ハービック、今季限りで現役を引退

 NASCAR Cup Series、スチュワート-ハース レーシングのケビン ハービックが2023年をもって現役を引退することを表明しました。フル参戦のドライバーでは最年長の47歳・カップ シリーズで通算60勝を挙げて来た2014年のチャンピオンが最後のシーズンに臨むことになりました。

 アメリカ東部時間で1月12日午前8時、ハービックは自身のTwitterアカウントに動画を投稿しました。


「私が今までやりたかったのはレースだけでした。それは5歳から始まり、信じられないことに25歳にはNASCARカップシリーズに参加していました。私はこの22年間、NASCAR最高峰シリーズを自分の家と呼んできました。たくさんのものを見て、たくさんのことを成し遂げ、この機会に感謝しています。」
「私はいつも新しいシーズンを迎える準備ができています。新しい挑戦があり、ライバルを出し抜く新しい方法を見つけなければならないからです。しかし、11月にフェニックスで行われるシーズン最終戦のチェッカーフラッグは、私にとってNASCARカップシリーズドライバーとしての最後のレースとなるのです。レース チームとして達成したすべてのことを楽しみ、この旅を可能にしてくれた人たちとともに味わうときが来たんです。」
「信じられないことが、信じられるようになったのは、多くの人の協力と応援があったからです。ドライバーであることよりも、父親であること、夫であることが優先される、新しい章が始まるんです。しかし、それはまだ1年先の話です。まだ書き残したものがあります、紙の上ではなく、アスファルトの上、ひょっとしたらダートの上にも。戦うことへの飢えはまだあります。(ここでブッシュ ビールの缶を開ける)最後のシーズンが、最高のシーズンでありますように。」

 「乾杯」というセリフを勝手に付けたしたくなりますが、そんなことよりハービックのキャリアをざっくり振り返ってみましょう。1975年12月8日生まれのハービック、5歳からカートに乗り始め、カートで多くの成績を残しました。その後1994年にはNASCAR フェザーライト サウスウエスト ツアー(2006年限りで廃止)に参戦すると、翌年にはNASCAR クラフツマン トラック シリーズでデビュー、1998年からフル参戦となります。
 並行して1998年にはウインストン ウエスト シリーズ(現在のARCA メナーズ シリーズ ウエスト)にフル参戦して14戦で5勝を挙げチャンピオンを獲得すると、2000年からはリチャード チルドレス レーシングと契約、ブッシュ シリーズ(現在のエクスフィニティ― シリーズ)にフル参戦を開始して、3勝を挙げいきなりシリーズ3位。順調に階段を駆け上がりました。

 2001年、ハービックは引き続きブッシュにフル参戦しつつ、ウインストン カップ(現在のカップシリーズ)にもスポット参戦する計画でした。ところが、2001年2月18日、開幕戦のデイトナ500の最終周、NASCARのみならず国民的知名度を誇るスター・デイル アーンハートが事故により死亡。
 RCRはアーンハートの死去で空席となった車両にハービックを抜擢、アーンハートのカー ナンバーである3は封印し、29へと変更。ハービックは全く想定していない形で第2戦ロッキンガムでデビューすることになりました。
 アーンハートの死去から僅か3週間後、第4戦アトランタ。予選5位だったハービックは1回目のコーションが明けた7周目から自身初のリードを奪いますが、以後速かったのはジェフ ゴードン。レース中盤はデイブ ブレイニーが多くをリードしましたが、残り108周というところで車に振動が出て緊急ピットし優勝争いから脱落。
 レース終盤は5台による争いとなりますが、ここからハービックが抜け出します。最後はゴードンが猛追し、最終周のターン4では周回遅れも絡んで完全に横並びになりましたが、ハービックがゴードンを0.006秒差で下し、デビューから僅か3戦目で優勝を果たしました。これは当時の最速記録でした。

 ハービックは2001年のブッシュシリーズでチャンピオンを獲得すると同時に、ウインストンカップでも2勝してランキング9位。不幸な事故によって封印された3番に代わり、ハービックは29番を自分のものとしてカップシリーズでトップ ドライバーの中に入っていきました。
 一旦はカップに集中するためにフル参戦をやめていたブッシュシリーズも、2006年には複数のカーナンバーを跨ぐ形で全戦出場し、2度目のチャンピオンを獲得。カップの方は2001年から2013年までRCRで走り続け、未勝利の年も3回あった一方で、合計で23勝を挙げてシリーズで5位以内に6度入りました。RCR最終年度となった2013年も4勝してシリーズ3位でした。
 
 そして2014年、スチュワートハースへと移籍。この年から制度が大幅に変更されたプレイオフ制度の中でチャンピオンシップに進出し、最終戦ホームステッドでシーズン5勝目を挙げて自身初のチャンピオンを獲得。予選順位と比べて決勝の順位が高く、レースの多くをリードしているわけでもないのに、最後には先頭にいることから『クローザー』の異名を盛るハービック。最終戦での、夕方へと向かって刻一刻と変化する路面状況への対応はまさしくクローザーの真骨頂と言えるかもしれません。
 一方で、移籍後はRCR時代よりも予選順位が大幅に向上、SHRのチーム力と、新たにクルー チーフとなったロドニー チルダースとの組み合わせが絶妙に機能したと考えられました。


 その後も毎年勝利を積み重ねチャンピオンシップ常連となったハービック。それでも2度目のタイトルにはなかなか手が届きませんでしたが、COVID-19によりシーズンが中断した2020年は、再開後の25戦で9勝という異様な強さを発揮。ところが最後の勝負所で取りこぼし、プレイオフ制度に見事にハマって最多勝ドライバーでありながらチャンピオンシップ進出を逃してシーズン5位に終わります。
 すると翌年は暗転、SHRが"発見"したリアのホイール ハウス内の微妙な空力的細工が車検制度の変更で使えなくなったことが影響したらしく、チーム全体が極度の不振に陥ってハービックもSHR移籍後初の未勝利シーズン。それでもやっぱりプレイオフではしぶとく生き残って年間順位は前年と同じ5位ではありましたが、両極端な2年を過ごします。

 新規定車両・Generation7となった2022年は可もなく不可もなく、という感じでシーズンが進み、気づけば20戦を過ぎて『また未勝利か?』と思い始めた矢先の第23戦ミシガンで優勝し、翌週も勝利してまさかの2連勝。
 ところがプレイオフ初戦のダーリントンで車の出火事故が発生すると、翌週のカンザスも貰い事故で早々にリタイアし自身初のプレイオフ第1ラウンド敗退。機械的故障や出火といったドライバーと関係の無い問題が頻発することにいら立ったハービックはGen7車両を「安物部品で作った」と毒舌批判して違う意味で活躍しますが、追い打ちをかけるように3週間後のタラデガではレース後車検で違反発覚。
 ポイントを100点も減点され、シーズン15位という自信の長いキャリアで3番目に低いシーズン成績となってしまいました。ハービックは2023年までの契約期間であることが知られていることから自ずと進退に注目が集まり、ハービックは年末に「現時点ではどちらの方向にも進む可能性もある。デイトナに行けば、自分が何をするかがわかるだろうさ。」と引退を示唆。そしてこの日を迎えました。
 この長いドライバー生活の間に2人の子供を授かり、長男のキーランは10歳になりヨーロッパでカートのレースに参加。長女のパイパーもまた、5歳ですがやはりカートを手にしています。

 SHRが出した声明では、ハービックはこうコメントしています。
「レース場に行くこと以上に楽しいことは他にないし、今シーズンを心から楽しみにしています。でも、何年もやっているうちに、いつかは決断しなければならない日が来ることは分かっていました。いつ車か離れるべきなのか?と。」
「私は人を探し、彼らの考えを聞きました。その人たちに『今がその時だと思うのはいつですか?』と聞くと、『そのうちわかるようになる』と言います。計画を立てて、最後の1年を決めなさい、と。幸運なことに今もうまく走れているので、そのタイミングを理解するのは確かに難しいことでした。でも、時にはもっと重要な他のことが起こることもあり、私にとってはその時が来たんです。」
「この1年、キーランがヨーロッパにいる間に、たしか3回レースを見に行きました。パイパーと一緒にゴーカート場に行くと、私がいないときよりも、私がいるときのほうが2倍の進歩をするんです。彼らがやっているレベルのレースを組織するためには多くの時間が必要で、そのそばにいることは私にとって重要なことなんです。」
「デイルの死は、このスポーツを永久に変え、私の人生とその方向性を永久に変えてしまいました。あの日起こったことを本当に落ち着いて考えられるようになるまで、長い時間がかかりました。今振り返ってみると、カップカーに乗ることの重要性に気づき、デイルの死後、29号車でアトランタでの最初のレースに勝つことができました。あの車をレーストラックに残し、シーズン序盤のアトランタで勝つことの重要性、それがこの競技にとって何を意味するのか、その瞬間がすごく大事だったんです。」

 SHR移籍以降コンビを組み続けているチルダースについては

「レースに関して言えば、ロドニーと私はほぼ同じ年齢で、バックグラウンドも非常に似ています。 でも、彼はとても落ち着いていてクールで静か、私はちょっとやんちゃで興奮に満ちているという点で、私たちは正反対です。私が彼の態度を知っていて、彼も私の態度を知っている、というだけでその組み合わせは多くの尊敬を集め、つり合いがとれたちょうど良いバランスです。」
「私たちはそれぞれが仕事をできることを知っており、それを信じてお互いを信頼しています。その多くは、コミュニケーションと会話に帰着します。 私たちはよく連携を取り、それが良いペアリングを作る理由です。会話して、伝えて、それを行動に移すことができます。そして、自分が間違っているとき、自分が間違っていることを理解し、それを乗り越えて、誰かの気持ちを傷つけたり、人のせいにしないようにすることが、それを機能させた理由です。」

 短気で怒りやすいことから、ちょっと皮肉って『ハッピー ハービック』というあだ名もあるハービック。何人かのドライバーとはレース中の接触で遺恨があり、2015年のタラデガではオーバータイムのリスタートで明らかにインチキ発動。
 自分の車がトラブルでまともに加速すらできない中で迎えた1度目のリスタートではラインから外れたものの、たまたますぐコーションになって2度目のリスタートになると、当時オーバータイムは2回までだったので今度はラインを外れず堂々とライン上でリスタートし、後続車に抜かれるタイミングで明らかにわざとぶつけてコーションを出してレースを強制終了、本来なら脱落するはずだったプレイオフに生き残りました。未だにこれを許せない人もいると思います、というか少なくとも1名知っていますw


 ファンもアンチも多い、言うなれば昔ながらのスタイルというべきドライバーがハービック。最後のシーズン、よくこの年までやったなあとか、とっととやめろよインチキ野郎とか、やっぱりこういうキャラが減ると寂しいなあとか、色んな反応があると思います。果たして安物部品で作られた車で最後のシーズンにどんなレースを見せるのか、チームメイトのエリック アルミローラみたいに引退撤回はあるのか、注目のシーズンとなります。
 とりあえず、デイトナ500は2007年に一度勝っただけであんまり成績が良くないので、やめる前にもう一度勝ちたい、というのはあると思います。勝ったらプレイオフは基本的に確定するからその後のレースも落ち着いて戦えますしね。
 なお、ハービックは引退後、FOXスポーツの解説陣に加わるのではないか、という情報です。

コメント

ChaseFun9 さんのコメント…
ぐぅ寂しい
最後にPhoenixで勝てよ!春の方で(笑)
SCfromLA さんの投稿…
>ChaseFun9さん

 宿敵への熱い応援ですね(笑)
首跡 さんの投稿…
クローザーとして真価を発揮する場面や、2015年タラデガでのアレな場面... そういった良い面や悪い面をひっくるめてこそ、ケビン ハービックの個性や魅力が形成されてきたと思うので、やはり彼の引退は寂しいです。ラストシーズンの活躍を願っています。
SCfromLA さんの投稿…
>首跡さん

 改めて考えると、5歳でカートに乗って40年以上ずっとレースで勝つことを考えてきたと思うので、最後の1年は本人も語る通り、今までより楽しむ気持ちをもって悔いなく戦ってほしいなと思いますね。まあ本人もそう思っててもやっぱり始まったらいつもの怖い顔になるんでしょうけどw
カイル・プッシュ さんのコメント…
お気に入りのドライバーというわけではありませんが、ボクがNASCARを見るようになった時から現役だったドライバーなので、寂しい気がします。
序盤は目立たなくても、後半になると必ずトップ集団にいるので、「振り向けばハービック」って感じでした。
ラストシーズン、暴れてもらいましょう!
ズルはなしで笑
Cherry さんのコメント…
自分が見始めた2017以降最強格の一人だった元祖ヒールがいなくなるのは寂しくてたまりません。あんなに強かった割にチャンピオンとっていない謎...
’23シーズンは強いハーヴィックがみたいですねw
あ、誰かに喧嘩を売るときは9に乗っている方のチェイス以外にしてくださいね?w
SCfromLA さんの投稿…
>カイル・プッシュさん

 ズルは無しで楽しんで走ってもらいたい気持ちと、そう言いつつもやっぱり最後まで他人を怒らせてこそハービックだという気持ちが私の中では半々だったりします(笑)
SCfromLA さんの投稿…
>Cherryさん

 特に2020年なんてチャンピオン獲って当たり前みたいな強さでしたからね~。みんな声援の送り方に一癖入ってくるのがハービックらしくて面白いw
あゆむ★★☆ さんのコメント…
 トレバーベインの件の少なくとも1名笑笑
 あのことは忘れませんが、引退してしまえなんて思ったことはありませんでしたし、いざ昔のNASCARドライバーらしさを持ってる彼がいなくなってしまうとなると残念で仕方ありません。
 ブーイングしながらもピットミスを繰り返されてるときには哀れだなと思ってみていました。チーム跨いでるのに両方でクルーに恵まれないのは今考えても可哀想だなと。
 印象に残るシーンが多い彼なので、最後の一年も感動なり迷なり目立ってほしいなと思っています

SCfromLA さんの投稿…
>あゆむ★★☆さん

 貴重な1名がいらっしゃった(笑) きっとハービックは良くも悪くも期待に応えてくれるでしょう。とりあえず怪我だけはしないでほしいですね。