フォーミュラEの楽しみ方

 2022年のABB FIA フォーミュラE世界選手権が1月28日に開幕しました。正確に言えば2021/2022シーズンですが、パンデミックの影響で日程が本来よりもズレたままなので2021年内に開幕しておらず2022年だけのシーズンです。2014年の初戦から見続けてこれで8シーズン目、世の中ではまだまだ知名度も人気も今一つですw
 せっかくなので、8シーズンずっと見て来た人間なりにフォーミュラEのレースの見どころや楽しみ方をあらためて解説してみたいと思います。NASCARは気合いを入れて9ページありましたが、こちらは長めの1ページでなんとかします。
 全く知らずにパッと1回見ると、何を見るべきかも分からないままに見るのをやめてしまう可能性が結構高い競技だと思うので、「たまたま時間があるから試しに見てみるか」なんて思った時に何かしら観戦のお役に立てればと思います。

 とりあえず、フォーミュラEに興味を持てない最大の理由はだいたい「エンジン音が無くて実物大のラジコンを見ているみたい」「速度が遅い」の2つだと思います。どちらもその通りなので仕方ないですねw
 とはいえ、これから世の中の自動車はおそらく電気自動車が増えて行くでしょうから慣れの問題もあります。速度は確かに遅いんですが、では絶対的に速度の速いレースの方が面白いのか、というとF1のように速すぎてもバトルがしにくくなって単調になることもありますし、GT4なんてそんなに速さは無いですが面白いレースはあるでしょうから、これも捉えようの問題かもしれません。鉄道好きからすると、モーター音も楽しいですよw
 で、肝心のレース内容ですが、たとえばF1をフルマラソンだとすると、FEは『マスク着用で給水が一切できないハーフマラソン』みたいな、モータースポーツとしてはかなり変な競技だと思って良いと個人的には思います。グランツーリスモで燃料消費に常に気を使って走らないといけないようなレースに参加したり、観戦したりするのが好きな方には比較的このレースは馴染みやすい気がします。

 音にしろ速度にしろレースのやり方にしろ、今まで我々が知るモータースポーツとはかなり異質な存在です。リアルに対するバーチャルのレースが『ちょっと違うけどこれもまたモータースポーツの一形態』という風に考えられるのと同様、フォーミュラEもまた他とはちょっと違った位置にある競技だと思って、あまり他との比較を考えずに見てみると、ひょっとすると面白さが感じられるかもしれません。
 シリーズを立ち上げた人をはじめ、運営側の方向性はなんとなくベンチャー企業的な発想なので、そういう『ノリ』とウマが合うかどうか、というところもありそうです。


〇車両

 基本的なところから抑えておきましょう。車両は基本的に全車共通です。車体はスパーク SRT05eと呼ばれるもので、第2世代の車両なので通称Gen2と呼ばれています。来季・シーズン9からは新車になるので、この車両でのシリーズはこのシーズン8が最後となります。
 完全な電動車両で発電用の内燃機関もありません。動力となるモーターはメーカーが開発できる部分ですが規定により最高出力は250kW(340馬力)になっています。車両重量は900kg、公称最高時速は280km/hとされており性能的にはF3程度の性能です。実際はそんなに出せる場所が無いので最高速は220km/hほどになっています。

 もう1つ電気自動車の肝であるバッテリーは共通部品です。容量は54kWh、バッテリーだけで385kgもの重量があります。バッテリー容量と言われてもあまりピンときませんが、日産リーフの標準モデルの容量が40kWh、容量の大きいe+のモデルが60kWhなので、リーフe+より少し少ないぐらいだということになります。まあ、そう言われてもピンと来ないわけですが。
 タイヤはミシュランによるワンメイク、市販車との技術的関連性をアピールするために溝付きの全天候型タイヤとなっていて、晴れでも雨でもこれ一本、モナコの市街地も、空港跡地のコンクリート路面も、メキシコのオーバルトラックも、ロンドンの展示施設内のツルッツルの床も全部これで賄います。開発できる領域が動力部分に限られているので、外観的には色以外に各チームの特色というものがありません。

〇開発可能領域

 シーズン1では開発できる場所が無かったことと、上記の通りほとんど共通部品なので未だに完全ワンメイクだと誤解されてしまっている面があるようですが、開発可能な部分が見えないところにあります。
 パワートレイン、と呼ばれる動力部分で、具体的にはモーター、インバーター、ギアボックスが該当します。そしてギアボックスはリア サスペンションと繋がっているので、結果的にリアサスペンションも開発可能領域となります。足回りも空力部品も全く開発できないので、リアだけ、しかも限度があるとはいえ自分たちで手を加えられるので作り手側とすると重要な部分ですが、どれも見る側とすると全く分からないのが難点ですw


〇開催地

 フォーミュラEの特徴に『ほぼ全部市街地レース』というのがあります。電気自動車で音が静か、そしてF1ほど速くないので大都市の街中でもレースができる、そうすると普段郊外にあるサーキットにわざわざ足を運ばない人でも見れて新たな顧客を開拓できる、といったところが売り文句です。
 残念ながら一部は普通のサーキットだったり、空港跡地などの『常設レース場ではないものの市街地でもない場所』も使用されます。このご時世で市街地開催がなかなか簡単ではなくなってフォーミュラE的にはものすごい逆風なんですが、それでも多くの都市で開催されています。
 市街地だと道幅が狭いしお客さんとしてもかなり近い場所で観戦することになるので、絶対的な速度が低くても遅さを感じにくい、思った以上にスピード感がある(実際市街地だとけっこう恐ろしい速さの場所も多い)ので、本来的には全部市街地で開催したいレースだとは思います。シーズン9で車が速くなったらむしろ危ないところが出て来ないか懸念されています。
モナコはシーズン7からF1と同じレイアウトを使用

〇ドライバー

 フォーミュラEのドライバーは元F1ドライバーをはじめ、世界的に名の知れたドライバーが非常に多く参戦しています。現状多くの自動車メーカーが参戦しているので、世界的に見ても希少な『自動車メーカーからプロとしてお金を貰って走れる』場所であることはかなり大きいと思います。
 また、F1ほどの高い壁ではないですが、FIAのスーパー ライセンス ポイントを過去3年間で20点以上有していることが基本的な参戦条件になっているので、実はそれなりにF2などで実績を残しているドライバーでないと簡単に参戦できないという制度上の壁もあります。
 過去にスーパーライセンスを取得したことがある人=元F1ドライバーだと最低限の要件を満たせば参戦は認められるので起用しやすいみたいですね。日本人では唯一、高星 明誠が日産e.damsのテスト兼リザーブのドライバーとなっていますが、現状ではスーパーライセンスポイントが20点に届いていないので実際にはなかなか参戦するのは難しそうです。


〇一般的な週末の流れ

 フォーミュラEの日程の特徴として、練習と予選と決勝を1日で終わらせてしまうという点があります。さっと集まってさっと設営してさっと帰って行くわけです。また、日程によっては2日連続で開催されることもあります。ドライバーは会場に行くと走行とミーティングとメディア対応とスポンサー関係の対応で分刻みの行動を迫られて無茶苦茶忙しいそうです。
 走行はまず朝に30分のフリー プラクティスを2回行います。2連戦の場合は2日目にはもうある程度分かっているのでプラクティスは1回だけに減らされます。

 練習の後は予選で、シーズン8からちょっと変わった予選方式になりました。まず選手権の偶数と奇数で2つのグループに分けて12分の予選を行い、それぞれの組で上位4人ずつ・計8人が準々決勝へ。ここから1対1のタイムアタック勝負=デュエルを行い、速かった方が勝ち上がって準々決勝→準決勝→決勝と進んでポール ポジションを決めます。

 そこから数時間後にもう決勝レースで、45分+1周の時間制レースです。ピットに入る義務はありませんが、『アタックモード』というものを指定された回数必ず使用しなければならず、これがピット義務のような役割を果たします。
 レースで使用できる電力は52kWhの容量と、回生ブレーキによって回収したエナジーに制限されています。普通に走ると間違いなく45分もちません。そのため、ドライバーはうまく節約し、ブレーキの際にはエナジーを回生して電気を蓄え、速く走りながらも使い切らないように細心の注意を払います。我々視聴者には残量が『%表示』で表され、0%を下回ってゴールしてしまうと『電欠』で失格となります。ものすごいマネージメントを必要とするレースです。
 バッテリー容量が54kWhなのにレース中に使用できるのは52kWhとなっていますが、私が入力をミスったわけではなくこの2kWは安全マージン、バッファーというやつです。ですので、設定上は残量が0%になってしまっても、実際にはまだいくらか残っているのでいきなり動力源を失って車が止まることはありません。

 こんな慌ただしい週末ですが、タイヤは1レースだけの週末なら2セット、2連戦でも3セットしか使用することができません。じゃんじゃんタイヤを注ぎ込むようなやり方ではなく、可能な限り使い続けて廃棄物も少なくしようという考えから来るもので、チームとドライバーはタイヤを効率的に運用する必要もあります。

〇予選の楽しみ方

 フォーミュラEの最高出力は250kWが上限ですが、通常時は220kW、許可された際にだけ一時的に250kWでの走行が可能となります。そのため、250kWでの『本気』の走行をする機会というのはあまりありません。
 シーズン8の予選では最初のグループごとの予選は通常の220kWですが、デュエルになると250kWでの走行になります。まるまる1周を250kWで、かつバッテリー残量を気にせず攻めるのはデュエルの間だけなので、車両性能をフルに発揮した走行を見ることができます。
 また、溝付きタイヤは色んな条件に対応できるがために、逆から言うと速く走らせるための言うなれば『ツボ』に入れるのが非常に難しいとされており、タイヤの使い方の巧緻が結果に大きく影響します。
 セッションごとに新品タイヤを注ぎ込むことはできないので、予選ではタイヤを使っては冷やして、を繰り返します。デュエルで勝ち上がって行くとこれを数回繰り返すので、その中で可能な限り最適な状態を保ち、1回のアタックでリスクとリターン、限界を見極めて攻めないといけません。力を出し切るのはなかなかの難易度で適応力が求められます。

 とはいえ、1対1で争うデュエルはなんだか見ていて眠たくなってくるかもしれないので、無理に予選までは見なくても良いかもしれません。予選で攻めすぎて車をぶっ壊すと、最悪の場合決勝までに修理が間に合わないことがあるのでこのあたりもドライバーは要注意です。


〇決勝の楽しみ方

 とりあえず、スタートのわりと直前までグリッド上でインタビュー詣でがあり、インタビュアーがわりとキツイ質問をしたりするところが他のレースと違うところで、興味を持って見るようになるとなかなか面白いところだとは思います、ドライバーはたまったもんじゃないでしょうけど^^;

・スタート

 一般的なレースだとフォーメーション ラップがありますが、FEの場合はこれがなく『フォーメーション ムーブ(命名:高橋 二郎)』になります。通常はダミー グリッドから発進して2列前方へと移動します。なぜこうしたかというと、シーズン1の最初のレースでフォーメーションラップをやったら、電力を使いたくないのでみんな超絶低速走行してしまって非常に印象が悪くて意味が無いと悟ったためです。すぐに第2戦で制度が変わりましたw

 『通常は』という書き方をしたのはなぜかというと、コースによってはぐるっと半周ほどするようなこともあるためです。なぜそんなことが起きるのかというと、市街地ではピットを設営できるようなそこそこ広い場所を確保しても、その周辺が20台を整列させてレースを開始させるのに適した長さの直線になっていないことがあるためです。
 とりあえずダミー グリッドはピットのある近辺、スタートする時はスタート専用の位置へと向かいます。これにより、市街地では時折スタート位置とゴール位置が異なることがあります。『スタートしてまずターン12、13を通過してコントロール ラインを通過してターン1』みたいな変なことがそれなりに起こるので、見ているとどこで1周だか分からないまま気づいたら30分ぐらい経っている時がありますw

・意外と壊れない

 フォーミュラEの車両は市街地の狭い場所で接近戦をすることがある程度想定されて設計されているので、少々の接触なら意外とレースを続行できます。速度域があまり高くなく空力性能への依存度も低いので、どっかしらのカウルが吹っ飛んだ程度なら割とお構いなしです。
 そのため、混戦ではわりと細かい接触があり、静かであるがゆえにあっちこっちからガシャガシャとぶつかっている音が聞こえてきます。遊園地の安いゴーカートのようにも見えますが、ギリギリの接近戦が演じられるという点では近年の『後ろに近寄れないレース』よりは迫力があるとも言えます。
 基本的にみんなフェアーですがたまに頭に血が上ってお構いなしに突っ込むタイプのドライバーもいるので、放っておいてもなにかしらの事件が起こるあたりは意外とNASCAR的かもしれません^^;
 次世代のモータースポーツを謳って大メーカーが複数参戦しているにもかかわらず、接触して相手の車のフェンダーを踏みつぶして走り去ったり、シケインが事故車で塞がって通れなくなったり、というなんとも滑稽で古典的なアクシデントが起きるという、技術と目の前で起こっている出来事のギャップがある意味面白く、これを笑いながら他人事のように眺めるのも1つの観戦法かもしれません。

くれぐれも怪我のなきよう・・・

・FE流の追い抜き

 スタートすれば普通のレースと基本的に同じですが、レースに必要な技術がけっこう特殊です。前述の通りモーターの最高出力は規定で決まっていてレースでは通常は220kWです。重量もみんな同じです。ということは、どこの誰がアクセルを踏んでも基本的に加速力も最高速もほぼ同じです。ということは、前が失敗してくれない限りほぼ抜けません。そもそも出力が同じなら開発する意味がない気すらしてきます。
 が、当然ながらそんなはずはありません。前述のようにレースで使用できる電力は52kWhに限られていて節約しないと足りません。ここに違いを出す部分と勝機があります。

 同じ220kWの出力を出すにしても、バッテリーからインバーター、モーターを通じて車輪に動力を伝える過程で電気抵抗があると無駄になって失われてしまいます。ザックリ言えば最高出力は同じでも抵抗を少なくすればより少ない電力で同じ性能を出すことができます。同じ52kWhの容量でも、抵抗を減らすと『よりレース中にアクセルを踏む時間が長くなる』ことを意味します。
 簡単に例えると、A社のパワートレインはレース中に合計15分間アクセルを踏めるけど、B社は15分30秒踏める、というのであれば、この30秒の差を使えば追い抜きができるということになります。
 一般的なレースで動力部分の開発と言えばたいていは『いかに加速性能や最高速を向上させるか』という出力の競争になりますが、出力に上限があるフォーミュラEでは『いかにレース中にアクセルを踏む時間を長くできるか』という効率の競争だと言えます。

 そしてこれがレースのやり方に関わります。普通のレースでは追い抜きというとスリップストリームを利用して直線で横に並んだり、ブレーキでの飛び込みなどが主流だと思います。しかしフォーミュラEの場合には『どこまでアクセルを踏めるか』の競争であることが多いです。
 全力で走るにはバッテリー容量が少なすぎ、ブレーキで回生したぐらいでは全然足りないので、ドライバーはコーナーの手前でスロットルを戻して空走させる、いわゆるリフト&コーストを多用します。このリフト&コーストのタイミングが最大の追い越し機会を生みます。
 例えば、相手がブレーキ位置の150m手前でリフトしている時に、バッテリー残量に余裕があればこれを自分は80mにすることができるかもしれません。70mも長くアクセルを踏んでいられるので、コーナーの進入時点で内側に並んでしまうことが可能になります。
 実況解説で「すごいブレーキング」「直線で伸びる」と言っているのが、実際はリフト位置の差であることはしばしばあります。これを理解した上で見ると、バトルの中で何が起きているのか少し分かるようになっていきます。いずれにせよかなりの頭脳戦です。

・ブレーキングの技術

 もちろん、みんな極限まで効率を追求しているのでなかなかその差を簡単には作れず、ブレーキで勝負をする必要も多々あります。そのブレーキが非常にクセが強くて厄介です。大したダウンフォースが無い一方で900kgもあるこの車、床下にバッテリーがビッチリ敷き詰められ、後部に重たい色んなものが詰まっているので重量配分がかなり偏っており、ブレーキで失敗しやすい設計になっています。
 そして、車両には通常のディスクによるブレーキと回生ブレーキがあります。規定では回生ブレーキを使って回収したエナジーの75%を使用可能エナジーに上乗せすることができると書かれており、簡単に言うとブレーキを使ってある程度充電することができます。ですから、できるだけ減速の際には回生を使っていきたいところです。
 しかし、我々が使う携帯電話でもそうであるように、大きな電力の出し入れを行うとバッテリーなどがものすごく熱をもってしまいます。あまりに温度が上がると性能が低下したり、危ないので自動的に安全装置が働いて機能が制限されてしまうので、無尽蔵に回生ブレーキばかり使うというわけにもいきません。油圧ブレーキとうまく協調させてあげないといけません。
 油圧と回生ではブレーキの効き具合や感触は異なります。さらに、バッテリーが減っていないレース序盤は回生したくてもできないので油圧に頼ることになり、レースが進むにつれて回生を大きくしていくことになるので、レースの序盤と中盤以降でも使い方が変わります。初めて参戦するドライバーが特に苦労する部分です。
 
 開発という観点で見れば、最適な回生の方法の解析をはじめとした運用方法、ソフトウェア面が重要な開発項目で、ハードウェア側では熱損失の少ないインバーターの開発などで、無駄のない回生を行うことを目指します。どれも見た目にはさっぱり分からないのが難点です。
無茶なブレーキングが原因で
ミサイルが飛ぶことももちろんある・・・


・常時『電費』レース

 F1でも現在は給油が禁止されているのでガス欠の恐れはありますが、そうは言っても実際に上位の車がガス欠危機に見舞われて低速走行を余儀なくされることはほとんどありません。が、このフォーミュラEは油断するとマジで足りなくなります。そのため、レースは常に電池残量との戦いです。
 周回制ではなく時間制レースなので、ドライバーは手元のモニターに表示されている数字を頻繁に読み上げてチームに伝え、チーム側は『あと何周か』を常に計算しつつドライバーにどう走るべきかを伝えて、最後まで走り切れるように管理します。稀に計算を1周間違えてリタイアする人も出るので非常にシビアです。

 前の車より自分の方が少しだけ速い気がするけど抜けない、という場合には、相手よりも少しリフト位置を早め、あるいは回生を多く使用していって、もちろんタイヤもうまく温存して『貯金』を作るのが定石です。バッテリー残量を相手より多く残し、これによってどこかの段階で相手のリフトの隙をついて追い抜きを仕掛けることに繋がります。相手の後ろにいるとスリップストリームに入るのでこれも消費量を抑えるのに役立ちます。
 最初に挙げたグランツーリスモの燃費レースを知っていると非常に親近感が湧きますね。燃料消費率じゃなくて電力消費率なので、言うなれば『電費レース』。途中まである程度管理したらあとは全力で走れる、なんて生易しい設定ではないので、たとえトップを走っていようとなんだろうと、残量とは常に戦い続けないといけません。

 全ての周回を綺麗に均等な消費量で走り切ると計算上は理想的かもしれませんが、管理を意識しすぎて抜かれたら意味がありません。そのため多少のメリハリも必要です。基本的には、混戦になる序盤はどうせ抜けないので少し抑え気味に走って貯金を作り、徐々に隊列がバラケて勝負しやすくなる中盤以降に必要に応じて思い切って使っていくパターンが多くなります。
 一方で、ポール ポジションからのスタートだったり、速いのに予選で失敗して後方スタートになった、といった場合には、逆に最初に少し飛ばして行って後ろと空間を作ったり、とりあえず前に出て後半はコーナーの速さと自分の腕でどうにか抑え込む、というのも当然あります。ドライバーの意図を考えながら見れると面白く見れます。
 私の場合GT SPORTでこの手の設定のレースに参加してからは明らかにドライバーの心境の理解度が深まりました。世界的にこんなに航続距離が極端な障壁になるレースって思い浮かばないので、ある種『ゲームっぽい』設定のレースをやっているのかもしれません。

・アタックモード

 アタックモードは、所定の操作をステアリング上で行った上で、コース上にあるアクティベーション ゾーンの上を通過すると作動するシステムです。3か所ある検知点を全て通ると作動し、最高出力が220kWから250kWに大幅に向上します。中継映像では『シャキーン!』的な効果音が鳴ります。ゲームに着想を得たとも言われており、『マリオカートルール』なんていう俗称もあります。
ヘアピンの大外にアクティベーション、
設定の定番です

 レースではアタックモードの回数と持続時間が予め設定され、必ずこれを使い切る義務があります。シーズン7では大半のレースで『4分間×2回』という設定でした。レースを終えた時点で規定の数量を完全に使い切らなかったらペナルティーが課せられます。
 そしてこのアクティベーションゾーンはたいていコーナーを大外回りする箇所に設定されています。そのため、起動後は出力が上がって速いんですが、起動するためには時間を少し失いますし、内側ががら空きになるので後ろに車がいたら確実に抜かれてしまいます。
 アタックモードは『追い抜くためのツール』であると同時に、ピット義務のような役割も果たしており、実は『使うことで順位を下げないための工夫と戦略』というのも考えないといけません。

・アタックモードの基本戦略

 アタックモードにピット義務のような役割があるということは、他のレースにおけるピット戦略のようないくつかのパターン、セオリーがあります。典型的なものをご紹介します。
 例えば、アタックモードを使うと1周あたり1.5秒速く走れるようになるけど、取りに行くと遠回りして1.2秒失う設定だったと仮定します。最も理想的なのは、後続車両を1.3秒以上引き離しておいてアタックモードを使うことで、これだとギリギリ抜かれずに済みます。いわゆるフリー ストップの状態ですね。

 一方で、1.2秒以内に車がいるとアタックモードの使用で抜かれてしまいます。出力が大幅に上がっているので長い全開区間があれば容易に抜き返すことはできますが、直角コーナーが連続するような区間だと抜けないので、せっかく速く走れるアタックモードなのに遅いペースに付き合わされてしまい勿体ないです。
 相手が1台ぐらいだったらまだ良いですが、1.2秒以内に3台も4台も連なっていたら、いくら相手が通常モードでも抜くのに手間取ってしまい、元の順位まで戻った時にはもうアタックモードの時間が終わってしまうかもしれません。これだと非常に損をしてしまいます。

 ということで、後ろに車が連なっていると基本的に隊列の先頭の人はリスクが大きすぎて自分からアタックモードを取りに行く事ができません。レースの序盤だと、どの順位の人も同じ悩みを抱えるのでそうそう動きは起こりません。にらみ合いになります。
 このにらみ合いの均衡はどうやって崩れるかというと、戦闘力が拮抗している上位陣と比べると中団あたりはペース差があったり接触があったりして隊列が千切れる箇所が出て来るので、ここにフリーストップできる場所が現れます。そうすると当然アタックモードを使う人が出て来るので、これで均衡が崩れます。
 後ろの人がアタックモードを使ったら、もう1台前にいる人はそのままぼんやり走っていると翌周以降に攻撃を受けます。どうせそのうち抜かれるに決まっているのに無駄に争っても損だと考えることが多いので、この人もアタックモードに入ります。こうして、後ろから前へとアタックモードの波が波及していきます。
 前の人は一旦は抜かれてしまいますが、相手のアタックモードが時間切れになったところで自分にはまだ1周分の効果が残っていますから、この差を使って抜くことができます。お互いにアタックモードを使い切ったところで、使う前と同じ位置関係、同じタイム差に収まったら、このアタックモードのサイクルでは『順位変動は無かった』と言えます。
 でも、これだと結局お互いに見た目の順位変動を楽しんだだけになってしまうので、順位を上げたければこのサイクルで相手を抜かないといけません。例えば、抜いた後に飛ばして差を広げてしまい、相手に抜き返されないうちにお互いのアタックモードが終了すれば、これが本当の意味で『アタックモードを使って抜いた』ことになります。

 あるいは、あえて相手のアタックモード取得に反応せずできるだけうまくブロックし、たとえ最終的には抜かれることになっても『相手にアタックモードの利益をできるだけ与えず、こっちは別のタイミングでアタックモードを仕掛ける』という流れに逆らう考え方もあります。
 実際には複数の車が同時に色んな考えで動くので、うまく相手を陥れたと思ったら自分がアタックモードを使う機を逸していたり、うまく追い抜きを繰り返したと思ったら自分だけサイクルがずれて終盤にドバドバ抜かれたりと、アタックモードは単なる加速装置ではなくピット戦略、というかボードゲーム的な心理戦のようにも見えます。
 これを、「この人がこう動くとこうなって、そうするとこうなるから最終的に前に出るのは・・・」なんて先を予想しながら見るのも楽しみ方の1つです。
 また、250kWで走ると当然220kWで走るよりも多くの電力を消費してしまうので、たとえアタックモード中でも不必要なら無理に250kWで走行せず消費電力にも気を配るなど、攻めたい時でもやっぱり管理をしないといけなかったりします。

・ファンブースト

 ファンブーストはいかにも今どきな仕組みで、公式サイトの特設ページとSNSでファン投票を募り、投票の上位5人にだけ追加の力を与えるというものです。ファンブーストを獲得するとレース中に100kJの追加エナジーが与えられ、使用時は出力を240kW~250kW(チーム側が任意で設定)に増加させることができます。
 通常の220kWから見ると20~30kWのブーストで100kJ使えるので、240kWなら5秒間、250kWなら3.33秒間ブーストをかけることができます。100kJの分割使用はできず1回限り、使用してブーストがかかった後、アクセルを戻すなりなんなりして出力が下がったらそれでおしまいです。
 使用できるのはレース開始から22分経過後。アタックモードと違って使用義務は無いので使わずにレースを終えても構いません。追加の100kJはレース中の使用可能容量である52kWhとは別勘定なので、獲得したら基本的には使っておきたいものです。が、250kWで走ったことによる発熱だけはどうしようもないので、熱が心配なら使わず放置するのも戦略です。
 ジュールとキロワット時が同時に出てきてややこしいですが、100kJ=約0.0278kWh で、換算可能な単位なのでどちらでも表現はできるんですが少量すぎてkWhで書くと数値がよく分からないのでジュール表記にしてるんでしょう、知らんけどw
 もう1つ気を付けるべき点としては、『240kW~250kWの出力』と規則に書いてあるので、何かの不具合で235kWしか出なかったりすると『規定外の使用法』とみなされてペナルティーを食らうことです。フォーミュラEはけっこう珍妙なペナルティーが多いです^^;

 「ファン投票で一部のドライバーだけ有利になってずるい」という指摘は導入当初からあるんですが、意外とうまいこと使わないと役に立たないことが多くて、ファンブーストが優勝争いに決定的に影響したというようなことはほとんど無かったりします。獲った人が1周目にクラッシュしていてもうこのレースにいない、なんてこともあります。
 とはいえ、投票上位の顔ぶれはほとんど毎回同じ人たちになっているのと、そこまで決定打になっていないことを考えるとこの制度は見直しの必要があるかなと個人的には思うのですが、『ファンの声援が直接レースに影響を与えることができる』という発想は面白く、いわゆる『推し』がいるとレースをより楽しめるとは思います。


・延長戦
 
 シーズン8からレース延長という制度が新たに導入され、事故などでセーフティー カーかフル コース イエローが出た場合に、導入から1分に経過するごとにレース時間が45秒延長されます。最大で10分まで延長。これは、SC/FCYになるとこの間はほとんど電力を消費しないので、せっかくの猛烈な節約レースが緩んでしまうためです。
 ということは、レース中にペースから逆算して考えていた残り周回数がこれによって変動していくので、チーム側は再計算をしないといけません。油断する暇がありませんねえ。

・多種多様なペナルティー

 先ほどもちょろっと書きましたが、このレースは異様にペナルティーが多いことで知られています。技術的な違反によりレース開始直後にペナルティーを受けることもあれば、レース後にタイム加算されることも多いので「レース結果は翌日まで信じるな」と思って良いぐらい事後に結果が変わります。
 なぜそんなに多いのかというと技術的に色々と定められた規則が主な原因で、出力が220kWを超えた、出力マップの取り扱いが規定に即していない、などのドライバーには過失のない車両側の設定に起因したものがかなり多いです。
 ちなみに出力オーバーはズルをしたわけではなく、路面の凹凸で車が跳ねて車輪が空転し、その瞬間にモーターの回転数が上がりすぎて超過してしまう『出力スパイク』が原因であることが多いみたいです。一定の許容範囲はあるんだと思いますが、立て続けに起きるとその範囲を超えて違反に該当してしまうんですね。
 また、車両のコーナリング性能を少しでも上げて速く走ろうと思うと他のカテゴリーと同様にタイヤ内圧の設定は重要です。内圧には下限が設定されていてこれを下回ると失格になってしまうんですが、勝つためにみんなギリギリを攻めて来るので内圧規定違反も予選後/レース後によく摘発されます。レース後にゆっくりピットに戻ってくるとタイヤが冷えて内圧も下がるので、余韻を楽しむ間も無く急いで戻るのが定石です。
 「フォーミュラEはドライバーにとって関係無いペナルティーばかりでバカげている」とよく批判され、ドライバーも自らに非の無い些細な違反でたびたび順位を失うので批判していますが、何か線引きをしておかないとズルが横行するので難しい問題です。ある意味これも新しい文化だと思って観戦した方が面白く見れますし、精神衛生上も健全ですw

・選手権

 選手権ポイントはFIA方式の配点で1位 25点、2位 18点、3位 15点・・・のF1と同じやつです。ここに、予選PPに3点、決勝で上位10台の中でのファステストラップに1点がボーナスとして与えられます。当然ながらシーズンで最も多くポイントを獲得したドライバーが世界チャンピオンとなります。チームのポイントは2台の獲得したポイントを単純に足していきます。NASCARと違ってシンプルですねえ。


 と、フォーミュラEはだいたいこんな感じのレースです。NASCARと同様に独自の要素がかなり多いので、あとは実際に見てナンボ、合わない人にはとことん合わないカテゴリーだと思いますが、その分ハマると他には無い魅力が詰まっているとも言えます。
 最後に、せっかくなのでシーズン8の参加チームとドライバーをまとめてみます。テストの際の『新しい外観とサウンド!』みたいな公式動画からスクリーンショットを拾ってシーズン7のチーム順位に並べました。ぜひ音も聞いてみてください!


Mercedes-EQ Formula E TEAM/Mercedes-EQ Silver Arrow 02
  5 Stoffel Vandoorne
17 Nyck de Vries 

 シーズン6から本格的に参戦を開始したメルセデス-EQ。EQはメルセデスの電気自動車専用ブランドの名前です。F1同様に昨シーズンは圧倒的な速さを見せて二冠を獲得しました、が、今季・シーズン8をもって撤退が決まっています。メルセデスはいなくなりますが、チーム組織自体はどこかのメーカーからパワートレイン供給を受けて活動を継続する方向性で動いています。
 ドライバーは昨シーズンのチャンピオンで2019年のFIA F2チャンピオンでもあるニック デ フリースと、2014年のGP2チャンピオンでF1経験もあるストフェル バンドーン。ドライバーも組織も強力なチームです。

Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 5
  9 Mitch Evans
10 Sam Bird

 黒と植毛グリーンでお馴染みのTCSジャガーはシーズン3から参戦。シーズン6までの4年間はパナソニックが冠スポンサーだったんですがいなくなってしまいました(´・ω・`)
 ミッチ エバンスはジャガーの参戦とともに起用されてエースとして活躍し、勝利数こそ通算2勝ですが常に決勝で追い上げる安定感があります。昨シーズンはチャンピオンに片手が届いていましたが、最終戦のスタートでトラブルにより車が動かず追突されて車が大破するという悲劇的結末を迎えました。嫌な流れを変えたいのか昨年までのカー ナンバー20から今季は9に変更しています。
 相方のサム バードはフォーミュラE初年度から参戦し続ける初期メンバー、通算84戦で11勝、22回の表彰台を獲得している35歳のベテラン。昨シーズンジャガーに移籍してきて2勝を挙げており、決勝でのレースの上手さが持ち味でこのレースの顔とも言える存在の1人です。
 
DS Techeetah/DS E-Tense FE21
12 António Félix da Costa
25 Jean-Éric Vergne


 中国資本のテチーターにシトロエンの高級車ブランドであるDSがパワートレインを持ち込んで手を組んでいるDSテチーター。チームアグリの撤退によって入れ替わりでシーズン3から参戦し、最初の2シーズンはルノーのカスタマーとして活動、2年目になんとジャン エリック ベルニュがチャンピオンを獲得すると、DSに鞍替えした翌年もベルニュが連覇。
 さらに翌年のシーズン7ではアントニオ フェリックス ダ コスタがチャンピオンとなり、3年連続でチャンピオンドライバーを輩出、チームとしてもシーズン6、7と2連覇しました。昨シーズンは取りこぼしも多くてそれでも3位、レースでのマネージメントに強みがあるようで強豪の一角です。
 いずれもチャンピオン経験者であるベルニュとダコスタはどちらもコース上では全然協調性が無く、チームメイト同士でぶつかったり鬼ブロックしたり、チームの指示に従わなかったりして一番仲の悪いコンビで見ているといつもハラハラしますw

Envision Racing/Audi E-tron FE07
  4 Robin Frijns
37 Nick Cassidy


 エンビジョンは元々シーズン1からDSバージン レーシングとして参戦。DSがテチーターに移ったシーズン5からアウディーのカスタマーとなりました。今季バージンがチームを去ってエンビジョンが主要なオーナーとなりチーム名が変更されて車の色もガラッと変わりました。
 エンビジョンはシーズン5から冠スポンサーとなっていた中国に拠点を置く風力発電などを手掛ける企業です。自動車用車載電池も手掛けており、日産とNECが合弁で設立したAESCという会社もエンビジョンに売却されています。
 フォーミュラEではバードが初年度からエースとして活躍しており、DSもアウディーも良好なパワートレインだったので初年度から全てのシーズンでチーム順位は3~5位と中~上位のチームです。
アウディーが撤退しましたが今季はパワートレインが開発凍結されているのでそのまま継続使用、多少はアウディーからのサポートも受けられることを期待しています。
 ドライバーはシーズン5にこのチームで2勝しているロビン フラインスと、日本のスーパーフォーミュラ、SUPER GTでチャンピオン経験のあるニック キャシディー。日本と縁があるのでJ SPORTの放送ではよく独自インタビューに答えてくれています。もうちょっとで勝てそうな感じです。

Avalanche Andretti Formula E/BMW iFE.21
27 Jake Dennis
28 Oliver Askew

 フォーミュラE初期から参戦しているアンドレッティー、インディーカーなどで有名なあのアンドレッティーです。最初の4シーズンを独立路線で歩んだ後、シーズン5からBMWと組んで競争力を向上させて合計7勝を挙げました。しかしそのBMWは昨シーズン限りで撤退、今季はBMWが置いて行ったパワートレインを使用しますが、来年以降は協業相手を探さないといけません。
 アバランチは高速・低コストでブロックチェイン技術を提供するITプラットフォーム企業だということで、車体の色もBMWのイメージだった青/白から、アバランチの企業ロゴに合わせた赤/白にガラッと変わりました。
 ドライバーは昨シーズン新人ながら2勝を挙げて選手権3位に食い込んだ期待の26歳・ジェイク デニスと、2019年のインディー ライツ(インディーカー シリーズの下部カテゴリー)チャンピオン・オリバー アスキュー。唯一のアメリカ人ドライバーです。

ROKiT Venturi Racing/Mercedes-EQ Silver Arrow 02
11 Lucas di Grassi
48 Edoardo Mortara

 ロキット ベンチュリーはシーズン1から参戦しており、元は少量の電動スポーツカーを発売するベンチュリー社が所有、シーズン5までは自社のパワートレインを使用していました。しかしシーズン6からメルセデスのカスタマーとなり、チームも投資家グループに売却されました。昨季は銀色だった車が今季は真っ黒です。
 チームのCEOはスージー ウォルフ(メルセデスF1チームの代表でお馴染み、トト ウォルフの妻)でメルセデス色が強めです。ただ、メルセデスは撤退してしまうので来季からは新しい相方を見つける必要があります。
 ドライバーは2009年、2010年とマカオGPを連覇、さらに翌年からマカオGTカップでさらに3連覇する、マカオを愛し、マカオに愛された、全てのマカオの産みの親・エドアルド モルターラと、アウディーの撤退に伴って移籍してきたシーズン3のチャンピオン・ルーカス ディ グラッシ。
 モルターラは昨シーズン1勝ながらドライバー選手権で2位、ディグラッシは通算12勝・35回の表彰台を経験した37歳の大ベテラン。ただ時々頭に血が上ってコース上で暴れますw

TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric
36 André Lotterer
94 Pascal Wehrlein

 シーズン6から参戦を開始したタグ ホイヤー ポルシェ。いきなり初戦でアンドレ ロッテラーが2位になって脅威になるかと思いきや、マネージメント面で苦戦を強いられて2年間で表彰台は4回にとどまり、まだ勝利を挙げられていません。
 昨季の第8戦プエブラでは優勝したはずでしたが、なんと『使用タイヤの登録申請ミス』という、レース内容には全然関係無い事務手続きミスで失格となって幻に。苦戦しているということは同一グループであるアウディーの使いまわしではなくちゃんと独立した組織である証左ではありますが、とにかく1つ勝ちたいところです。
 ドライバーは日本でもお馴染みのロッテラー。ル マン24時間で3勝、フォーミュラニッポン、SUPER GTでもチャンピオンを獲得している40歳は参戦ドライバーで最年長です。シーズン5、6はテチーターに所属していましたが、ベルニュとチームメイト同士で何度か交錯、強力なテチーター時代に勝てなかったのは蹴高痛手で、5年間参戦して未勝利です。
 もう1人は2015年のDTMチャンピオンでF1の経験もあるパスカル ベアライン。速さは抜群に見えるんですが、レースで今一つ競争力が足りないのが車のせいなのかドライバーのせいなのかまだよく分からないところがあります。そして失格になって優勝を失ったので、ちょっと運もありません。

Mahindra Racing/Mahindra M8 Electro
29 Alexsander Sims
30 Oliver Rowland

 マヒンドラは初年度から参戦しているチーム。マヒンドラというのはインドの複合企業グループで、傘下にマヒンドラ&マヒンドラという自動車会社があり、グループ内に電気自動車企業もあります。そのため独自のパワートレインを採用して参戦しています。2016年にマネッティ マレッリとの技術提携を発表しており、おそらく現在もマレッリと共同開発したパワートレインと思われます。
 チームとして通算5勝を挙げていますが、そのうち3勝はシーズン3~4にフェリックス ローゼンクビストによって挙げられたもので、とりわけここ2シーズンは低迷しています。
 ドライバーは参戦4年目、BMWに所属していたシーズン6で1勝を挙げているアレクサンダー シムズと、こちらもフル参戦4年目・日産から移籍してきたオリバー ローランド。シムズはヒゲとメガネが特徴で、ぱっと見実業家みたいな雰囲気です。
 また、このチームは代表のディルバク ギルという人がいつもとても感情表現が豊かで、緊張すると手で心臓の部分をトントンと叩いていたり、とても嬉しそうに喜んだりとギルさんが1つの名物になっています。

Nissan e.dams/Nissan IM03
22  Maximilian Günther
23  Sébastien Buemi

 昨シーズンのチーム選手権でなんと下から3番目だったのが日産e.damsでした。このチームは元々ルノーe.damsとして初年度から参戦しており、シーズン5からグループ企業である日産に役目を引き渡しました。協業相手のダムスは1988年に設立されてヨーロッパの様々なレースに豊富な参戦経験を持つフランスのチームです。2022年のFIA F2では岩佐 歩夢が所属します。
 ルノー時代のシーズン1からチームとして3連覇、シーズン4以外は必ず1勝以上挙げていましたが、昨シーズンは新型パワートレインの導入をライバルより少し遅らせた影響もあって僅か2回の表彰台に終わりました。
 ドライバーは初期メンバーのセバスチャン ブエミとBMWアンドレッティーから移籍してきたマキシミリアン グンター。ブエミはシーズン2でチャンピオン、翌年はWECの日程と重なって2戦を欠場したものの、出場10戦で6勝してシリーズ2位とチームもドライバーも無敵モード。
 ただシーズン4以降は1勝にとどまり、昨季は何もかもうまくいかずなんと入賞3回のみ。WECではトヨタのドライバーなので、世界選手権で日本の大手自動車会社2つに乗るというなかなか珍しい存在のドライバーですが、掛け持ちがドライビングに影響しているのではないかと気になります。
 一方グンターはフル参戦4年目の24歳、BMWで通算3勝を挙げていますがリタイアも多くて選手権順位では下位に沈んでいます。日産からすると、ローランドという有望な選手が出て行ってしまった一方で、アウディー撤退からの玉突きであふれたグンターを手にできたことで、ひょっとすると良い買い物ができたのではないか、とも言われています。

Dragon / Penske Autosport/Penske EV-5
  7 Sérgio Sette Câmara
99 Antonio Giovinazzi

 ドラゴン/ペンスキーはアメリカのチームで、ロジャー ペンスキーの息子・ジェイ ペンスキーらが設立したチームです。シーズン5まではドラゴン レーシングという名前で、シーズンによってはここに冠スポンサー名がついていましたがシーズン6からドラゴン/ペンスキーとペンスキーの名前が入りました。
 ここまでかなり苦労しており、シーズン2はベンチュリーのカスタマー、シーズン3ではファラデー フューチャーという当時注目を集めていた新興電気自動車メーカーがスポンサーについて自社パワートレインに変更されます。いずれはこの会社がさらに大きく関わるのかと思われましたが事業が停滞して結局関係は解消。
 その後も自社製で出場を続け、2021年2月にはボッシュとの提携を発表してシーズン9以降もボッシュとの協業で自社製パワートレインを作って参戦、と思われましたが結局この計画は進行されずに、来シーズンからはカスタマーに転向することが明らかになっています。当然成績も低迷中。
 ドライバーは参戦3年目の23歳・セルジオ セッテ カマラと、昨年までアルファロメオからF1に参戦していたイタリアm、、、アントニオ ジョビナッツィーです。セッテカマラは時折予選で存在感を示しており速さがあるようで、それはF1でのジョビナッツィーも同様でした。
 とはいえ、開発凍結で昨年と同じパワートレインですから、ソフトウェアの改良だけで戦闘力がひっくり返るとはそうそう考えられません。いかに入賞回数を増やすか、というのが現実的な目標に見えますが、ジョビナッツィーがどのぐらいやれるかは入賞圏外の争いでもけっこう興味深いところです。

NIO 333 Formula E Team/NIO 333 001
  3 Oliver Turvey
33 Dan Tiktum


 NIO 333はチャイナ レーシングとして初年度から参戦している中国を本拠地とするチーム、全チームが共通パワートレインだったシーズン1でネルソン ピケ ジュニアがチャンピオンを獲得しましたが、年々成績が下降してシーズン6では年間通じて0点という屈辱、ここ3年で26点しか獲得していません。
 NIOは中国の電気自動車専門の新興企業でシーズン6までは自社保有しているチームでしたが、その後チームは売却されてオーナーが代わっており、現在は冠スポンサーという形での参戦をしています。それでも、来季以降も自社のパワートレインを使用するよう参戦登録をしており、そのための体制づくりが行われているとのことです。
 ドライバーはシーズン1の終盤からこのチーム一筋8年目、SUPER GTに参戦していたことで日本でも知ってる人は知っているオリバー ターベイと、新人のダン ティクトゥム。ターベイの自己最高位は2位で表彰台もこの一回だけですが、結構速いドライバーだと思います。
 ティクトゥムはその才能を高く評価される一方で、たぶん負けを認められない性格なんだと思いますが、故意の接触などのコース上での悪質行為を何度か繰り返し、出場停止や解雇を複数回経験してきているドライバーとしてある意味非常に有名です。果たして大丈夫だろうか^^;


 撤退するところもあって来季からパワートレインを製造するのは日産、NIO、マヒンドラ、ジャガー、DS、ポルシェの6社になってしまいますが、来季からはマセラティ―の参戦が決まっています。DSと同じグループ企業なのでDSのパワートレインを使用しますが、フォーミュラE側が規則を変えて『同一グループ内のブランドは1社に限って別メーカー扱いして別のブランド名を名乗って良い』としたので、名義上はマセラティーのパワートレインとして活動するようです。

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