F1 第19戦 アメリカ

FORMULA 1 ARAMCO UNITED STATES GRAND PRIX 2022
Cuircuit of The Americas 5.513km×56Laps=308.405km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull RB18-RBPT)

 F1はアジアを経てアメリカへ、第19戦はアメリカGPです。裏でNASCAR Cup Seriesが行われていて、たぶんNASCARの方が15分ぐらい早くレースが始まってる感じです。あちらはマイアミ、こっちはオースティンでかなり離れていますけど近年は着実にF1の視聴者がアメリカで増えていて、特に若年層はNASCARよりF1という雰囲気なのでNASCARの奮起に期待したいところです。
 予選ではウイリアム バイロンが最速で、先週予想外のもらい事故でリタイアしたクリストファー ベルが、あ、ごめんなさいこれはNASCARの話でした。

・レース前の話題

 前戦日本GPの決勝を前にドライバーの発表があり、アルファタウリが2023年にニック デ フリースを起用、アルピーヌはそのアルファタウリから離脱するピエール ガスリーを起用すると発表しました。
 なんでもデフリースがイタリアGPで鮮烈なデビューを飾った後、オランダの先輩であるマックス フェルスタッペンから「ヘルムート マルコに電話してみたらええで」と助言があったとか。レッド ブルのドライバー人事をほとんど独断で決めるマルコ博士、とにかく印象でパッと決めてしまうところがあるので、確かに効果的な戦略かもしれません。
 そのレッドブルですが、予選日である10月22日に会社の共同創業者であるディートリッヒ マテシッツが亡くなりました。78歳でした。日本人が栄養ドリンクを好んで飲んでいる様子に着想を得て、タイの実業家と組んで1984年にレッドブルを創設したマテシッツ。
 主にヨーロッパの若者向けにアピールし、無料配布やサッカー、エクストリーム競技、モータースポーツ等のイベントでの積極的、かつやたらド派手な広告宣伝によって知名度を向上させ、エナジー ドリンクという分野を作り上げました。レッドブルにとっては追悼レースという形になりました。

・予選

 F1としては久々に天気の良い週末、予選ではシャルル ルクレール、カルロス サインツ、フェルスタッペンの3人が速さを見せました。Q3の1回目のアタックで最速だったルクレールが2回目もまず1分34秒421と自身の記録を更新して他の人を待ち構えますが、サインツがこれを0.065秒更新。
 Q3の1回目のアタックでしっくりこなかったフェルスタッペンは2回目のアタックで他の人がほとんどやっていないプリップ ラップを入れる組み立てにして逆転を狙ったものの、サインツに0.092秒届きませんでした。レッドブルの2人とルクレールは決勝を重視してソフトを3セットしか持っておらず、この僅差の戦いだと新品で走る回数に制約があったのは順位に影響したかもしれません。
 これでピレリ ポール ポジションはサインツが獲得しました。4位にセルヒオ ペレス、5位ルイス ハミルトン、6位ジョージ ラッセル。予選結果としてはフェラーリ、レッドブル、メルセデスが綺麗に並びましたが、ルクレールはPUエレメント交換で10グリッド、ペレスも同じく5グリッド降格があるので、スタート順位としてはサインツ、フェルスタッペン、ハミルトン、ラッセル、ランス ストロール、ランド ノリス、となりました。


・決勝

 スタートのタイヤは多くがミディアム、ソフトは決勝で使いにくく、かつミディアムはほとんどの人が1セットしか持っていないので、ミディアム→ハード→ハードの2ストップが主流と予想されます。レッドブルは両方2セット持っているので選択に自由度があります。
 スタートでは動きだした瞬間に明らかにフェルスタッペンが優勢な雰囲気。サインツは仕方なくターン1を外回りして立ち上がりでのクロスを狙ったライン取り。ただ思ったよりフェルスタッペンと距離が近くて立ち上がりで少し詰まるようになりました。
 そこに2列目のラッセルが内側からターン1に飛び込んで、出口で外へ膨らもうとしたためにサインツと真逆の動き。結果サインツに思いっきりぶつかってしまいました。サインツはスピンしてほぼビリとなり、ラジエーターを破壊されたようでそのままガレージ送りとなりリタイア。たくさんいると思われるアメリカのフェラーリ好きから悲鳴が聞こえた気がしました。
 サインツは前戦でも1周目の途中で事故ってますので、2戦で1周しか記録できていません。自分の責任では無いものも多いとはいえ、ちょっと最初の1~2周で何か起きる頻度が高いのは印象としてあまりよろしくないですね。混乱を抜けたハミルトンが2位、アストン マーティンの2台が儲けてストロールが3位、10位スタートのセバスチャン ベッテルが5位。

 5周目にラッセルはストロールを抜いて3位に戻りますが、1周目の接触に対して5秒ペナルティーの裁定。ストロールの後ろにはペレスが来ていますが、1周目の混戦で軽く接触してウイングの右側の翼端板が壊れています。翌周にストロールを抜く際にちょうど壊れてすっ飛んでしまいました。抜こうとして斜め後ろに出ると乱気流がかなりすごいので部品が外れやすいと思われます。

 風向きがちょうどS字区間でほぼ追い風、しかも風速8m/sほどのやや強い風なのでフェルスタッペンは難しさを訴えます。全員にとって同じ条件ですが、急に強い風が吹くと失敗を招くので油断できません、スペインGPで立て続けに上位陣が同じ場所で飛び出した、というのがありましたしね。
 10周を終えてハミルトンとの差は4秒近くにまで開きましたから、当面の相手は人間よりも風です。藤井 風ではありません。そう、先週私は藤井さんのライブを見にパナソニックスタジアム吹田に行ったんですよ、誘われた側なので最近までほとんど曲も聞いたこと無かったんですけど、最新曲のGraceって良いですね。そして喋ると千鳥のノブもびっくりの岡山弁で、その独特の雰囲気がハマります。
 昨年発売された『きらり』はホンダの車・ヴェゼルのCMに使われていたので、ちょびっとだけホンダとの繋がりもあります。せっかくなので、昨年のライブで藤井さんがきらりを歌っている映像をどうぞ。


・1回目のピット サイクル

 中団勢は10周目あたりから1回目のピットサイクルとなり、12周目にはハミルトンに対して「ハンマー タイム」の指示。久々に放送に流れた気がするピーター ボニントンお馴染みの声と共に、この周を終えて上位勢で最初にピットに入りました。他の人がまだ入って無いので7位での復帰となります。
 フェルスタッペンとラッセルも翌周にピットへ。フェルスタッペンはギリギリでストロールの前でコースに戻ったので、S字で遅い車に引っかからずに済みました。ラッセルはここで5秒ペナルティーを消化したので見た目上9位へ。この後ピットに入ったペレスに逆転されて実質4位となります。レースの際には「サインツが横切って来た」と怒ってたラッセルですが、レース後は謝罪したとのこと。自分の非を認められるドライバーは強いと思います。
 概ねサイクルが一巡した17周目、バルテリ ボッタスがターン19で単独スピン。スナーバックス・オースティン支店にラーメンを売り込みにいって出られなくなったので、SC導入となりました。これで得をしたのがまだピットに入っていなかったルクレールで、本来ならピットに入るともっと後ろになるはずでしたがロスが少なくなって4位で合流。ハードでスタートしていた数台もここはピットに入りました。

・中盤戦

 リスタート順位はフェルスタッペン、ハミルトン、ペレス、ルクレール、ラッセル、ベッテル、ストロール。22周目にリスタートされますが、バックストレートで大事故が起きました。フェルナンド アロンソがストロールを抜こうと左へ動きましたが、ストロールがちょっと遅れて左に動いたので完全にタイヤ同士が接触。
 アロンソは前が浮き上がって後輪だけで数十mに渡ってウイリー走行しましたがなんとか浮き上がらずに着地。着地後に左側のガードレールに前後輪ともぶつけてるんですが、自走してピットに戻りウイング交換、なぜかレースを続行しています。F1ってNASCARの車両より頑丈なのでは^^;


 ストロールの方はスピンして大破。後続の車はスピンで起きた白煙の中から急に出て来るストロールを、破片の雨を食らいながらもなんとか回避して2次災害は起きずに済みました。幸運でしかなかったですね。もちろんSC導入です。

 26周目にリスタート、SC導入で上位進出の機会を得たルクレールが3位のペレスを狙いますが、いかんせんRB18は空力効率が良くて直線が速いのでDRSを使ってもなかなか抜けません。29周目の1回目の挑戦はブレーキを我慢しすぎてコース外へ。しかし続く30周目のターン12で内側に飛び込んでかわしました。やや遠い距離からの飛び込みに対し、ペレスがブレーキを踏みながら牽制で少し内側に寄せたのでちょっと怖い場面でした。

 同じころ、7位争いはピエール ガスリー、角田 祐毅、ノリス、ミック シューマッハーの4台で接戦でした。アルファタウリは自分たちで争わずに順位を維持し大量点を目論みますが、ガスリーはハード、角田はミディアムと戦略が異なるのでペースと順位があべこべ。
 しかもガスリーは先ほどのSC時に前の車と10車身以上開けてしまった疑いでペナルティーの可能性があり、それを考えてもペースの早い角田を前に出して逃がした方が利口なように思えます。次のタイヤはガスリーがミディアム、角田がハードなので、今入れ替えてもまた入れ替える必要が出て面倒くさいと思ったんじゃないかと思いますが、角田は無線でかなり怒っていた模様。結局32周目にガスリーへの5秒ペナルティーが確定し、この周に2回目のピットへ。ここから中団勢は2回目のピットサイクルとなりました。

 フェルスタッペンの方はリスタート以降操縦安定性に対する不満を繰り返し口にしており、ハミルトンとの差は1.7秒ほど。34周目、ハミルトンがピットに入ってアンダーカットを狙いました。当然これを受けてフェルスタッペンも翌周にピットへ。フェルスタッペンはとっておきのミディアムを投入しますが、レンチの故障か左前輪の交換で大失敗。アンダーカットを許すどころか同時にピットに入ったルクレールにも抜かれてしまい事実上3位に後退。これにはフェルスタッペンも思わず「美しい」。

・終盤戦

 39周目、フェルスタッペンはルクレールをかわして実質2位、ハミルトンとの差は4.4秒。ハミルトンの1.7秒前方にはまだ2回目のタイヤ交換をしていないベッテルがいて暫定のリーダーで、通算ラップ リード周回数が3500周を超えました。このまま行くとハミルトンはベッテルに追いつきますが、オランダGPではハミルトンの優勝を周回遅れのベッテルが阻んだところがあるので、今日はリード ラップ同士ですけど譲ってほしいところです。
 41周目、ハミルトンはベッテルに追いつきましたが、ターン1で完全に道を開けてくれました。レース序盤にも同じ場面があって同じ結果だったので譲ってくれるだろうとは思ってましたが、内心ホッとしました。で、ベッテルはこの後ピットに入りますが、左前輪の交換で大失敗し入賞圏外に一気に後退。

 残り10周、ハミルトンとフェルスタッペンの差はちょうど2秒。毎周0.4秒ほどフェルスタッペンが追い上げているので単純に考えて残り5周で追いつきます。見ているとコーナー区間では同等の速さで、2か所の鋭角なコーナー・ターン1と11の出入りで差があるように見えます。タイヤの性能差で縦方向のグリップに差があるわりに、コーナーだとフェルスタッペンもマネージメントが必要で極端に速く走れない感じでしょうか。
 そして残り7周、フェルスタッペンがハミルトンのDRS圏内に入りました。去年までの車ならS字で後ろに付いていけないのでここからが難しいんですが、さすがは新規定でフェルスタッペンはそのままバックストレートまでついて行ってDRSを使い、ブレーキングで少しラインを変えたハミルトンをターン12でスパっと抜いて、ピットでの大失敗を取り返しました。私から賛辞の言葉を送りましょう、「美しい」。

 抜かれたハミルトンですが直線の遅い車なのでDRSを使うと意外と踏ん張れる様子。後ろに付いて行きつつ、フェルスタッペンがトラック リミットを超えていると無線でチクりまくります。その甲斐があったわけではないですが、フェルスタッペンは累計で3回の違反となってブラック/ホワイト フラッグを振られ、次にやったらペナルティー。ハミルトンはなおもチクりまくります。
 だいぶリアがフラフラしてるのにトラックリミット監視員と化したハミルトン、自分も54周目には3回目の違反でリーチがかかりました。もうタイヤも無いしミスもできないのでここで大きく差が開き、フェルスタッペンはこれでコース幅いっぱいまで無理に攻める必要が無くなって、4つ目のストライクを宣告されることなく帰ってきました。
 マックス フェルスタッペン、今季13勝目は2004年のミハエル シューマッハーと2013年のベッテルに並ぶ年間勝利数の最多記録に並ぶものとなりました。通算33勝目。そしてレッドブルは2022年のコンストラクターズ選手権でもチャンピオンを獲得しました。フェルスタッペンはマイアミGPでも勝っており、アメリカで年間に2度優勝したのは1981年のアラン ジョーンズ以来です。この年はロングビーチとラスベガスでした。


 2位からトラックリミット監視員、ルクレール、ペレス、ラッセル、ノリスのトップ6。7位には車が飛びかけたアロンソが入りましたが、レース中に右側のミラーが吹っ飛んでいました。これに対し、ハースが「安全ではない車で走ってたから規定違反やろ、俺らいっつも修理を命じられてるのにご都合主義やぞ」と抗議。ハースはケビン マグヌッセンが翼端板の破損などで今季3回もオレンジ ディスク フラッグを振られて強制ピットを命じられており、ミラーがぐらついた状態で走った上に、最後にはすっ飛んだアロンソが許されるのは納得いきませんでした。
 するとFIAはこのハースの抗議を認めてアロンソに10秒停止のペナルティーが妥当と判断、レースが終わっているので30秒加算となり、結果は15位となってしまいました。アルピーヌはこの抗議に対して「レース中にオレンジディスクが出んかったっちゅうことは車は合法やし、そもそも抗議を出せる制限時間を過ぎとったから抗議自体が無効やろ」と異議を申し立てたため、結果は暫定となっています。

追記:アルピーヌの主張が認められてアロンソへのペナルティーは撤回されました。

 アロンソがとりあえず降格したという前提で、ベッテルがなんと7位。最終周に気迫でマグヌッセンを抜きました。ピットで失敗していなければノリスより前で帰ってきて6位だったかな、というところです。9位には角田で13戦ぶりの入賞、チームの曖昧な戦略でレースがダメになりそうでしたがなんとか粘りました。
 角田は2度目のタイヤ交換後に周 冠宇を抜けずに詰まりましたが、彼は2回目のSC中に2セット目のハードを投入してながーーーーーーーーい距離を走ることになっており、角田からするとガスリーの前に出してもらって飛ばしていれば、ひょっとしてタイヤを換えた後に前でコースに戻れた可能性もあったのではないか、と感じます。
 そもそもガスリーの10車身違反が良くなかった上に、ガスリーが前と離れたことに気付いて急いで速く走り始めたので今度は角田が置いて行かれ、リスタートの際には角田以降がやたらと離れてしまっていました。さらにガスリー陣営はピットで5秒ペナルティーを消化する際に急ぎすぎて0.5秒ほど早くジャッキを上げてしまい、そのせいで追加で10秒ペナルティーを食らうし、ちょっとチームとして管理がいろいろ不十分でした。このレースに限らず作戦は管理で疑問符が付く出来事が今季は多い印象なので、もうちょっとがんばれタウリン。


 今回のレースはハミルトンがとうとう勝てるか!?という場面は沸きましたが、ちょっと足りませんでしたね。本来ならサインツがあの位置にいて優勝を争っている必要があったのに1周で消えたのが残念でしたが、レッドブルが作業ミスして江夏の21球状態になったおかげで楽しく見ることができました。
 ただ、ストロールの進路変更はもとより、ペレスもハミルトンもブレーキングの中盤からゆるゆると相手の方へ寄って行く動きでけっこう危なかったので、防御する側のドライバーの振る舞いはもうちょっと考えて欲しいなと思いました。次戦はメキシコ、私は南北アメリカ大陸のレースは全部録画で見ることにしますw

コメント

カイル・プッシュ さんのコメント…
アロンソのウィリー、危なかったですよね(汗
ルマンのアウディみたいにならなくて良かったです。

タッペンにはもう1勝してもらって、年間勝利記録もをマックスにしてもらいましょう〜
SCfromLA さんの投稿…
>カイル・プッシュさん

 車が浮き上がったのが見えた瞬間、画面の前で「うああああああああ!!」って思わず叫んでしまいました。着地したのが飛ばないような構造になっているのか、偶然でしかないのか分かりませんが、あれだけで済んで良かったです。着地でかなり首とか腰とか傷めることもあるのに、アロンソおじさんっていったいどんな体してるんだろうか、とそちらにも驚かされます。