リチャードペティー、チームの過半数をGMSに売却

 NASCAR Cup Series、No.43 シボレー カマロを走らせるリチャード ペティー モータースポーツが、チームの株式の過半数とチャーターをGMSレーシングに売却したことが明らかになりました。

 12月2日にリチャード ペティー モータースポーツと、GMSレーシングのオーナー・モーリー ギャラガーが共同声明を発表しました。

「リチャードペティモータースポーツは、GMSレーシングのオーナーであるモーリー ギャラガーに過半数の持分を売却することに同意しました。2つのチャーターが契約に含まれており、2022年のNASCARカップ シリーズのシーズンに運用されます。 次世代の車で新しい章を書くことができるので、これは両方の組織にとって特別な瞬間です。」

詳細は、ノースカロライナ州シャーロットのNASCAR殿堂で12月7日火曜日の東部時間午後3時に発表されます。 

 RPMは既にエリック ジョーンズの来シーズンの残留を発表していますが、この契約とNo.43の運用はそのまま継続される見込みです。FOCUSfactorという脳の活動を助けるらしい健康補助食品を販売している企業が26戦でスポンサーとなることも既に発表されていますが、こちらはそのままになるのか不明です。普通に考えたら経営権が移行しただけで降りるとは思いませんが。
 GMSレーシングは2022年にカップシリーズにも拡張してフル参戦し、No.94でタイ ディロンを起用すると既に発表していましたが、チームにはもう1つチャーターがあるのでこれを使用します。
GMS Racingの公式動画より
https://youtu.be/ftj_bHy3lhM


 2017年以降は1台体制だったのでもうすっかり存在すら忘れていますが、RPMにはNo.44のチャーター(以前のNo.9)があり、こちらは過去3シーズンに渡ってリック ウェアー レーシングのNo.51が使用してきましたが、これをチームの手元に戻してディロンのチャーターとして使用します。
 いやちょっと待て、チャーターの貸し出しは5年につき1回限りじゃなかったのか、という疑問に突き当たりますが、実はRPMはリック ウェアー レーシングのNo.51とは提携を結ぶ形式になっていて、この元No.44のチャーターは『ペティー ウェアー レーシング』というオーナーが管理していることになっていました。

 RPMは以前から財政的に苦しい様子がうかがえました。チームの歴史を振り返るとかなり複雑な経緯をたどってきたチームであることが分かります。以下、Wikipedia他複数の情報源をあたりつつ調べた内容です。
 元々は2000年にレイ エバンハムが設立したエバンハム モータースポーツが起源でした。エバンハムは元クルー チーフで、ジェフ ゴードンとともに3度のチャンピオンを獲得、ピット作業においてクルーの洗練・プロ化を進めた第一人者とされ、2018年にはNASCARの殿堂入りを果たしています。

NASCAR公式動画にて、自信のコレクションを説明するエバンハム

 2007年、ここにジョージ ジレットという人が出資してオーナーに加わりました。ジレットは投資家・実業家で、1970年代から色んな業種の事業の売買を行って財を成しました。2000年代に入るとスポーツ界への進出を進め、色んなところに興味を示しては成立していなかったようですが、2001年にNHLのモントリオール カナディアンズを手に入れ、サッカーのリバプールFCも2007年に購入しました。
 結局ジレットはカナディアンズの経営を向上させて、報道によれば2009年に投資金額の2倍ほどの価格で売却することに成功、一方リバプールは経営に失敗して数年後に売りに出されることになります。

 そんなジレットが2007年にエバンハムに加わってジレット エバンハム モータースポーツへと改称されますが、ここに2009年にペティー エンタープライジーズが統合されました。ペティーエンタープライジーズはリー ペティーが1949年にリー ペティー エンジニアリングとして自分がレースに出走するために立ち上げた組織でした。
 その後No.43に乗った息子のリチャード ペティーが7度のチャンピオンに輝き、彼のNo.43と象徴的なカラーリングである青いペイント スキームはNASCARにおける伝説の存在となりました。が、そんなチームも財政が苦しくなってしまい2008年末を持って閉鎖・エバンハムと合併しました。この際に、キングペティーに敬意を表するのと、ブランド力があるのでチーム名をリチャード ペティー モータースポーツへまた改称されました。

 既にわけがわからんことになってきましたが、さらにここに2010年にはイェイツ レーシングも統合されます。イェイツレーシングは、1988年にロバート イェイツがレニアー-ランディー レーシングを買収して誕生したチームで、1999年にはデイル ジャレットがチャンピオンを獲得。しかしこちらも徐々に右肩下がり、財政難となっていました。ちょうどいわゆるリーマン危機が起こった時期ですので、財政事情の厳しい中~小規模のチームにとってはスポンサー探しが難しい時期だったと思われます。
 なお、現在フォード勢の多くにエンジンを供給しているのはラウシュ イェイツというエンジン ビルダーですが、これはイェイツのエンジン部門が同業のラウシュと合併した企業です。ロバートの息子・ダグ イェイツは現在ラウシュ イェイツ エンジンズの社長兼最高経営責任者です。


 こうして、チームは『エバンハムが作ったチームにジレットという投資家が入って来て、潰れかけたペティーとイェイツを合流させ、チーム名の看板に伝説のドライバーを掲げた』というすごいんだか混沌としてるんだかよく分からない組織になったわけです。
 ところが、金欠チームを統合したペティーは自らもお金の問題に直面。2010年、ジレットに金銭問題が発生しました。簡単に言うと、リバプールを買収するために借りたお金を返せ、と訴訟を起こされて行き詰ってしまったのです。
 結果、ジレットは持ち分をメダリオン フィナンシャルという投資会社と、その創業者やリチャード ペティーに売却することになりました。このころには、2010年のシーズン終盤にケイシー ケインがシーズン中にも関わらず放出され、車体とエンジンの供給契約を結んでいるラウシュ フェンウェイ レーシングへの支払いが滞って、シーズン途中で参戦打ち切りではないか、と毎週のように噂されていたとのことです。

 とりあえずメダリオンらへの売却によって当面の資金を得たRPMはその後も活動を継続していたものの、参戦台数は2017年以降1台だけになってしまいました。昨年にはバッバ ウォーレスとの契約延長のために、彼にオーナー権の一部を手渡す契約条件を用意しているという情報もありましたが、ウォーレスという"時の人"を掲げてスポンサー獲得に繋げたい意図があったと思われます。


 一方のGMSレーシングは、モーリス ギャラガーが2011年に設立したチームです。ギャラガーは民間航空会社の企業家で、現在はアレジアント航空という低価格航空会社の会長兼最高経営責任者です。
 元々知人のスペンサー クラークという選手とともにNASCARの地方シリーズに参戦していたんですが、2006年に彼の乗るトレイラーが横風で横転する事故が発生し、クラークは亡くなりました。これにより、この活動は自然に消滅したようです。
 それから間をおいて2011年にARCAレーシング シリーズ参戦のためGMSレーシングは誕生。元々は彼の息子であるスペンサー ギャラガーのためのチームでしたが、残念ながら息子さんにそこまでの才能は無かった模様。それは置いといて、チームはキャンピング ワールド トラック シリーズ、エクスフィニティ― シリーズと徐々に陣容を拡大。
 エクスフィニティーの活動は2019年で終了しましたが、トラックシリーズでは2016年にジョニー ソーター、2020年にシェルドン クリードがチャンピオンを獲得、ゼイン スミスも2020年、2021年と2年連続でシリーズ2位になり、シリーズの強豪となりました。この間にカップシリーズへの進出を表明していました。

 メダリオンフィナンシャルも12月2日に声明を発表

「メダリオンは本日、NASCARレースチームであるリチャードペティへの投資の終了をもって閉鎖したことを発表しました。当社は、1910万ドルの総収入を全額決済で受け取りました。それが保有していたすべての負債証券および株式証券です。」

 そして、メダリオンの社長兼最高執行責任者・アンドリュー マースタインは

「リチャードペティーは、プロスポーツで最も象徴的な名前の1つです。私たちは、リチャードペティーモータースポーツでの在職中に数多くのレースで優勝し、モータースポーツ業界に多様性をもたらし、RPACを長期的な成功に導く手助けをしたことを非常に誇りに思っています。この素晴らしいスポーツにおける素晴らしい遺産を次の経営者にバトンを渡すことを楽しみにしています。」
※RPACはメダリオンがRPM買収に際して設立した子会社

 メダリオンは昨年の段階から売却を検討していましたが安売りはしたくなかったようで市況を観察していたようです。チャーター価格が高騰しているという話は既に何度か書いてきましたが、今が最善と見たようで、スポーツ ビジネス ジャーナルの記者・アダム スターンが伝えたところによるとこの入札には5陣営が参加し、GMSが最高価格を提示した模様です。
 ちなみに、先日スターコム レーシングからチャーターを購入した23XIレーシングは、同じくスターン記者がチーム側から聞き出した話として、1350万ドル(約15億円)を支払ったとのこと。
 今回の取り引きの場合、RPMという会社のうちのメダリオンが保有している部分の株式とチャーターの売却で、なおかつチームの運営体制もおそらく完全にGMSが管理下に置くわけでは無いので1910万ドル(約21.5億円)で済んだと思われます。メダリオンの出資比率、遡ればジレットの出資比率が分からないですが、発表内容からしてもチームの株式の過半数はGMSが取得したと思われます。
 12月7日に発表されるという詳細で、今後のチーム名やら体制やらが詳しく語られるものと思われますが、リチャードペティーという名前はそれだけでスポンサーを引き付ける重要な要素なので、名前が消えるということはまず無いでしょう。
 この取り引きがチーム力の強化に繋がって、ここ数年非常に寂しい結果が続いているNo.43がまた上位で見られるのであれば観戦する側としてもありがたい話ですし、弟ディロンも期待したいところです。とりあえずリチャードペティーという名を冠した名前が、当面お金に関するゴタゴタに振り回されずに済むことを願いますね。

※USDの桁数をうっかり間違えたので訂正しました。$19.1million=19.1百万ドルなんですが、百万ドル単位って1USD=100JPY換算でそのまんま読んで19.1億円になって脳内で勝手に桁数が変換されてるので、うっかりそのまま数字を書いてしまいました^^;

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