F1 第14戦 ベルギー

FORMULA 1 ROLEX BELGIAN GRAND PRIX 2022
Circuit de Spa-Francorchamps 7.004km×44Laps=308.052km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull RB18-RBPT)


 長いと思っていた夏休みはあっという間に終わりました。F1は後半戦が開幕、第14戦はベルギーです。学生の皆さん、が読者様の中に一体何人いるのか分かりませんが、宿題は終わりましたか?
 スパ-フランコルシャンはオフの間に大規模な改修工事を行い、高速で重大事故がたびたび発生していたオー ルージュ~ラディオンの区間でコース外の面積を拡大させる、再舗装する、一部のコース外にあえて砂場を作る、などの安全目的の変更が行われました。コースのレイアウトや全長には変化がありませんが、ターン1の外側に砂場ができたので危ないからといって外へ避けるとハマる場合があります。
でもこのコーナーは決して安全ではないので油断大敵


 このレースではPUやギアボックスの交換が相次ぎ、予選終了までの段階でマックス フェルスタッペン、シャルル ルクレール、ミック シューマッハー、エステバン オコン、ランド ノリス、バルテリ ボッタス、周 冠宇にグリッド降格のペナルティーが発生。さらに予選後に角田 祐毅もPU交換を行って、こちらはピット レーンからのスタートとなります。

 というわけで既に上位スタート不可能な人が多い中での予選でしたが、フェルスタッペンは圧倒的な速さで最速を記録しました。一方フェラーリの方はQ3でルクレールがカルロス サインツを引っ張るつもりでしたが、決勝に残しておくはずだった新品のソフトを使ってしまったようで

ルクレール「何でこのタイヤなん?」
ザビエル マルコス「すまん、間違えた」

フェラーリ、夏休み明けで寝ぼけている模様。誰か気づけよw

ルクレール「ほんでワシはこのタイヤでどうしたらええのん?」
マルコス「それな、ラップ完了させて」
ルクレール「ラップ完了するんやな」
マルコス「そうそう、ラップ完了させて」

 予選の段階で早くもフェラーリのコントを見せられてお腹いっぱいですが、グリッド降格を確定させた上でのスタート順位はサインツ、セルヒオ ペレス、フェルナンド アロンソ、ルイス ハミルトン、ジョージ ラッセル、そして驚きのQ3進出を果たしたアレクサンダー アルボンが6位です。何せQ3に進んだ10人中4人が降格組だったので、何もしなくても6位が確定していました。ウイリアムズ、入賞のチャンス到来。
 降格組では交換するエレメントが少なかったボッタスが13位、予選最速のフェルスタッペンが14位、15位にルクレールです。アルファタウリはピエール ガスリーも決勝スタート前に不具合により車をガレージに戻してしまって、角田とともに2台ともピットからのスタートになりました。もう勢力図ぐちゃぐちゃ。


 決勝、気温は21℃ですが路面温度は36℃、タイヤはサインツがソフト、以降は大半がミディアムを選んでのスタート。ペレスは思いっきり内側に車を向けてスタートしましたが蹴りだしが不発。その状態でアロンソに抜かれまいとさらに車を右に寄せていったのでトラクションがかからない悪循環になり、ドバドバ抜かれてしまいました。
 スタートからターン1は比較的落ち着いていましたが、レコームでの争いでアロンソとハミルトンが接触。ハミルトンはアロンソに外からかぶせていきましたが閉めすぎて、タイヤ同士がまともに当たってハミルトンの車が完全に飛び上がりました。

アロンソ「あいつぶつけてきやがった、馬鹿か。外からドア閉めてくれやがった。せっかく抜群のスタートだったのによ。こいつ1位からのスタートのやり方しか知らねえなあ」

 これで車が壊れたハミルトンはセクター3で車を止めてしまいます。接触に関してはレース後に謝罪しました。無線でアロンソがボロカス言ってたことは気にしないそうですw



 さらに2周目もレコームの出口でニコラス ラティフィーがスピンし、たまたま通りかかったボッタスに命中。ボッタスは全く避けようもない100%被害者で砂場にハマってしまい、これでハミルトンとボッタス、コース脇に2台の車が止まってしまったのでSC導入となりました。ボッタスはこの日が誕生日でしたがロクでもないプレゼントが飛んできました。

 スタートの混乱もあって9位に順位を上げていたルクレールでしたが、右前から煙が出ていると訴えかけてSC中の3周目にピットでタイヤ交換。ブレーキのダクトに捨てバイザーが詰まってしまったようです。タイヤはソフトからミディアムへ。

 5周目にサインツ、ペレス、ラッセル、アロンソの順でリスタート。フェルスタッペンが既に8位です。リスタートからラッセルがペレスを狙っていましたが、サインツもラッセルを狙ったので結果的にペレスが救われました。順位変わらず。一方フェルスタッペンはこの周にアルボン、ダニエル リキャードとかつての僚友2人を続けてあっさりかわしもう6位。最速の車とドライバーでタイヤもソフトなので中団の車では相手にならないし、争う意味が無いので抜かれる方もたぶん譲ってますね。

 フェルスタッペンは8周目にはラッセルも抜いて3位、サインツより1秒以上速いアホみたいなペースで追いついています。ただソフトを履いたサインツもフェルスタッペンも、それぞれ無線で「デグラデーションが高い」と訴えているので摩耗はかなり進んでいる様子。確かにフェルスタッペンも1分51秒台の最速を出したかと思ったら数周で53秒台に転げ落ちています。それでもミディアムのペレスより速いので、元々が異次元になっています。

 11周目、サインツは先にピットへ。フェルスタッペンはペレスに詰まってしまいやや不満気でしたが、12周目にはさらっと抜いてスタートから30分と経たないうちに14位からリーダーになりました。

 フェルスタッペンはペースが落ちているとは言っても53秒台あたりで踏ん張ってそこそこのペースを維持。14周目に先にペレスがピットに入り、フェルスタッペンは15周まで引っ張りました。ペレスはピットを出た直後にルクレールとの争いになり、レコームへのブレーキングでペレスが寄せすぎて軽くタイヤとウイングの端が接触。これはちょっと危険だと思いました。

 これでサインツは先頭に戻って4秒の差を持っていますが、4周の履歴差がある上にフェルスタッペンの方がタイヤがもちそうなので逆転は時間の問題。17周目にサインツより2.4秒も速く走ったフェルスタッペンはあっさりと追いついて、18周目にリードを取り返しました。
 21周目にはペレスもサインツをかわして赤牛さんワンツー体制。戦略ももうみんな同じなのでサインツは打つ手がありません。それどころか4位のラッセルのペースが明らかにサインツより速いので、まだ7.5秒も後方にいますが頑張らないとつかまってしまうかもしれません。

 26周目、ラッセルが4秒後方にまで迫ってきたところでサインツは抜かれる前にピットへ。ミディアムからハードへ繋ぎました。ルクレールも続けてピットに入りますが、こちらはミディアムを選択。無線で5位狙いだとはっきり言われているので無理に飛ばして攻める必要性はありませんが、

 フェルスタッペンの方はペレスより毎周1秒早いという、彼だけ燃料流量制限を受けていないんじゃないかとインチキを疑いたくなるレベルの異常なペースで快走してペレスと11秒差。ペレスの役目はフェラーリをしっかりとカバーしておくことなので27周目にピットに入り、ハードを履いてサインツの前に戻りました。
 サインツと3位を争うラッセルは29周目にピットへ。ミディアムを連投していたので選択肢はハード一択。先にサインツがピットに入ったので差は9秒に開いていますが、ここから追い上げ直しで残り15周です。もう別に何をどうしても全然関係無いフェルスタッペンは30周を終えて2回目のピットに入りました。
 
 サインツはやっぱりラッセルより1秒ほど遅いペースで走っているので追いつかれそうな流れ。

リカルド アダミ「さっきの周は良いペースだったぞ」
サインツ「なあ、俺、さっきの周も目一杯なんだけど」

 かなり荒い息で本当に必死の様子。たまらずサインツ「3ストップにした場合どうなる?」とまで質問。その場合4位に落ちるだけなのでラッセルに抜かれるのと結果は同じです。5位はチームメイトのルクレールでまだ差があるので、ラッセルにやられるまではとりあえず耐えて行けばよさそうです。

 サインツとラッセルは2秒差になりましたが、ここで両者のペースは膠着。2秒前後で全く動かなくなってレースは最終盤へと向かいます。2秒だとある程度スリップストリームも効くので、もしラッセルが優勢ならさらに一歩追いつくはずですから、お互いに目一杯だろうと想像できます。
 
 レースは残り3周、ルクレールはせめてファステストの1点を獲ろうとピットへ。ところが後ろのアロンソとの差がフリー ストップにはあまりにギリギリだったため、ピットを出たら真後ろに来てしまい、ストレートでDRSを使って抜かれてしまいました。これはマズい。

 フェルスタッペンは結局ペレスに17秒以上の大差をつけてトップでチェッカーを受け通算29勝目、ペレスが2位に入ってレッド ブルは今季4度目のワンツー達成。フェルスタッペンは前戦ハンガリーでも10位から優勝しており、2戦連続で10位以下からスタートして優勝したのは、ブルース マクラーレン以来F1史上2人目の珍しい記録です。
 マクラーレンは1959年最終戦アメリカで10位から、翌年の開幕戦アルゼンチンで13位から優勝しています。ですからフェルスタッペンの10位、14位というのは新記録(?)ですね。ちなみに1959年のアメリカGPは歴史上たった一度きりのシーブリングで開催されたイベントでした。


 サインツはなんとか3位を守りラッセルが4位。ラッセルはちょっとしたミスでタイヤが作動温度領域から外れてしまい、そこからペースを取り戻せなくなったようで、3位になれると思っていたのでかなりがっかりしていたみたいです。
 そしてルクレールは最終周にアロンソを抜き返して事なきを得ましたが、セクター1で速くなかったせいもあってフェルスタッペンが持つ最速には0.6秒ほど届かないタイムにとどまり、フェラーリはただ冷や汗をかいただけになりました。
 で、これで終わればまだ良かったんですが、ルクレールはなんとピットレーンで速度違反をやらかしており、レースが終わってほどなく5秒加算の宣告を受けました。これで正式結果はアロンソの後ろの6位。ファステストを狙いに行った結果、余分にポイントを2点失ってしまいました。速度違反は序盤にダクトが詰まってオーバーヒートに見舞われた際に、巻き添えで車速のセンサーが故障したことが原因だったと後程分かりました。

 グリッド降格組のオコンが7位、セバスチャン ベッテルが8位、そして危うく故障でスタートできないところだったガスリーがなんと9位に入り、10位は予選の結果を活かしたアルボンでした。アルボンはレース終盤に5台を引き連れたサザエさんエンディング状態でしたが、直線の速い車両特性を活かしてミスなく走り逃げ切りました。今季3度目の入賞です。

 フェルスタッペンはまさに異次元のレースでした。ホンダがマクラーレンに供給を開始した2015年には、エレメント交換数が多すぎて60グリッド降格とかになり「真面目にやったら60グリッドってどこからスタートするんだ」みたいなジョークがありましたが、正直今日のフェルスタッペンは一人だけバグでブランシモンからスタートしても勝ったんじゃないかと思うぐらいの速さでした。実際にはSCが一度入ったことが影響しているのでそんなに簡単ではないですけど。
 一方のルクレール、最後のファステスト狙いの作戦は評価が難しいところです。普通にやったらもうチャンピオン争いでフェルスタッペンに対抗するのは難しいので、あらゆるリスクを承知で稼ぎに行かないといけない、というのは確かです。速度違反もたまたまセンサーが壊れていたせいでしたから、『良くてファステストで1点追加、仮にアロンソに抜かれてもじゅうぶん抜き返せる』という判断が間違っていたというわけでもありません。
 他方で視点を変えると、もうチャンピオンは絶望的な中で今さらリスクを背負ってまで1点を回収しに行く必要性がどこまであったのか?というところ。タイヤ交換で失敗して3秒失うこともありますし、アロンソに抜かれる可能性がそこそこ高いという条件下で根本的にそれは『ファステスト狙い』になっているのか?というのもあります。速度違反が無くて無事5位だったとしても、個人的にはあまり賛同できない作戦だなと思いました。

 夏休み明け早々に予選から笑いをとったフェラーリは珍ストラクターズ選手権でレッドブルに3倍ぐらいの点差を付けて独走していると思いますが、現実にはコンストラクターズ選手権でレッドブルに118点差を付けられ、メルセデスは41点差で後ろから狙っています。もはや前ではなく後ろを見て戦うべき時かもしれません・・・

 次戦はフェルスタッペンの母国オランダ。そういえばフェルスタッペンの母親であるソフィー クンペンがガレージで観戦していましたが、ソフィーさんはベルギー出身なんですね。ソフィーさんはカートでベルギー国内チャンピオンになった実力者で、実はマックスの成長にはヨス フェルスタッペンよりも彼女の英才教育が光ったのではないかとも言われています。
 ヨスと2008年に離婚したソフィーは2013年にフォルミド スイフト カップというスズキ スイフトのワンメイクレースに出場してかなり久しぶりにモータースポーツの世界に戻りました。カートを経験した後ヨスと結婚してレースをやめたので4輪レースは未経験だったんですが、ザンドフォールトで行われたこのレースでクラッシュして椎骨を骨折し、彼女の4輪レース生活は極めて短いものとなったそうです。
 ソフィーの弟のアンソニー クンペンは皆さんご存知の通り2014年・2016年にNASCAR Whelen Euro Seriesでチャンピオンを獲得し、エクスフィニティー シリーズにも出場経験のあるドライバーです。ただ2018年のゾルダー24時間レースで禁止薬物であるアンフェタミンに陽性反応を示したことで4年間の出場停止となり、以降はあまりレース活動をしていないようですね。。。

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