FE 第10戦 マラケシュ

ABB FIA Formula E World Championship
2022 Marrakesh E-Prix
Circuit International Automobile Moulay El Hassan 2.971km
45minutes+1Lap
winner:Edoardo Mortara(ROKiT Venturi Racing/Mercedes-EQ Silver Arrow 02)

 ABBフォーミュラE、第10戦は当初はバンクーバーの予定でしたがマラケシュに変更されての開催です。バンクーバーはイベント開催にあたって利用することになる土地所有者の一部と利用料についてもめてしまい、地権者との契約がまとまってないイベントに許可は出せません、と自治体が開催許可を出さなかったので開催できなかった、という情報です。
 状況を知っていながらフォーミュラE側がプロモーター任せにしすぎたのではないか、とか、そもそも自治体も開催にあんまり乗り気じゃなかったのではないか、とか色々言われているようです。発表された来年の日程にも含まれておらず、なんか幻のイベントと化してしまいそうです^^;

 前戦ジャカルタ終了からこのレースまでの間に、日産がマクラーレンにパワートレインを供給することが正式に発表されました。また、各チームのGen3車両のテストも始まっており、グッドウッド フェスティバル オブ スピードではマヒンドラの車両が走行してGen3車両のお披露目となりました。

 思った以上に直線が組み合わされたデザインで、なんというか『夏休みの工作セット』とかで段ボールで作るような形状だなあと思いました。見慣れて無いので現状は今の車の方が好みですが、まだ組み立てたばかりで満足に速度が出せてないというのもあると思うので、速く走ってみんなでレースしたらきっとカッコよく見えるはず、見えてくれよ、見るように頑張ろう・・・w
 で、そんなことよりも驚いたのが、ジャカルタのレース結果がなんとレース後1か月ほど経ってから訂正されたことでした。ジャカルタではレース終盤の30周目にアンドレ ロッテラーがニック デ フリースに接触し、これに対してロッテラーは5秒加算のペナルティーを受けました。
 ところがレースから約2週間経過してからポルシェ側が『新たな証拠』を手に請願を提出。この資料によれば、デフリースは接触の前に既にパンクをしていて、ターンでのブレーキが通常よりもかなり早かったために、ロッテラーにとっては予測できない動きで罰則を課せられるべきではなかった、ということでした。この主張が認められ、ロッテラーは本来の位置であった9位が正式結果となり、逆に10位で1点貰っていたはずのセバスチャン ブエミは11位に下がって無得点になってしまいました。

 さて今回の開催地・マラケシュは過去にも4度の開催実績があるので安心感がありますが、最初から日程に組み込まれていた過去のレースでは年明けの時期の開催だったので、夏に開催されるのは初めてです。常設部分と公道部分を併用した半公道サーキットですが、レースになると温度管理の方が大事になりそうです。

 予選では波乱、グループ予選A組ではアンドレ ロッテラーがセンサー故障の修復に手間取って出遅れ。規定で開始6分までに必ず何かしらのタイムを出す必要がありますが、なんとあと0.1秒ほど間に合わなくてタイム無しになってしまいました。
 さらにドライバー選手権で1位のストフェル バンドーンもブレーキに不具合が出てあっちこっちでロックしまくり脱落。この波乱も手伝ってアンドレッティーが2台揃ってデュエルスに進出しました。B組でもデフリースが5位で脱落し、メルセデスEQは今季初めて2台ともデュエルス進出を逃しました。アントニオ ジョビナッツィーも車に問題があったらしく、一切コース上に姿を見せませんでした。マジで気の毒だぞ・・・

 デュエルスではアントニオ フェリックス ダ コスタが好調。準決勝ではチームメイトのジャン エリック ベルニュとの戦いに今季3度目の直接対決で初めて勝利すると、決勝ではエドアルド モルターラを破ってポール ポジションを獲得しました。
 スタート順位はダコスタ、モルターラ、ベルニュ、パスカル ベアライン、ジェイク デニス、ミッチ エバンスと続きます。DSテチーターが1位・3位なのでうまく連携できると強みがありそうです。

 決勝、本日のアタック モードは3分×2回と時間がかなり少ない設定。気温33℃、路面温度は50℃を超えており、温度管理に手を焼くであろうことは容易に想像できます。スタートでは上位4台は大きな動きがありませんが、5位のベアラインがいきなりペースが遅くてこれにエバンスが詰まります。詰まったせいでオリバー アスキューに抜かれかけますがなんとか抑え込み、この争いで軽く接触したためにアスキューは左前のフェンダーが外れてしまいました。アスキューはせっかく初めてデュエルスに進出したものの、この後順位を下げて行って11位でレースを終えました。

 ベアラインは明らかに他のドライバーとリフト位置が異なっていて、それでいて蛇行してブロックしてくるのでエバンスは手を挙げて怒りをあらわにします。2周目の最終コーナーでようやく抜きますが、エバンスはここから前の集団に追いつくためにエナジーをかなり使わされた感じです。
鬼ブロックしていたベアラインさん

 ペースが上がらなかったベアライン、事後情報で明らかになった原因はバッテリー制御システムでした。どうやら車両の主電源を5分以上切ってしまうとバッテリー温度制御プログラムがリセットされてしまうそうなんですが、ベアラインの車は何らかの手違いでダミー グリッド上で長時間電源を切ってしまい、これによってスタート時点で温度管理プログラムが本来用意していたものではなく、リセットされて初期設定になっていました。
 これによってスタート時点ではバッテリー温度が下がりすぎて適切に動作せず、以後も本来意図していた温度域にうまくバッテリーの温度を保てなかったので、まともなペースで走行できなかった、ということでした。クルーが何か手順を誤ったのかもしれませんが、ベアラインのレースはスタート前から既に破綻していたことになり、結局12位でレースを終えました。センサー不具合が原因で予選の段階で勝負権を手放したロッテラーと併せ、ポルシェのこの週末はかなり悲惨な結果でした。

 コース上では開始6分、ダコスタとベルニュが同時にアタックモードへ。やはりチームとして連携して動いてきた様子です。それぞれ1つ順位を下げますが、ベルニュはすぐデニスを抜いて元の位置へ。一方ダコスタの方は無理に250kWを使ってモルターラを抜きに行く雰囲気ではなく、翌周にモルターラもアタックに入ったので順位が元に戻りました。
 ダコスタのアタックが終わったところでモルターラが抜きに行くのか、それとも後ろで電力と温度管理に徹するのかが最初の注目点だと思ったんですが、なんとダコスタはアタックが切れたらすぐに2回目のアタックへ。レースの終盤は温度が上がってバッテリー性能が劣化するので、序盤にさっさと消化してしまおうという戦略と思われます。
 この時点でモルターラが見た目上の1位で、2位には11位スタートからアタックモードで積極的に追い抜きを繰り返してきたオリバー ローランド。ダコスタは3位となります。ところがこの後ダコスタに大誤算が起こりました。
 ローランドもアタックに入ったので労せずして2位に戻ったダコスタでしたが、車間距離を詰めすぎたローランドにターン7で後ろから押されて姿勢を乱してしまい、立ち上がりで抜かれてしまいました。

 ローランドは見た目上ここにいるものの、序盤からエナジーを使いまくっているので後々下がっていく可能性が高く、ダコスタから見れば実質的な競争相手ではありません。そんな相手に前に出られたら困るので、ダコスタは本来ならアクセルを戻したいであろう位置でも踏んで行って2位を奪い返します。抜くときにちょっと幅寄せして仕返しした気がしますw
 ところが、ローランドはダコスタより1周後からアタックを使っているので、ダコスタのアタックが切れたタイミングでまた攻撃を仕掛けられ、さっき取り返した2位をまたローランドに奪われてしまいました。ダコスタはマネージメントしながらモルターラと争いたいのに、実質的に順位と関係無いローランドの相手に手を焼き、この間にモルターラは簡単に2回目のアタックを使用しました。この段階では完全にモルターラが優勢です。ローランドも長い目で見たら抜かずに管理した方が良さそうな気がしますが・・・

 残り27分、スタート直後はベアラインの相手で苦労させられたエバンスがアタックモードを使用してダコスタを抜き2位へ。さっきごちゃごちゃしたせいでダコスタは完全に計画が狂ってしまいました。
 残り22分、オーダーはモルターラ、エバンス、ダコスタ、ローランド、ベルニュ。最も残量が多いのはベルニュですが、デニスにターン1でうっかり追突してしまってウイングごとガタガタしているので縁石を有効に使えない状態です。それでもDSテチーターは2台ともペースは良好で、この後ダコスタが2位、ベルニュが3位に浮上。あとはダコスタがモルターラを抜けばスタート順位に戻って丸く収まります。

 すると残り11分、チームの指示でベルニュとダコスタの順位が入れ替わりました。エナジー残量が多く、選手権でも上位にいるベルニュを前に出してモルターラを倒す考えです。何かと揉めることが多い2人ですがすんなりと指示通りに動きました。モルターラはこの入れ替わりのタイミングで少しペースを上げて引き離そうと動きます。でも残量の問題でそんなには飛ばせません。

 ところが残り6分、ファンブーストを使ってベルニュとの差をえらく詰めたダコスタは無線で「モルターラを捕まえようぜ、俺行けるよ」。するとチームは再度の入れ替えを指示してダコスタが再び2位となります。ベルニュの方が残量は多いんですが、段々その利点は薄れてきており、ウイングが壊れているという欠点がありました。しかしそれ以上に深刻だったのはバッテリーの温度でした。
ベルニュ「何でやねん」
ダコスタ「そら当然やろ」
モルターラ「何か分からんけどラッキー♪」
(※イメージです)

 ダコスタが2位になるとさっきまでが嘘のように急にベルニュは置き去り、モルターラとダコスタの一騎打ちへ。しかし両者のエナジー残量は互角で、モルターラはタイヤも含め全体をうまく制御下に置いていました。その後はダコスタに付け入るような隙は全く与えず、そのまま残量0.0%の見事な管理で最初にチェッカーを受けました。今季3勝目で、これでドライバー選手権でも1位となりました。
 ダコスタに続いて3位にはエバンス、温度上昇で無理できずヨレヨレのベルニュはなんとか4位で戻ってきました。5位にはルーカス ディ グラッシで、デフリースが6位。デフリースは最終周には5位で入っていてエナジー残量は周囲より遥かに多かったのに、最後の最後にディグラッシに抜かれました。おそらくこれもバッテリー温度の問題と思われます。
 バンドーンは20位スタートからなんとか8位、序盤~中盤に上位でかき回したローランドはやっぱり終盤に節約走行を強いられて10位でした。

 ドライバー選手権ではダコスタが1位、11点差でベルニュが2位、バンドーンは14点差の3位になりました。エバンスが15点差の4位で、5位以下は50点以上離されてしまったのでチャンピオン争いはおそらくこの中での争いとなりそうです。
 DSテチーターとすると2位、4位、という数字自体は悪くなくても、内容を見るとかなり失望するものでした。ダコスタはローランドというスタート時点では上位にいなかった思わぬ相手に手を焼き、ベルニュの方が良さそうだ、とせっかく入れ替えたらバッテリー温度の問題でもう一度入れ替え。
 ベルニュの温度が想定外に上がってしまったのが、単に後半にペースを上げて行ったために起こってしまったのか、ガタついたウイングのせいで本来冷却に取り込まれるべき空気の流れが乱れたせいなのかは分かりませんが、結局これで優勝どころか逆に3位を守れない結果に。ダコスタの方も入れ替えたりせず延々とモルターラを追っていたら機会はあったかもしれず、良かれと思ったことが裏目に出ました。
 モルターラは本来なら風除けにされて不利になる可能性が高かったですが、後ろで色々と無駄なエナジー消費が行われていたおかげで自分のレースに徹して勝利を手にすることができました。メルセデスEQはかなり厳しいレースでしたが、ベンチュリーは1位、5位でカスタマーは良好な結果を出しました。

 エナジー残量とアタックモードの回数を見ながら、頭の中でああでもないこうでもないと考えながら見るのがフォーミュラEの見方の1つですが、バッテリー温度という見えない要素まで絡んでくるともう予測も何もあったもんじゃないですねw
 エナジー管理のためにはリフト&コーストと回生ブレーキの活用が大事ですが、回生はバッテリーに負荷をかけるのでそればっかりやるわけにもいかず。そしてうまく節約して追い抜きに転じたところで、そればっかりやるとこれまたバッテリーの負荷をかけるので攻め続けることもできず。
 できるだけレースを通じて大きな波の無い走り方がバッテリーには優しい一方で、ある程度メリハリが無いと抜かれる/抜けない、となって何もできずに終わってしまう。こう考えると矛盾だらけのことを全て折り合いをつけて臨機応変に対応しないと勝てないんですから本当に面倒くさいレースですね(*´▽`*)
 今回は特に暑い条件、かつ比較的長い全開区間があって難易度が高く、すごくリフトする位置が手前になるので徹底した管理が必要でありながら抜きつ抜かれつも多くて、フォーミュラEらしいレースでした。来年の日程には入っていないんですが、機会があればまた戻ってきてほしいイベントです。次戦は2週間後にニューヨークでの2連戦です。



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