FE 第12戦 ニューヨーク

ABB FIA Formula E World Championship
2022 New York City E-Prix
Brooklyn Street Cuircuit 2.32km
45minutes+1Lap
winner:António Félix da Costa(DS Techeetah/DS E-Tense FE21)

 ABBフォーミュラE、ニューヨーク2連戦の2戦目です。前日は決勝でのゲリラ豪雨で最後に大荒れとなりましたが、幸い怪我人もなく車両も修復されて日曜日を迎えました。といってもニック キャシディーとストフェル バンドーンは車が大破したので新しいサバイバル セル(モノコック)を使用しています。本来は交換できないものですが、不可抗力であることと、そのまま使うと安全上問題があるため特例措置です。
 本来サバイバルセルはシーズンで1つだけにしないといけないので、両チームは当該品をこの後改めて調査し、修復して使用可能であるならば再利用する必要があるみたいですね。バンドーンはパワートレインも予備と積み替えたそうですがペナルティーを受けていないのでおそらく旧型を積んだと思われ、もし事故品が使えないとなるとこの先のレースで新品を入れてペナルティーを受けるかもしれません。F1と同様に部品にはそれぞれ年間の使用基数制限があり、部品によって数は異なりますが例えばDCDCユニットなどは年間2基しか使えません。
無事にフリー走行を走るキャシディー


 この日もまたグループ予選から波乱が頻発しました。まずA組では選手権1位のエドアルド モルターラにブレーキ バイ ワイヤーの問題が起きたようで計測すら行えず脱落。さらに最後のアタックで選手権3位のジャン エリック ベルニュも壁にぶつけてしまい、はやくも選手権上位勢から2台が後方スタート確定となりました。
 B組はルーカス ディ グラッシが最速だったものの、安全のために設定された『ピットに入ったら最低100秒間は滞在しないといけない』という規定に反したために最後のアタックのタイムは抹消され脱落、繰り上がりでアンドレ ロッテラーがデュエルスに進みます。なんかディグラッシって変なペナルティーを食らうことが多い気がw

 デュエルスの準々決勝では選手権2位のストフェル バンドーンがキャシディーに敗れ、選手権4位のミッチ エバンスもアレクサンダー シムズに0.006秒及ばず敗退。選手権の上位4名は誰も予選で上位4台に入ることができませんでした。

 デュエルス決勝はキャシディーがアントニオ フェリックス ダ コスタを見事な走りで破って2戦連続でのポール ポジションを獲得、かと思われましたがそうはなりませんでした。実はキャシディーは多くの部品を交換した際に、年間4基に制限されているRESS(バッテリー)用ラジエーターの5基目を投入しておりペナルティー対象でした。
 FIAはもちろんこれを知っていたわけですが、フォーミュラEでは『グリッド降格ペナルティーは、消化しきれなかったらレース開始後に追加のペナルティーで消化する』という、F1ではだいぶ前に廃止された制度を今も採用しています。未消化のグリッドが10以下ならドライブスルー、11以上なら10秒停止となっていて、このため『ペナルティー内容はグリッドが確定するまで正確に決まらない=お知らせは予選後』という、なんだか頭の固い方針を採っている模様。
 そのため予選が終わってから後出しじゃんけんみたいにペナルティーが発行されたという流れのようです。チーム側はもちろん5基目のRESSラジエーター投入を知っているわけですが、これはキャシディーのせいではなく後続車両がぶつかったことで壊れた不可抗力なので例外になるはずだ、と主張していたらしく、結果として『予選が終わってから急に知らされた』ような形になったものと思われます。
 サバイバルセルは安全上の観点から例外規定が設けられている一方で、パワートレインの各構成部品については安全上の問題とは別扱いなので、よっぽど誰かが意図的に破壊したとか、ゲリラ豪雨でガレージが冠水して壊れたとか、そういう事情でないと認められないと思われます。


 連続ポールに喜ぶチームのスタッフさんと、その1時間ほど後に残念なお知らせをするエンビジョン レーシングのツイートを拾ってみました。一番手前にいるちょっと所ジョージみたいな感じの人がチームのマネージング ディレクター兼最高技術責任者のシルバン フィリッピです。

 というわけでキャシディーは記録上のポールと3点だけ貰って30グリッドの降格(!)となり、最後尾スタート+ドライブスルーが確定。スタート順はダコスタ、シムズ、ロッテラー、セルジオ セッテ カマラ、バンドーン、エバンスのトップ6。7位にニック デ フリースがいるのでメルセデスとしては大量点のチャンス、そしてなんとアントニオ ジョビナッツィーが自己最上位の11位です。ドラゴン/ペンスキーが比較的予選で速かったですね。

 決勝、アタックモードは8分を1回だけ。前日は奇数列が圧倒的有利だったので、偶数の人はなんとか順位を守って1周目を終えたいところ。ところがスタートではなんと3位のロッテラーが全く動きませんでした。原因は、シグナルが消える前にうっかり車が動いてしまって急ブレーキを踏んだためでした^^;
 後続車両は回避して事故にはならず、ロッテラーもずいぶんと遅れて発進。この混乱でダコスタ、シムズは順位を維持。バンドーンは危うくロッテラーに突っ込んでレースが終わるところでしたがギリギリ避けて3位、セッテカマラ、デフリースが続きました。エバンスは7位に順位を下げてしまいました。偶数列はやっぱり不利っぽい^^;

 3周目、デフリースはセッテカマラをかわしてメルセデスEQが3・4位へ。一方スタートの混乱でジョビナッツィーは9位に浮上していたものの、ペースが遅くて後続の蓋になっていました。3周目にロッテラーがジョビナッツィーをかわして9位となりますが、この頃にはもう8位のロビン フラインスとの間に大きな空間ができてしまいました。フラインスは無料でアタックモードを獲得できる状況ですが、いかんせん8分を1回の設定なので、フリーだからといって安易に入りにくいという問題があります。なおジョビナッツィーはどこかで接触事故があったらしく、この影響でリタイアしています。

 10周目、エバンスがずっと狙っていたジェイク デニスをようやくかわすと、続く11周目のターン1でフラインスもデニスをかわしてようやく順位変動が起こります。するとこの周、開始から13分というところでデフリースとセッテカマラが同時にアタックへ。デフリースは自分の後ろのドライバーも同時に入ってくれたおかげで全く順位を失わずに合流しました。
 これで一気にアタックのサイクルとなり、翌周にリーダーのダコスタと2位のシムズが同時アタック。さらに翌周にバンドーンとエバンスも入って一気に消化が進みました。これで見た目上の順位はダコスタ、シムズ、バンドーン、デフリース、セッテカマラ、エバンス。この後アタックモード同士でエバンスがセッテカマラをかわして5位に浮上します。基本的にお互いにアタックの時は抜きにくいので、あとはアタック切れのタイミングを待つか持久戦に持ち込むかになってきます。

 エバンスの積極的なレースは続き、残り25分ではこれまたアタックモード同士でありながらデフリースをターン6で抜いて4位へ。バンドーンとすればデフリースに壁になってほしかったところですがそうはさせませんでした。ただしエバンスもこれだけ続けて追い抜くとエナジーは少し使わされています。

 残り21分、1位ダコスタと2位シムズのアタックが切れ、1周後から入った3位のバンドーンは追い抜きの機会を迎えましたが、そうはいってもチャンスは1周だけ。シムズはブロックして持ちこたえ、前に出ることはできませんでした。ダコスタ、シムズ、バンドーン、エバンス、デフリースの上位5台が抜け出してレースは残り20分です。
 残り19分、ターン6でシムズがリフトした隙をついてバンドーンがシムズをかわしました。こうなると急いでついて行きたいエバンスはヘアピンで外からシムズを狙いましたが、外から狙ったがために空いた内側にデフリースが乱入。しかしバンドーンは突っ込みすぎでシムズを少し小突いてしまい、エバンスは小突かれたシムズが自分に当たりそうになったので避けるしかありません。結果、シムズは抜けないわデフリースには抜かれるわで大損をしてしまいました。
 エバンスは翌周のターン6でデフリースを抜こうとしたものの、ブレーキ直前にデフリースが左に寄せたので路面の端まで追い込まれ、とんでもない路面の凹凸で飛び跳ねた上に猛烈な埃を拾って全くブレーキで止まれずスピン寸前。しかしギリギリで持ちこたえ、しかも後続と差があったので順位を下げませんでした。ほとんどダートを走ってるみたい^^;


 残り10分、ダコスタ、バンドーン、シムズ、デフリースのトップ4は変わらず。後ろでがちゃがちゃとやってるので全然何も起きませんが、ダコスタは優勝に近づいてきました。
 残り9分30秒、デフリースが執拗に付け狙っていたシムズをターン6で抜こうとしますが、今度は自分がエバンスと同じパターンにハマって自滅。こっちもギリギリ持ちこたえましたがエバンスにかわされてしまいます。実況のジャック ニコルズは「おそらく、デフリースはエバンスがこうなったのを見れていないので知らなかったんでしょうね」

 ところが翌周、デフリースは今度は後ろからサム バードに狙われて、今度はブロックのためにまた内側に行って、またジャンプ台に乗って止まれず。追っていたバードも一緒にジャンプしたんですが、バードの方がまだなんとか止まれたのでまた抜かれてしまいました。
 これには解説のダリオ フランキッティーも思わず「デフリースは学習しなかったんでしょうか。同じことをやってます。」。これ、エンジニアが走らないように注意しないといけなかったのでは、というか自分で気付かなあかんか・・・w

 残り5分、エナジー残量はほとんど変わらない様子ですが、2位のバンドーンにはエンジニアのスティーブン レインから無線で「ダコスタはディレーティングを起こしてるかもしれん」。ディレートというとメルセデスのF1チームでは加速中にMGU-Kのアシストが切れる現象を指す言葉なので、たぶんリフト位置が早くなっていることを指していると思われます。
 一方エバンスはシムズを抜きにかかって、残り4周というところでとうとうかわしました。もうこれ以上はエナジーを使って前を追えないのでエバンスは3位維持が最重要任務です。

 残りは3周を切り、どうやら残量で僅かに上回っているらしいバンドーンがダコスタを抜けるのかが大注目でしたが、ここでイエロー フラッグの情報。さて何が起k
!?

 多重事故が起こり、一時完全に通行止め状態になる大混乱。なんとか車が動いたものの、壊れた車両が何台か退避路近くで停止。壁から車が顔を出していて、本来ならFCYで排除作業を行うべき事案ですが、フォーミュラEはレースの終盤だとダブル イエロー フラッグで「気を付けて走ってね」でやり過ごします。結局2か所がそんな状態で、こうなると追い抜きどころではなくあとはエナジー残量勝負に。
 リーダーのダコスタはバンドーンより0.5%以上も残量が少ないので何かミスると最後の最後に抜かれかねない状況ではありましたが、計算通り0.0%でチェッカーを受けて今季初勝利を挙げました。エバンスも最後はカツカツになってシムズと0.1秒差の3位でした。
 シムズは表彰台こそ逃しましたが、4位は自身とマヒンドラ レーシングにとって過去最高の数字です。彼は少し前にフォーミュラEでのレースを楽しむことができなくなった、といった理由から今季限りでこのレースを離れることを明らかにしましたが、今季最高のパフォーマンスを見せました。
 バードが16位スタートから5位、そしてモルターラは21位スタートから10位に入り、彼は最速ラップも記録したのでなんとか駆け込みで2点を手にしました。ただ、バンドーンが2位に入ったので選手権1位の座は失うことになりました。この2人はいずれもアタックモードを終盤まで使わず、序盤は徹底して抑えた走りから後半に一気に順位を上げていました。
 セッテカマラは序盤は上位にいたものの、明らかに1周分計算がズレてるぐらい序盤から消費量が多く、結局は完走した中で最下位の17位でした。

 昨日の第11戦の記事では、4分のアタックが位置的に中途半端で抜きにくいと書きましたが、じゃあ8分ならどうかと思ったら、アタックではないところでの追い抜きが多かったですね。アタック同士でデフリースを抜きに行ったエバンスはお見事でした。
 その時のドライバーの組み合わせや効率の具合で追い抜きの回数は変わってくるので8分だったから増えたのかどうかは検証不能ですが、時間が長い設定の時に先に使うとだいたいレース後半にやたらと抜かれてしまうので、ちょっと後まで取っておく作戦は比較的有効に機能したと思われます。上位勢は自分だけ変なことをやって大失敗したくないので、せいぜい2~3周しかズラせないんですよね。

 残り4戦、ドライバー選手権は

VAN 155(+30)
MOR 144(+5)
EVA 139(+15)
JEV 128(0)
※()内はニューヨーク2連戦での合計獲得ポイント

となりました。ベルニュは4人の中で唯一ニューヨーク2連戦で1点も獲ることができず2位から4位へ後退。それでも『まだ27点差』とも言えます。次戦は7月30日、31日にロンドンでのレース。昨年に続いて展示場であるエクセル ロンドン、レースを見ながら時々鉄道まで見られるコースですが、昨年事故が相次いだ異様に狭いヘアピンは撤去されてシケインに変わるそうです。

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