フォーミュラE、シーズン9の競技規則

 ABB FIA フォーミュラE世界選手権、2022-2023シーズン(シーズン9)は1月14日のメキシコシティーで開幕し、今のところ7月30日のロンドンまで全17戦での開催が予定されています。えーっと、とりあえず暫定の日程をここについでに。

日付 都市
1 1/14 メキシコシティー メキシコ
2 1/27 ディリーヤ サウジアラビア
3 1/28
4 2/11 ハイデラバード インド
5 2/25 ケープタウン 南アフリカ共和国
6 3/25 サンパウロ ブラジル
7 4/22 ベルリン ドイツ
8 4/23
9 5/6 モナコ モナコ
10 5/20 未定
11 6/3 ジャカルタ インドネシア
12 6/4
13 6/24 未定
14 7/15 ローマ イタリア
15 7/16
16 7/29 ロンドン イギリス
17 7/30

 2か所がまだ未定ですが、とりあえずソウルはせっかくシーズン8で初開催したのに、オリンピック競技場が改修工事に入って使えないためにシーズン9では開催が断念されました。ハイデラバード、ケープタウン、サンパウロが初開催、ディリーヤ、ベルリン、ジャカルタ、ローマ、ロンドンは2連戦です。未定のところの都合で他のレースが動いたりもするので、この日程はまた変わるだろうぐらいの気持ちの方が良いでしょうね。

 そして、F1、NASCAR Cup Seriesに続いてフォーミュラEも新規定の車両になって色々と規則が変更されており、11月22日に概要が、28日にFIAから競技規則の正式な文書が一般公開されたっぽいので、大雑把に読んで変更点をまとめてみました。大雑把なので誤訳や誤解釈等あったらごめんなさい。



・出力モード

 新車両になったので従来より出力が向上しており、シーズン8での220kW/250kWから、シーズン9は通常が最大出力300kW、高出力が350kWでの運用となります。向上幅は従来の13%から16%へ、絶対値では50kWも出力が上がるのでけっこうな上げ幅です。予選でのグループ予選からデュエルスへの移行に対応するのはより難しくなりそうです。

・車両

 車両が大幅に変わるだけでなく、タイヤのメーカーがミシュランからハンコックに変わりますが、セット数制限は従来と変わらず。1戦だけのイベントなら前後輪とも各4本(=2セット)、2日連続開催のイベントの場合は前後輪とも各6本(=3セット)です。規則ではあくまで『前輪4本』という表記なので、連戦なら左右を入れ替えたりとかしてるかもしれませんね。
 また、いくつかの部品にはシーズンを通じて使用できる個数に制限があり、規則を読むとたとえばこんな感じのようです。

リア 電動モーター ジェネレーター ユニット  2
リア ギアボックス  2
リア モーター コントロール ユニット  2
バッテリー パック  1
フロント パワートレイン  2
フロント ダンパー  6
リア ダンパー  6
ブレーキ バイ ワイヤー ユニット  2
DC/DC ユニット  2

これを超えて使用した場合ペナルティーを受けます。ただし、新規定初年度であることを考慮してか、FIAの判断により"ジョーカー"として、リアのMGU、ギアボックス、MCUの3つについては最大で2基の使用が追加で許可される可能性があることが付記されています。
 ちなみに、技術規則によるとリアMGUの回転数は10万rpmが上限、トランスミッションは最大で6速まで使用可能ですが、モーターは回転数が上がりすぎると自身の回転で生じる風や熱、回転抵抗が出力の無駄に繋がり、ギアも大量にあったところで重くて邪魔なので上限まで使う人はたぶんいないでしょうね。

・予選

 デュエルス制度は基本的にシーズン8と同様で、選手権順位の偶数と奇数でグループを2つに分け、A組が奇数、B組が偶数のグループとなります。まず12分間のグループ予選を行い、上位4人がデュエルスに進出、少なくとも開始から6分の時点で何らかのタイムを一度は記録する必要があります。デュエルスには小変更が加えられ、最初の対戦の組み合わせがシーズン8では

B組4位 vs A組1位、B組3位 vs A組2位

のようにグループを跨いだたすき掛けになっていたものが、シーズン9は

A組3位 vs A組2位、A組4位 vs A組1位

というようにまずは同組の中で上位と下位が当たる組み合わせになりました。準決勝もA組、B組のドライバー同士で当たるようにし、必ずデュエルスの決勝はA組 vs B組の組み合わせになる対戦表です。グループ予選は300kW、デュエルスは350kWでの走行です。

・決勝レース

 シーズン9で最大とも言える変更点が決勝レースの方式で、従来の時間制レースから周回制レースになりました。これまでの「えーっと、1周1分10秒だから39周ぐらいになって、そうすると1周あたり2.5%で・・・」とか考える必要は無くなります。ただし、後述の延長戦制度によってレース距離は少し伸びる場合があるのでその点は気を付ける必要があります。
 使用できる見かけ上のエナジー総量は、シーズン8までの52kWhから、なんと38.5kWhに縮小しました。その代わり、前後輪に備わった回生ブレーキが最大で600kWという強大な出力によってエナジー回生を行うため、走ってはそれを減速で回生して充電することを繰り返してレースを行います。38.5kWhって見間違いかと思いました^^;
 
・延長戦

 シーズン8で導入された延長戦制度も内容を手直しして継続されています。FIAはレース毎に基準ラップタイムを予め設定。レース中にセーフティー カー、ないしはフル コース イエローとなった場合にはその時間を全て累積していき、この累積時間が基準ラップタイムの数字に到達すると、レース周回数が1周加算されます。
 例えば、基準ラップタイムが1分30秒と設定され、レース中に合計4分のSC/FCYの時間があった場合には、4÷1.5=2.6 なのでレースは2周追加されます。

 ただし、リーダーがレース距離の80%以上の周回数に到達した場合には、そこから先のSC/FCYの時間は計算から除外されます。SC/FCY中に80%に到達した場合は、80%到達までの時間だけが計算に含まれます。
 延長されるのは最大で7周までで、延長がある場合にはレースが残り3周になった時点でタイミング モニターに表示される規則です。また、これとは別にレースは最大で1時間という規定もあるので、1時間に到達した場合にはレースは1時間+1周で終了となります。レースが中断した場合には合計で3時間まで、というF1と同じ規則もあります。

 なお、F1日本GPで『予定レース距離の75%に達せずにチェッカーを受けた場合はフル ポイントをもらえてしまう』という規則上の欠点が露呈したためと思われますが、フォーミュラEでも規則の文言が同じだったために修正が加えられました。従来あった『レースが中断されて再開されなかった場合以下のポイントを与える』という文言が『予定していたレース距離を完了できなかった場合』に訂正されています。
 これにより、レースがSC/FCYでの周回を除いて2周以下しか行われなかった場合には得点なし、2周以上75%未満なら半分、75%以上走っていたら通常のポイントが与えられます。日本GPといえば、2時間ルールには存在する『+1周』が3時間ルールの場合には無かった、という混乱もありましたが、これもFEの新規則文書では『3時間+1周』と明記されています。

・アタック モード

 アタックモードは内容がかなり色々と変更されました。コース上に設定されたアクティベーション ゾーンを、ドライバーが所定の操作をした上で通過することで起動するという仕組み自体は変わりませんが、時間や内容に変更が加えられています。
 まず、本来シーズン9では開幕から急速充電を伴うピットを義務付ける予定でした。ところが、開発車両の段階でバッテリー制御に起因していると思われる不具合が多発し、現時点でまだ体制が整っていません。そのため、レースは少なくともシーズンの前半はピット義務無し、後半の指定されたレースでは義務ありとなる予定です。このピットでの急速充電のことを『アタック チャージ』と呼びます。

 アタックチャージが設定されていないレースの場合はシーズン8までと基本的に同じで、最初の2周はアタックモードを使用できず、以降は任意で起動させて義務を消化しつつレースを薦めます。

 一方アタックチャージが設定されているレースの場合、レース毎に『アタックチャージのピット許可周回数の範囲(ウインドウ)』が設定され、その周回数の範囲内でピットに入って30秒の急速充電を行う義務があります。公式サイトなどでは4kWhの急速充電だと書いてありますが、技術規則を読むと正確には3.85kWhの充電が行われます。これを30秒で行えるそうです。10%の充電ですね。
 規則を読む限り、急速充電の3.85kWhは完全に充電する必要があり、充電よりトラックポジションを優先して早めに充電をやめる、ということはできないと思われます。入れたつもりだったけどプラグがちゃんと刺さってなくて3kWhしか充電出来てなかった、みたいなペナルティーが出そうですね。なお、この際に充電と同時にタイヤを交換することはできません。
 急速充電を終えた後にアタックモードの使用が許可され、ここから2回のアタックモードを義務として使用することになります。レースが途中で中止になって再開されず、そこまでに急速充電ピットを行っていなかった場合、レース結果に90秒のタイム加算が行われます。
 また、SCやFCY中出た場合、車両がその段階で既にピットに入っていた場合を除いて急速充電を行うことはできません。ということはSUPER GTみたいに、何か起きて自分たちがピット入り口近くにいたら、アタックチャージのためにピットへ駆け込むようなことが起こりそうですね。

 そしてアタックモードの回数と時間制限も刷新され、シーズン8では『4分×2回』を標準に、2分×4回とか、8分×1回とか、運営が色々とレースを動かせるようにレース毎にいじってきましたが、シーズン9では回数は2回、時間は合計4分とシーズンを通じて決まっています。
 その4分の内訳も、各ドライバーがレース前の予め 1分+3分・2分+2分・3分+1分 の3パターンのうち、いずれかを設定しておく必要があります。ですから、同じタイミングでアタックに入っても、こっちが3分、相手が1分だったら2分後には相手だけアタックが切れるので追い抜けるかもしれません。
 基本的に、ピット後のレース後半でアタックを使うアタックチャージ前提の考え方っぽいので、チャージが無いレースだと2回/4分だけってなんかあっさり終わっちゃいそうな気もしますね^^;

・ファンブースト

 シーズン1から行われてきた、ファン投票上位選手にだけ高出力モードを一時的に使用可能とする制度・ファンブーストは廃止されました。当初から公平性等で批判があった他、SNSアカウントをお金で買って投票を水増ししている疑惑もあり、継続は不要と判断されたようです。

・その他

 F1と同様に新人を練習走行で起用することが義務付けられ、各チームはシーズン中に最低2度、イベントの最初の練習走行セッションで過去にフォーミュラEに参戦したことがないドライバーを走行させなければなりません。完全に新しい車両になり、しかも初開催のトラックも増える中で貴重な練習走行の時間を新人に割くというのはチーム側には結構厄介な話で、いつのレースで『消化』するのかは悩みどころです。
 The Raceの記事で書かれていた論評を参照すると、フォーミュラEはコースの多くが市街地で、しかも初開催の箇所も複数あります。部品供給もじゅうぶんではなく、新人が万一車を壊してしまうと大変ですし、初開催の場所ではレギュラーの選手だってコースを学ばないといけません。
 ところが、過去に開催経験のある場所、となると2連戦の場所が多く、セッティングの成否が2戦に渡って影響する中での起用にもまたリスクがあります。過去に開催経験があって、市街地では無くて、2連戦でもない最適な場所、そうや、メキシコシティーや!と思ったら開幕戦なのでいきなり新車の最初の走行を新人に任せるチームはまずいないでしょう。
 起用される側としても、短い練習走行の時間で、しかもチームがこういう悩みを抱えていることを知りながら走るというのはあんまり気分が良いものではなさそうなので、なぜ今季これを導入したのか、ちょっとやってる側は恨み節みたいですね。

 あと規則を眺めていて気付いた細かいところでは、文面に表記された『チェアマン』という単語が『チェアパーソン』に置き換えられており、多様性を考えて性別を男性に固定しかねない言い回しを排除したみたいですね、なるほど。

 とりあえずザっと眺めて大事かなと思ったのはこんなところでした。12月13、14、16日にバレンシアで公式テストがあるので、そこまでならあと約2週間。マジで車が間に合ってるのか心配で、ターボハイブリッド導入初年度のF1みたいに『今日のテストで最も走行距離を稼いだのはクレーン車でした』みたいな出来事が起きないことを願います。

コメント

okayplayer さんの投稿…
色々変わりすぎー!笑
アタックチャージの時間は30秒以下でもいいという方が差が出て面白くなりそうな気がするんですが、何か破綻するところが出ちゃうんですかねぇ…
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん

 30秒かけて10%充電しても残りのレース距離で30秒以上速く走ることができないので、自由にさせると誰も充電せず一瞬だけプラグを挿して終わりになる可能性が高いからじゃないかなあと思ってます。(ただしピット後にSCが出ると充電した人が圧倒的有利)
それとABBの急速充電気を使用して宣伝しないといけない、という大人の事情でしょう 笑