フォーミュラE 第6戦 サンパウロ

ABB FIAFormula E World Championship
2023 Julius Baer São Paulo E-Prix
São Paulo Street Circuit 2.933km×31Laps=90.923km(規定により35周に延長)
winner:Mitch Evans(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6)

 ABB フォーミュラE、初開催3連戦の最後はブラジルのサンパウロ。ここは2010年から2013年までNTTインディーカー シリーズで市街地レースを開催した実績があり、この時使用した場所を中心に多少変更を加えたものになっています。細長い形状のコースで、全開加速→低速コーナー、というザ・市街地レイアウトなので決勝でのエナジー管理がかなり大変ではないか、という事前の予想でした。
 ちなみに空撮映像で野球場が映っていたのがJ SPORTS放送席で少し話題になりましたが、この球場はおそらく Estádio Municipal de Beisebol Mie Nishi という古い歴史を持つ球場です。訳すとミエ ニシ市民球場となります。ミエニシはおそらく三重西という意味ではないかと思いますが由来は不明。
 ブラジルはサッカー大国のイメージですが日本からの移民が多かったために戦後にはこうした日系人コミュニティーで野球の文化もあり、2013年に開催された第3回ワールド ベースボール クラシックでは予選を通過して本大会に出場し初戦で日本と対戦、日本が 5-3 で辛くも勝利しました。第4回、第5回大会は残念ながら予選落ちしています。日本のプロ野球でも玉木 重雄、松元 雄一、仲尾次 オスカルといった日系ブラジル人選手が知られています。

・レース前の話題

 前戦でサスペンションが走行中に曲がってしまう不具合が発生し、予選以降に出場せず撤退してしまったマヒンドラ。原因はアームの配置や、素材として一般的な鉄の合金ではなくチタンを採用したこと、そこに製造品質やケープタウン特有の強烈な衝撃が重なったためではないか、とされており、このレースまでの1か月で改良版を投入しました。
 本来この車両のハード面はホモロゲートされていて来季終了まで変更ができないため、手を加えるとペナルティーを受ける可能性がありましたが、今回の変更は安全性に関わる問題であることからペナルティーの適用は免れました。
 一方、全車で変更となったのがミラーで、Gen3車両のミラーは後ろが見にくいと開幕から不満が聞こえていたため、このレースから改良型ミラーに変更されています。ステー部分が従来より伸びて、やや高く遠い位置になりましたね。

 そしてドライバーに関して、開幕戦で骨折して以後のレースを欠場していたロビン フラインスがこのレースで復帰。一方、アンドレッティーのアンドレ ロッテラーはル マン24時間レースのテストに参加するため第10戦・11戦のジャカルタ2連戦を欠場し、代役としてデイビッド ベックマンがデビューすることになるようです。


・グループ予選

 開始の段階で気温28℃、路面温度42℃。グループAはセルジオ セッテ カマラがコース上に止まってしまったので赤旗が一度発生。最後は次々とタイムが塗り替えられる争いで、昨年のチャンピオン・ストフェル バンドーンが最速。ニック キャシディー、エドアルド モルターラ、ジェイク ヒューズの4台がデュエルスへ進出しました。選手権リーダー・パスカル ベアラインは壁に左後部を軽くぶつけてしまい、影響もあったのか8位にとどまりました。
 グループBは開始早々にフラインスの車が止まってしまいましたが、再起動に成功して赤旗も出ることなく進行。前戦では予選で完全に貰い事故でクラッシュし決勝に出ることすらできなかったサム バードが最速、最後に滑り込んだマキシミリアン グンターが2位。アントニオ フェリックス ダ コスタ、ミッチ エバンスと続きました。ジャガーは2台ともデュエルス進出で好調ですが、1位と4位なのでいきなり身内争いになってしまいます。

・デュエルス

 グループA側はバンドーンがグループ予選の流れを保って決勝へ、一方グループB側はジャガー対決でエバンスがバードを破って準決勝に進んだものの、そのエバンスもダコスタに0.04秒及ばず準決勝で敗退。決勝はバンドーン vs ダコスタとなりました。
 路面温度が50℃の大台に到達したデュエルス決勝、ダコスタとバンドーンはお互いにミスの無い争いでどのミニ セクターを通過してもその差が0.1秒に届かない接戦となりましたが、バンドーンがダコスタを0.063秒差で下して今季初・DS移籍後初のポール ポジションを獲得しました。ペンスキーとしてはシーズン2でジェローム ダンブロジオが2回ポールを獲って以来という超久しぶりの出来事でした。
 スタート順位はバンドーン、ダコスタ、エバンス、モルターラ、キャシディー、ヒューズ。バードは予選5位ですが2戦前にエバンスを撃墜して食らった5グリッド降格を前戦でも消化できず持ち越していたので10位から、ベアラインもグリッド降格があって18位、せっかくの母国開催なのにルーカス ディ グラッシはグループ予選最初のアタックでターン8内側の壁にぶつける珍しいミスをしてしまい、なんと最後尾スタートです。

・決勝

 今回は直線が長くて前の車に風除けをやってもらうことが非常に効果的なので、ひょっとしたら優勝する人は最終周に入るまで一度も先頭を走らないのでは?とすら予想されている決勝。31周の設定ですが、スタート位置が計測ラインよりも少しだけ前方にあるので、1周目に見えている最初の周はほぼ1周しているのに『0周目』、実質的には32周するレースです。
 スタートでは偶数列の蹴り出しが全体に最悪。ダコスタはスタートでエバンスに抜かれかけましたがギリギリで耐えました。ただこれで最前列の通過速度が落ちたせいか全体にごちゃつき、モルターラはターン2で不用意にエバンスに近寄りすぎて接触しウイングを破損、中団でもノーマン ナトーがターン3でヒューズに追突。乗り上げて思いっきり車が飛び上がったナトーはこれでリタイア。

 その後も何度か追突事故が起きつつ5周目、リーダーのバンドーンが最初にアタック1分を使用。前を走るのは得策ではないので義務を消化しつつダコスタに前に出てもらいたい意図があると思われますが、ダコスタもそれは同じなので7周目のターン1であからさまに早く減速。バンドーンもできれば2位でいたいのでお互いに少し譲り合いみたいになりましたが、結局バンドーンが前に出ました。
 この後ダコスタは、狙ったのかちょっと想定外なのか謎ですがエバンス、キャシディーにも抜かれて4位へ。9周目にサッシャ フェネストラズの車が止まってしまって動かなくなったのでSCとなりました。日産はこれで早々に2台ともリタイアです。

 12周目にリスタート、既にバンドーンは周囲のドライバーより2%程度エナジー残量で負けているので帳尻を合わせないといけません。ここから残量を巡る駆け引きが始まります。
 ダコスタはやっぱり抜かれすぎたのかすぐにキャシディー、エバンスを立て続けにかわして元居た2位に戻りますが、2周後に今度はキャシディーがいきなりターン1で3位から2台抜きして先頭に出ると、そのままアタックへ。アタックに入ったので一旦4位に落ちながら、翌周には全部抜いて再び先頭に立ちました。
 ターン1では、できれば抜いてほしいバンドーンが早めに減速し、でも残る3人も前には出たくないので全員で譲り合いした様子も見られ、エバンス的にも「2位にはいたいんだけど1位にはなりたく無いんです、、、けどさすがにもうしゃあない!」みたいな動きに見えましたw

 同じころ、後方でジェイク デニスがターン1でダニエル ティクタムから完全にミサイル攻撃を食らい、コース脇に車を止めたのでこれで16周目から本日2度目のSCです。流れでデニスもベアラインに接触しましたが、こちらは低速で側面に当たったのでベアラインは無事でした。デニス、開幕からの2戦でポイントを荒稼ぎした後はなかなかうまく行かないレースが続きます。

 破片を回収して19周目にリスタート、キャシディーがすぐに2回目のアタックに向かい一旦1位をお譲りするも、これで前に出たダコスタも翌周に1回目のアタック、すぐに風除けの座をお返しします。上位勢はこのタイミングでみんなアタックに入りますが、今度はリスタート時に4位だったエバンスが急に前に出ることにしたらしく20周目には先頭へ。誰が主導権を握っているのか全く読めません。

 24周目、エバンスが2回目のアタックに入り再度キャシディーがリーダーに。残量はキャシディー、エバンス、ダコスタがほぼ同条件でしたが、我慢比べから最初に脱落したのはダコスタでした。25周目のターン1でシケインを止まり切れず直進してしまい、規則に従って一旦停止したので7位へ後退。これは上位2台には有難く、3位の車が抜けて少し車間距離が空いた上に、代わって3位となったバンドーンはやや残量に課題があるので追い上げられる心配なし。当面は後ろを気にする必要がなくなり、このままキャシディーとエバンスの優勝争いとなります。

 2度の長いSC導入によりレースは4周の追加、後ろを気にする必要性がないエバンスはキャシディーの背後で残量に差を作ろうとコツコツ貯めています。しかし、貯めている間にバードがバンドーンを抜いて3位となり、まだ残量に余裕があるので一気に追いついてきました。こうなるといつまでも貯金生活しているわけにはいかないエバンス、32周目にキャシディーをかわします。

 3周を残して仕掛けたのでエバンスはキャシディーにやり返されるリスクがある状況、一方バードは2%ほど残量を多く残して逆転を狙っていますが、こっちは攻めたことでタイヤの性能が落ちてしまったのか最終コーナーの立ち上がりで前から少し離されてしまいます。気温は35℃、路面温度は55℃を超えているので当然タイヤも楽なはずありません。
 そんな中でレース序盤は1分17~18秒台だったペースがリスタート以降は徐々に切り上げて14秒台中盤にまで上がっており、数字からはリフト&コーストの量が減っていて抜きにくくなっていることも伺えます。グループ予選でのタイムが13秒0前後でしたから、けっこういっぱいいっぱいのペースまで上げているかもしれません。
 バードとすると、変に仕掛けてまたエバンスをうっかり撃墜すると怖いので攻めにくいという心理的事情もあり、そのまま最終周へ。エバンスはいちばん残量が厳しくて最後はブロックの鬼となりましたが、なんとかキャシディーの攻撃を抑えきってトップでチェッカー、今季初、通算7勝目を挙げました。ただここまでほとんど点数を獲れていなかったのでドライバー選手権ではまだ9位です。

 2位はキャシディーでニュージーランド人ドライバーがワンツー。3位にバードが入ったのでこれでジャガーのパワートレインは表彰台を独占し、怖い顔ばっかりしていたジャガーの代表・ジェイムス バークレイも会心の表情。でもちょっとお疲れにも見えるかも。ミスってなければ最後に前に出ていたかもしれないダコスタはそれでも順位を取り返して4位。7位スタートのジャン エリック ベルニュが5位で、ポールスタートのバンドーンはチームメイトにも抜かれて6位でした。


 ジャガー搭載車は回生を最後に酷使して温度が上がり過ぎたのか、フィニッシュ後すぐにエバンス、キャシディー、そしてセバスチャン ブエミの3台にいずれも車が動かない問題が発生、帰ってくるのに時間がかかりました。また、ブエミに関してはレース序盤にグンターに追突してかなり強い力が手に加わっており、包帯を巻いて病院へ向かったとのこと。開幕戦のフラインスと状況が似ており、骨折している可能性もある心配な事態です。
 グンターはその前の周にターン1のシケインを通過し、一旦停止すべきところを止まれずにそのまま元いた順位で隊列に合流していました。そのため、ブエミからすると「本来なら一旦停止ペナルティーを受けて自分の前にいないはずのやつにぶつかった」ことになるため、かなり怒っているようです。

 ドライバー選手権ではベアラインはなんとか7位に入って6点獲りもちろん1位を堅持。デニスは3戦連続無得点でも未だに2位ですがベアラインと24点差。3戦連続表彰台のキャシディーがレース前の5位から3位に順位を上げて、ベアラインと25点差です。

 今回は今季で最もエナジー管理がキツイレースでしたが、最初は譲ってでも消費量を抑え、終わりが見えてきたらペースを上げて最後は気合いでどうにかする配分が見事でした。バンドーンは単に風除けにされたから6位に落ちたのか、そもそもDSのパワートレインや彼の運転自体がやや効率で劣っていたのか分かりにくいところがあります。それでも復調の兆しが見られたのは良い点でした。
 とはいえ、ポールからスタートすると優勝はおろか表彰台にすらなかなか立てない、というレースが続くのを見ると、ポールに与えるポイントを3点よりもっと増やすべきかどうかというのが来年以降の規則で議論になっても不思議ではないな、と思いました。

 そんな中、途中積極的に前を取りに行く動きを見せるタイミングがあったエバンスとキャシディーが1位、2位だったわけですから、ただ単に「譲っておいて最後に抜いたら良い」という単純な話でもなく、一方で10位からの節約作戦でバードが3位ですから、限られたエナジいーをどう配分するのが良いのか、答えは1つではないし、1つではない答えを瞬時に探すエンジニア側もまたものすごい戦いをしているなと改めて感じます。これがフォーミュラEの面白くてとてつもなく変なところですねw

 次戦はまた約1か月後、お馴染みテンペルホーフ空港跡地でのベルリン2連戦。その後にはモナコが控えています。ベルリンは開催実績が豊富なので去年までの車とのラップタイムの違いが如実に表れてしまいますから、運営的にはあんまり遅いタイムにはならないでほしいでしょうねw

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