F1 最終戦 アブダビ

FORMULA 1 ETIHAD AIRWAYS ABU DHABI GRAND PRIX 2021
Yas Marina Circuit 5.281km×58Laps=306.183km
winner:Max Verstappen(Red Bull Racing Honda/Red Bull RB16B-Honda)

 いよいよ熾烈を極めた2021年のF1も最終戦を迎えました。第22戦アブダビ、マックス フェルスタッペンとルイス ハミルトンが同点で迎える一戦です。1974年以来史上2度目の最終戦同点決戦、見ている方がストレスが溜まりすぎて血栓ができそうです。
 舞台となるヤス マリーナ サーキットは昨年までと少しコース形状を変更させました。ターン4の先にあったシケイン状のコーナーを通らず真っすぐヘアピンのターン5(旧ターン7)へと繋がるようになり、2本目のストレートの先にあった低速シケインのターン11~13とその先の14は大きな半径の1つのターンへとガッツリ手直し。コース終盤のコーナーも角度を緩めて高速化されました。
 これによって全長は273m短くなり、低速コーナーが2つも消滅したのでタイムは従来より10秒以上速くなります。追い抜きをしやすくするため、だそうなんですが、DRSを使って抜かれても抜き返せた旧ターン11が高速の大きなターンに変わったので抜ける場所が減ってますから、むしろ前よりも抜きにくくなってる気が・・・
シケインを通らないターン5

コーナーが4つ丸ごと消え去ったターン9

 このレースで長い長いF1生活を終えるキミ ライコネン。最後に何か魅せてくれるかとついつい期待してしまいますが

FP2でチームに修理代が発生しました。あ、これ「ライコネンが引退レースでぶっ壊したウイング」とか名前つけてオークションに出したら高い値段で売れませんかね?(。∀°)

 FP2、FP3とハミルトンが最速を記録して迎えた予選、Q2では上位チームがミディアムでのアタックを行い、暫定でハミルトンが1位、フェルスタッペンが0.004秒差の2位となります。もうこれでじゅうぶんなタイムなので当然両者ともピットに戻る、と思ったらフェルスタッペンは1周挟んでなぜかまたアタックに入ったようで、あろうことかターン1で左前輪をロック。本人が「ものすごいフラット スポットだ」と伝えます。
 このままでは傷んだタイヤでレースをスタートしなければならないため、やむを得ずソフトを履いてもう1回アタック。タイムを更新して無事こちらがスタートのタイヤになりますが、事前の戦略から外れてしまいました。
 このQ2では2回目のアタックでコース上に大渋滞が発生し、セバスチャン ベッテルはどうしようもなくなって完全に停止。黄旗が振られる事態となりました。ベッテルはQ1から渋滞や遅い車にことごとく引っかかって予選15位。
 また、ピエール ガスリーはこの週末に珍しく角田 祐毅に対して遅れをとると、Q2の1回目では失敗、2回目は渋滞の影響を受けて12位でこちらも脱落してしまいました。角田は対称的にQ3進出です。

 そしてQ3、レッド ブルはセルヒオ ペレスがコース前半の長い直線でフェルスタッペンの前を走って少しでもスリップストリームを与える作戦。ターン9の手前で減速して道を譲る徹底ぶりで、このおかげもあってハミルトンを0.5秒も上回るタイムを出します。ハミルトンはターン5でミスりましたが、これを差し引いても届かなさそう。
 ハミルトンは2回目のアタックでも0.371秒届かずフェルスタッペンがPP獲得、ペレスは自己犠牲をしつつも4位で、ハミルトンとの間にはランド ノリスが割って入りました。一方バルテリ ボッタスは別に犠打を決めたわけでもないのにアタックが不発で6位(´・ω・`)
 角田はQ3の1回目のタイムが最終コーナーのはみ出しで抹消。2回目のタイムで8位となりますが1回目よりは0.2秒ほど落としました。1回目がまとまっていればボッタスを食えていたので惜しかったですが、レースをまとめて良い締めくくりにしたいところです。

 決勝、ニキータ マゼピンがなんとCOVID-19の検査で陽性となってしまい欠場、急な話すぎて代役もなく19台となってしまいます。集合写真で右上に貼り付けられるやつ^^;
 上位10台のうち、スタートでミディアムを履いているのはハミルトン、ボッタス、角田の3人だけ。あー、緊張してきました。心が休まりません。あ、アントニオ ジョビナッツィーのあの立ち絵も見納めね・・・

 スタート、サウジアラビアの時と同様に真正面の映像で見ても動き出した瞬間に明らかにハミルトンが勝っている動きで、ターン1を前にあっさりと1位へ。フェルスタッペンはターン5で既に玉砕覚悟感のある動きに見えましたが、続くターン6の飛び込みで日大タックル。
 ハミルトンは併走、しようとしたけどどう見てもぶつかるのでターン7をカットして走り去りました。早速問題案件発生ですが、どうやら問題発生前の差に戻せばそれだけでよかったようで、ハミルトンがリードを維持します。国際映像ではハミルトンのスタートの反応速度は0.25秒で、人間の限界に近い反応(;・∀・)
おっとあぶねえ


 この後ろではスタート直後のターン1でノリスが全然曲がらなくてはみ出しペレスが3位へ。ボッタスはミディアムの熱が入っていないのかソフト勢に食われて8位に後退、角田が7位となります。これでメルセデスはボッタスが全く使えず、レッドブルは2台いるので数的優位には立ちますが、ミディアムを履くハミルトンが基礎的な条件としては有利。フェルスタッペンはハミルトンがズルしたと思っているのでイライラ状態です。

 今回低ダウンフォース仕様のリア ウイングを選んだレッドブルは最高速でメルセデスを上回る車になっているものの、相手に先行されると乱気流の影響を受けて自由には走れず。8周目には既に「リアが苦しくなり始めた」とソフトでのスタートが影響しているようです。
 4位以降はカルロス サインツ、ノリス、シャルル ルクレール、角田、ボッタスの並びで、サインツだけ少しペースが速いようで抜け出しますが、ノリス以降が完全に隊列走行になってしまって誰も何も動かない状況になりました。ノリスのペースが上がらないんでしょうかね。

 12周目、ハミルトンがまだファステストを更新する一方でフェルスタッペンは徐々に下がってタイヤでも苦戦。5秒差に広がって行き、今のところ打つ手がありません。不幸中の幸いは、それでもまだ4位以降の集団よりも1秒ほどペースが速いことで、13周を終えてささっとピットに入ってハードへ交換。ノリスとルクレールの間でコースに戻ります。ルクレールは目の前にいきなり車が現れたので乱気流を食らったか、コース外へはみ出しました。

 これを受けてハミルトンも翌周にピットへ、こちらは1位で入ってサインツの前方・2位で戻ります。これでコース上はペレスがリーダー、レッドブル的には何がなんでもこれを使ってフェルスタッペンを援護するしかありません、プランBと指令が飛びます。Bはバントのサインかな?
 一方フェルスタッペンはサインツに2周近く前を抑えられて捕まってしまい、18周目にかわしたもののハミルトンとは8秒差。もうペレスに何かしらやってもらわんと自力では厳しそうです。

 19周目、バントのサインが出たペレスにハミルトンが追い付き、20周目のターン6でDRSを使って仕掛けますが、ペレスは失うものが無いので深いブレーキ。ハミルトンもこれは予測の範囲で回避してクロスを狙い、立ち上がりで抜き返します。
 しかしペレスはDRS返しを披露。ターン9でもう一度抜き返すと、セクター3は抜くところがないので鬼ブロックでハミルトンを抑え込みました。直線の速い車両とペレスのトラクションのかけ方の上手さが生きたと思われる場面です。元々既に3秒も遅いペースしかなかったペレスが粘ったことで、なんとこの周だけでハミルトンは5秒もペースを落としてしまい、この後21周目のターン6でようやくハミルトンがペレスを抜いた段階でフェルスタッペンとは1.5秒差になってしまいました。つまりハミルトンはここで7秒近く消し飛びました。
タイヤが汚れるのもお構いなし!


 抜かれたペレスはお役御免で予選と同様ターン9手前でフェルスタッペンにどうぞどうぞ、もうフェルスタッペンはペレスに今からでもお歳暮を贈らないといけませんね。プランDってのがあったらきっとD=ダチョウ倶楽部ですね。

 蓋してきたペレスを危険なドライビング呼ばわりした失礼なハミルトンですが、前が開けたらまたフェルスタッペンを引き離します。ペース的には完全に勝っており何か別の要素なしにフェルスタッペンの勝利は起こりそうもありません。

 26周目、ジョージ ラッセルにパンクが起きたのではないかという情報が入ると、翌周にライコネンがブレーキの故障でスピン。リタイアするしかなくなります。引退レースは完走できませんでした。そしてラッセルの方は実際には駆動系が壊れてこちらもリタイア、まだレースはあと半分、何があるか分かりません。ラッセルもウイリアムズの卒業レースでしたね。

 レッドブル的には打つ手が無ければもう2ストップにするぐらいしか手が無いですが、スタートからまだピットに入っていないボッタスがフェルスタッペンのウインドウ内。おそらくフェルスタッペンの戦略を封じるためだけに放置してここに置かれているであろうボッタスは地味な重しの役目を果たした上で、とうとうウインドウ外となる30周目を終えてようやくピットに入りました。カメラさんも謎のカメラ360度回転アクションでお出迎え、なぜそれをやったw

 36周目、ハミルトンとフェルスタッペンの差は少しずつ開いて5秒ほどになっていましたが、ここでジョビナッツィーがトラブルで止まってしまいVSCとなりました。ハミルトンはここでピットに入るとフェルスタッペンがとどまって逆転される可能性があるためメルセデスは入る決断をすることができません。フェルスタッペンの方は入っても差が広がるだけで順位としては失うものが無いのでピットへ。ハードへ交換します。
 トト ウォルフは無線でマイケル マシへ「頼むぞマイケル、セーフティー カー入れないでくれよ」。確かに今出たらハミルトンはタイヤが古い上に追いつかれて最悪の展開ですが、だからといってそれを直接伝えるというのはさすがに^^;
 38周目にVSC解除、差は17秒、残り21周、タイヤの履歴差は24周。単純計算ではフェルスタッペンが1周あたり0.8秒ずつ詰めれば追いつきますが、走り出しは0.6秒ほどのペース差。ただハミルトンは「これで最後まで走り切れるとは思わない」といつも通りの信用ならない弱気発言です。
 その後毎周フェルスタッペンが差を詰めてはいるものの、ハミルトンもまだ自己ベストが出ていて平均で0.8秒ずつ詰めるには至っていません。しかしタイヤの摩耗は限界に来ればガクッと来るかもしれないし、本当に最後まで分かりません。

 残り13周、ハミルトンとフェルスタッペンの差は13秒で、追いつくために必要なペースは1周1秒に上方修正されてしまいますが、ここでハミルトンの前方に9~12位を争う4台が集団で周回遅れとして登場。これを切り抜ける間に2秒ほど失いましたがまだ11秒差です。
 残り10周、ここでボッタスを抑え込んで5位を死守していたノリスがなんとパンクで緊急ピット。カタールに続いてここ3戦で2回目ですね。当然ハミルトンには縁石に気を付けるよう伝えられました。ターン15と16が危ない模様です。

 残り6周、なんとターン14でニコラス ラティフィーがクラッシュ。早々にSC導入が決断されました。ハミルトンはここでもピットに入ると順位を失うので自分から動けないですが、フェルスタッペンはピットに入りソフトを投入。え、えらいこっちゃ。最終戦同点決勝が最後の数周のシュートアウトになって、完全にNASCAR状態だ。ハミルトンは放送できない言葉を長いこと発した模様。

 残り3周、ラティフィーの車は回収作業が始まりますが、そんな中でペレスがなぜかピットへ。リタイアを指示されますが、伝えられたペレスが「マジで!?」。ホンダ側は、ここまでの無理がたたってPUに問題を示す数値が出たので止めさせたとしています。
 ひょっとしたらそもそもガス欠前提で燃料を使っていたのを、ガス欠ですとは言えないのでトラブルと言ったのかもしれませんが、いずれにしても変に続行してうっかり車が止まったら、できるはずのリスタートができなくなったりしてフェルスタッペンの邪魔になるので、余計なことをせずやめてしまおう、ということだと思われます。
 元々、自動車メーカー系のチームであるメルセデスはコンストラクターズ選手権も重視しますが、レッドブルはドライバーのタイトルに重きを置いていて、コンストラクターズは獲れるなら欲しいけどそこまで重視してない、というチームだとされるので、フェルスタッペンが勝ってさえくれればペレスの完走は求めていないという事情もあると思います。

 驚きは続き、レース コントロールは残り3周の時点で、コース上の作業が済んでいないからまだウエーブ アラウンドを行わないという情報を発信します。通常のリスタート手順なら、周回遅れの車両はSCを追い抜いてラップ バック。この翌周にSCが退出するという段取りです。ただ、絶対必要な措置ではなくウエーブアラウンドを行うかどうかは運営側の判断に委ねられています。
 このままだと、フェルスタッペンはリスタートされたとしても周回遅れを5台抜かないといけません。これじゃあ追いつくものも追いつかないのでレッドブルは当然文句を言います。するとなぜか翌周、ハミルトンとフェルスタッペンの間にいる周回遅れにだけウエーブアラウンドの指示、そしてこの周でSC退出と自体が急変。あろうことか58周目、最終周にリスタートされました。


 使い古したハード、しかもSC走行で冷えている状態のハミルトンには、ソフトのフェルスタッペンに対抗できる術は無し。フェルスタッペンはターン5でハミルトンの内側に入ります。多少無茶な飛び込みでもハミルトンは当たったら負けなので、先に行かせてDRS権を獲るしかありません。
 ハミルトンはDRSを使ってターン6、ターン9と狙ったもののかわすことはできず、そのままフェルスタッペンがトップでチェッカー、信じられない結末でした。しかしこの最終周の間もトトの「ノー!マイキー!」という無線が放送されるなど、もはや関心の対象は明らかにコース上の争いではなくレース運営とチームのやり取り。
 フェルスタッペンが初のワールド チャンピオンを獲得、ハミルトンはほぼ手にしていた8度目のチャンピオンが最後の1周でこぼれ落ちました。最終戦を同点で迎えている時点で既に歴史的シーズンなのに、その最後にこんなことが起きるなんて。ウルミコスさんが書いていましたが、バラエティー番組の「最終ラップの正解者には、なんと5000兆ポイント!!」がピッタリな展開でした。
 あのテストですらロクに走らなかったホンダPUのここまでの歩みを思うとまたその思いは格別ですが、これで撤退というのはやはり残念です。続けていって戦いの場でその名を刻むことで、どれだけの人が関心を示し情熱を注いでくれるかを考えると、継続することには意義があると思うんですけどねえ。
 個人的な考えではホンダという自動車会社がこの先も継続するためには、『F1が役に立つかどうか』ではなくて『F1を活用できるような経営をするようなタイプの会社になる』ことこそが重要だと思っています。


 3位にサインツ、角田が自己最高位となる4位、ガスリー、ボッタスのトップ6でした。角田は最後のSC導入時点で6位でしたが、後ろにいるのがガスリー、さらに8位のノリス以降が周回遅れでフリーストップになっていました。6位のままタイヤだけ替えて、1位争いと同じようにボッタスを抜き、ペレスが離脱したため4位でした。
 この幸運を抜きにしても予選から全てまとめての6位になったレースでしたから、自信を持つことができる好レースだったと言えます。4位はそこについてきてご褒美、といったところでしょうか。


 史上稀に見るチャンピオン争いは、ある意味で今シーズンを象徴するような、ある意味接触よりも後味が悪いかもしれない結末だった気もします。考えるべき点が山ほどありそうですが、まずは勝敗の分岐点やタラレバから見て行きます。

 レッドブルとすれば普通に走っていたら負けでした。予選でのフェルスタッペンのしょうもないミスがあってもなくても関係無いレベルでハミルトンにペースで負けており、スタートで前に出られてしまった時点で打つ手が無くなっていましたし、そんな中での1周目の自爆覚悟の突っ込みなんかは非常に印象が悪かったと思います。
 そんな中でペレスの働きが非常に効果を発揮しました。鬼ブロックでハミルトンに7秒を使わせたわけですが、もしこれがなければラティフィーがクラッシュした際にハミルトンにはフリーストップできるだけの差があったはずなので、この逆転は起こりえませんでした。

 メルセデスからするとあまりに自分たちだけが大損をする仕打ちに納得がいかないところですが、それはそれとして自分達にとって問題だったのが、ボッタスがフェルスタッペンのピット ストップ ウインドウ内に入れなかったことでした。
 予選のQ3でハミルトンはQ1から0.365秒タイムを伸ばしましたが、ボッタスはこれが0.081秒にとどまり、結果3位のノリスに0.105秒届かずに6位でした。さらにスタートで8位にまで落ちてしまってノリス、ルクレール、角田の集団の後ろにハマり、全く身動きがとれなくなりました。
 せめてフェルスタッペンの12秒後方の4位にいれば、VSCやSCの際にフェルスタッペンはフリーストップになれず引っかかってしまうので、ピットの決断を迷ったり、入っても抵抗して時間を使わせることができたはず。いくつかあるタラレバの中で、唯一メルセデスの内側に課題があったものですが、個人的にはボッタスの位置さえ決まっていれば、他の話は全部無力化できていた可能性が高いという点で、最も影響が大きかったように思いました。

 もう1つ別の観点から考えてみましょう。ハミルトンは1回目のVSCの際に、まだあと20周もあるんだからタイヤを換えてしまう、という選択肢もあるにはありました。先に動いていた場合、フェルスタッペンの10秒ほど後方でコースに戻ったと思われます。
 フェルスタッペンは逆をやって入らないでしょうが、この場合ハミルトンはおそらくフェルスタッペンより毎周1~1.2秒ほど早いペースで追い上げることが可能だったと思うので10周程度で追いついて、DRSを使えばハミルトンの腕なら追い抜きも可能ではあったと思います。理論上で速いのもおそらくこちらの戦略だったでしょう。
 が、それを選べなかったのは、もちろん普通にレースが進んでいればハミルトンは勝てるペースがあったというのが一番ですが、もう1つには仮に抜ける自信があったとしても、フェルスタッペンに近寄ること自体が巨大なリスクであったということも大きな理由だと考えられます。当たったら終わり、相手に有利ですから、わざわざ自分から危険に近寄りたくはありません。前戦から散々フェルスタッペンの危険運転を見せられていますからリスク管理としては当然です。

 そうして考えると、ものすごく言い方は悪いんですが、このレースに『ぶつかったら負け』という条件で臨むことになった時点で、彼らは半分とは言いませんが何割かは負けていたとも言えます。
 言い換えれば、『最終戦の1つ手前までのシーズン』という長い戦いの結果がこうした状況へと帰結する1つの要因だったわけですから、確かに最終的な結末は最後のたった1周、レース進行のあれやこれやも絡んだ一瞬の出来事だったかもしれませんが、その1周に至る過程は間違いなく9か月のシーズンが全て反映されたものだと思います。
 最後の1周で全部ひっくり返されたようにも見えるんですが、あらゆることが起こった末の最後の1周という見方もできると思うので、『長いシーズンをたった1周で全部決められてしまっておかしい』と感じている方は、そのあたりもながーーーーい目でもう一度振り返ってシーズンをもう一度消化してみると、何か違った印象が見えて来るかもしれません、、、来ないかもしれません。

 勝ったと思ったレースを一瞬でひっくり返されたという理不尽さを一番感じたのは他でもないハミルトンだと思いますが、最終周も、『もうダメ元でウイングでタイヤ切ったれ!』という邪な気持ちが出ても正直おかしくないところを堂々と勝負し、レース後に少し時間が経ったらフェルスタッペンを祝福しに行っていて、さすがだなと思いました。
 もしレース展開が真逆で、『ほぼ勝っていたフェルスタッペンをハミルトンが幸運にも捕まえた』状況だったら、果たしてフェルスタッペンは無接触の綺麗なレースを出来ていただろうか、と思うと正直「うーん」と思うので、このあたりまだまだハミルトンに強い部分があるように感じました。いわゆる世代交代とはちょっと違いますね。

 そしてもう1つ、SCの運用に関する話も触れておこうと思います。メルセデスは

・SC中の走行においてフェルスタッペンが一時的にハミルトンの前に出た
・規則でウエーブアラウンドの翌周にリスタートと書いてあるんだから、今回のリスタートは手順違反である

という2点で抗議をしました。が、いずれもスチュワードに棄却されました。1点目については、正直ハミルトンもものすごく減速しているので、これ自体も規則上は違反行為に該当するためいちゃもんもいいところだと思います。問題は2点目です。

 競技規則48.12では

競技長がそうすることが安全であると判断し、公式メッセージ送信システムにより「"LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE"(周回遅れ車両は追い越し可)」のメッセージがすべての競技参加者に送信された場合には、先頭車両に周回遅れにされていたすべての車両は、先頭車両と同一周回(リードラップ)にいる車両およびセーフティカーを追い越すことが求められる。
(中略)
競技長がセーフティカーの存在が引き続き必要であると判断しない限り、最後に追い越された車両が先頭車両を追い越したら、セーフティカーは次の周回の終了時点でピットへ戻る。

(JAFが公開する日本語版競技規則より抜粋)

 実際には英語版の競技規則だと、日本語版で『全ての車両』と記載されている部分は『any cars』と記されており、これが全てを意味するのか任意を意味するのか解釈の余地があるので、これを『全てと書かれたものを一部しか実行しなかったのが手続き上規定に抵触』というのは正確ではないかなと思います。
 問題は、『最後に追い越された車両が先頭車両を追い越したら、セーフティカーは次の周回の終了時点でピットへ戻る』と書いてあることで、これは確かに今回守られていませんでした。この指摘に対してスチュワードは、競技規則15.3を持ち出して、裁量の範囲だとしてメルセデスの主張を退けました。この規則の内容は

競技長はレースディレクターと常時協議しながらその役務を遂行する。レースディレクターは以下の事項について優先権限を有し、競技長はレースディレクターの明確な同意を得てのみ以下に関する命令を下せるものとする。
a)フリー走行、予選、および決勝レースのコントロール、タイムテーブルの厳守、また必要ならば国際競技規則および競技規則に従ってタイムテーブルの変更を競技審査委員会に対し提案すること。
b)国際競技規則または競技規則に従って車両を停止させること。
c)フリー走行、予選、または決勝レースの続行が安全でないと判断した場合、競技規則に従ってフリー走行、予選を停止、またはレースを中断し、正しい再スタート手順が実行されていることを確認すること。
d)スタート手順
e)セーフティカーの使用

 となっており、このうちのe項=セーフティカーの使用というものに、いつ撤収されるかも含まれているので競技規則48.12より優先される、というものです。正直この主張に関しては、私は正当性に疑問を感じます。
 48.12ではわざわざ、『必要性があると判断されない限り翌周にリスタート』、と翌周、ないしは事情によってはそれ以降のリスタートであることが明示されています。場合によっては早めても良いのであれば規則に最初から書いておけば良いだけの話で、そうしていないということは、ウエーブアラウンド適用後即時のリスタートは規則上考えていない、あるいはそうすべきではないと考えて記載していないと推認できるのではないかと思います。
 この15.3の条文、それも『セーフティカーの使用』というだけの文言に、レース中における競技規則で明示されたリスタート手順を裁量で変更するほどの権限が生じるのかどうか、素人目には裁量権の逸脱だと言われても仕方ないと感じます。
 結果をひっくり返すべきかどうかと言われると私も返答に窮しますが、少なくともリスタートの手順と規則が本当に合致していたのか、スチュワードというF1の組織の内側の人たちではなく、もう少し第三者視点からの検証は必要ではないかと思いました。メルセデスは控訴する意向だということです。
 
 と書いていたところ、FIAはこの問題について12月16日にこの問題の調査を発表。この動きを受けて、メルセデスは争いを続けるよりも調査と規則の明文化が進展することを望んだようで控訴を行わないこととなり、レース結果は正式に確定しました。仕事が忙しくてなかなか記事が書きあがらないうちに、私が書いてた内容が先に現実に起こってしまいましたね^^;

 なお、競技規則17の抗議および控訴に関する規定で

17.3 以下に関する決定に対し、控訴することはできない:
a)最後の3周回の間、あるいはレース終了後に科せられることになったものを含め、第38条3項a)、b)、c)、d)、e)、f)あるいはg)のもとに科せられたペナルティ。

とあるために、レースの最後に起きた出来事には控訴自体ができないのではないかという見解がありますが、今回の場合SCの導入手順違反は『ペナルティー』に関するものではないので関係無いはずです。


 この記事の多くはレースを見ながら書き進めているので、まだまだ最後まで何が起こるか分からない、なんていう言い回しはその後に起きる出来事など知らずに書きました。決勝前の『心が休まりません』というのは、最後に『何はともあれ激戦に幕が下りて、ひとまず心も休まり―な』というダジャレで落とす前振りのつもりだったんですが、オチを使えなくなったのが最大の衝撃でした(え、そんな締め括り!?)
 来年は車両規定が大幅に変更されて全くどうなるか分かりませんが、ギスギスするのはせいぜい最後の2戦ぐらいにしてもらいつつ毎戦熱い戦いを見たいですね(っ ◠‿◠ c)

コメント