周目にはティクタム、ブエミ、バンドーンの3人が早くもアタックに入って1分を消化すると、バードも翌周にアタックに入ってティクタムに先頭をお返し。すると5周目にティクタムとブエミはもう2回目のアタックへ。そうすると当然バードもすぐに2回目のアタックへ。絶対に前を走りたくないし、アタックを使って抜こうなんてこれっぽっちも思っていないリーダーの押し付け合いですw

 この後も心理戦が続いてバードがまたリーダーとなりますが、10周目にはアタックを使い切っているのにバードがふらーっとアタックを取りに行くような動きをしてラインを外れ、一気に6位まで下がる謎行動。想定外にリーダーがその座を降りたのでなんとなく全体に混乱しています。
 この混乱とは別に、中団ではセッテカマラがターン1で接触してウイングを失い自分の下に引きずる危険な状態。にもかかわらずそのまま走っていたら翌周のターン1でレネ ラストがセッテカマラに接触。破片の散乱でSCとなってしまいました。この時点でアタックを1回残しているデニスがリーダー、同じく1回の残しのモルターラが2位とよくわからないことになります。いや、今日はスタートからずっとよく分からんかw

 15周目にリスタート、残量ではやや優位に立つデニスですがだからといって風除けにはなりたくないので翌周にアタックへ、5位で合流してほどよく追い抜きをし、前の車がアタックに入ったらまた先頭が帰ってきました。これでこの後も押し付け合いが続き、そうやってみんな全力で走らないので普通並ばないコーナーでの並走も頻発。そして混戦の結末は
ぐしゃっ

 20周目、中団まで下がっていたバンドーンとティクタムがターン2で接触。バンドーンは車と壁に挟まれて一瞬で車が大破。ティクタムの車も自走不能で即座にSC導入となり、降りた2人がコース脇で即座に口論を開始しました。バンドーンは外に並んでたんですけど、前に詰まっていたティクタムはちょっと認識が甘かったかもしれませんね。ともあれこれで途中レースをリードした場面もあった(押し付けられた)2台が脱落です。1位は押し付けても良いけど、車は押し付けたらあかんよ、うん、良いこと言った。

 23周目にリスタート、リーダーはアタック1回残りのエバンスだったので早速アタックに入りブエミが前に戻りますが、それでは都合が悪いのでブエミは翌周にグンターにリーダーを押し付けました。ただグンターも軽い接触でウイングの翼端板を壊しており、エナジー残量も少ないので当然全体のペースは落ちます。
 すると動きを見せたのはジャガーで、エバンスとバードが2台セットで前の車を抜いて行き26周目にグンターも抜いてワンツーを形成。こうなるとブエミはグンターの後ろにいたら都合が悪いので急いでグンターを抜いて3位に戻ると、28周目にはジャガーの2台も抜いてしまってリーダーに戻りました。ついさっき不要だと思った1位が今は欲しいというなんとも複雑な人間心理をそのまま形にしたかのようなレースです(謎)

 こうして前が入れ代わり立ち代わりしている間にデニスが残量を最も残して4位に来ましたが、エナジー残量が少ないマセラティ―2台がターン9で2台並んで内側に入って来るという謎の連携攻撃を仕掛けてきて予想外に順位を失います。「マセラティ―のせいでレースを失ってる」とイライラ。
 すると31周目、ターン6でグンターの内側に飛び込んだデニスが減速途中で制御を失って完全にミサイルになってしまい、あろうことか前にいたアントニオ フェリックス ダ コスタに接触。ダコスタはこれでリタイアしピットでブチギレ。グンターは減速しつつラインを変えてかなり危ないブロックをしたので、これでちょっとデニスも行き過ぎたか苛立って無茶したのか、あるいはブレーキの不具合か。詳細は分かりませんがもう少しでまともに側面衝突というけっこう危ない事故でした。
 デニスの車はこの過程でシーズン途中から実装された非常用ブレーキが作動し、作動したブレーキを解除しようとしたけどなぜかできなかったので復帰動作のため一旦ピットへ。このレースは18位で4戦連続の無得点となりました。

 この事故は派手にぶつかったわりにSCには繋がらなかったのでレース継続、相変わらず時々先頭を交替しながら36周目にブエミがリーダーとなり、だんだん終わりが見えて来たのでようやく上位勢がペースを上げ5位以下は付いていけなくなりました。レース序盤は1分10秒台だったのがこのあたりに来ると1分8秒台です。SC導入による追加の周回数は3周で決定。
 そして39周目の後半から上位3台が激しく順位を争い、まずターン9でバードがブエミの内側に入ろうとしてブエミがブロック、した隙を衝いてがら空きの外側にエバンスが動き、まずジャガー同士で順位が入れ替わると、エバンスは翌周のターン1でブエミを抜いてリーダーとなりました。

 ブエミは前に出るのがちょっと早かったか、ここからエナジー残量とタイヤの両面で苦しくなってきたようで前を追えずに防戦一方。そのままエバンスが単独で逃げて最終周となり、その後も2位争いがハゲしかったので落ち着いて最初にチェッカーを受けました。ブエミの方はとうとうターン6でバードに内側に飛び込まれ、これでバードが2位となってジャガーはチーム史上初のワンツー達成。結局2人協力プレイみたいになってブエミを攻略しました。ゲームセンターCXだとADと協力プレイしたらだいたい1人よりも下手になるんですけどね~w

 ブエミはさらに最終コーナー手前でエナジー不足からスロットルを戻してグンターにもかわされ、抜いたグンターがすぐブロックに入ったせいかここにブエミが軽く後ろから接触。これでグンターは姿勢が乱れたものの、ブエミには逆転する力がありませんでした。グンターが今季初入賞となる3位、ブエミはグンターに0.111秒届きませんでした。前戦で手首を骨折する原因を作った相手なのでちょっとムキになったかどうかは分かりませんが、リベンジどころか最後にまた追突した上に負けてしまいました。まあ抜いてたらそれはそれでペナルティーだったかもしれませんけど。

 選手権1位のパスカル ベアラインは15位スタートから荒れたレースをくぐりぬけて6位となり8点を加算。4戦連続無得点のデニスはとうとう選手権2位から陥落し、代わって2位となったのはこのレースで5位だったキャシディー。2連勝したエバンスですがまだ選手権では4位、ベアラインとは30点差です。

・ポルシェvsジャガー?

 一方チーム選手権ではポルシェに対してエンビジョンが24点差まで接近、ジャガーもエンビジョンから2点差の3位とジャガー勢が追い上げています。開幕直後こそデニスの力で頑張っていたアンドレッティーでしたが、アンドレ ロッテラーが今一つGen3車両に馴染めないのとデニスの沈没で完全に停滞し、他のチームもなかなか2名のドライバーが両方とも力を発揮する場面が少ない中でジャガーとエンビジョンは高いレベルでまとまっています。
 ポルシェもここ数戦は貰い事故があったりするので実力が全部出ているとは言い難い一方で、グループ予選で中団に沈んでスタート位置が悪い、という課題を抱えています。元々予選で速さが出せないことはチーム側も最初から言及してはいましたが、相手も段々マネージメントを学んでくると開幕の頃にように簡単には抜けなくなってくるので『どうせ決勝になったら15位とかでスタートしても勝つんでしょ』という感じではなくなってきました。
 昨年までのレースと比べても先頭の押し付け合いがかなり強烈になってはきましたが、選手権として見るとこれでようやく少し面白い展開になってきた感じです。次戦も連戦のベルリンですが、今年は逆走レイアウトは使わずに同じコースでの連戦です。なーんだ同じなのかw

コメント

まっさ さんのコメント…
10周のスプリントレース4回やろ。
以上w