フォーミュラE 第3戦 ディリーヤ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 CORE Diriyah E-Pprix
Diriyah Street Cuircuit 2.49km×39Laps=97.11km(※規定により40周に延長)
winner:Pascal Wehrlein(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3)

 フォーミュラE・ディリーヤ2連戦の2日目です。完全新車の今季はどこへ行っても実走のデータが無くシミュレーション頼りのセッティングとマネージメントになりますが、連戦だと前日のデータをいくらか落とし込むことができます。修正力や適応力も問われますね。昨日は予選で事故って決勝に出られなかったグンターも修復して戻ってきました。
 ちなみに今回の大会スポンサー・COREはサウジアラビアで高級なフィットネス クラブ、レストラン、不動産、クルーズ事業などを手掛けるライフスタイル企業みたいです。

・グループ予選

 グループAはセッション終了目前に駆け込みでタイムが更新されていく目まぐるしい展開。2日で3セットのタイヤしか使えないので1回目のアタックはそこそこ使い古されたタイヤで走っているため、2回目のアタックで上げ幅が大きいような雰囲気です。このタイム更新合戦をヒューズが最速で突破しました。ブエミ、バンドーン、デニスまでがデュエルスに進みました。セッテカマラが前日に続いてちょっと邪魔になってましたね^^;
 グループBの方はそこまで激動の展開にはならず、昨日のレースでグダグダになってしまったエバンスが最速。ラスト、ベアライン、モルターラの4人がデュエルスに進みました。これで前日の決勝で圧倒的に速かったデニスとベアラインが双方とも8位以内からスタートできることが確定しました。

・デュエルス

 グループA側はヒューズは引き続き好調で、準決勝ではブエミ相手に昨日の雪辱も果たして決勝へ。グループB側はエバンスが順当に勝ち上がります。
 エバンスとヒューズの対戦となった決勝、エバンスは少し準決勝よりタイムを落としましたが、ヒューズの方はしっかりまとめて準決勝とほぼ同じタイムを出し、デビュー3戦目にして初のポールを獲得しました。前日より路面の向上とセッティングの詰めで全体的にタイムの水準は向上しましたが、これでも昨年のデュエルスのタイムより1.7秒ぐらい遅い水準となっており、今のGen3は直線が速くてもコーナーで遅いことがよく分かります。
 ヒューズの動きを見てるとちょっと足が固めで、固いと路面の入力はサスペンションではなくタイヤで全部受けることになるのでオーバーヒートしやすく、それゆえタイヤの熱入れをゆっくりやっていて、ちょっと無理がありそうなのを腕で抑え込んでタイムを出してしまってるようにも感じました。もしそうならレースでちょっと大変そうです。

・決勝

 スタート順位はヒューズ、エバンス、ラスト、ブエミ、ベアライン、デニス。ドローンによるセレモニーがあまり映像に映らずグリッド上のリポーターばかり映るのでJスポーツ放送陣からはボロカスに言われましたw


 スタートの蹴りだしは上位勢みんな同じ感じかと思いましたが、ヒューズはその先で空転したらしく、ターン18でバードがヒューズをかわしました。路面に塗装されたアリアンツの広告で滑ったらしいです^^;
 モルターラはちょっと失敗したっぽかったんですがごちゃごちゃっとしたら結果的に5位に上がった模様、ブエミとデニスがそれぞれ順位を下げて、昨日の勝者ベアラインは前がこけたぶん4位へ浮上。昨日は実質6位からスタートして勝ってるので今4位ならきっと楽勝ですね(*'▽')

 5周を終えてエバンス、ヒューズ、ラスト、ベアライン、モルターラ、ブエミ、デニス、バード・・・と縦一列。ジャガーとすると昨日バードが前に出て飛ばしたらやられたので、エバンスにも逃げさせる考えは無いと考えられます。フォーミュラEって密なので。
 ところが密な青春を謳歌する前の9周目、意外なことが起きました。先頭のエバンスが抜かれるのを覚悟で真っ先にアタックに入り3分を使用、マクラーレン2台に抜かれます。これを受けて翌周にヒューズが2分を使用すると、ラストは前が開いたので少しペースを上げて11周目にアタックに入り、なんと1位のまま合流。1回目のサイクルで2台をオーバーカットする絶妙の動きを見せました。エバンスは何で自分から動いたんや・・・
 そしてこうやって前の3台が少しばらけた動きになったところで4位のベアラインが動きました。12周目のターン18でヒューズを抜くと、翌周にはあっさりエバンスも料理。表示されたエナジー残量は今日もまた2%以上有利になっており、料理と言ってもフライパンに油を引いてそばを炒めただけ、ぐらいお手軽でした。
 15周目、ベアラインはエバンスをかなり引き離してアタック3分、2位のまま合流しました。この間ラストはペースを上げて逃げていましたがあっさりとベアラインに追いつかれ、争っても仕方ないので17周目にアタックに入って自ら撤収。これでリーダーはベアラインになります。ベアラインはそのままラストとの差を広げて20周目に2回目のアタック義務も消化しました。


 一方、昨日の2位・デニスの方はモルターラをなかなか抜けずに苦労していたものの、それでもレース後半にかけて着実に順位を上げて行き、24周目にはラストを抜いて2位になりました。リフト位置があまりに違うのでストレートを終える前にはもう完全に前に出ていました。こうなると炊飯器に水とお米を入れてスイッチを押したぐらい簡単な料理です。

 26周目、9位スタートだったバードが気づいたら次々と順位を上げてきており、ラストを抜いて3位に浮上。この段階でトップ3はベアライン、デニス、バードと昨日の表彰台と同じ顔触れになりました。するとその直後にニコ ミュラーがターン18のブレーキングで回ってしまいそのまま壁へ。SC導入となりました。デニスはこれでベアラインとの2秒差が消えましたが、2回目のアタックをまだ使っていません。
 3位のバードは2回のアタックが残っていますが、息をひそめて走っていたので残量では最も有利。4位以下はややエナジー残量が少ないので、リスタート後に普通に走るとバードと4位のラスト以降とは空間ができると思われます。ということはベアラインとすると、嫌がらせするならわざとペースを上げずに走って後ろの2人がアタックを使いにくい状況を意図的に作った方が有利になりますw

 嫌がらせがあるのか気になりつつ31周目にリスタート、32周目に早くもバードとラストの間に空間ができたのでバードにはアタックの指示。だったらそこに合わせるのが得策なので2位のデニスも同時にアタックに入りました。
 ところがバードにとってはラストとの差がちょっとギリギリすぎて、ラストの前で合流するという任務に失敗、4位に後退してしまいます。SC導入で全車的にエナジー残量には導入前と比べてゆとりが生まれてペースが1秒ほど上がっており、ひょっとしたらチーム側はアタックに入った際の損失計算に狂いが生じたのではないかと思います。
 バードは速く抜かないといけないので、翌周にすぐラストを狙ってターン18で内側に入りましたが今度は焦り過ぎ。ラストも柔軟にリフト位置を遅らせて防御しに行ったので、それを超えて奥まで入ったバードは止まり切れませんでした。バード、4位のままではありますが1.5秒以上失う大損をしてしまいました。
バードミサイル!

 レースはさっきのSCで1周の追加になりましたが局面に影響せず、ベアラインが最終的に1%以上エナジーを残して走り切りディリーヤ2連勝を決めました。デニスが2位、ラストは最後もいやーなラインでバードをブロックして逃げ切り表彰台を獲得しました。
※この後よろけて落ちそうになります

 一方その後ろの5位争いは最後に劇的な展開。残量がギリギリのヒューズは最終コーナーを立ち上がって加速するだけのエナジーが残っていませんでしたが、真後ろから抜こうとしていたエバンスが完全に引っかかりました。物理的にノーズとテールが引っかかってます。この2台を横目に7位のブエミが通り過ぎました。
 結果的にヒューズはエバンスに押されたことでギリギリブエミの0.078秒前方、5位でチェッカーを受けられましたが、そこにひっかかったエバンスはブエミに抜かれてしまいました。最終コーナーの立ち上がりからコントロール ラインまでが近すぎると最後にこういうことが起きやすくて正直危ないので、設計上可能であればもうちょっと計時地点は奥に移動した方がいいなと毎年思います。

 昨日はアタックに入ろうとして壁にぶつけてしまう新人らしい失敗をした日産のフェネストラズが12位スタートで8位と健闘し初入賞、モルターラは決勝で少し下げて9位、予選番長になりかけているティクタムも11位スタートから落とさず走って10位でNIOにようやくポイントをもたらしました。

 開幕戦から3戦連続のポルシェ祭りとなり、1位と2位はベアラインとデニスしか獲得していない、という想定外の序盤3戦となりました。The Raceの取材によれば、パワートレインの効率だけでなく、ボトム スピードを維持するコーナリングが効率的な走りに影響をもたらしているとのこと。
 ディリーヤはターン2を過ぎたら16まで延々とクネクネ曲がり続けていますが、滑りやすくてラインも一本なのでどうしても乱れたり修正したり、色んなことが起こります。ここをできるだけ無駄な加減速をせずに走るのか、直線的なライン取りで加減速が増えるのかでは同じタイムでも消費エナジーに差が出ますし、滑って修正するとドライバーはどうしてもスロットルを踏んでしまうので、こうしたコーナーでの無駄を減らすことは重要です。
 ポルシェ側は、むしろ自分たちはブレーキングでの安定性では劣っていると考えており、その点でマクラーレンとニオは一歩前に出ていて予選では圧倒的に強い、と認識しさらなる改善に取り組む構えを見せているようです。

 そのマクラーレンは3戦目で初表彰台。パワートレインは日産になりましたが働いている人は基本的に昨年のメルセデスEQの人たちで、ここまで日産ワークスを遥かに凌ぐ結果を見せています。ポールからスタートしたヒューズは5位に落ちましたが、スタートで自分を抜いたエバンスは7位でしたし比較的まとめたとも言えそうです。電力管理ではメルセデスで過去2シーズン勝って来た経験を活かすことができ、そのあたりの組織力では日産より遥かに上なのかな、という印象を受けます。がんばれワークス。

 一方かなり悲惨だったのはDSペンスキーで、第3戦では無得点。ジャン エリック ベルニュは全く姿が見えない16位で、まだチームとして合計7点しか獲得できていません。ベルニュはレース後、自身のTwitterのアカウントに
「純粋なパフォーマンスを欠いていて、入賞することが勝利のように感じられる、こんな順位にいることは久しくなかった。痛い、他に言葉がない。しかし、それは私たちがトップに戻るためのモチベーションをこれまで以上に高めている。諦めないよ。」と投稿。
 バンドーンはこのレースで9位あたりでなんとか入賞できそうでしたが、レース終盤に異様にエナジーが余っているのに順位をむしろ下げて行き、レース後に謎のアタックモード不使用というペナルティーを受けて20位へ転落。
 察しの良いフォーミュラEファンの方ならなんとなく想像が付くかと思いますが、レースが半分を経過したあたりでステアリングの電気系統が壊れてしまい、情報が全く読み取れなくなってエナジー管理ができなくなっていました。挙句の果てに、ステアリングのスイッチが壊れているのでアタックモードを使うことが不可能になってしまい、バンドーンのレースは人知れず"詰んで"いました。
 開幕前のテストでタイムは好調だったDSパワートレイン勢ですが、とくにペンスキーは上位を争った経験がほとんどないチーム力が本番になって影響している様子です。獲得ポイントや全体の様子を見ても、今のところ日産、マセラティ―、ニオ、アプト、という4チームが「まだ下がいる」状況ではありますが、2人のチャンピオン経験者にはしばらくストレスの溜まる時間が続きそうです。

 さて、次戦もそれほど間隔は空かず、2月11日に初開催のインド・ハイデラバードでのレースとなります。未経験の市街地なのでチーム力がさらに問われそうです。

コメント

まっさ さんのコメント…
お久しぶりです!
アレ、、日産もマクラーレン同様に中身はチャンピオンチームじゃなかったっけ。。おっと誰か来たようだ...。
大人の事情もあるのでしょうが、Gen2時代にダメダメな日産パワートレインを使用する決断をなぜマクラーレンはしたのでしょう。。。
不思議です。
SCfromLA さんの投稿…
>まっささん

 ちょうど次に上げる記事でチャステインの話を書いている途中でしたw damsもチャンピオンを獲って経験は多いはずなのに、ずいぶん差が付いたのは確かに不思議ですね。
マクラーレンは消去法で日産しか供給元が無かったのかな、と感じますが、上位でそれなりに戦えている様子を見ると日産e.damsがダメダメだったのは、単にツインモーター禁止で痛手を被った、とかいうパワートレインだけの問題じゃないのかな、とうっすら思ってしまいます。単に「車を速く走らせる」という部分で負けている可能性も・・・