FE シーズン9 チーム/ドライバー 一覧

 年末から少し間が空きましたが明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。さて、私にとってのモータースポーツはダカール ラリーで正月早々に幕を開けますが、1月14日にはABB FIA フォーミュラE 世界選手権の2022/2023シーズン、いわゆるシーズン9が始まります。ズレた日程が戻らなかったので2022と書いてますが2022年にレースは行われていません^^;
 昨年の段階でドライバー情報と新しくなった競技規則に関する記事を書きましたが、12月のテストで新車が公式に姿を見せましたので、改めて全チームとドライバーの顔ぶれを見ておこうと思います。成績は全てシーズン8終了時点、基本的にフォーミュラE公式サイトの情報に準じます。また、車両やドライバーの事情などはThe Raceの情報を基にしているのが大半です。
 普通アルファベット順に並べますが、同一パワートレインのチームを続けて書きたいために並び順がテキトーです。そういえばフォーミュラEのロゴも今季から新しくなっていますね。



TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3
13 António Félix da Costa
94 Pascal Wehrlein
Reserve:David Beckmann

 昨年までより黒の面積が増えて少し見た目が変わったタグ ホイヤー ポルシェ。昨シーズンの第3戦・メキシコシティーでポルシェに初勝利をもたらしたパスカル ベアラインと、DSテチーターから移籍してきたシーズン6のチャンピオン・アントニオ フェリックス ダ コスタの強力なドライバー陣容です。
 通常はパワートレインが更新されると車両名もそれに合わせて更新されるものですが、ポルシェはフォーミュラEに投入する車両として99Xという名称そのものをある種看板にしているようで、新車になっても昨年までと同じ99Xという名称を使用しています。
 チームとしてはベアラインが挙げた1勝が唯一、通算42戦で表彰台も計6回と数字とするとやや寂しく、Gen2ではマネージメントで課題を抱えていることが多かったですが、新車で改善がなされたのか注目です。
 そのベアラインは過去3シーズンは自分がエースという感じでしたが、ダコスタが移籍してきたことでそうも言っていられなくなりました。なにせダコスタ君はチームメイト相手でも平気で襲い掛かり、オーダーが出ても聞いてくれないことがあるファイターですから、中団でチーム優先で走るうちはまだしも、身内で上位を争うようになるとなかなかに大変です。ベアラインも熱いドライバーなので、揉め事が起きるぐらいにポルシェが速いとそれはそれで面白そうです。
 開発兼予備のドライバーとして22歳のドイツ人ドライバー、ここ2年はFIA F2に参戦しているデイビッド ベックマンと契約しています。

Avalanche Andretti Formula E/Porsche 99X Electric Gen3
27 Jake Dennis
36 André Lotterer
Reserve:David Beckmann

 BMWの撤退によりポルシェのカスタマーとなったアンドレッティー。ポルシェとしても初のパワートレイン供給です。タイトル スポンサーは昨年から引き続きアバランチ、分散型アプリケーション開発のためのプラットフォーム、と言われても何だかよく分かりませんが、ブロック チェイン技術の基盤部分を提供するITサービス企業、というぐらいのザックリしたイメージですw
 昨年とあまり変わらない見た目ですが、タイトルスポンサーでありながら車両のお披露目時にもテスト時にも、車体側面の本来なら一番宣伝になる場所にアバランチのロゴが無く、横から見たらスポンサーの無いチームかと勘違いするぐらいすっきりしているのが、私、気になります!
 昨年11月にFTXトレーディングが破綻したことで暗号資産業界は直接的、間接的に影響を受けており連鎖した破綻も見られますが、ブロックチェイン技術を提供するアバランチも自社のプラットフォームでAVAXという暗号資産を使用しています。AVAXの価格はFTX破綻後に4割近く下落しており、2022年1月から比べると9割近い下落です。(情報元:コインデスク)
 取引価格の下落は直接企業の財務には影響しないと思いますが、暗号資産に対する規制強化の流れは取引回数の減少等を通じてプラットフォーム提供企業の収益に影響する可能性が考えられるので、そうした影響からスポンサー料が減額されているのでは?と勘ぐってしまいます。軽く調べた範囲では何の情報も見当たらないので杞憂だと良いんですけどね。

 まあそれは置いといて、ドライバーは参戦3年目・母国開催のロンドンでは過去2年連続で優勝を挙げている伸び盛りの27歳・ジェイク デニスと、ポルシェを離脱してフォーミュラEから卒業かと思いきや、ポルシェ上層部から高く評価されて供給先へ移籍することになったアンドレ ロッテラー。通算67戦で表彰台は8回あるものの優勝が無いロッテラー、41歳のおじさんが今年こそ勝てるのか、日本でもお馴染みの元トムスのドライバーなのでJ SPORTSの中継でも推されるに違いありません。
 ベックマンはポルシェとアンドレッティーの双方でテスト兼予備という位置づけになっているようです。

Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6
  9 Mitch Evans
10 Sam Bird

 シーズン8から唯一何も変わらないのがジャガー TCS レーシング。TCSはインドのタタという財閥企業の通信部門・タタ コンサルタンシー サービシーズのことです、日本のスーパーフォーミュラでナカジマレーシングのスポンサーをやってますね。カラーリングが昨年までの植毛グリーンみたいなものから白黒に変わりました。しかも左右非対称、かつ2台でも左右の塗り分けが反転しており、並べると2台で対象になるというちょっと珍しい考え方です。
 ドライバーはシーズン7で4勝を挙げ、最終戦のスタートの直前にはタイトルに片手がかかっていたのに、車が発進しないという悲劇に見舞われてチャンピオンを逃したミッチ エバンスと、シーズン1から続けていた連続優勝記録が途切れ、怪我により連続出場記録も途切れてしまって悪いことが一度に起きてしまったサム バード。バードは非公式のテストでもクラッシュしているという情報です。
 いずれも予選以上に決勝で速いレース巧者で、チームとしても体制が変わっていないというのは有利ですが、テストでやや走行不足になったことが懸念材料かもしれません。

Envision Racing/Jaguar I-Type 6
16 Sébastien Buemi
37 Nick Cassidy

 元々は実業家のリチャード ブランソンがオーナーとなり、バージン レーシングとしてシーズン1から参戦。2018年に中国のエネルギー関連企業・エンビジョンが筆頭オーナーとなり、シーズン8を前にバージンの名前が外れて現在に至るエンビジョン レーシング。当初はDSと組み、DSが離れた後はアウディーのカスタマーへ転じ、アウディーも撤退したのでシーズン9からジャガーのカスタマーです。色合いが昨シーズンと変わらず安心感がありますw
 ドライバーは2015年に全日本F3、2017年にSUPER GT、2019年はスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲っている元トムス・ニック キャシディーと、シーズン1からずっと契約していたルノー/日産を離れて初めて他所のチームに所属することになったシーズン2のチャンピオン・セバスチャン ブエミ。
 キャシディーは昨シーズンのニューヨークで参戦2年目にして初勝利を挙げましたが、雨で大混乱のレースになったことで得られた勝利だったので、欲しいのは"普通の"レースでの勝利。ブエミの方は日産の低迷もあってシーズン7以降表彰台が無く、入賞よりも入賞圏外のレースの方が多い状況で、普通に考えるとけっこう崖っぷちです。
 そんな崖っぷちな状況のブエミはバレンシアでの公式テストでクラッシュ。キャシディーも同様にコースを飛び出しており、詳しくは後述しますがジャガーを使用する全車が念のためテスト走行を一時見合わせる事態となって、テスト不足の懸念があります。

DS Penske/DS E-TENSE FE23
  1 Stoffel Vandoorne
25 Jean-Éric Vergne
Reserve:Oliver Turvey

 DSがテチーターからペンスキーへと提携相手を変更し、DSペンスキーとなりました。金色と黒のカラーリングはDSテチーター時代とほとんど変わらないので見分けがつきやすいですね。
 ペンスキーは元々2007年にジェイ ペンスキーとスティーブ ルッソが設立したルッソ ドラゴン レーシングが起源、当初はインディーカー シリーズに参戦するチームでしたが、フォーミュラEの開幕に伴ってインディーをやめてこちらに活動を移しました。ジェイ ペンスキーはアメリカレース界の重鎮・ロジャー ペンスキーの息子。ルッソはHDD製造企業であるシーゲイト テクノロジーのトップを長年務めた名経営者です。
 ペンスキーはシーズン1から参戦を続けている初期メンバーですが、自社製パワートレインの競争力が今一つで苦戦。本来はGen3もボッシュの開発した独自のパワートレインを使用するはずが、この話が無くなってしまって動力源に困っていました。振り返ればシーズン3に向けても、電気自動車ベンチャー企業のファラデー フューチャーをタイトルスポンサー兼技術提携相手として迎えたのに、肝心のファラデーの経営が行き詰って頓挫しており、パワートレインに関してはずっと困っている感じがあります。
 ドライバーにはDSとともに移籍してきたシーズン4、5の連続チャンピオン・ジャン エリック ベルニュと、メルセデスEQの撤退にともない移籍してきた昨シーズンのチャンピオン・ストフェル バンドーンという強力な顔ぶれ。テチーターは資金の問題から新オーナーを探そうとして頓挫し、チームもドライバーも先のことが気になっていた部分が少なからずあったと思われるので、ひとまずは相手を見つけてレースに集中できるのが好材料。ペンスキーとしても競争力のあるパワートレインは初めてなので、チーム力がどうなるのかが注目です。
 予備ドライバーとして、NIOにシーズン1の途中から参戦し続けていたオリバー ターベイと契約しています。

Maserati MSG Racing/Maserati Tipo Folgore
  7 Maximilian Günther
48 Edoardo Mortara

 シーズン8までベンチュリーの名称で参戦していたチームにイタリアの名門ブランド・マセラティ―が加わった新規参戦のように見えて実はそうでもないようなチーム。MSGはモナコ スポーツ グループの頭文字で、これがベンチュリーから名称を変更した新しい組織の名称、基本的にチームを動かしているのもベンチュリーのみなさんということになります。
 そもそもベンチュリーはモナコに拠点を置く少量の自動車生産企業で、近年は高性能な電気自動車を研究開発・製造する企業でしたが、2020年にフォーミュラEチームの株式の過半数をアメリカの投資家へと売却しており、ベンチュリーという名称はあっても企業との関連性は薄れていました。
 マセラティーはステランティスの1ブランドなのでDSとはグループ内の親戚であり、このティーポ フォルゴレと名付けられた車両も中身はDSと同じもの、いわゆる『バッジだけ変えた』というやつで、少なくとも2シーズンはこの体制が継続すると言われています。とはいえ、DSに遠慮するつもりはなく、ソフトウェア面では独自の開発を行い勝利を目指します。ティーポはマセラティ―がレース車両に用いて来た名称、フォルゴレは落雷という意味ですが、同社が今後電気自動車を投入していくキャッチフレーズにしている単語です。

 ドライバーはベンチュリーから継続、昨シーズン4勝でドライバー選手権3位のエドアルド モルターラと、日産を離れてシートが無い、と思ったら幸運にも空きができたマキシミリアン グンター。本来このシートはニック デ フリースが契約していましたが、デフリースが急転してアルファタウリと契約しF1に参戦できることになったため、グンターが選ばれました。
 グンターはBMW.i の2シーズンで3勝したものの、日産では入賞2回だけのシーズン19位となかなか悲惨なシーズン。本人は日産の競争力の無さにがっかりし、日産もグンターの安定性の無さをあまり評価していなかった様子なので、巡って来たチャンスで実力を示さないといけません。ただ、比較対象のモルターラはベンチュリー一筋6年目、フォーミュラEでも5本の指に入ると思われる実力者です。ちなみにチーム代表は日本でも活躍したジェームス ロシターです。この人も元トムスですね。

Nissan Formula E Team/Nissan e-4ORCE 04
17 Norman Nato
23 Sacha Fenestraz

 シーズン1からルノーe.damsとして参戦、シーズン5から日産にとって代わり、シーズン9を前にe.damsを買収してエントリー名が日産の単独名称になりました。車両名も昨年まではインテリジェント モビリティという経営方針の標語に合わせて『IM』を使用していましたが、今季は電子制御四輪駆動技術に付けた名称から e-4ORCEという名前になっています。この車は駆動は後輪だけですが回生は前輪からも行うので、一応定義に含まれるという解釈でしょうか。
 カラーリングも黒赤から白赤に変更され、さらにデザインに桜を採り入れて日本メーカーだぞ、ということをよりアピールしています。日本でのレース開催に向けても話が進んでいますから、日本の人に向けてのアピールというのもあるかもしれませんし、ちょうど2022年に発売して日本カーオブザイヤーを受賞した電動軽自動車の名前も『サクラ』です。ホンダのファンが「サクラと言ったらホンダのパワーユニット研究施設じゃ!」と怒ってないか私、気になります!


 ドライバーも刷新され、シーズン7にベンチュリーから参戦して最終戦で優勝した、のに翌年のシートが無かったノーマン ナト―と、SUPER GT/スーパーフォーミュラでお馴染みのサッシャ フェネストラズ。フェネストラズは日本に来た1年目にGT-R NISMO GT3でGT300クラスを戦っているのでそれ以来の日産車ということになりますが、昨年までの3年はトムスからGT500に出てましたのでトヨタの印象が強いです。また元トムスですねw
 日産はシーズン5で唯一のツイン モーターを採用して、開発が進むと競争力を発揮し出して他チームから目を付けられ、結局規則で禁止されてしまったことが大きな痛手となって年を追うごとに失速。過去2シーズンは勝利がありません。新規則でリセットされ、ダムス任せではなく日本のニスモ側も開発にある程度関われた、とされる新車での復権が期待されます。

NEOM Mclaren Formula E Team/Nissan e-4ORCE 04
  5 Jake Hughes
58 René Rast

 撤退したメルセデスEQを買収して参戦するマクラーレン。F1、インディーカーに続いて活動の場を広げたことになります。メルセデスのパワートレインは使えないし、自社でいきなり製造もできないのでパワートレインは日産からの供給です。タイトルスポンサーのネオムは、サウジアラビアに建設中の巨大なスマートシティーや、その建設を行う企業などを指す名前です。
 また、ドライバーも元メルセデスの2人はそれぞれ移籍してしまうので新たに探す必要があり、ここにインディーカー活動が影響。アロウ マクラーレンSPはチップ ガナッシ レーシングの契約下にあったはずのアレックス パロウをなかば強奪するように契約し、代わりにフェリックス ローゼンクビストをフォーミュラEへと転向させる、という選択肢を検討。ところがパロウ強奪計画は失敗に終わり、結論が長引いたことからフォーミュラEのドライバー市場は既にだいぶ契約が進んだ後でした。
 結果、先に決まったのはシーズン6の途中からアウディーで2シーズン弱に参戦したミスターDTM・レネ ラスト。そして後から決まったのが、過去2シーズンはFIA F2で戦いつつベンチュリー、メルセデスEQで開発/予備ドライバーとして働いていたジェイク ヒューズでした。結局元メルセデスEQの人材が役に立ちました。
 ラストはDTMで通算24勝と3回のチャンピオンという輝かしい成績を挙げていますが、フォーミュラEではまだ22戦の経験で表彰台は2回、なかなかすぐには慣れないマネージメントがちょっと慣れてきてこれからかな、というところでアウディーとともに去ってしまったので、1年生に戻ってしまうのか、経験値を活かして最初から競争力があるのかがポイントになりそうです。
 ヒューズはテストでいきなり速いタイムを記録、F3・F2の成績や既に28歳という年齢を考えるとF1の道はそろそろ厳しそうだな、という中で巡って来たチャンスです。案外掘り出しものではないか、と勝手に期待しています。とりあえず同じパワートレインを使用して同じ新人のフェネストラズが比較対象になるかもしれません。

Mahindra Racing/Mahindra M9Electro
  8 Oliver Rowland
11 Lucas di Grassi
Reserve:Jehan Daruvala

 初期メンバーのマヒンドラ レーシング、インドの複合企業・マヒンドラ グループの中核となる自動車会社、マヒンドラ&マヒンドラが母体で登録としてはインドのチームですが、実際のチームの拠点はイギリスにあります。マヒンドラはトラクターで世界有数のシェアを誇り、最近はNASCARでもスチュワート-ハース レーシングのスポンサーとして見かけますね。
 マヒンドラは2022年6月に開催されたグッドウッド フェスティバル オブ スピードで一早くGen3車両を公に披露しましたが、その際に使用した白と黒を中心にしたカラーリングではなく、かといってシーズン8の赤やそれ以前の赤白でもなく、全く違うカラーリングで登場。前部は銅系統、側面は赤で中央後部は青という3色の塗り分けです。

 パワートレインは先代の車両から引き続いて、ドイツの自動車部品製造会社・ZF フリードリヒスファーフェン AGが製造したものを使用、イギリスの拠点を置くインドのチームがドイツのパワートレインを使うというグローバルなチームですw
 マヒンドラといえばチーム代表のディルバク ギルが1つの名物でしたが、ギルさんは昨年退任し、後任としてフレデリック ベルトランが最高経営責任者に就任。ベルトランはついこの前までFIAの革新的モータースポーツ部門の責任者を務めており、フォーミュラEにおいても要職の立場にあったうちの1人です。
 グランツーリスモで遊んでいる人なら知っているであろうオリンピック バーチャル シリーズの開催に主導的役割を果たした人で、ひとまず袂を分かったグランツーリスモとFIAについて書かれた motorsport.com の2022年11月末の記事でも責任者としてコメントが掲載されています。既にパワートレインはホモロゲートされていてハード面での更新はできなくなっていますが、Gen3車両の技術情報にもある程度アクセスできた可能性のある人物が急転特定のチームの代表となったことは、場合によっては物議を醸すかもしれません。

 だいぶ話が逸れましたがドライバーはフル参戦5年目、シーズン6に日産で1勝を挙げているオリバー ローランドと、ベンチュリーから移籍してきたシーズン3チャンピオン・ルーカス ディ グラッシ。予備のドライバーにはインド人ドライバーのジェハン ダルバラと契約しています。
 マヒンドラのチーム最高順位はシーズン3の3位、Gen2時代はシーズン5の6位が最高位ですが、ディグラッシはシーズン6以外の全てで1勝以上挙げ、勝っているシーズンはチーム順位が4位以内。唯一フォーミュラE誕生からの全100戦に出場している皆勤賞ドライバーがマヒンドラの優勝請負人となれるのか注目です。
 また、ローランドもディグラッシもどちらかというとレース中に無理に内側にねじ込んでぶつけるケースがちょっと多いドライバーなので、タイヤがむき出し、かつ予備の部品調達がカツカツで壊すと大変な新車で、その走りがどうなるかも個人的に注目しています。

ABT CUPRA Formula E Team/Mahindra M9Electro
  4 Robin Frijns
51 Nico Müller

 シーズン7までアウディーのワークス活動を担って参戦していたアプトが1年の間隔を経て再参戦。アウディーはいないのでマヒンドラのパワートレインを使用するカスタマーとなっています。クープラというのがタイトルスポンサーについていますが、フォルクス ワーゲン傘下のスペインの自動車会社・セアトから2018年に独立した主にスポーツ車や高級車を取り扱うブランドです。
 アプト スポーツラインは主にアウディーなどフォルクスワーゲン傘下ブランド車両のチューニング、カスタマイズを行ったり、モータースポーツ活動を担ってきた名門。源流はなんと1896年に鍛冶屋のヨハン アプトが馬車を改造するために設立した会社にあるという100年企業です。クープラは他の電動レースにも参戦しており、VWのブランドですからアプトと組むのは好都合というわけです。

 ドライバーはエンビジョンから移籍してきたロビン フラインスと、シーズン6~7にペンスキーから1シーズン半ほどフル参戦していたニコ ミュラー。フラインスは通算2勝を挙げており常に上位を争っていた印象ですが、気づけばここ3シーズンは毎年最高位2位が2回と勝てないままの移籍。どうもエンビジョンの首脳陣と反りが合わずに放り出されたようなので、新天地で見返してやりたいところです。
 ミュラーは2016年から5シーズンに渡ってアプトからDTMに出場し、計10勝を挙げて2年連続のシリーズ2位でした。いずれもチャンピオンは同一メーカーのラストでした。そして2018年からの3年間、ミュラーとフラインスはチームメイトとして戦っていたので、巡り巡ってまたチームメイトということになります。

NIO 333 Racing/NIO 333 ER9
  3 Sérgio Sette Câmara
33 Dan Ticktum

 もうすっかり忘れかけているけど、ワンメイクだったシーズン1にネルソン ピケ ジュニアがドライバー選手権でチャンピオンを獲得したNIO。チーム名が チャイナ レーシング、NEXTEV TCR、NEXTEV NIO、NIO フォーミュラ E チーム、と来て現名称に至り名前の変遷がちょっとしたクイズになりそうです。オーナーもチームの所属国も中国ですが、チームの拠点はイギリスにあります。
 NIOは蔚来汽车(将来汽車)という中国の新興電気自動車企業のブランドで、元々はNIOが直接このチームを保有していましたが、2019年に力盛云动(上海)体育科技股份有限公司(リーシェン スポーツ)という、主に中国でモータースポーツのシリーズやサーキットの運営を行っている会社に株式の過半数を売却。そのためNIOは現在はスポンサーという立ち位置になります。
 車両名のER9は、市販車の車両名にEC、ESなどのEで始まる2文字のアルファベットを使用しており、現在最上級に位置するスポーツ車にEP9という名称を付けているあたりから来た名前と思われます。Eは電動、Rはおそらくレーシング、9は最上級の意味でマツダなんかと同じ考え方でしょう。昨シーズンまではNIO 333 001 とかいかにも『型式名』という感じの名前でした。カラーリングもガラッと変わってえらくカラフルになったのでかなり目立ちそうです。
 333というのは、力盛が上汽大众333车队(上汽フォルクスワーゲン333チーム)というチーム名で元々使用していた名称から来ているようですが、そもそもなぜ333なのかまでは探せませんでした。中国の国内レースでは強豪みたいですね。

 ドライバーは昨シーズン新加入したダニエル ティクタムと、ペンスキーから移籍してきたセルジオ セッテ カマラ。チーム名が333なので番号も3と33です。セッテカマラはシーズン6の途中から参戦して入賞が僅か3回ですが、競争力に劣る車で予選だけは上位を食う速さを度々見せており、車がしっかりしていればかなり期待できる存在。しっかりしていなくてもとりあえず予選~決勝の序盤でテレビに映れる可能性があり、これってスポンサー的に実は大事です。
 ティクタムは元々レッド ブル ジュニアの一員で、一時はトロ ロッソのドライバー候補に名前が挙がるほどでしたが、一方で2015年には現在のイギリスF4にあたるMSAフォーミュラで他車に故意に車をぶつけて2年間の出場停止。2019年にスーパーフォーミュラで思うほど結果が出ないとたった3戦でレッドブルからスパっと契約を切られ、次に拾ってもらったウイリアムズではニコラス ラティフィーを侮辱してまたクビになりました。お世辞にも性格が良いとは言えなさそうです。
 ただNIOとしては1年目の競争力や熱心なティクタムの姿勢を評価、後方を走るしかないチームだったとはいえ、際立って何か問題も起こらずにシーズンを戦ったので見事残留となりました。


 というわけで全11チームを並べてみました。しかしこのGen3車両、決して万全の状態で開幕できるというわけではありません。車両が変更されたことで、当面の課題がいくつかあるようなのでまとめておきます。

・テスト&部品不足

 まず、世界的に部品供給網が目詰まりしたままなので各チームへの車両の引き渡しが当初の予定よりも大幅に遅れてしまい、公式テストまでの間に各自でテストする時間が非常に少なかったと言われています。部品不足は継続しているので、今後もあまり壊してしまうとレースの出場に影響する可能性もあります。

・車が止まれない

 オフの初期段階のテストからたびたび発生しているのが、『車が全く止まらず壁に激しくぶつかる』という事故。FIAがチームへの引き渡し前に行った2月のテストでは、開発ドライバーのテオ プルシェールの車が止まり切れずにコース外側の土手まで走って、土手に乗り上げて停止している写真が存在しています。さらにマヒンドラのテストではローランドがやはり止まれずにクラッシュ、ジャガーのテストでバードもクラッシュしたとされています。
 そしてバレンシアでの合同テストでもキャシディーが止まれない症状に見舞われてターンを曲がり切れずに飛び出すと、ブエミはクラッシュしてジャガーは問題の特定のために念のためテストを中断することになりました。

 原因は1つではありませんが、問題の1つはウイリアムズ アドバンスド エンジニアリング製のバッテリーと、周辺の様々なシステムとの間の連携にあると見られており、何らかの拍子にシステムが落ちてしまうことがあるようです。
 Gen3車両は前後に強力な回生ブレーキを備えてこれでかなりの減速力を得られるため、油圧ブレーキは前にしか搭載されていないという特殊な設計になっています。普段の走行時には問題無いですが、万一システムに不具合が起きて電気系の指令が行き届かないと、回生ブレーキが作動せず油圧ブレーキだけになります。
 ところが、ほとんど回生ブレーキだけで走行している車両ではブレーキのディスクにあまり熱が入っておらず、しかも使えるのは前にある2つのブレーキだけ。結果、全く運動エナジーを吸収しきれずに止まれないのです。
 広々としたテスト場所であればコース外の砂にハマって止まれますが、実際にレースが開催される場所の多くは壁に囲まれた市街地であり、止まれないと即座に壁に衝突して危険になります。FIAもこの問題を受けて、緊急時に停止を助ける非常時用のシステムを追加する意向ですが、シーズン序盤には間に合わない可能性があります。
 幸いにして開幕戦のメキシコシティーは常設コース、続くディリーヤも多少広い部類ではありますが、集団戦で後ろの車が止まれなかったら一大事。そもそも不具合の根本的問題が、特定のパワートレインの仕様に由来している個別の問題なのかどうかも今一つはっきりしていない様子で、ちょっと爆弾を抱えたまま開幕してしまうことへの懸念はあります。

・予選で事故ると修理が間に合わない?

 フォーミュラEは予選と決勝を同日に開催するので、万一フリー走行や予選で車を壊すと決勝までに必死で修理、時には間に合わないこともありますが、Gen3ではそれが増加する可能性があります。
 というのも、前輪に回生ブレーキを搭載しているために、そのための機構が新たに積まれて構造が複雑になっているからです。うっかり前をぶつけたらサスペンションを交換、というだけで済まず、衝撃の加わり方次第では内部の方にも損傷が発生してしまい、修復作業に費やされる時間が長くなってしまうようです。
 そもそもが部品不足で予備を用意するのも大変な状況ですし、ドライバーには今まで以上にぶつけないようにするリスク管理が求められそうです。

・思ったほど速くない?

 Gen3はGen2と比較して軽く、高出力になりましたが、バレンシアのテストで記録されたタイムだけを見ると驚くほどタイムが上がりませんでした。主要因は新たにタイヤを供給することになったハンコックのタイヤにあると見られ、昨年までのミシュランと比較してかなり固いので滑ってタイムが出ないようです。
 車が速くなったのに対応して強くしないといけないし、自然由来の素材を使用するなど設計でも挑戦が求められる中で、そもそもタイヤを試すためのテスト車両が出来上がるのが遅かったので性能面できちんと作り込めていない、といった問題があると思われ、保守的に作り過ぎたかもしれません。そしてチームもまだタイヤへの理解が全くできていないところからのスタートになります。
 レースになるとエナジー管理のためにペースを抑えて走ることになり、昨年までの時間制レースから周回制レースへと変更もされているので、決勝での速さはレース設定次第で変わってくるのでかなり速いレースもあると思われます。一方で、見た目に分かりやすい予選タイムでは、昨年と同一のコースで思ったほど速くない可能性があります。
 基本的に出力が上がっているので直線では単純に速くなる一方、コーナー成分が多いと昨年よりも遅い箇所が出てしまうので、ひょっとすると予選で去年より遅くなることもあるのでは、というのが現時点での関係者の見立て。
 パワートレインの性能、エナジー管理だけではなく、固いタイヤへのドライバーとセッティングでの対応という、レース車両の基本的な部分も勢力図に大きな影響を与えそうです。

 競技規則も大きく変わったので何が起きるか全く分かりませんが、新時代のフォーミュラEも楽しみにしたいと思います。

コメント

okayplayer さんの投稿…
マシンからレギュレーションからドライバーまで1シーズンでこれだけ変更になるってなかなか無いなぁと思いつつ、まずはちゃんとレースとして成立することを願うばかりです…笑
こーら さんのコメント…
フォーミュラE Gen3になったので観始めようと思います。
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん

普通はハード面が変わるならチーム側の体制は継続性を重視して変わらない方向を選ぶはずなのに、なんか契約年数やらメーカーとの関係性やらで普段でも起こらない大人事異動になってますからね 笑
SCfromLA さんの投稿…
>こーらさん

お、フォーミュラEデビューですか!最初は意味の分からんことだらけだと思いますが、そういうものだと思って受け入れてください。たぶん100戦全部見てる私でも今年は意味の分からんことが多いと思うのでw