FE 第11戦 ニューヨーク

ABB FIA Formula E World Championship
2022 New York City E-Prix
Brooklyn Street Cuircuit 2.32km
45minutes+1Lap
winner:Nick Cassidy(Envision Racing/Audi e-tron FE07)

 ABBフォーミュラEのシーズン8は残り6戦、ここからは2連戦を3か所で行います。まずはニューヨークから。ブルックリン地区の港湾施設を利用して行われるこのイベントですが、The Raceが伝えたところによれば将来的な開催には課題が生じているようです。というのも、施設の管理者側が港の設備を拡張する意向を示しており、現在レースで使用している駐車場のあたりにも新しい建物の建設を考えているとのこと。
 なんというか市街地レースならではの課題ですが、フォーミュラE側としてはアメリカ市場というのは大事にしたいので、もしニューヨークがダメなら他の都市での開催も念頭に置いているそうです。余談ですが、私は時々『自分の家の近くで市街地レースをやっている』という夢を見ることがあり、予選のA組だけ録画で見て寝たこの日も見ました。こんなの私だけでしょうか?w

 予選はグループ予選の段階から波乱、A組は先頭で計時に向かっていたセルジオ セッテ カマラが最終コーナーでクラッシュしレッド フラッグ。誰一人タイムを記録せず残り9分でセッションが止まってしまったので時間がカツカツになってしまいます。
 再開後は各車1回目のアタックを終えて2回目に向かいますが、全員が路面状況の向上を見込んで最後に走りたがったために集団となり、さらにこの集団の先頭にいるメルセデスEQの2台がゆっくりとプリップ ラップを行ったので時間がひっ迫。隊列の後方2台が計測に入れずに予選を終えてしまいました。アンドレ ロッテラーはその1台で激怒していた模様。
 肝心のアタックでもあんまりうまく行かない人が多かったようで、エドアルド モルターラは5位、ニック デ フリースが6位で脱落。一方でセバスチャン ブエミが4位でデュエルス進出を果たしました。
 一方、B組は開始2分ほどで降雨。周辺には黒い雲があったものの降って来るとはあまり予想されていなかったようで、ゆっくり2周かけてタイヤを温めていたジャガーを直撃しました。サム バードはなんとか3位に入ったものの、ミッチ エバンスはミスって5位となり脱落し、DSテチーターも2台揃って脱落。セッション終盤に雨は止んだもののもはや誰もタイムを更新できず、とても人騒がせな通り雨でした。これでドライバー選手権上位4人のうち、デュエルスに進んだのはストフェル バンドーンだけとなりました。

 デュエルスではA組を1位で突破したロビン フラインスがさっきとは全然違う路面条件に足を掬われて敗退する一方、A組2位のニック キャシディーは決勝へ。決勝ではバンドーンを0.008秒差で下し自身3度目のポール ポジションを獲得しました。バンドーンとしてはポールの3点が欲しかったところですが、一方でポールから出ると勝つのがやや難しくなるので決勝で取り返したいところです。
 スタート順位はキャシディー、バンドーン、ルーカス ディ グラッシ、パスカル ベアライン、ブエミ、アレクサンダー シムズ、フラインス、バードの順となりました。決勝で日産e.damsが前方にいるとだいたい隊列が分断されてしまうので、ブエミにはなんとか頑張ってもらいたいところ。

 決勝、アタック モードは4分×2回の標準設定。セッテカマラは車両の修復が間に合いませんでした。キャシディーがめっちゃ内側に車を向けてグリッドに車を停めてスタートを待ちますw

 スタートではキャシディーがジャンプ スタートギリギリの抜群の反応で動き出しリードを確保、奇数列が有利だったようでキャシディーに続いてデイグラッシ、ブエミが続きました。あまりにターン6・7が狭すぎて後方は玉突き事故になり、ジャン エリック ベルニュがエバンスに押されてスピン、最後尾になってしまいます。
ロッテラーの車は乗りあげて浮き上がる^^;

 上位8台ほどが数珠つなぎの中で開始5分、中団からアタックモードの1回目のサイクルが始まりました。8分30秒というところでリーダーのキャシディーとブエミ、バンドーンが3人同時にアタックに入り、見た目上のリーダーはディグラッシとなります。ペースを上げたディグラッシは翌周にアタックに入ってうまく2位で合流。
 この1周差を利用してディグラッシがキャシディーを抜くかと思われましたが、順位は変わりませんでした。ディグラッシもまだ30分以上残っている中で急いで前には出たくないのかもしれません。1回目のサイクルを終えてキャシディー、ディグラッシ、ブエミ、バンドーン、フラインス、ベアラインで、1周目を終えた時点の順位と同じでした。

 残り26分、5位のフラインスが2回目のアタックに入ったところから上位勢の2回目のサイクルとなり、翌周にリーダーのキャシディーが入りました。ディグラッシの真後ろで合流します。ディグラッシも翌周にアタックに入りますが、今回は2つ順位を失って3位での合流となりました。
 これでバンドーンに引っかかると厄介でしたがバンドーンも翌周にアタックへ。バンドーンは先にアタックを使っていたブエミの前方・3位で合流してオーバーカットに成功、20分かけてようやくスタートで失った順位を1つ取り戻した形です。ブエミは3位を失いましたがこれまでのレースを考えれば悪くありません。

 2位に戻ったディグラッシとすると、最良のシナリオはこの2回目のアタックで1周の差を利用してキャシディーを抜いてしまうことですが、3位で合流してしまった時点でちょっとコース上で抜くには距離が出来てしまったので狙うのは最終盤での勝負。
 しかし残り17分、ディグラッシはアタックを使ったバンドーンに最終コーナーの出口で迫られてしまい、獲得していたファンブーストを使って防御。ただこれはバンドーンにとっても想定内で、この先のターン5からの2本目の直線で今度はバンドーンがファンブーストを使ってディグラッシをかわしました。
 相手に先にカードを切らせて確実に仕留める頭脳的戦略です。前を走るキャシディーはファンブーストを得られなかったので、2位争いで2台とも武器を使ってくれたのは好都合でした。初優勝へ前進します。あともっと投票お願いします!w

 さらにキャシディーには追い風が続き、残り12分でディグラッシがバンドーンに反撃。僅かながらエナジー残量でバンドーンは不利だったため、ターン1で隙を衝いて内側に飛び込み2位を取り返しました。さらにフラインスも内側に入り込んで、バンドーンはまた4位へ逆戻り、エンビジョン レーシングは1-3位です。そしてこの頃から雨が強くなり始め、残り10分あたりで一気に水煙が上がるようになってきました。

 一気に雨量が増えてきているようなので、いくら溝付きタイヤとはいってもこれは無理じゃないかなあ、と思って見ていたら残り8分でレース コントロールから走行条件を理由としたフル コース イエローの宣告。この時中継映像では5位のモルターラの車載映像が映し出されていましたが、FCYが発動されて減速した途端にスピンして右の壁にぶつかりました。しかしその車載映像の先にはさらなる問題が

 もはや意味が分かりませんが、キャシディー、ディグラッシ、バンドーンの3台がその先でクラッシュしていました。ブレーキ地点のあたりからゲリラ豪雨になっていて、ほとんど車が減速することなく真っすぐ壁に突っ込みました。キャシディーからすると自分が壁に突っ込んだ直後にバンドーン、ディグラッシも立て続けに突っ込んで来たのでかなり危険だったと思います。

 3位のフラインスはよほど慎重だったのか見事に減速してここを通過、モルターラは壁にぶつかってボロボロだったものの、なんとか走行を継続して現場を通過しました。映像を見ると、本当にこのあたりで誰かが悪意を持って故意に水をぶちまけたとしか思えないぐらいの路面水量で、運営側としても考えて、決断して、無線で5秒前の宣告をして、の時間がかかったぶんだけ少し間に合わなかった感じです。あと10秒早かったら全員助かった感じでした。いや、FCYですら誰かミスったかもな。。。^^;

 即座にレッドフラッグとなり残り7分30秒で時計が止まりましたが、一か所に3台も突っ込んだバリアを修復して再開にこぎつけるのはかなり時間がかかる上に、生き残った車も損傷多数。結局レースは再開されないことになり、規定により中断の2回前にコントロール ラインを通過した時の順位が正式順位となりました。結果、優勝はキャシディーとなりました、車は大破していますが念願のフォーミュラE初優勝です。
 2位はディグラッシ、3位フラインスとなりました。フラインスとすれば危機をうまく回避したのにそれが報われなかったので少し残念そうにも見えましたね。バンドーンは4位でした。
 モルターラは当初5位でしたが、FCY中に速度制限に違反したとして5秒加算のペナルティーが課せられて正式結果は9位に変更。FCY発動と同時にスピンしたので不可抗力ではないか、と思ったら、コースに復帰した後に速度違反した模様。
 映像では分かりにくいですが、確かにターン7を出た後「キョイーーーーン」という音と共に加速していて、次の映像ではフラインスの後ろに追いついていたので、SCと勘違いして50km/h制限を失念したとか、速度リミッターがうっかりキャンセルされてたとか、思わぬ失敗をした様子です。ジェイク デニスとエバンスも同じ理由でペナルティーを受けました。

 選手権リーダーであるモルターラ、9位スタートから序盤はとにかく抑えて走り、残り15分でもう周囲が誰もアタックを持っていない時間まで待ってからアタックモードで追い抜きを続けてせっかく5位まで上げたのに、速度違反は非常に勿体ないペナルティーです。
 最速ラップの1点は獲ったモルターラでしたが、ドライバー選手権では3点の追加にとどまり、バンドーンが5点差で2位に迫っています。3位のベルニュ、4位のエバンスはいずれも無得点でした。

 この後ろの集団も事故があり、ベアラインにブエミが追突。車が壊れたベアラインが加速しなくなり、そうとは知らなかった後続車が次々追突して渋滞しました。これを避けて現場を通過したエバンスが異様に順位を上げて10位から3位になるなど順位は大変動しており、レースを再開するかどうかは結果に大きな影響を与える判断でした。
 エバンスはもし再開してたとえSC下のパレード状態であってもレースさえしてくれれば、自分は大量点、方やバンドーンは無得点なので当然不満を示しました。でも世界のモータースポーツ界は長年にわたってこういうやり方でレースをしていますからねえ。仮に事故後の結果でレースが決まったなら、モルターラは5秒加算を受けて同じ9位に落ちたと仮定すると同点で選手権1位に躍り出ているはずでした。

 キャシディーは優勝できるレースをしていましたし、エナジー残量を考えても特に不利な状況ではなかったのでそのまま勝っていた可能性はかなり高かったと思います。ゲリラ豪雨に襲われるまでは完璧なレースでした。予選の時に「日本での経験は活きていますか?」とか聞かれてましたが、こんな条件は日本でも滅多にありませんw
 
 フォーミュラEで雨というと、2019年のパリで大雨が繰り返されて大混乱になったのをなんとなく覚えていますが、車載映像で目に見えて『ここから先だけ急に大雨です』とはっきり分かるような雨というのは他カテゴリー含めて滅多に無いレベルでした。ドライバーに大きな怪我が無かったのが幸いですが、2連戦なので翌日に影響しないかが懸念されます。
 また、アタックモードを使っても追い抜きが非常に少なくて、みんなマネージメントに徹していたのが印象的でした。理由の1つだと思うのはアタックモードの時間と位置関係で、4分の設定だと表のストレートを3回通過し、4回目のストレートの真ん中ぐらいでアタックが切れます。
 ということは、追いかけている側とすると1周後からアタックを取得しても、相手のアタック切れは直線の途中なのでここでは抜けません。かといって、もう1周待ったら自分も直線の途中でアタックが切れてしまいます。ターン5の先にもう一本直線がありますが、ここで抜くにはターン1で真後ろについてないと無理なので、すごく中途半端になっている気がしました。

 果たして車が壊れた人たちは全員出場できるのか、次戦もニューヨークです。

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