ABB FIA Formula E World Championship
2023 Cape Town E-Prix
Cape Town Street Cuircuit 2.921km×30Laps=87.63km(規定により32周に延長)
winner:António Félix da Costa(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3)
ABBフォーミュラE第5戦、初開催の南アフリカ共和国・ケープタウンにやってきました。南アフリカ南西部にある大都市のケープタウン、開催場所はウォーターフロントと呼ばれている港湾地区で、ケープタウン スタジアムという競技場の周辺道路を使用します。山頂部分が平らになった景勝地・テーブル マウンテン国立公園まで10kmぐらいの距離ですね。
今回のコースはかなり高速、前戦のハイデラバードは最高速こそ速かったものの予選での平均速度は105km/h未満でしたが、こちらは全開区間が多くて150km/hを超えています。加速時間が長くて回生場所が少ないのでレース距離も90km未満とやや短め。速いだけでなく、高速で旋回しながらブレーキを踏む必要がある複合のコーナーがあり、かなりリスクも高そうな印象です。
・マヒンドラ、戦わずして撤退
予選開始前に思わぬ事態が発生しました。マヒンドラと、そのカスタマーであるアプトの全4台についてリアのサスペンションに安全上の懸念があることから、なんと予選にも決勝にも参加しないことが明らかになります。練習走行でニコ ミュラーの車にサスペンションが曲がる不具合が見つかり、当初は壁にぶつけたせいだと思われていましたが、詳しく調べると高速で路面の凹凸に乗ったことが原因で壊れたことが明らかになりました。
リアのサスペンションはパワートレインと一体なので、フォーミュラEでは数少ない独自開発が可能な部位です。当然ながらサスペンションが曲がる、なんていうのは本来は起きてはいけない、起こらないようにしているはずなので、それが起きてしまいすぐさま解決する方法が無い以上、メーカーとしては出走させるわけにはいきませんでした。これにより、ケルビン ファン デル リンデは待望の母国レースに出場できず、フォーミュラE全戦出場を続けていたルーカス ディ グラッシも記録が104で止まってしまいました。
・グループ予選
グループAはジェイク ヒューズが1回目のアタックに入る際にいきなりターン2の壁に当ててしまい失敗。2回目もまとまらずにデュエルス進出を逃しました。前戦はチーム側のミスでペナルティーを食らっての敗退だったので、実力でグループ予選4位以内に入れなかったのはデビュー5戦目にして初めてです。
圧倒的な速さを見せたのは日産のサッシャ フェネストラズで、ニック キャシディー、パスカル ベアライン、前戦優勝のジャン-エリック ベルニュの4人がデュエルスに進出します。
グループBは2回目のアタックでエドアルド モルターラが高速のターン8~9でクラッシュ。高速コーナーの外側という危ない場所で車が止まり、後続の2台は辛うじて避けたものの、3台後方にいたサム バードもまた同じ場所でミス。スピン状態でモルターラの車に直撃しました。
フォーミュラEの予選では黄旗は扱いが中途半端なので赤旗のみの運用としているようですが、モルターラの事故後にピット側のモニターでは既に赤旗の表示が出ていたものの、ドライバーやトラック上へ反映するまでに少し時間差があったとのこと。ピットからの指示も間に合わず、バードは危ない区間で気にせず攻めてしまって失敗し二次災害に繋がりました。バードは1回目のアタックも速かったのに、思わぬ事故で前戦の悪い流れを受け継ぐような敗退です。
やや消化不良という感じの終わり方だったこの組はレネ ラスト、ミッチ エバンス、セバスチャン ブエミ、マキシミリアン グンターの4人がデュエルス進出。日産のパワートレインという点では両組とも最速だったことになります。
・デュエルス
グループA側は準決勝でキャシディーとのトムス対決を制したフェネストラズが決勝へ。一方のグループB側はグンターが予想外の躍進。準決勝でここまでのデュエルス最速タイムを記録してエバンスを破るちょっとした番狂わせを起こして決勝へ進みました。
A組1位のフェネストラズ vs B組4位のグンター、ある意味儲けもので失うものが無いグンターはここでも準決勝とほぼ同じタイムを記録し、自身としては会心の走りをしたと思いますが、なんとフェネストラズはこれを0.4秒も上回る脅威のタイムを記録。途中ターン7の出口ではすぐ脇にカモメが立ち止まっていましたが、正確なライン取りでカモメさんは微動だにせずに助かりました。
決勝のスタート順位はフェネストラズ、グンター、キャシディー、エバンス、ベルニュ、ベアライン、ブエミのトップ7。ラストは予選結果は7位でしたが前戦での接触行為により3グリッド降格のペナルティーがあったので、8位はダン ティクタムとなります。
・決勝
マヒンドラの4台に加えて、予選でクラッシュしたバードも車を修復できずに不出場となってしまい、17台とちょっと寂しくなった決勝レース。今回は計測地点とスタート地点が同一なので、スタート前は前にグリッド2個分だけ進むフォーメーション ムーブです。
スタートでは3位のキャシディーが好発進でグンターの前に一瞬出ましたが、キャシディーは慎重に接触を避けた走りの様子で、結局グンターが抜き返して順位はそのまま。その後は全体に落ち着いた綺麗な1周目でしたが、ターン10でベアラインが全然止まらずブエミに追突。ベアライン自らサスペンションを壊してそのままコース外で停止、選手権リーダーが0周リタイアで、なおかつ次戦で3グリッド降格です。
これで翌周にFCYが宣言されますが、速度制限に向けたブレーキ競争でグンターがフェネストラズを抜いてリーダーへ。この後ベアラインの車両回収と、別件でモルターラもターン4の外側に車を止めていたのでSC導入となりました。
6周目にリスタート、グンター、フェネストラズ、キャシディー、エバンス、ベルニュ、ラストのトップ6でリスタートしますが、4位のエバンスにオーバーパワーの審議がかかり、ほどなく違反の裁定でドライブスルーのペナルティー。1周目に300kWを超過した、と記されています。
この後、8周目にベルニュがアタックに入ったことから上位勢はアタックのサイクルとなり、翌周にフェネストラズ、10周目にグンターもアタックへ。グンターはギリギリでフェネストラズの前に合流しアンダーカットを阻止します。これでまだアタックを使っていないキャシディーがリーダーに。
グンターはややエナジー消費量が多くてペースが上がらず、前が開けたキャシディーはこの間にペースを上げて13周目に2秒以上の差を付けてアタックに入り順位を下げずに合流。1回目のサイクルで2台をオーバーカットしリードを奪いました。グンターは前よりも後ろを見ている様子で、キャシディーと同時にもう2回目のアタックを使い3位で合流して義務を終了させます。
レースはキャシディーとフェネストラズの2台が接近したまましばし膠着、3位のグンターはやや置いて行かれ、気づけば4位にはポルシェのアントニオ フェリックス ダ コスタ。11位スタートから節約しながら追い上げて来る、もはや今年のフォーミュラEお馴染みの光景です。すると21周目。3位のグンターがターン2で壁にぶつけて自滅しました。これでダコスタは3位、前の2台とするとグンターの壁が消えたのは痛い展開です。
これでこの周の終わりごろにFCYが宣告されましたが、その直前にキャシディーとフェネストラズはアタックに入っていました。最悪だったのはフェネストラズで、アタックに入って少し速度が落ちたところでFCYのカウントが始まり、そこからのブレーキでなんとダコスタとベルニュに同時に抜かれてしまいました。フェネストラズ、それぞれ状況は異なりますがこれでFCYが原因で合計3つも順位を下げたことになります。
突然トップ4が横並び^^; |
FCYが解除されるとダコスタがキャシディーを仕留めにかかります。24周目、ターン7と8の間にある名も無き短いキンクでダコスタがキャシディーをかわしました。残量が1%少ないキャシディーは早めにスロットルを戻すしかなく、ダコスタは完全にここを狙っていた動きです。"普通の"レースならこんな場所では並べないのでフォーミュラEならではの追い抜きと言えます。翌周には同じく残量の多いベルニュもキャシディーをかわしました。
25周目、ダコスタは2位との差を広げて余裕で2回目のアタックを使って義務も終了、と思ったら、なんと3つ目の検知点を通過できておらずアタック不成立。
画面上の青い表示が3つとも点かないといけない |
27周目にダコスタは泣く泣くもう一度アタックに向かい、ベルニュは相手のミスであっさりとリードを奪いました。もう3位のキャシディー以下は離れてしまっており、この2台の優勝争いです。
そのままレースは30周を終えてSC/FCYによって追加された延長戦の2周へ突入、ベルニュが前戦に続いての鬼ブロックを見せてダコスタを抑え込みます。しかしダコスタはまたしても名も無きコーナーで、それも鬼ブロックを巧みにかいくぐってかわしました。最終周は逆にベルニュの攻勢にさらされましたが、鬼ブロックをお返しして差し上げ、耐えきって今季初勝利・通算8勝目、ポルシェとしては今季3勝目を挙げました。
この後方での3位争いも激しく、フェネストラズが一旦は3位に浮上して最終周に入っていましたが、ターン7でまさかのクラッシュ。どうやらキャシディーと接触があったようで、フェネストラズはせっかくのポールから完走することができませんでした。これで3位はキャシディー、レース後にペナルティーは無かったので明確に過失がある接触ではなかったようですが、映像が無いので状況が良く分かりませんでした。
4位にラスト、そして5位にはスタート直後にぶつけられて一旦は最下位になっていたブエミ。エンビジョンはキャシディーとブエミで25点稼ぎました。一方、アンドレッティーはジェイク デニスがタイヤの内圧規定違反でドライブスルーのペナルティーを受け13位となり、せっかくベアラインがリタイアしてドライバー選手権で追い上げるチャンスだったのに全く追い上げられず。アンドレ ロッテラーもSC中に前の車から10車身以上離れた違反で5秒加算のペナルティーを受けて9位と効率の良さを荒れたレースで活かせず、チーム選手権でエンビジョンがアンドレッティーを抜いて2位となりました。
相変わらず予選順位を無視して上がって来るポルシェにレースをさらわれましたが、今回はFCYがレースに影響した気がします。結果的にグンターは自滅しましたが、ちょうどその頃にFCYでの追い越しの件は審議対象となり、結局レース後にドライブスルーのペナルティー、リタイアしたのでこれが次戦で3グリッド降格に置き換えられました。
グンターによると、彼のステアリング上のシステムでは追い抜いた段階でまだカウントは0になっておらず、どうやら周囲のドライバーとの話を総合すると無線による音声のカウントダウンと画面のカウントで情報が一致していなかった様子。SUPER GTでよく問題になっているやつですね。チーム側も順位を返すべきかどうか運営側に問い合わせたものの、明確な返答がないままレースが進んだようです。
加えて問題だったのは、エバンスのオーバーパワー、デニスの内圧といった先に起きた技術的問題の審議にも時間がかかったため、この件に関する審議がレース残り10周までかかってしまったことだと思います。フェネストラズからすると1位で走ると風除けに使われるので2位も悪くはなかったようですが、だからといって抜かれて良かったとはならないと思うので、FCYの運用や、順位変動が起きてしまった際の解決手順など、もう少し煮詰めないと世界選手権としてはマズい気がしました。
一方で2回目のFCYでフェネストラズが抜かれたのは、チームとするとSCが出てしまうことへの警戒だったと思いますが判断を慌てたようにも見えました。ダコスタは本来なら1位まで届いたかどうか微妙なレースでしたが、グンターが自滅、フェネストラズはFCYで何もしなくても抜けてしまって、本来するはずの追い抜きが2つ不要になったのは大きかったです。
ケープタウンは見た目にも海沿いの綺麗なところですし、お客さんが予選の段階から既にたくさん入っていてみなさん盛り上がっているように見え、映像的にもなかなか面白いイベントでした。次戦もまた初開催のサンパウロです。
コメント
名も無きコーナーでもし見事に鬼ブロック成功してたら何か起きたでしょうね、というか5戦目から取っ組み合いを期待しないでください 笑