FE 第2戦 ディルイーヤ

ABB FIAFormula E World Championship
Diriyah E-Prix
Riyadh Street Circuit 2.495km
45minutes+1Lap
winner:Edoardo Mortara(ROKiT Venturi Racing/Mercedes-EQ Silver Arrow 02)

 フォーミュラE シーズン8の開幕2連戦、2日目のディルイーヤです。練習走行ではニック キャシディーがクラッシュしてしまい予選に参加できなくなってしまいました。最後尾スタートです。
 
 予選は前日より路面状態が向上しているようで220kWのグループ予選の段階で、既に前日の250kWのデュエルを上回るタイムが記録されていき、A組はニック デ フリース、B組はエドアルド モルターラが最速。内燃機関ではありませんから走行を重ねても車は一切軽くならないんですが、やはり少しでも路面状態が良いセッションの最後にみんなタイムを上げてきます。
 そんな中、ストフェル バンドーンは前日のレースでのミスを取り返したいところでしたが、最後のアタックでミスってまさかの12位スタート、サム バードも壁にぶつけてしまって21位スタートになってしまいます。とにかくコースの前半が難しいですね。
 デュエルでは準決勝にバンドーン以外のメルセデス勢3台が勝ち残り、決勝はデフリースとモルターラの対決。モルターラはターン1の進入で姿勢を乱してセクター1で0.3秒近くロス。デフリースもこれまでより遅いタイムになりましたが、結局0.005秒差でモルターラを下してPPを獲得しました。

 デュエルでは準々決勝でトラブルも発生。2台が10秒間隔で送り出されるデュエルでは、時間になるとピット出口の緑信号が点灯してまず先行車が発進し5秒後に赤信号に戻ります。10秒後に2度目の緑が点灯して5秒後に赤となって出口は閉鎖、出遅れると違反となります。
 が、アントニオ フェリックス ダ コスタは緑信号になったのにピットを出ず、2回目の緑=本来は後追いのルーカス ディ グラッシに対して向けられた合図で発進。ディグラッシからすると、相手が動かないせいで発進できず、出ようとしたらもう赤信号に。安易に自己判断で信号無視もできずどうしようもありません。
 ダコスタはとりあえずアタックするも、チームは「ディグラッシが走らずして負けた」と考えているのでえらく遅いタイム。一方、ディグラッシ側は色々と確認を取った上でようやくコースに入り、ダコスタのタイムが遅いのであっさり塗り替えました。ダコスタが信号を見落としてチームもそこを把握していなかった単純ミスだと思われます。結果ディグラッシの勝利、ダコスタは記録無しで準々決勝参加者のうち最も遅いので予選8位。
 フォーミュラEの予選では時間の管理が厳格なので、以前から時間に間に合うの合わないのという話はありましたが、デュエルでも同じようなことが起こりました。


 決勝、本日のアタックモードは4分×2回。スタートはアレクサンダー シムズがターン18で大きくはみ出して9位から15位に落ちた以外は大きな波乱なく進み、デフリース、モルターラ、ロビン フラインス、ディグラッシのトップ4。前日に管理で大失敗したアンドレ ロッテラーが5位で続きます。
このコースのスタート時の映り方が好み

 開始5分、7位・オリバー ローランド、8位・ジェイク デニスが同時にアタックモードを取って1回目のサイクルが始まります。ここから数周で上位8台は全て1回目のアタックに入り、順位変動は起こりませんでした。
 しかしこのサイクルの間に4位のディグラッシと5位のロッテラーの間に2秒以上の空間ができたため、残り30分でディグラッシが早くも2回目のアタックに入りまたサイクルとなります。ここからレースが大きく動いていきました。

 ディグラッシから見て翌周にフラインス、2周後にモルターラがアタックに入り、いずれも先に入った人にアンダーカットされることになって見た目上ディグラッシが2位に浮上します。ディグラッシが勝負所と見てかなりペースを上げているようです。
 前日のレースでは、アタックを使っても取りに行って失った1秒をその周にうちに取り戻せておらず、翌周に前のドライバーが反応してアタックに入ると順位が入れ替わらない展開でした。しかしこのサイクルでは1周で真後ろまで追いついているので、かなりペースを上げていることが分かります。前日の結果からアタックの際のペース配分をさらに研究してきたかもしれません。興味深いです。
 リーダーのデフリースは後ろの3台がみんなアタックでくっついてくるので使い時を逸してしまい、バックストレートで完全にディグラッシに捕まりました。争っても仕方ないので無視してアタックを取りに行くものかと予想したんですが、2台は横同士を接触させながらターン18に進入。デフリースはディグラッシをちょっと押し出してしまいますが、切り返しのターン19で押し返されてリードを手放します。
そういえばこのレース、他カテゴリーより
こういう絡み方が多い気がw

 ゴリゴリ争ったので後ろも来てしまい、翌周のバックストレートでモルターラにも抜かれてデフリースは3位に転落。そして2位に上がったモルターラはアタックが切れる前にディグラッシも抜いて、結局このサイクルで2位から1位へと順位を上げることに成功しました。これでベンチュリーがワンツー。黒いメルセデスが主導権を握ります。
 
 一方のデフリースはごちゃついている間に5位以降の集団も近寄って来たので完全にアタックのタイミングを逸してしまい、後ろを引き離すまで手が打てない状態になりました。残り19分、フラインスに一旦抜かれてしまうのは致し方なし、というところで2回目のアタックに入ります。
 自分だけが250kWで走れるここからの約3周で順位を取り返したいところですが、色々争ったのでエナジーをけっこう使ってしまい、周囲より1%ほど劣勢。出力はあってもリフト&コーストが多く必要なので追い抜きにまで至りません。結局4位に落ちたままアタック終了となります。ただ、抜かれるのを警戒したフラインスがブレーキを詰め、これを見たディグラッシも警戒して詰めてモルターラに並びかけたので、上位4台そのもののペースが少し落ちました。

 これで5位以下の集団が上位4台に追いついてきてしまい、9位までの大集団になってしまいます。これがデフリースにとって最悪でした。残量が足りないのでリフト位置が早く、アタックが切れた途端にジャン エリック ベルニュにターン18で仕掛けられ、切り返しの19で接触して失速。ここをなおも立て続けに後ろから差されてなんとあっという間に9位に後退、この後パスカル ベアラインにもアタックでかわされて10位になってしまいます。大ショック。

 残り11分、トップ3でも動きがありフラインスがディグラッシをかわして2位へ。ディグラッシはアタックのタイミングで攻めたので少し残量で負けていました。さらにフラインスはモルターラを狙っているように見えますが、モルターラとは残量がイーブン、というか攻めたせいでむしろフラインスが今度は劣勢に移行しつつあります。
 ひょっとして最後にまたディグラッシが逆転するのでは、と思った残り9分30秒、シムズがターン5で単独クラッシュしてコースの端に停止。黄旗のまま全車が現場を通過していった後、残り8分25秒というところでSCが宣言されました。


 即座にSCを出さなかった理由について、レース ディレクターのスコット エルキンスはThe Raceに対し、要約すると
『車両の位置関係と事故現場を総合的に勘案し、全車が現場を通過してからSCを出すことで、確実に隊列をコントロールして作業開始を早くするため』
と説明しています。すぐにSCを出すと先頭をうまく捕まえられず、中途半端な低速走行の隊列が全体に広がって迅速な作業開始を妨げてしまうので、あえて1回だけ待ったということですね。

 ところが、狭いS字区間でクレーンによる回収作業が始まり、隊列が現場を通過するたびに停止寸前まで減速。短いコースなので車はすぐ現場に来るし、そうすると作業はおいそれとできないので結局回収作業を終える前にレース時間が無くなってしまいました。SCの下でレースは終了、そのままモルターラが優勝、フラインス、ディグラッシの順となりベンチュリーのワンツーをフラインスが阻止した形となりました。

 延長戦はどこへ行ったんだ?というと、競技規則37.2に
If an SC or FCY period extends into, or occurs during or after minute 40 of the race, it will not be counted for the “Extra Time” calculation. 
『SCかFCYの期間がレース開始から40分をまたぐか、40分経過後に発生した場合には延長の計算には数えない』という文言があるので、今回の場合延長の対象外でした。

 ただ、エルキンスによればこの作業は4分ほどで作業が終わるだろうと考えていたそうで、あんなにもたつくとは思っていなかったとのこと。確かに映像を見ると、現場のすぐ右後方に退避路があってそこに車を出せば終わりそうなのに、クレーンが一旦そこよりさらに後方まで後退し、しかし翌周は前進してまた元居た場所に戻っています。
 近くにある退避路は結構小さくて、進行方向から見てもう少し離れた左後方には大き目の退避路があったので、現場でどちらへ行くべきかの方針が迷走して時間がかかってしまったのかもしれません。エルキンスにとってもSC下での終了は予定外だったようです。
 そもそもこの『40分の壁』は不要ではないか、という声がレース後のドライバーからも出たようですが、運営側とすると規定のレース時間を終えて以降もSCが走行し、退出時点で時間を計算して延長するのは作業的に難儀だということでエルキンスは否定的な見解を示しました。昨年のバレンシアでの大電欠事件がありますので混乱が起きないようにチームへ配慮している部分もあるので、そこをまた批判されるとちょっとお手上げに思えます。
 
 結局メルセデス『本家』はバンドーンが7位、デフリースが10位となんとも消化不良な結果に。しかしカスタマーのベンチュリーが2台とも表彰台ですから、メルセデスのパワートレインが強力であることはあらためて実感させられました。
 デフリースはなんというか、ちょっとチーム側が賢くレースしようと考えすぎたように見えました。ディグラッシの翌周に1位の自分が動くのはさすがに難しかったかもしれませんが、2周後には動いておいた方が自由度が高かったように思います。動くと3位に落ちるか、モルターラが自分の逆をやれば4位まで下がってはしまいますが、その先の展開が読みやすくて低リスクでした。完璧に勝てるシナリオを模索してたらその間に話が変わってしまいました。

 ベンチュリーは2台でうまく混乱を作ってデフリースを崩し、チームメイト同士は無益な争いをせずに戦っていて見事な展開でした。モルターラはスタートから無駄のない走りでひたすらデフリースを追走してうまくエナジー管理していたと思われます。2位で隠れておいて終盤にひっくり返すのは定石と言えますが、カスタマーが親玉を陥れてしまって大丈夫だったんでしょうか、まあどうせメルセデスは徹底するからいいかw

 4~6位はロッテラー、デニス、ベルニュ。デニスは次戦でも競争力があればシーズンでかなり戦えそうな雰囲気があります。チームメイトのオリバー アスキューは今日は13位スタートから11位で終えて連続入賞とはなりませんでした。

 まだ2戦を終えたところですがドライバー選手権はモルターラ、デフリース、バンドーン、デニス、ディグラッシの順、チームでもベンチュリーとメルセデスが抜け出してメルセデス無双。昨年までなら予選制度のおかげで選手権上位は後方スタートが定位置になりますが、今年の制度ではそうならないので一方的な展開になるのかどうかが注目となりそうです。
 一方、この2連戦でニッサンe.dams、ドラゴン/ペンスキー、NIO 333 の3チームは1点も獲得することができませんでした。

 次戦は2週間後、メキシコへと向かいます。昨年はプエブラでしたが今年はまたメキシコシティーへと戻ってエルマノス ロドリゲス サーキットが開催地、ターン1が危ないんですよね。

コメント

首跡 さんの投稿…
レースにはあまり関係ない話ですが、FEってモーター音の「キュイーン」や、
タイヤのスキール音である「キュルキュル」という音が、聞いていて心地良いですね
ASMRみたいで、ぐっすり眠れそうです