SUPER GT 2022 プレビュー 2

 前回に続いて2022年のSUPER GTについて、知っておくと2%ぐらい楽しみが増すかもしれないプレビューをお送りします。今回はGT300について。昨年はSUBARU BRZ R&D SPORTがチャンピオンを獲得しましたが、性能調整のちょっとしたさじ加減1つで勢力図がごっそりと変わっても不思議ではありません。BRZの話題はまた後程。

 まずはこちらもエントリー リストから並べてみます。ドライバーはチームによってはレース毎に数名を入れ替えて起用する場合もありますし、スポンサー名が変わったり、第3ドライバーが起用されることもあると思いますが開幕時点での大まかなものです。
 まず参戦チームですが、昨年から名前が無くなったのがAudi Team Hitotsuyamaとarto team Thailand、逆に新規加入したのがShade Racingです。
 シェイドレーシングはスーパー耐久に参戦しているチームで、林テレンプという自動車の内装を手掛ける会社が母体です。S耐では86とGRスープラを使用しており、その関係もあって使用車両はGR86、ドライバーも既にS耐で起用されている平中と清水という組み合わせです。平中は長年所属したGAINERを離れた形ですね。

 また、34号車のドラゴコルセは昨年までのNSXからGT-Rに車両が変更されています。BUSOUというところがスポンサーについていますが、ここは自動車のカスタマイズ用空力パーツを手掛けている『クレアーレ』という会社で、立ち上げたのは金子 哲也という人。スポンサーというよりも共同チームの企画というような形で、金子さんはチームの総監督という立場になります。
 金子さんは以前はチームインパルに関わっていて、彼の父はインパルの取締役だった金子 豊。金子豊さんは2015年に72歳で亡くなられましたが、星野 一義とともにインパルを立ち上げた、星野監督にとって盟友でした。
 そんな金子豊さんのご子息ということもあってBUSOUの空力パーツも日産車向けなようでして、車両も日産になったようです。ドライバーも柳田と井出という、若かりし頃・2001年にはシルビアに乗って組んでいた日産の色がそれなりに強いベテランコンビニなりました。
 ドラゴコルセといえば元GT500クラスチャンピオンの道上 龍が代表を務めるチームで、道上さんと言えばホンダ一筋のイメージが強い人ですから、道上さんがNSXではないというのは結構な驚き。ただGT300の活動に関してはあくまでプライベーターという立場でホンダから支援を受けていたわけではないそうで、イチ参加者として今年はGT-Rでの参戦を選んだ、ということになります。


 次に車両です。今年の新車は2車種で、1つはBMW M4 GT3、もう1つはシェイドレーシングも使用するトヨタ GR86。M4 GT3はM6 GT3の後継車両として今年から各国で走り始める最新のGT3車両です。M6ほど巨大に見えないんですがやっぱりデカいらしいですw

 M4を投入するStudieは元々はBMW本体からの支援がかなり手厚く、Z4を使用していた時代にはチャンピオン候補の一角でしたが2017年に一度参戦を終了。2020年に復活したものの、ジェントルマン ドライバーである山口 智英と荒 聖治が組むプロアマコンビで、チャンピオンを狙った参戦形態ではありませんでした。
 しかし今年はBMWの高性能部門であるM社の創立50周年で、新車とともにタイトルを狙え!とばかりに再び勝ちを狙った形となっており、荒の相棒にBMWの超有名ドライバーであるファルファスを擁してのシーズンとなります。かなりギリギリでの入国になったようですが^^;
 タイヤはミシュランでGT300では唯一。ミシュランは2020年にも登場しましたが、その際は『専用開発ではなく、海外で使用されている既製品からレースに合ったものを提供し、参戦チームに魅力的なコストで幅広い選択肢を与える』というのが主目的でした。
 しかし今回は流れを逆にし、日本専用タイヤを作る、とまでは言わないものの、海外のGT3レースで役に立つようなタイヤの開発をSUPER GTを通じて行う、というような発想で、2年前よりは気合いを入れているとも言えそうです。ちなみに山口さんも別カテゴリーで引き続きStudieと協力してレースに出場予定です。

 一方のGR86は昨年発売されたGR86をベースにしてaprが手掛けたGTA-GT300規定の車両で、同じくaprが手掛けたGRスープラとは兄弟というか従兄弟というか、そんな感じの車です。エンジンはやっぱりRC Fなどと同じV型8気筒・排気量5.4Lの2UR-G型エンジン。そのため、86の見た目の車から野太いV8の音が聞こえてきてなかなかの異質さです。
 GR86はaprの30号車に昨年のプリウスに変わって投入される他、Shade Racingとmura Racingにも供給されます。ムータは昨年のエヴォーラMCからの車両変更で、これによってエヴォーラはSUPER GTから姿を消してしまいました。ちと残念。

 ではここからは基本カーナンバーで上から順に気になるところを片っ端から拾っていきます。2号車は先ほども書いた通りエヴォーラからGR86へ変更、4号車初音ミク号はカラーリングの雰囲気が結構変わった気がしますが中身もドライバーもそのままです。
 5号車マッハ号は昨年は平木兄弟でしたが、今年は冨林が加入。彼は元々バーチャル レーサーとして活躍し、2016年・まだグランツーリスモSPORTが発売される前のGT SPORTお披露目イベントで開催されたマニュファクチャラーカップで優勝。そこから本格的に実際のレースにも参戦するようになったドライバーです。

 6号車・チームルマンのR8は昨年と体制は特に変わりませんが、R8の空力部品が最新モデルに更新されていて、ウイングのステーを後ろ側から吊り下げるリバース スワンネックと呼ばれる仕様になった最新型です。よく見るとチーム名は昨年のチームルマンwith本山レーシングから、本山レーシングwith~になって主語が本山さんになっています。でも参戦車両名は変わってないですね。

 9号車は久々の痛車でホロライブとコラボで話題。GAINERは変わらず2台体制で、分かりやすくするためか10号車と11号車で参戦車両名のGAINERとTANAXの順番が逆になっています。チームは星野 一樹が引退し、平中も移籍したので4人中2人が入れ替わった形となり、昨年は10号車にいた石川が11号車で安田と組んでこちらがおそらくエース格。
 10号車は2019年以来のフル参戦、GAINERには2017年以来の復帰となる富田と、ポルシェ カレラ カップ ジャパンやスーパー耐久で活躍していた22歳の大草がGT300デビューです。第3ドライバーとして23歳の塩津 佑介との契約も発表されています。長距離レースだけの登録か、大草とシェアになるのかは分かりませんが、うどん県・香川県出身のレーシングドライバー、としてYouTubeでチャンネルを持っているみたいです。グランツーリスモ7の実況動画やってますね( ゚Д゚)

 22号車・アールキューズは昨年のオートポリスで植毛GT-Rに植毛されてクラッシュしAMGが大破してしまいました。そこに救いの手が差し伸べられ、車両メンテナンスを担当しているアルナージュレーシングが昨年の50号車をそのまま提供。今年もAMGでの参戦が叶いました。和田、城内両選手ともシーズン中に60歳を迎える最年長コンビです。
 そのアルナージュはAMGを手放しましたが、代わりにMC86を購入。これは一昨年にmuta Racingが使用していた個体で、元々はチーム タイランドが使用していたもの。たしかMC86としては2次車にあたるもので比較的新しいものですね。マッハ号よりは新しい生産年次の個体だと思います。車と一緒に2号車から阪口選手も移籍してきました。

 25号車、チーム土屋はGRスープラを導入。GRスープラは既に昨年から3台いて、これらは基本をaprが設計し、それを埼玉トヨペットグリーンブレイブが製造して他チームにもカスタマー供給していましたが、こちらの土屋号は同じくaprの図面を使用しているもののほぼ自社生産。
 職人集団の意地を見せるべく、可能な範囲はできるだけ自作、徹底的低コスト化を掲げ、他のGRスープラがカーボン製のところがアルミ製だったり、MC86時代と同様に空力部品はベニヤ板やアルミ板などホームセンターで買って来た材料でくっつけていたりします。
 つちやエンジニアリングでは244号車のメンテナンスも行っているので、元々グリーンブレイブ製のGRスープラも知っているし今年も整備するしどういう車かよく知っているわけですが、あくまで自分たちの車は自分たちのやり方で戦います。
自作部品についてはこちらでよく分かります

 GRスープラのユーザーについて先に書くと、52号車は昨年通りという感じ、一方60号車は2年目になってフロントのグリルにオリジナリティーを打ち出しました。元々グリーンブレイブの車はグリル部分が市販車とはだいぶ違う形状になっていたので、あえてここを自社で作り変えて市販車と同様の形状に変更。グランツーリスモに出て来るGRスープラ Gr.3っぽくなっています。性能も大事だけど見た目も大事。


 そしてMaxレーシングの244号車なんですが、チームのオーナーでGo Maxの名義で自身もレース活動していた株式会社オオノ開発の代表取締役・大野 剛嗣が3月2日に亡くなりました。オオノ開発は産業廃棄物処理会社で、傘下のグループ会社がたかのこの湯・たかのこのホテルを運営しています。ここ2年ほどレースの冠スポンサーに何度も出てきています。
 この訃報を受けてチームは開幕前の公式テストと開幕戦の欠場を発表、第2戦以降の復帰を示唆しているものの、参戦を主導していたオーナーが他界したので、チームとしてどう活動していくことになるのか気になるところです。

 aprはプリウス2台からGR86とプリウスに変更。ハイブリッド機構搭載のプリウスは昨年までBoP重量と、それに加えてハイブリッド重量が51kg、というような性能調整でしたが、今年は一元化された数値になるようで、とりあえず開幕戦ではBoP重量80kg(ハイブリッド重量含む)ということになっています。同じエンジンを積むGR86とGRスープラのBoP重量は50kgなのでハイブリッド重量は実質30kg扱いというところでしょう。

 植毛GT-Rは飯田 太陽が姓名判断をきっかけに登録名を井田 太陽に変更する大型アップデートが投入されました。ちなみにチームメイトの田中 優暉も、2020年に田中 勝輝から田中 優暉へと変更しており、なんとこのチームは髪の毛と名前だけすごい頻度でアップデートが投入されています()

 55号車・ARTAはベテランと若手で組んで若手を育てて上に送り込む役割を担ってきましたが、今年はその先生役が大ベテランの高木から武藤に変更。高木は20年以上所属したARTAを離れました。
 チーム監督の鈴木 亜久里によれば、高木が2020年のスーパー耐久で骨折の大けがをしたこともあって、年齢的にもそろそろ裏方へと回ることを打診していたものの、高木が「最後にもう一度新田さんと組みたい」と、長年GT300でコンビを組んだ新田 守男と戦う意向を見せたので、移籍を容認したとのこと。
 そんなわけで、高木選手はK-tunesに移籍し、2010年以来12年ぶりに新田/高木というコンビが再結成されました。RC Fはとうとう1台だけになってしまいましたが、GT300で競争力を発揮しているダンロップを使用しているので侮れない存在です。亜久里監督の話の通りなら、高木さんはそう長く現役を続けるわけではないように思いますので、現役生活の集大成といったシーズンかもしれません。

 56号車のGT-Rは車両名にいっぱいカタカナが入って覚えるのが大変そうな以外は不変、そしてチャンピオンの61号車も体制は変わりませんが、車両に関してはエンジンのECUを変更しました。エンジン本体はWRCから流用したEJ20型エンジンを煮詰めて煮詰めて飲みやすいカプセルにしたぐらいもうやることが無いレベルで開発してきており、ECUも同様にWRC時代のエンジンから同じメーカーでしたが、制御面ではまだやれることがあるはず、という積極姿勢で変更に挑みました。
 ただエンジン制御ってかなり繊細で、ECUを変更すると最初はなかなか思った通りに動いてくれなくて苦戦するそうなのでそのリスクが不安要素、その上テスト走行でクラッシュして、ECU変更なら絶対に稼ぎたいはずの走行距離が稼げないという問題も起きてしまったので、開幕してから思わぬ問題が起きないかが気がかりです。あ、チャンピオンですがカーナンバーは0番ではなく今年も61番ですね。

 LEONは菅波 冬悟に変わって篠原が加入。昨年はヒトツヤマのR8で第7戦で優勝しています。JLOCはおなじみ2台の色違いのウラカンですが、今年のスポンサーは87号車がバンブー航空というベトナムの航空会社、88号車は中国で主流のSNS・ウェイボと、台湾の企業が運営し、最近話題のNFT(非代替性トークン)を手掛けるプライムズがスポンサー。そして360号車は昨年と同様の体制、プライベーターだけど時々ばかっぱやい黒のGT-Rです。


 GT300クラスのサクセスウエイトは昨年と同様1ポイント×3kgの計算で、第7戦は×1.5、最終戦は0となります。Maxレーシングが仮に第2戦から出場しても、開幕戦を完全に休んでいるので、ポイントを獲得していれば最終戦にもウエイトが残ることになりそうです。
 マザーシャシーは2台しかいないのでそこまで問題視されなくなるかもしれませんが、GT3とGTA-GT300の性能調整に関しては今年もどっちが速いの遅いのという話がどうなるかは蓋を開けてみないと分からないでしょうが、だいたいGT300規定が速かった翌年は縛りがキツくなるパターンになりますw
 わりと一律に縛られるので、元々苦戦している車が他の速い車の巻き添えで遅くなっている場面も何度かあったため、1台しかいない車両は別物として柔軟に調整してもらえるとありがたいかなと見る側は思いますが、毎戦の参加条件の調整も注目して観察すると面白いと思います。

 てなわけでザックリと2022年の導入部分をお届けしました。よきSUPER GTライフを!

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