F1 第18戦 日本

FORMULA 1 HONDA JAPANESE GRAND PRIX 2022
Suzuka International Racing Course 5.807km×53Laps=307.471km
※規定時間到達により28周で終了
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull RB18-RBPT)

 F1第18戦、3年ぶりの日本です。この大会ではホンダがスポンサーですが、ここから今季最終戦までの間レッド ブルとアルファタウリの車両にもホンダのロゴが『復活』。レッドブルの代表・クリスチャン ホーナーがPU契約に関して思わせぶりな発言をするなど、なんだかホンダの2026年以降の復帰に含みを持たせるような行動が相次いで見られました。ちなみに現在発売中のオートスポーツNo.1577もそんな雰囲気を漂わせています。
 ホンダさんは『2026年以降の話とは無関係』って言ってますけど、雰囲気だけというのはよくある話で、一方で出ない出ないと言っておきながら出るのもよくある話です。個人的にこの会社のこういうブレるところが本社全体のここ10年ぐらいの問題では無いかと思いますがそれは別のお話。


 この週末はお天気が今一つで金曜日のフリー走行は雨。ただ日曜日も雨の可能性が高いので、データ集めのために各車それなりに走り込みました。
 土曜日は幸い晴れたので予選はスリックでのアタックとなりました。アルファタウリの2台は残念ながらブレーキに問題があってドライバーはずっとブレーキに不満を言い続けながらのアタックになり、ピエール ガスリーはQ1落ちして17位、角田 祐毅も13位。
 ピレリ ポール ポジションはマックス フェルスタッペンで、1回目のアタックで出した1分29秒304が最速でした。2回目はターン2の出口でミスったのが小窓の車載映像で見えたのでその時点であかんかったですね。
 シャルル ルクレールは1回目のアタックで前半を攻めすぎたと感じたのか2回目はS字を少し抑え気味に行きタイムを上げましたが、フェルスタッペンに僅か0.01秒届きませんでした。3位にカルロス サインツ、4位セルヒオ ペレス。エステバン オコン、ルイス ハミルトン、フェルナンド アロンソ、ジョージ ラッセルと続きました。メルセデスは抵抗が大きくて空力効率が悪いのが鈴鹿でデメリットになっているようです。
 さすがに鈴鹿は見慣れてるせいだと思いますが、「フェルスタッペンまだQ2だから攻めてないな」とか「ルクレールさっきよりS字を抑えてるな」とか、なんか車の動きからドライバーの意図が見えたのが個人的に面白かったです。

 Q3では各車がシケインの手前で車間を開けて渋滞が起きますが、フェルスタッペンが130Rの出口でいざアタックへとアクセルを踏んだら滑って左にふらつき、ちょうどそのタイミングでノリスが後ろから来ていてあわや衝突、ノリスがコース外へ飛び出す場面がありました。
 ノリスはバックストレートでじゅうぶん距離を取ったので、もうフェルスタッペンはいないだろうと思って加速して行ったら130Rを曲がった先にまだいたのでそのまま抜いてやろうとして交錯した感じです。
!?

 後ろから車が来ているのに、ミスとはいえいきなり急激な動きをして相手の車をコース外へ追いやったフェルスタッペンには訓戒、一方でノリスもアタック直前に前の車を抜いてはいけないという紳士協定を焦れて無視してしまったので、セッション後はお互いに批判し合うことになりました。もしフェルスタッペンが滑ってなくてもシケインで俺が前だの非難の応酬だったでしょうね。


 決勝は予想通りではありますが残念ながら雨になりました。気温18℃、路面温度21℃、全員がインターミディエイトを装着してフォーメーション周回に出ていきますが、方向性としてはさらに雨が強まりそうなのでとりあえず無事にレースが進むことを願います。
 スタートの蹴りだしが良かったのはルクレールでターン1までに完全にフェルスタッペンに並びましたが、お互いさすがに慎重に行ってフェルスタッペンが外ラインでルクレールを抑えました。水煙で3位以降がなんにも見えないぞ^^;


 中団ではアロンソの蹴りだしがやや不発でベッテルが左からコース幅スレスレでアロンソに並びました。しかしいかんせんコースの端っこなので車が滑りまくってその先の加速でアロンソに抜き返され、ターン1に入るところでブレーキを遅らせて外に再度並んだものの、アロンソから見れば斜め後ろから遅れて並ばれた形になっておそらく見えておらず、ホイール同士がぶつかる形で弾き出されました。ベッテルは復帰できたもののせっかくの予選順位が失われました。
 そしてセクター2に入って200Rでサインツが単独スピンしクラッシュ。他にも周 冠宇がスピンする、アレクサンダー アルボンがその先でいきなり車が壊れて止まる、サインツが跳ね飛ばしたロレックスの看板をガスリーが拾って前が見えなくなる、と事故こそ起こらないものの情報整理が追い付かない事態となり、SC導入の後2周目走行中に赤旗が掲示されました。


 一旦は14時50分に再開の情報が出たものの、雨が弱まらずにこれが延期されてさらに1時間以上待機。結局合計2時間ほど待機して16時15分にようやくレッドフラッグ解除で再び車両がSC先導でコースへ。ナウキャストを見ると大きな雨雲が部分的に凹んでる隙間があり、この時間帯はちょうどその部分に入るので雨量が減っているみたいですね。レースは一旦開始されるとそこから3時間までという規則があるので、制限時間はあと50分ぐらいです。
この時間帯の気象庁高解像度ナウキャスト

 タイヤは全員ウエットが義務でドライバーの印象としては条件は最初のスタート時よりはマシな様子です。6周目、残り時間40分ほどでSCが退出してリスタート、失うものが無い後方勢、ベッテルとニコラス ラティフィーがリスタートと同時にピットに入ってインターに履き替えました。翌周にノリスとボッタスもピットへ。これらのタイムからインター優勢と判断されて、7周目にフェルスタッペン、ルクレールをはじめ大多数がピットに入りました。
 ミック シューマッハーだけは最後までタイヤを替えずに、後ろで何か起きてSCが出てくれることを期待する他力作戦に出ますが周囲より7秒ぐらい遅いので動くシケイン状態。視界が悪いのでけっこう危ないです。残りは全員インターで走行し、最初に動いたベッテルが大儲けして6位に浮上、スタートでの損失を取り返してお釣りがきました。ミックは結局抜かれまくった後にタイヤを替えてこのレース17位でした。

 フェルスタッペンはルクレールより毎周1秒以上速くて15周を終えた時点で10秒差。しかし全体的にペースは下落傾向で、あと20分ほどでレースは終わるんですがタイヤも厳しくてピットを考えるところが出てきています。
 20周を終えるとフェルスタッペンとルクレールの差は15秒に開いて残り時間は12分、後方のドライバーはタイヤを替える賭けに出始めます。タイヤを替えたジョウがフェルスタッペンより3秒速いので確かに交換した方が速いようですが、入ると20秒失うので上位はそうそう動けません。
 残り10分、ルクレールに徐々にペレスが近づいて、リスタート以降ほぼ独りぼっちだった彼にようやく対戦相手が現れます。その12秒後方ではハミルトンがずっとオコンを抜けずに苦戦。この後24周目にはペレスもルクレールに追いついて2位と4位の争いが接近戦となります。

 フェルスタッペンはなんならピットに入って新しいインターミディエイトでファステストを狙いに行けるぐらいルクレールとの差が広がりましたが、28周目に入ったところでお時間となり、あまりにルクレールとペレスが激戦を繰り広げているので映像がそっちを捉えている間にフェルスタッペンがチェッカーを受けました。
 ペレスはルクレールを抜けないまま終了、と思ったらシケインで画面から消えました(;・∀・)止まり切れずに内側を通り、そこから2位のままペレスの前に戻ってきて最後は押し出し気味にペレスを抑えて見た目上は2位でチェッカー、でも絶対あかん気がするw

 レース後すぐ審議になって、わりとすぐにルクレールに5秒加算のペナルティーが出ました。これによりペレスが2位、ルクレールが3位と変わりレッドブルの1-2、そしてその瞬間にフェルスタッペンの2022年のドライバー チャンピオンが決定しました。4位からオコン、ハミルトン、ベッテル、アロンソ、ラッセル。なんと、ラティフィーが早期のタイヤ交換のおかげで9位に入りました。そのせいかレース後になぜかちょっと陽射しまで出てきましたw


 フェルスタッペンは一人だけペースが別次元でみんなお手上げという感じでした。たしかルクレールは対ペレスで2020年、2021年と雨のトルコGPで2年連続ブロックしようとして自分から濡れた路面を踏んで自滅していたので、またやらかすんじゃないかと勝手に思っていたんですが、今回はライン上を走って失敗したので、チャンピオンを獲るには車だけでなく、ドライバーとしてもまだまだ及ばないところがあるんだろうなあ、という印象を受けました。

 レース後はいくつかの規則で放送席も混乱しました。まずレース終了時間について、2時間レースになった場合には『2時間+1周』でレースが終わるため、今回も時計が0になってからもう1周かと思ったら、今回はそうではありませんでした。F1世界選手権競技規則2022(日本語版)にはこう書いてあります。該当部分だけ抜粋します。

5.4)  所定のレース距離が走破される前に2時間が経過してしまう場合は、2時間が経過し終えた周回の次の周回終了時点で先頭車両がコントロールラインを通過した時にセッション終了合図が表示される。ただし、これによって予定された周回数を超えることがないことを条件とする。下記の状況下でのみ、上記について例外がある:

b) レースが中断された場合、中断の長さは3時間の最大総レース時間を上限とし、この時間に追加される。

 2時間レースであれば2時間+1周だけど、その前に3時間に引っかかった場合は3時間の時点でチェッカーなんですね。今回フェルスタッペンは残り時間5秒ぐらいで新しい周回に入ったんですが、これが時間とあまりにピッタリだと今の周で終わったのか終わらないのかで混乱して、後からダブル チェッカーで失格だなんだとまた混乱するので、考える時間を作るためにも個人的には常に+1周は欲しいなと思うんですけど^^;

 で、次に世界で混乱が起きたのがポイント制度でした。私はこの瞬間まで全然知らなかったんですが今季に向けて競技規則のポイント獲得制度について変更が行われていました。2021年のベルギーGPで雨により実質何もしない3周だけの消化でレースが成立、通常の半分のポイントが付与されました。規則上、レースの成立する2周を超えると、75%までの周回消化は全て通常の半分のポイントという規則だったためですが、『ほとんど何もしてないのに半分も貰えるの?』と疑問が出ました。
 お客さんからすると「ワシらは散々待たされて寒い思いして金だけ獲られて何も見れんかったのに、お前らはぬくぬくと通常営業かオラア!俺らの入場料金も半分返さんかいボケエ!!」とまで思ったかどうか分かりませんが、温度差はあったと思います。
 そのため、2022年から規則が変更されて、レース成立要件の2周以上を走行した場合のポイント付与を走行距離に応じて4段階に細分化。2周以上25%未満、25%以上50%未満、50%以上75%未満、75%以上、という4段階に変更されていました。今回は50%ちょっとの周回数だったので3段階目にあたり、優勝は19点、3位のルクレールは12点だと思われました。
 このレースでフェルスタッペンがチャンピオンを決めるにはルクレールより8点多く獲得する必要があったので、1点不足して次戦に持ち越しだろうと思ったら国際映像は通常のポイント配分でフェルスタッペンがチャンピオンだとしきりに言い始めたので、おいおいちょっと待て、という話になりました。ところがこの規則を読むとこう書いてありました。

6.5) 決勝レースが本規則第57条により中断され、再スタートができなかった場合、以下の基準により各選手権タイトルのポイントを付与する。

 そう、規則には『再スタートができなかった場合』という但し書きが付いており、赤旗でピットにいる間にレースが終わってしまった場合にしか適用されない規則でした。参加者すら把握できていない事態で結局はフェルスタッペンに25点、ルクレールに15点となったので、フェルスタッペンのチャンピオンが決定しました。

 この問題、『昨年までの規則から変更した際に変な規則の穴が出来た』というように今のところ言われているみたいですが、本当にそうかなと思って去年の競技規則を取り出して当該部分を読んでみたところ、
 文頭の『決勝レースが本規則41条により中断され、再スタートが出来なかった場合』という言葉がそれ以降の全ての説明にかかってくるのなら、去年までの規則も言っていることは同じでコース上でチェッカーさえ受けていれば消化周回数は配点に影響しない規則のようにも読み取れます。遡って検索したら1994年の規則(原本がなく転載サイトですが)でも、独立して第22条に

If a race is stopped under Articles 143 and 144, and cannot be restarted, no points will be awarded in case A, half points will be awarded in case B and full points will be awarded in case C.

レースが規則143と144の定め(注:レースの再開手順について書かれている)に従って再開されない場合、ケースA(2周未満で終了)では点数は付与されず、ケースB(2周以上75%未満)では半分のポイント、ケースC(75%以上)は全てのポイントを与える

と書いてあるので、そもそもF1の競技規則には『規定された周回数に全然届かないけど赤旗で打ち切られるわけでもなく、時間制レースでチェッカーを受ける』という状況が想定されていなかったのではないか、という気もします。
 試しに前例を調べたところ、過去に周回数が規定の75%未満だったレース自体が非常に少なく(Wikipediaによれば今回の鈴鹿を含めて7例)、このうち5例は事故や悪天候による赤旗でそのままレースが終わったものでした。唯一の例外は1975年のオーストリアなんですが、このレースは記録によれば『雨が酷くなってきたのでオフィシャルが早期にチェッカーフラッグを振った』とされており、おそらく現代ではあり得ない『規定周回到達前に運営がレースを終了させる』という事実上の赤旗でした。つまり、今回の鈴鹿のようなケースは長いF1の歴史でも初めての出来事だったと思われます。
 ちなみにSUPER GTの2022年の競技規則だと、第7条の3に不可抗力によるレース中止の場合の取り扱いという項目があり

(1)先頭競技車両が2周回を完了する前にレースが中止された場合はレースは成立せず、各決勝シリーズのシリーズ得点は与えられない。
(2)先頭競技車両が2周回を完了し、かつ走行距離が当初のレース距離、もしくは当初のレース時間の75%未満でレースが中止された場合レースは成立し各決勝レースのシリーズ得点の半分が与えられる
 
 とあり、中止の意味するところがチェッカーフラッグによる早期終了であると解釈すると、75%未満は半分ポイントです。実際に今年の富士のレースでありましたね。特に『レースが再開されない場合』というような文言を見当たらないです。

 規則に関してはダメ元で何かしら問い合わせとかしてみて、何か分かったら記事の追記、変更を行うかもしれません。(もしご存知の方がいらっしゃればコメント大歓迎です、F1GPニュースでは取り上げて欲しい!)

 次戦は2週間後のアメリカ、そしてメキシコへと続く2連戦です。

コメント

okayplayer さんの投稿…
毎度SC研究所の調査力がすごくて脱帽です笑笑
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん

 気になったら調べるのがズラスポ流です 笑
モータースポーツ系サイトでも、今回の鈴鹿のケースが史上初であるというような記述は見当たらないので案外誰も取り上げていない様子なんですが、「素人でも分かるんだからもうちょっと突っ込んで書いてよ」と思いますね