フォーミュラE 第4戦 ハイデラバード

ABB FIA Formula E World Championship
2023 greenko Hyderabad E-Prix
Hyderabad Street Circuit 2.835km×32Laps=91.296km(※規定により1周追加)
winner:Jean-Éric Vergne(DS Penske/DS E-Tense FE23)

 ABB フォーミュラE、ここから初開催の都市が3つ続きます。第4戦の舞台はインドのハイデラバード。マヒンドラ レーシングにとっては母国イベント、あとはジャガーもスポンサーのTCSがインドの企業、解説陣の1人であるカルン チャンドックも母国ですね。
 ハイデラバードはインド中部の都市で、開催地はフセイン サーガル湖というハートっぽい形状をした人口湖の南側。公道と公園を利用した市街地コースで、1周2.8kmと比較的長く、比較的長い直線があってスピード感があるのが特徴です。
 調べたらフセインサーガル湖はなんと1563年に建設されたそうです、ビックリ。大会スポンサーのgreenkoは太陽光発電、風力発電などの再生可能電力を運営・供給する非公開企業で、現在インド国内の15周で合計7.5ギガワットの電力を供給していると書いてあります。

・開始前から前途多難

 予選・決勝の前日に行われたFP1、運用上の不手際があったのか本来排除されているべき一般車がコース内かどこかに残ってしまっていたらしく、セッション開始が50分ほど遅れてしまいました。現地の人と協力して運営しているでしょうから、不慣れな面が出た可能性は高そうです。
ハプニングハイデラバード・・・w

 さらにそのFP1では選手権リーダーのパスカル ベアラインが派手にクラッシュ。原因の調査をするため、ポルシェは残る3台のパワートレイン使用車両を全てこのセッションで走らせませんでした。その後の情報では、可能性としてLEDライトの点灯システムがパワートレインのシステムと競合して不具合を起こした可能性が指摘されています。
 Gem3車両に複数備えられたLEDライトは本来なら出力モードによって色が切り替わるようにできており、どのモードなのか把握するためにレース コントロール側と通信する機能が設けられています。ところが、この部品供給が間に合わなかったので12月のテストには装備されず、開幕以降も未使用や常時点灯など暫定的運用が続いてきました。今回FP1でようやく色替え機能を本格的に試そうとしましたが、システム干渉の影響などが確認できておらず問題に繋がった可能性があるようです。

・トラック リミット問題発生

 厄介なのがトラックリミットで、特にターン1~2が危険地帯でした。それなりに高速のターン1を右に抜けるとS字状に左のターン2が連続で配置されており、壁で囲うとドラゴントレイルの殺人シケインみたいな形状をしています。安全上こんな場所に縁石は置けないので、ターン2は白線と路面の塗装だけがコース幅を規定していますが、ターン1の通過速度を上げていくと2の内側をカットして簡単にはみ出してしまいます。
 ターン1のエイペックスを奥に取ろうにも一発でステアリングを切るタイプのコーナーなので限度があり、右はすぐ壁なのでこれ以上内側にも行けず、そもそもちょっとブレーキング時にも操舵が伴うので下手すると進入段階でリアが流れているというなかなか嫌がらせみたいなコーナーです。
♪デデーン「バード、アウト~」

・グループ予選

 A組は今日も速いぞジェイク ヒューズ。セッションの最後に最速タイムを記録してデュエルス進出!と思ったら、なんとピットでの最低滞在時間違反というチーム側の管理ミスが原因で記録抹消。フォーミュラEの謎の洗礼を受けました。これで2位以下の人が繰り上がり、ミッチ エバンス、サッシャ フェネストラズ、セバスチャン ブエミ、マキシミリアン グンターの4人が勝ち上がります。
 ベアラインはアタックに行こうとしたタイミングで大量の車がピットから出てきて詰まってしまい、5位で脱落。まあ彼もセルジオ セッテ カマラの邪魔になってたんですけどね^^;ポルシェ勢は前日のテスト不足も響いたか総じて不調でした。
 B組はセッションの真ん中でケルビン ファン デル リンデの車に不具合が発生したようでターン16を止まれず直進、赤旗が発生しましたが、ちょうどみんな1回目のアタックを終えた頃なので影響は軽微。こちらもマクラーレンが速くてレネ ラストが最速、ジャン-エリック ベルニュ、サム バード、エドアルド モルターラがデュエルスに進みました。

・デュエルス

 デュエルスは予想外の展開になりました。準々決勝で勝った4人のうち、バードとモルターラがトラックリミット違反でセッション後にタイム抹消。ジャガーのマネージング ディレクター・ジェイムス バークレイは思わず机に力いっぱい拳を叩きつけ、ようとしてこらえました。
 さらに、モルターラの対戦相手だったラストも同じく違反で抹消されたので、この対戦は『勝者無し』になってしまいます。結果、準決勝でベルニュは相手がいないので1台だけ走る珍事が起きました。ただ走るだけでよかったベルニュですが、そのわりに準々決勝よりタイムを上げて攻めており、最終決戦に備えます。この審議と、2台揃ってタイムが無いというなかなか起きない出来事をどう処理するのかという確認でやたらと手間取ってしまい、随分と時間がかかってしまったのは反省点だったと思います。
♪デデーン「バード、モルタラ、ラスト、田中、アウト~」

 決勝はエバンス対ベルニュ。そもそもバードがタイム抹消になっていなければ初戦敗退だったかもしれないベルニュですが、1分13秒249と準決勝のエバンスとほぼ同タイムを叩き出しました。しかしエバンスはこれを0.021秒上回りポール ポジションを獲得しました。トラックリミットが怪しかったのでピットもすぐには喜ばず、むしろ「これアウトだな・・・」という雰囲気だったのが笑えました、私も正直はみ出たと思ってました。2位からベルニュ、ブエミ、フェネストラズ、グンター、バード、というスタート順位です。

・決勝

 スタート位置はターン3の先なので、ダミー グリッドからちょびっと隊列走行して各車スタート用のグリッドへ。気温37℃、路温38℃、かなり暑いです。埃だらけのトラックを上位6台は順位変動なく切り抜けました。この最初の周は表現としては『0周目』となります。

 9位スタートのニック キャシディーががら空きになった大外ラインをうまく使って6位に浮上。7位スタートのモルターラはこれで1つ順位を下げた上に、2周目のターン4でミスってそのキャシディーに追突。前の車に近寄りすぎたので内側に避けつつ進入したら、2台前方の車に突っ込むヘアピンあるあるでウイングを落っことしました。ただその他はあまり動きなく序盤戦が進みます。
 ようやく動きが出たのは7周目で、前戦に続いて今日もまたエバンスが自分から先にアタックに入り2分を使用します。ちょうどその後ろではブエミがベルニュを抜いており、リーダーはブエミ、2位にベルニュ、エバンスはフェネストラズにも抜かれて一旦4位に落ちた後、すぐ戻して3位となります。でも結構大きな損失です。
追い抜きとアタックが重なって見た目3ワイド


 9周目に今度はブエミがアタック、こちらはベルニュに抜かれただけで済んでエバンスに対してオーバーカットに成功すると、翌周にベルニュもアタックに入りこれまたブエミに抜かれただけの2位で合流。エバンスは最初のサイクルで2つ順位を失ったことになります。アタックに入るために大外を走ると路面が汚れているので、先手を打つのはその点でもあまり良い考えではないように見えたんですが・・・

 画面表示によるとターン4の手前で240km/h近く出ているのでなかなかえげつないなと思いますが、13周目にそのターン4でえげつないことが起きました。
バードミサイル!

 バードが目の前のフェネストラズを抜こうとしましたが、無理に突っ込みすぎて2台前方にいたチームメイトのエバンスにミサイル直撃。フェネストラズは直撃を避けたものの、スピンしたエバンスが目の前に来たので行き場を失い停止を余儀なくされました。ジャガー、最悪の展開。予選では怒りを堪えたバークレイさん、この表情
・・・怒る気にもならん


 衝撃的事件が起きる中、14周目にブエミとベルニュが同時にアタックに入りましたが、ブエミは検知点をきちんと通過できなかったか起動に失敗する痛恨のミス。これで15周目にベルニュがブエミをかわしリーダーとなります。ブエミは抜かれる流れで今度こそアタックに入りましたが、2連続の遠回りはやはり損で後続車に続けて抜かれてしまい4位に後退。逆にこの混乱の間に差を詰めて来たキャシディーがベルニュの真後ろに張り付いて2位となり、この後2回目のアタックを終えても2位を維持しました。

 レースは半分を過ぎて20周目、ベルニュ、キャシディー、ブエミのトップ3に、気づけば11位スタートのジェイク デニスが4位まで浮上、今日も振り返ればポルシェパワートレインです。2位のキャシディーは上位で最も多くエナジーを残しており、3位のブエミはデニスとの争いで時間を使わされてやや後方。キャシディーは自分のペースでベルニュを追い詰められる大チャンス到来です。
 ところが残り10周、ヒューズがターン4の先でクラッシュしており、即座にSC導入となりました。信じられないことに、ヒューズの車はレース序盤にモルターラが落っことした部品の破片でミラーを損傷し、壊れたミラー部品がこのタイミングでコックピット内に落っこちて、ステアリングに引っかかってしまって真っすぐに戻らなくなりイン巻きしていました。

 できればSC中に大きな破片も片付けていただきたいんですが、不慣れな現地マーシャルさんではそこまで難しいのか、いくらかそのまま残った状態で26周目にリスタート。キャシディーはベルニュより3%近く残量で上回っています。どこで抜くのか、1位争いに興味を持っていたら、またターン4で追突案件。
 5位のラストと6位のオリバー ローランドが2台ともやや行き過ぎで、結果4位のデニスに対してまずラストが後ろに乗り上げる形で追突、さらにローランドもデニスの右後方にウイングを当てました。ラストはウイング脱落、デニスはパンク。せっかく追い上げたのにデニスは台無しになりました。

 キャシディーは27周目からベルニュを抜きにかかりますが、SC導入で多少余裕が出たと思われて、ベルニュのリフト位置がなかなか手前にならずブロックされたら抜けません。その後ろではローランドがブエミを外から狙いに行きましたが、ブエミが力業でこれを抑え込んで前に出さず、キャシディーの露払いをしています。エンビジョン、そんなつもりは無いでしょうが団結しています。

 残量で4%近く下回っている上に、トラックリミット違反回数がかさんで次に違反するとペナルティーというところまで来ているベルニュですが、それでもキャシディーに隙を与えません。段々とターン4以外の場所でも飛び込みを警戒して内側を閉め始めて絶対前に出さんという意思が見え、苛立って来たかキャシディーも本来必要のない場所で内側に入るようなしぐさを見せて威嚇します。ちょっとベルニュのペースにはめられてますね。
 レースはSCによって追加された1周を加えて最終周へ。ベルニュは残量が既に2%を切り始めていましたが、それでも一切ひるまず、リフトせず回生で応戦している模様。ターン4をブロックするとこの先は抜く場所が無いので、あとは経験値で最後までもたせました。
 ジャン-エリック ベルニュ、DSペンスキー移籍後4戦目でチームに優勝をもたらしました。ペンスキーとしてはシーズン2の第5戦・メキシコシティーでジェローム ダンブロジオが勝って以来約7年ぶりの優勝です。自身もシーズン7のローマ以来約2年ぶりの通算11勝目でした。キャシディーはエナジーを3%以上余らせて使い切れないまま2位でした。

 3位でチェッカーを受けたのはブエミで、本来ならエンビジョン レーシングが2位・3位だったはずですが、レース後ブエミに対してオーバーパワーのペナルティーが課されて正式結果は15位。これで繰り上がってアントニオ フェリックス ダ コスタが3位、ベアラインが4位でした。この週末は不具合で練習時間を削られたせいもあって不調だったポルシェですが、後方スタートから事故を避けて結局上位に来ました。ベアラインは4戦で早くも80点を稼ぎ、デニスは無得点だったので2位との差が18点になりました。
 5位に15位スタートのセルジオ セッテ カマラが入ってNIO 333にポイントをもたらすなど、なんと一桁順位からスタートして入賞したのがベルニュ、キャシディー、そして10位のモルターラという3人しかいない結果でした。20位スタートのアンドレ ロッテラーが9位ですよw

 DSとペンスキーは過去3戦の絶不調からよく立て直したなと思いますが、ストフェル バンドーンは下位だったので全体としてどうにかしたというよりは、ベルニュが初開催地で経験を最大限活かしたという側面が大きいようにも見えました。SC導入で残量不足をいくらかカバーできたのも運が良かったですし、そもそも予選でバードがハミ出してなければスタートは5位だったかもしれず、そのバードがミサイルになったおかげで競争相手が減ったので、ものすごく上手く回ったレースだったのも確かでしょう。面白かったですね。

・ところでブエミの違反とは・・・

 ところでブエミがペナルティーを食らうことになったオーバーパワー、規定上限の300kW以上の出力を出してしまう違反で、それだけ聞いたらインチキで馬力を増やしているように聞こえます。しかし実際は、高速走行時に路面の凹凸で車輪が空転するなどして、一時的に出力が跳ねあがってしまう『スパイク』が原因であることが大半です。スパイクは大なり小なり起きるのである程度は許容されていると思われますが、度が過ぎると取り締まられます。
 今回の裁定にエンビジョンの代表・シルバン フィリッピは納得いかず抗議しましたが棄却されました。フィリッピによれば、ブエミの車は出力が超過するどころかバッテリー セルの一部で温度上昇に起因すると見られる異常が発生して性能が低下しており、むしろ300kWに届かない状態での走行を余儀なくされていたとのこと。フィリッピは「私たちは一度も300kWを超えていない」としています。そこで改めて今回の違反を細かく見ると、FIAが発行したブエミの違反に対する詳細内容には

『FIAの供給バッテリーソフトの説明書に記載されているように、RESS(バッテリーのこと) の最大セル温度が最大値に達すると、利用可能な電力レベルが徐々に低下する』

と書かれており、違反内容は競技規則27.10に示された『FIA指定サプライヤーからの説明書に従うこと』という文言への違反となっています。エンビジョンはバッテリー温度が上限に達して電力が低下していたにも関わらず、これを適切に管理せず『本来出ないはずの出力』が出た、というような意味合いと考えられます。ブエミはレース後

「基本的に、最後の3~4周を少ないパワーで走っているとオーバーパワーのドライブスルーが発生する。その真相を突き止めたいだけだけど、パワー不足でペナルティを科されたらそれは本当に不公平だと思う。利益を得たかどうかを区別する必要があると思うよ。利益を得られなかった場合、個人的にはペナルティはスポーツ的なものではないと思う。」

と私見を述べました。細かいところまでは分かりませんが、このあたりの話から想像するに、バッテリーが過熱して性能が全体に低下し出力の低下を招くと、いわばオーバーパワーのハードルが下がってしまい、本来なら当たり前のはずの300kWであっても、『適切に車を管理せず、本来出ない出力が出ている』とみなされてしまう、という話かなと思います。例えば290kWしか出なくなっている中で時々300kWのスパイクがあると、これが違反と取られるのかもしれません。

 現状はいわゆる『ルールはルール』なのでペナルティーを取り下げるわけにはいかないでしょうが、スパイクによるペナルティーは以前から不満の種になっています。実際問題どの程度スパイクがあるのかや、利益の判断ができるのか、それをした場合にルールの隙を衝いてインチキする余地がどの程度増えてしまうのか、等が私には分からないですが、改善の余地はあるように感じますね。
 バッテリーの取り扱いを誤ると火災を招きかねないので、正しく取り扱わないことを、ウイングをぶら下げてるとか、ミラーが無いとか、そういう外的破損と同様に捉えるのであればそういうものかなと思いつつ、じゃあ内燃機関のレースで1気筒壊れたり、ミスファイアーを起こしてる車が取り締まられるかというとそうでもないので、やっぱり妙だなとも感じます。この辺の規則が難しいし、あんまり情報も無いのでなかなか理解できないところなんですよね~w

 さて、次戦は2週間後に初開催のケープタウン、また色々と起こるんでしょうかね。ファンデルリンデはこのレースも9周でリタイアしてしまい、結局あまり経験を積めないまま母国レースに挑むことになりそうです。ロビン フラインスが復帰できないなら、という前提付きですが。

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