2022年のNASCAR Cup Seriesはいよいよデイトナ インターナショナル スピードウェイでの開幕戦を迎えました。2月15日にデイトナ500の練習走行が行われ、いよいよ新車両・Next Gen Carの本格的なレース デビューとなりました、が、いきなり珍事が発生しました。
左右完全対象が売り物の新車だったのに、いざプラクティスが始まるとトラック上を走行する車両のいくつかが、進行方向に対して少し右に向いた状態、いわばカニ走りのようになっていたのです。特にアレックス ボウマンが顕著だったそう。実は既に1月にデイトナで行われたテストでも起こっていて疑問が持たれていました。こちらがその際の画像です。
先頭の43番が妙に右を向いて走っているのが分かると思います。右にステアリングを切っているのではなく、この状態で真っすぐ走っているのです。
これは『リバース スキュー』と呼ばれています。スキュー(skew)とは斜めや歪みという意味です。元々、NASCARではショート トラックで車が左前方を向いたカニ走りをしていました。これをスキューと呼んでいたため、今回はその逆向けで右前方を向いているのでリバーススキューと呼ばれます。
サスペンションの部品なんかに詳しい方は、NASCARの公式サイトで詳しく解説されているので併せてご覧ください。私は詳しく無いので細かいことが言えないのです、だから詳しく分かった方は逆に分かりやすく教えていただけると助かりますw
株式市場では、シカゴのオプション取引所においてオプション取引のコールとプットの売買状況から、大きな価格変動が起きやすくなっているかどうかを表す『スキュー指数』というものがあります。この場合、スキューとはすなわち市場の歪みという意味で、上昇すると株価の大幅な下落が迫っている可能性が高い状態である、とされています。
話が猛烈にそれましたが、NASCARでは元々スキューの問題というのは存在していました。2017年のリッチモンドで、優勝したジョーイ ロガーノがレース後の車検に引っかかり、当時の規則により『罰金&ポイント減算&記録上の優勝は残るけど、プレイオフ進出条件としての優勝には数えない』という重い処分を受けました。
チームメイトのブラッド ケゼロウスキーもフェニックスでペナルティーを受けており、いずれもリアのサスペンションが原因で、このサスペンションの違反というのがスキューでした。Generation6までの車両はリアのサスペンションは左右で繋がっていましたが、普通は進行方向に対して直角に真っすぐ取り付けます。しかしスキューはちょっと斜めに取り付けていたようです。
最初から車が左に向かっているので旋回を助け前輪の負担を軽減するというメカニカルな働きに加え、サイドフォースを発生させるので空力的にも利点がありました。やらない理由はない、というやつです。ただ、駆動輪を無理やりちょっと斜めに取り付けているので部品にはかなり負担がかかっていると思われ、安易にできるものでもなさそうです。
以前はもっと露骨にスキューが設定されていて滑稽な見た目になっていたこともあり、NASCARは市販車とかけ離れたスキューをやめさせようと規則や検査の縛りを厳しくして、それに引っかかったのがロガーノでした。この後ロガーノは結局不振に陥って勝てないままシーズンを終えるわけですが、チームが利点を見つけたスキューを塞がれたことは影響していただろうと思います。
2019年のリッチモンドではジョー ギブス レーシングが1-2-3-4フィニッシュを達成した!と思ったら、エリック ジョーンズがレース後に車検に引っかかりましたが、これもスキューが原因でした。後から調べると色々分かってきますねえ。
リアのサスペンションが独立になり、共通部品が増えて車検も厳しいNext Gen Carではどうなるかと思った矢先にこれでした。右に曲がりたいトラックでわざわざ壁を向いてしまう利点は何なのかというと、斜めにすることで正面視するとスポイラーの右端が車両のキャビン部分で隠されるようになります。こちらのNASCARのツイートを見ると、ボウマンの車は後ろの2台と比べてスポイラーの右端がほとんど見えないことが分かります
— NASCAR (@NASCAR) February 15, 2022
結果スポイラーの右端に空気があまり当たらなくなります。おそらく、端部に風を当てずにキャビン周辺を流れた風をそのまま剥離させてしまうことで後部にできる乱流を抑制する、ある種のFダクトのような効果を生むんだと思います。抵抗が減るので最高速が伸びます。走行抵抗とターンでの乗り味が多少犠牲になりそうですが、それよりも抵抗の少なさが重要となるわけです。
リバーススキューもGeneration6から存在しており、2018年のタラデガでスチュワート-ハース レーシングが圧倒的な速さを見せたのも、リバーススキューがその一因だとされているようです。確かにあの時解説で「カート ブッシュの車を見ると、正面視した際に他の車より右後部のスポイラーが小さく見える」という話をしていました。当時はあまり意味が分からなかったんですが、今見たら確かにすごいリバーススキューです。
俗に言う「こっち見んなw」ってやつでしょうか、右を見ながら真っすぐ走っています。先ほどリンクを貼った解説を読むと、リアのサスペンションは上下のコントロール アームとトー リンクの3か所でアップライトと結合されており、トーリンクの調整でアライメントを多少調節できるようになっていると思われます。
ただ、規則ではリアのホイールのアライメントは進行方向と水平であることが定められていて、しかし多少は数値に余裕を持たせて左リアでは-0.3°~+0.3°の許容公差がありました。一部のチームはこの許容公差を目一杯利用してホイールをトー インの状態にし、リバーススキューを行っていると考えられています。
NASCARは2回の練習走行を終えて翌日の予選へと進むその過程で早速規則を変更しました。許容公差が狭くなり、なおかつ左右で非対称だったものが対称になりました。
走行前
左リア:-0.3°~+0.3°→0°~+0.3°
右リア:-0.3°~+0.3°→0°~+0.3°
走行後
左リア:-0.55°~+0.55°→-0.25°~+0.55°
右リア:-0.55°~+0.25°→-0.25°~+0.55°
また、トーリンクに色々と細工をしてきており、この先もなお色々と狙ってくるであろうことを認識しているようで、この週末に関しての特別規則も設定されました。トーリンク スラグの取り付け位置に関し、左リアは3か所の取り付け可能点のうち中央か下に、逆に右リアは中央か上にすることが義務付けられました。
車検は静止状態で行われますので、走行して大きな力が加わった際に車が右を向いてくれるにはどうすれば良いか、をチーム側が考えて来ると読んで、穴を塞ぎにいった形です。各チームに車両の手直しする時間を与えるため、翌日のガレージのオープンは予定より3時間繰り上げられ、チームは対応に追われました。
それにしても、リバーススキューが使われることをテストで把握していながら、いざ始まって練習までさせてからルールを変えて、結局試してないセットで予選をやらすとは、NASCARも間抜けというか、意地が悪いというか。車両が変わってもNASCARは変わらんなあ、と思いましたw
さあ、予選レースからいよいよ始まるぞ!
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