フォーミュラE 第2戦 ディリーヤ

ABB FIA Formula E World Championship
2023 CORE Diriyah E-Pprix
Diriyah Street Cuircuit 2.49km×39Laps=97.11km
winner:Pascal Wehrlein(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3)


 ABB フォーミュラE 第2戦はサウジアラビア・ディリーヤでの2連戦。開幕戦のメキシコシティーから地球の反対側ぐらいまで移動してきた上に、朝から練習走行していたメキシコと逆にこっちは予選の時間帯に日が沈み始め、レースは夜。レースの間に一度ヨーロッパに帰っているでしょうけど、なんか時間の感覚がおかしくなりそうな日程です^^;

・レース前の話題

 開幕戦の1周目に接触事故で手首を骨折してしまったアプトのロビン フラインス。2週間では治るはずも無く、このレースからケルビン ファン デル リンデが代走でデビュー。リンデはアウディーのワークス選手としてGTレースを中心に活躍し、アプトとはリザーブとして契約していましたがGen3車両はシミュレーターでしか経験が無く実車は初走行。Gen2時代もアウディーのテストでマラケシュを走ったぐらいでレース経験は無いため、ほぼぶっつけのデビューです。
 フラインスの回復具合にもよりますが、南アフリカ出身の彼にとっては2月に開催予定のケープタウンが母国イベントなので、もしそこまで代走が続くならここはまずきっちり経験値を貯めて行きたいところです。

 また、このレースから車両に非常ブレーキシステムが装備されました。強大な回生ブレーキを備えているため、ディスクを使用した摩擦ブレーキは前輪にしか搭載していないのがGen3車両の特徴でしたが、万一電気系統に不具合が生じて回生が行えないと前輪のブレーキだけで止まれず大事故になる、という事案が開発段階から数件発生。
 これに伴い後輪にも摩擦ブレーキが追加で装備されました。ただし、ズルしてレース中に普通のブレーキとして使われては困るので、作動できるのは条件を満たした緊急時のみとなり、作動状況は運営側によって監視されています。作動させると電磁弁が動いて後輪のブレーキに油圧が送り込まれて一気に減速力を発揮するように設計されているみたいです。

・グループ予選

 グループAではマセラティ―が大暴れ。開始5分ほどでマキシミリアン グンターが壁に刺さって赤旗の原因を作ると、残り2分あたりではエドアルド モルターラもスピンして真後ろから壁にドスン。グンターは練習走行でも車を壊して直したばかりだったのに、スタッフさんはまた2台の修理に取り掛かることになりました。

 そんな荒れた中でジェイク ヒューズが最速、オリバー ローランド、ダニエル ティクタム、ルーカス ディ グラッシがデュエルスに進みます。
 一方グループBでは残り4分ほど、アタック中のパスカル ベアラインが最終コーナーに差し掛かったところで、アタックに向けてものすごくゆっくり走っていたセルジオ セッテ カマラとあわや接触事故になり、ベアラインは激怒します。
 全く後ろを見ていなかったらしいセッテカマラは「このミラーは役に立ってない、全く見えてなかったよ!」。ベアラインはこれが響いたかグループ5位で脱落。セッテカマラはこの後レネ ラストのアタックに対しても少し邪魔になっていて、エンジニア側も教えてあげないといけないのでちょっとNIOのピット側に問題ありな感じです。ミラーに関しては言い訳というわけでもなく、視界の悪さはテストの段階から問題視されているようで、今後改善策が採られる可能性があるそうです。
 一方でジャガーのパワートレインは絶好調、サム バードがグループ予選全体で最速のタイムを出し、セバスチャン ブエミ、ミッチ エバンス、そしてラストがデュエルスに進みました。

・デュエルス

 グループA側はヒューズが怪走。準々決勝ではピットを出てすぐにウイングの端っこを壁にぶつけたようで、広告バナーを引きずっていたものの損傷は無いようで気にせず突破すると、準決勝もまたアタック中に軽く壁にこするミス。しかし対戦相手のティクタムが最終コーナーで大ドリフト大会になって撃沈し、ヒューズが生き残ります。この2人、アウト ラップのペースが全然違ったので、ティクタムはリアがオーバーヒートしていた気がします。
 一方グループB側ではブエミが準々決勝でエバンス、準決勝でバードとワークスのジャガーを倒し、これで決勝はデビュー2戦目のヒューズ vs 記念すべき100戦目のブエミという対戦に。
 ヒューズは1分9秒495とここまでよりもさらにタイムを上げて1周をまとめましたが、ブエミはこれを僅か0.06秒上回るタイムで戻ってきてポール ポジションを獲得しました。通算15回目、今まで燻ぶっていたのは俺じゃなくて日産のせいだぞ、とアピールしているかどうか分かりませんが復活の予選となりました。スタート順位はブエミ、ヒューズ、バード、ティクタム、ラスト、エバンスのトップ6になりました。

・決勝

 すっかり夜になって照明一斉点灯、相変わらず環境への配慮を訴えたいのか無駄遣いしたいのか意味が分からない夜間レース。グンターは残念ながら車を修復できずに出場を断念しました。モルターラはグンター車の壊れていない後部部品を移植して復活させた、わけではさすがにないと思いますw
 スタート前には夜間を利用してドローンによる見事な空中投影ショーも開催されて文句言いつつテンション上がりますが、解説の由良 拓也が「あ、今1機落ちたぞ」と、ドローンが墜落したのを発見したのは笑いました。見直したら確かに歩く人の右足から白い光が1つ落ちて行ってました、由良さんよく見てたなあ、というか落下地点大丈夫か^^;

 ディリーヤはピットとスタート位置が全然違う、というかピットからちょっと戻った位置がスタートなので約3/4周の"ほぼフォーメーション ラップ"をこなします。普通はみんながグリッドに付いたら信号が緑から消灯になりますが、みんなのバーンナウトの白煙が多すぎて視界が悪いため、かなり待ち時間ができました。開幕戦でも気になったんですよね。
 スタートではややヒューズが出遅れたもののなんとか2位を守りましたが、後ろではエバンスが良いスタートを切ったもののブレーキで止まり切れずラストに接触して2台ともコース外へ。ここから2台がコースに戻ったことで8位あたりが混乱し、最終的に行き場を失ったアントニオ フェリックス ダ コスタがオリバー ローランドに追突。ウイングを落とし、いきなりSC導入となります。逆にこれを避けたベアラインが9位スタートからコーナー2つで6位になりました。
ダコスタ、完全に乗り上げる

 SCは破片を拾うだけだったのですぐ解除されて2周目にリスタート、ブエミがリーダーですが3位のバードが3周目にヒューズを抜くとそのままブエミを後ろからつつきます。いかにも前に行きたそうなバードは7周目のターン18でブエミも抜いてリーダーへ。明確にリフト位置が違っているのでエナジー配分の差です。
 10周目、上位では最初に4位のティクタムがアタックに入ろうとして後ろからベアラインに軽く追突された模様。なんとか起動には成功しましたが失速して大損してしまいます。4位の車が自滅したので周囲はまだ様子見が続きましたが、バードは2位との差が2秒近くにまで広がった13周目にアタックに入り3分を使用しました。1位で入って1位で戻る、ここまでは狙い通りの展開です。
 
 レース折り返しの19周目、2位のブエミはまだアタックを使っていない状態ですが、3位にはベアラインが上がってきました。ペースが良くて、先頭を自由に走るバードよりも残量が1%多いという逆転の可能性がある位置取りです。こうなるとジャガー的にはカスタマーのブエミに蓋しておいてもらいたいところ。11位スタートのジェイク デニスも6位まで上がって来ていて、ポルシェのパワートレインが今日も効率で優っているように見えます。
 23周目、バードが2回目、ブエミは1回目のアタックを使用。これでベアラインは前が開けてバードの背後につきます。アタック中とはいえ残量で劣勢のバードに対し、ベアラインが完全に後ろに付きました。ベアラインは2%近い優位性を有しており、バードは早くも詰みそうです。

 25周目、狙いすましてターン18でベアラインがバードの内側に入りましたが、ちょっとブレーキで行き過ぎてここは抜き返されました。ここからバードは鬼ブロックでベアラインを徹底的に抑え込みしばし膠着しましたが、2%の差を埋めるには限度があり30周目にとうとうベアラインが前に出ました。この間にデニスも4位まで浮上、この後アタックに入ったブエミを抜いて3位となります。ポルシェパワートレイン恐るべし。
粘っていると節約はできない・・・

 34周目、ベアラインは残っていたスーパーひとしくんを使用して義務も完了、同時にデニスがとうとうバードも抜いて2位となり、開幕戦の上位2人がここでもまた揃いました。デニスは僅かながら残量でベアラインを上回っており、ワークスポルシェに重圧をかけにいきます。
 ただ見た感じ、デニスはコーナーでの車の動きに関してベアラインに少し負けている様子に感じられ、さすがに0.5%程度の差では追い抜きには不十分でした。今日は最初の1周のSCだけだったので延長戦も無く規定の39周でレース終了。パスカル ベアライン、9位スタートから特に荒れたわけでもないレースで大逆転し見事な通算2勝目。デニスは2連勝とはなりませんでしたが引き続き選手権で1位です。といってもベアラインが1点差の2位ですが。


 3位からバード、ブエミ、ラスト、そして7位には10位スタートのニック キャシディー。逆に2位からスタートしたヒューズは8位、スタート時の接触で5秒ペナルティーを受けたエバンスは10位、ズルズル下がっていったティクタムは14位でした。チャンピオンのストフェル バンドーンも11位で入賞ならず、DSはちょっと苦戦している様子がありますね。
 マクラーレンはそこそこ苦労しつつ2台とも入賞したのに対し、日産ワークスの方はもっと苦労してノーマン ナトーは16位スタートで12位、サッシャ フェネストラズは18位スタートから途中アタックに入ろうとして壁にぶつける痛恨の失敗をしてしまってリード ラップ最後尾の17位でした。

 開幕戦に続いてポルシェのパワートレインが圧倒的で、現状パワートレインの効率で有利になっているのは間違いなさそうです。ただそれ以前に車の走行性能としてコーナーを無駄なく走っている、というのもあるようで、パワートレインを含めた全体の完成度で今のところ一歩前に出ているということかなと思います。
 もっとも、昨シーズンもメルセデスのパワートレインが無敵かと思ったら途中でまた流れが変わったりしたので、このあたりはシーズンを通じて不動、と簡単に話が進むものではないだろうと思います。それと今回はそこそこエナジー管理が重要だったので、追い抜きが多くて良いレース展開になったと感じました。
 時間制レースと違って、周回制レースは運営側の設定にかなりレース展開の命運が委ねられていて、周回数設定を過剰に見積もると苦痛な持久戦、少なすぎるとエナジー管理不要で全然抜けないレースになりますから、このあたりは動かす側の人もまだまだ学びながら走る感じが続きそうです。

 次戦も引き続きディリーヤです。

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