SGT 最終戦 富士

2021 AUTOBACS SUPER GT Round8 FUJIMAKI GROUP FUJI GT 300km RACE
富士スピードウェイ 4.563km×66Laps=301.158km
GT500 class winner:au TOM'S GR Supra 関口 雄飛/坪井 翔
(Toyota GR Supra GT500/TGR TEAM au TOM'S)
GT300 class winner:SYNTIUM LMcorsa GR Supra GT 吉本 大樹/河野 駿佑
(Toyota GR Supra/LM corsa)

 2021年のAUTOBACS SUPER GTシリーズも最終戦となりました。昨年は4回あった富士ですが、今年は2回目で300kmレースはこの最終戦のみです。なんかF1を12月までやってるのでさらっと流してしまいそうですが、11月最後の週末って時期としてはかなり遅いので普通に考えて寒いです^^;

 このレースでは特別規則が設けられ、決勝レースをドライ タイヤでスタートした場合には、レース中のドライバー交代の際にタイヤ四本を交換することが義務付けられました。ですのでタイヤ無交換などは行えず、またドライバー交代と同時でないと義務消化と認められないのでSC中に先にタイヤ交換を済ませる変則作戦も使えません。
 コースの方も一部変更点があり、ターン14と15の間から、最終のターン16を通過して少し走ったあたりまでの区間だけ6月末に再舗装が行われました。実質コーナー2つ分ではありますが、多少のグリップの向上が見込まれます。

 また、日産はGT500クラスにおけるR35型GT-Rの使用を今季で終了すると11月17日に発表。来年からの車両は後日発表、ともったいぶりました。普通に考えたら新型のフェアレディZでしょうが、ひょっとしたらR36型GT-Rコンセプトかもしれないし、エルグランドかもしれません。
 いずれにしても、基本的に空力開発が制限されているなかで外装の形状自体が変わるというのは下手するととんでもない開発・性能向上になる可能性があるため、他の2メーカーとの調整が不可欠ではないか、とされていました。主催団体を含め、そのあたりの調整はついたんでしょうかね。

オートスポーツweb

 さてレースの方に向かいましょう。予選では、GT300クラスでドライバー選手権1位のSUBARU BRZ R&D SPORTがPPを獲得。Q1のA組で井口 卓人が前の車にひっかかりつつ3位となると、Q2で山内 英輝が1'34.395のコース レコードを記録しました。セクター1では2位の埼玉トヨペットGB GR Supra GT・川合 孝汰に0.25秒以上負けていましたが、残りで取り返しました。車両特性がよく分かりますw
 これでPPのボーナス1点も獲得しましたが、一旦他車の後ろについて埋まると苦戦する車両ですので、スタートが1位か2位かでは単なる1点のボーナスを遥かに上回る価値があります。あとはタイヤがきちんと決勝で作動温度領域に入ってくれることが最大の課題となりそうです。
 一方、ドライバー選手権でBRZを6点差で追っているリアライズ日産自動車大学校 GT-Rは
Q1のB組で9位となりまさかのQ1敗退、予選17位となってしまいました。彼らによっては組分けがやや不運で、藤波 清斗が記録したタイムはA組なら6位相当で、仮に28台で同時に走っていたらQ2に行けた水準でした。7点差に広がった上にタイヤ戦略も使えず17位から、かなり逆転は困難な状況となりました。

 GT500クラスでは練習走行では苦戦していたというSTANLEY NSX-GT・牧野 任祐が1'26.000とピタリ賞でコースレコードも更新しQ1を1位で通過。今回はGRスープラ勢もゴキゲンで、ブリヂストンを履く5台は全員Q1を通過。ということはライバルはことごとく蹴り落とされて、ドライバー選手権3位のAstemo NSX-GTが脱落。10位に終わります。
 STANLEYはQ2も山本 尚貴が最速を叩き出しますが、最後にこれをENEOS X PRIME GR Supraの山下 健太が上回り、1'25.764のレコードでPPを奪いました。ENEOSはこれで選手権1位の山本に19点差。優勝した上でライバルがほぼ全滅すればギリギリ可能性があります。
 STANLEYはボーナスこそ逃しますが、5点差で追うARTA NSX-GTが6位だったので、とりあえずこのあたりの順位でライバルの前か、見える位置を走っていれば連覇が見えます。GT-R勢最上位はCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの8位で、Q2出場車両の中で唯一従来のコースレコードを更新できませんでした。エンジン性能は明らかに上がってるけど、ダウンフォース重視の設計だからやっぱり富士だと劣るんですよねえ。。。

 そして迎えた決勝、タイヤの発動が遅いのか牧野は出足で後ろからトムスの2台に追い回され、4位スタートのau TOM'S GR Supra・関口 雄飛が2位に浮上します。この後KeePer TOM'S GR Supra・サッシャ フェネストラズも牧野をかわしてスープラがトップ3を独占。
 ARTAの福住 仁嶺は1つ上げて5位で、タイトルを争う2台のNSXは早々に並んだ順位となりました。スタート直後の数周だけは発熱の早いミシュランを履くMOTUL AUTECH GT-Rに追いかけ回されましたが、そこだけ凌いだら離れて行きました。
 一方GT300ではスープラの川合がBRZの井口を追いかけ回していましたが、2周目の最終コーナーでSYNTIUM LMcorsa GR Supra GT・河野駿佑が川合の内側にすっと入り込んで不意打ちで2位に浮上。スープラ同士で2位を争うことになったので、井口はかなり得をしました。


 3周目、最終コーナーでGT500の多重事故が発生。Astemoのベルトラン バゲットがカルソニック IMPUL GT-R・松下 信治の内側に飛び込みますが勢いがつきすぎて外側に滑り出しながら接触。さらに松下にとってどうしようもなかったのは外側にもWedsSports ADVAN GR Supraがいたことで、右からは押してくるのに左前方からは車が切り込んできて、どうしようもなく3台とも接触。


 これでAstemoはサスペンションが壊れて続行不能、カルソニックは右側のヘッドライトが吹っ飛ぶ大ダメージを受けました。バゲットにはドライブスルーのペナルティー。ただ、ここでは被害者だった松下も、スタート直後のターン1でRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT・笹原 右京にぶつけて回してしまっており、こっちはこっちでドライブスルーを受けました。

 さらに7周目にはGT300の中団でStudie Plus BMW・山口 智英がグランシード ランボルギーニ GT3・松浦 孝亮に追突。M6のサスペンションが折れてしまうと、こちらは自走できずにシケインの先に止まってしまい回収のためSCが導入されました。ENEOSもBRZもリードは白紙。そしてGT300ではリアライズGT-Rが既に9位まで順位を上げており、上げたところでのSCは好都合です。

 GT500の13周目にリスタート。関口がENEOS・大嶋 和也を明らかに狙っており、リスタートのタイミングを完璧に合わせてリスタート直後のターン1でかわしてリードを奪います。さらにここもフェネストラズが続いてトムスがワンツーとなりました。レース前の段階のポイントで言えばauはトヨタで最上位なので、メーカーとして誰かを推すとするならこちらの方が可能性を持っていますが、現状はどのみち優勝しても届きそうもありません。

 さらに大嶋の背後には牧野が迫って最終コーナーで繰り返し真後ろにつきますが抜ける気配なし。まだフェネストラズも前にいるので大嶋もスリップストリームを使えていて、ただでさえ空気抵抗が少なくて抜きにくい車が無敵状態になっています。これはGT300の集団との遭遇待ちとなりそうです。
 GT300は井口、河野、川合の3台が1秒以内の距離で3台セットでの走行。川合はおそらく勝つためには今2位争いをすることが利口ではないと思っているので、膠着状態となっています。タイヤ無交換が使えないので、できることといえば燃費走行でしょう。
 
 GT500がGT300と重なり出した20周目、最終コーナーで牧野が大嶋に外側から並走して立ち上がりましたがそれでも抜けず。外から行くとサイド ドラフトを使った後に離れられなくてサイドドラフト返しを食らってしまいます。一方GT300はもうピット サイクルが始まり、GT300の19周目に3位の埼玉トヨペットGRスープラが上位勢でいち早く動きます。

 GT500でも22周目、STANLEY、ARTAなどが真っ先にピットへ。STANLEYは32秒で牧野から山本への交代を完了しますが、ARTAはなんと開けたドアが脱落する大事件発生。装着に時間を食って10秒ほど失ってしまいます。昔GT300ではSLS AMGのドアがポロっと外れたことがありましたけど、GT500では聞いたことがない出来事でした。




2013年の岡山でしたね。この時は外れる瞬間がばっちり映っていた上に、淡々とその様子が実況解説されていて笑いました。やってる方はそれどころじゃないんですけど。

 
 さて時間を2021年に戻しましょう、23周目にENEOSもカバーのためピットに入って大嶋から山下 健太に交代しますが、アウト ラップとなる24周目のターン14で山本がかわしてSTANLEYはひとまず作戦成功、かと思われました。
 ところがヤマケンは諦めずにストレートでスリップに入ってもう一度山本を狙います。山本は内側をブロックしようとしますが、ちょうどそこにピットを終えたGT300のリアライズGT-Rが冷えたタイヤでノロノロと登場。山本はブロックしたいものの内側にちょうどGT-Rがいて曲がれないという厄介な状況に陥ってしまい、山下が再度前に出ました。
 その間にGT300では川合が井口を抜いて見た目上1位となりますが、さっきまで後ろにいたグリーンブレイブのスープラと見えないところで争っていますので実際の順位はまだまだ分かりません。

 30周目、GT500のピットサイクルが一巡するとリーダーはau・坪井 翔。これに山下、KeePer・平川 亮と続きます。このサイクルの最中にはCRAFTSPORTSの平手 晃平がウォーマー使ってるんじゃないかと思うぐらい異様に発熱が早いミシュランの特性を活かしてコース上で抜きまくり、一時は坪井の真後ろ・実質3位の位置にいましたが、みんなタイヤに熱が入ったら今度はカモにされて後退。結局CRAFTSPORTSは8位で終えました。

 GT300もピットサイクルが概ね一巡し、実質の1位はやはりグリーンブレイブ・吉田 広樹。ガス欠覚悟の戦略で単独走行を確保します。2位はLMcorsaのGR Supraで後半は吉本 大樹。3位はGT300で最も早い18周目にピットに入ったLEON PYRAMID AMGの蒲生 尚弥が続きます。もし後半にSCやFCYが連発してGT300が63周してしまったら、蒲生が45周走行になって違反になってしまうためギリギリのタイミングです。
 BRZは27周目に入って、給油時間が長いせいで実質6位へ後退。しかしリアライズGT-Rは実質8位、ARTA NSX GT3も同7位でいずれもBRZの後ろにいるので、このままとどまっていてもチャンピオンになれます。目の前にいるJLOC ランボルギーニ GT3・小暮 卓史とグッドスマイル 初音ミク AMG・谷口 信輝は自分よりペースが遅そうに見えますが、山内は抜きたい気持ちを抑えてきっちり帰ってくることが重要です。

 当面は優勝争いもチャンピオン争いも大きな出来事が無いなあ、とあくびが出て来た49周目、ストレート上の左端にごっつい部品が落下。ウエッズスポーツの後部デッキ部分が、おそらく序盤の接触の影響でしょうがすっ飛びました。ちょうどそんな中でGT300では山内の目の前で蒲生と小暮のバトルが勃発。山内としたら何か起きたら抜きたい気もするけど危ない気もするので安易に近寄れません。小暮は前戦で軽く井口に追突しててちょっと危ない場面がありましたし、今日も蒲生をひっかけそうになってる場面がありました^^;

 レースは落下物を除去するためにこの後FCYとなりますが、拾って持ち去るだけなので1分半と経たずに解除されました。リスタート後に気づいたら山内の背後にARTAの佐藤 蓮が登場。FCYの前には2秒強の差があったはずがリスタートしてターン1に入る時には真後ろにいたので、FCY中にちょっと追いついてる感じがあります。
 お馴染みBRZのライブ配信映像を見てみると、どうもFCY中にGT500も含めた5台ほどが山内の前方に密集していて、ターン14で詰まったり、ただ直線を走るだけでなぜか前に少し追いついたりしていたので、理想的な走りよりも時間を損していた様子が窺えます。
 山内とすればここで佐藤に抜かれたところですぐさま選手権に大きな影響は無いんですが、佐藤からすると前の車は全部抜いてやりたいところ。目の前の3台を全部抜いて3位になると、あともう1つ何か起きれば逆転できる可能性があります。というわけでここでバトルが勃発し、そしてこれが信じられない悲劇を生みました。

 47周目、山内を抜きに行こうとした佐藤でしたが明らかに突っ込みすぎてターン1で止まれません。それだけなら単なる自滅でしたが、あろうことかその前方にいたのはSTANLEY NSX。いくらNSXの神様でも回避は不可能で右前を直撃し、そのまま山本はガレージへ向かうしかありませんでした。さすがに言葉が出ません。

 
 これでGT500のチャンピオンはARTAの手に、というわけにはいきませんでした。レース前の段階でARTAから11点差、STANLEYからは16点差にいたauが現在の1位でこのまま行くと64点。STANLEYが撃沈したとはいえARTAはまだ5位でこのままだと61点。チャンピオンは3点差でauのものとなります。ARTAがこれを逆転するには3位が必要ですが、その3位はENEOSで遥か15秒前方。ドアが外れてなければこんなに離れてなかったはずなのに・・・

 さすがに全く想定していない展開で頭が追い付きませんが、さらに残り12周ほどというところでGT300のトップ、埼玉トヨペットGBスープラの左後輪がパンク、最終コーナーで単独スピンして緊急ピットを強いられました。GT500に譲りつつ、自分もGT300の周回遅れを抜いていたらごちゃついてしまい、リアが流れて自分からぶつけてしまってパンクしたとのことです。
 第2戦ではトラブルにより目前の優勝を失ったグリーンブレイブはまたもや優勝を目の前で手放すことになり、そしてその時と同じようにLMcorsaのスープラが脇をすり抜けて1位となりました。さらに残り8周では3位にいたJLOCウラカンも、もうこの車種では富士で恒例行事となりつつある左後輪のパンク。パンクのたびに破片も飛び散るのでみんなゴールの瞬間まで祈る思いです。

 最終周、au・坪井は昨年のKeePerが駆け抜けることができなかった最終コーナーを力強く立ち上がり、そのまま1位でチェッカー。坪井はGT500で初勝利。続けてKeePer、ENEOSがチェッカーを受け、この時点で関口・坪井組の逆転でのチャンピオンが決定しました。坪井は初勝利の8秒後に初チャンピオン決定です。結局GRスープラは上位5台を独占、野尻は6位に終わり、スーパーフォーミュラとの2冠を獲得することはできませんでした。

 一方GT300は終盤に山内の背後にリアライズGT-R・ジョアオ パオロ デ オリベイラがとうとう追いついて姿を見せました。さすがにぶつかりはしないと思いつつ何が起きるか分からない状況でしたが、逆に残り2周で初音ミクAMGの谷口がGT500に道を譲るタイミングで失速してしまい山内は3位に浮上、そのまま3位でチェッカーを受けました。
 R&D SPORTは悲願のチャンピオン、体制、車種、規則を問わず、スバルの車両を使用するドライバーがチャンピオンとなったのは全日本GT選手権時代を通じて初の出来事です。優勝はSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTで、今シーズン2勝目、富士2連勝となりました。



 GT500のチャンピオン争いは数字上はスープラ勢にも可能性があるとはいえ、競争力のあるNSXが3組も上位にいるんだから、全滅はせんだろうしまあそんなことはないだろう、と思っていました。
 が、実際はAstemoは焦って自滅、STANLEYは事故の被害者になり、ARTAもドアが外れてリタイアとまではいかないまでも、大きな痛手を負いました。"そんなこと"が起こってしまいました。
 そして振り返れば、13周目のリスタートに合わせ込んだ関口の狙いすました攻撃がタイトルに繋がりました。終始速かったですが、ペース的にはKeePerもENEOSもそこまで極端な差があったというわけでもなく、仮にリスタートから大嶋が頭を抑えていればクリーン エアーを得てそれなりにレースが流れたかもしれませんし、まさか逆転できるとは自分たちでも思っていないので、スープラ同士で争ってARTAはもっと上位だったかもしれません。
 仮にENEOSが勝っていても61点止まりなのでARTAは5位でもチャンピオン。そうなるとトヨタ的にはちょっとざわついて大人の事情が何かしら起きたかもしれませんし、それらを全て考えても関口のリスタートが終わってみたら重要な鍵だったことになります。まさかあの時は1時間半後に意味を持つとは欠片も考えませんでしたね・・・

 思い返せばauは富士500kmで勝てるかと思いきや、FCYの連続で駆動系に負荷がかかったと思われ、リスタートの瞬間に車が壊れてリタイアし大量点を逃しました。リタイアはその1回のみ、順位としては1位から5位までを1回ずつ獲得していて、目立ってないけど着実に入賞は続けていたのが生きました。



 一方の山本をはじめとしたこの事案の関係のみなさんのレース後の反応は、かなり早い段階で公開されているのでそれぞれご覧いただいた方が早いと思いますが、やはり誹謗中傷が殺到することがほぼ確実な情勢なので、とにかく起こったことはさておくとして、ドライバーを守ろうという明確な意思を感じました。

ARTA、チームレポート抜粋。首脳陣とドライバーのコメントを発表【第8戦富士決勝】

【STANLEY山本尚貴インタビュー】「どの感情を言えばいいのかわかりません」あまりにも残酷な100戦目で見せたそのプロ意識

 もしNASCARなら100%山本がARTAのピットに乗り込んで乱闘になってるでしょうが、チームは車を修復してとにかくコースに戻して走り切りました。元々山本尚貴というドライバーは、ここ数年『自分は日本のレース界を引っ張る立場だ』ということをすごく意識して実践している素晴らしいドライバーだと思いますが、今回のレース後の態度、声明などを見てもそれを強く感じました。
 山本にとっては、あの位置にいたことが不運だった以外の何物でもないです。タラレバを言えば、山本はBRZとARTAを抜いた後ターン1のブレーキング位置に入りますが、もう1台初音ミクAMGも前方にいたので、コースを外側いっぱいまで使わずに1台分内側から進入しました。BRZの車載を見ると、山内がブレーキで距離を詰めていたので、ややペースで苦しむ谷口に合わせて減速していて、やや早め、浅めだったように見えます。
 もし、初音ミクがいなくて2台だけしかいなかったのなら、大外まで振ってからのターンインになっていたし、もう少し奥で減速していたかもしれません。そうするとARTA NSX GT3は自分の目の前をカッとんでいってギリギリ当たらなかったかもしれません。あの瞬間に4台があの位置関係になった、というのは、いわゆるパーフェクト ストームだったように思えました。

 先に佐藤についての話を書いてしまうと、土屋 圭市が言っている通り、起こったこととしてはドライバーが一番やってはいけない結果を招きました。抜きに行くと言っても全く止まれてないですので、仮に誰も他に被害者がいなかったとしてもドライバーとしては失敗ですし、ひょっとしたらチャンピオンを争う相手ごと吹っ飛ばして台無しにした可能性もありましたから、そのあたりを指していると思います。
 ただ、当然ながら人間にミスはつきものです。起こった結果やそこに至る過程への批判や責めは仕方ないですし、例えば佐藤が毎戦ミサイルしているのならもはやそれが能力だと言われても仕方ないでしょう。SUGOでも直線でBRZに当てたりしていたので、能力に疑問を持たれるところまではまだ分かります。
 が、だからと言って見えるところでレース止めろだの消えろだの言うのは間違いです。これは意見でも批判でも批評でもありません。ただの言葉の暴力です。ここを履き違えてはいけません。

 最近では中日ドラゴンズの投手・福 敬登が打たれた試合後などにSNSで中傷を受けている、と明かし問題提起を行ったことが記憶に新しいですが、応援しているところが負けたりして「下手くそが!」と思ったり、画面の前でキレるところまではいいとして、それを公開の場所、ましてや本人に見える場所で言う、なんていうのは問題外です。
 良いかどうかは別にして、本人に直接怒りをぶつけて罵倒しても許されるのはせいぜいこの事故で損失を被った関係者まででしょう。外部の第三者が自分のストレス発散のために利用して良いものではありません。もしインターネットというツールが無かったら、あなたはいちいち本人の家に電話をして暴言を吐きますか?暴言満載の手紙を書きますか?
 『誰でも手軽に自由に発信できる』ことは『誰でも手軽に好き放題言っても良い』ことではありません。この違いが分からず、思ったことをすぐに発信する人は自分の精神や怒りの制御ができていない可能性が高いです。
 はたから見れば、『新型コロナウイルスはそもそも存在が証明もされていない』などと妄言を未だに垂れ流しているような人と大差ありません。しばらくインターネットは見る専門にした方が良いです。

 ちなみに、放送席で言葉からかなり怒りをにじませていた解説の光貞 秀俊ですが、彼も2001年の最終戦で確認不十分からチャンピオンを争っていたARTA NSX・金石 勝智を押し出してしまい、金石が縁石に乗ってすっ飛びリタイアする事故を起こしてしまいました。


 さらにそのレースの終盤では、おそらく前でゴールした方がチャンピオン、という展開でユニシアジェックスシルビア・柳田 真孝が無理して雨宮マツモトキヨシアスパラRX7・山野 哲也を巻き添えにしてスピン。自分だけでなく相手のチャンピオンを潰してしまう失敗をし、監督の長谷見 昌弘がひたすら頭を下げていました。柳田は後にGT300・GT500の両クラスで2度チャンピオンを獲得しました。

 佐藤蓮に才能があるのかどうか私には分かりませんし、ホンダとして彼を来季どうしようと考えるのかも知る由がありませんが、こういう大きなミスを経験してもそこから上へと進んだ人はいます。相場は悲観の中で生まれるものです(?)。


 さてGT300はBRZが私の予想を見事に裏切って最後の2戦も快走を見せました。ひっくり返されていたらもてぎでの単独スピンを長いこと引きずりそうでしたが、自らその展開を捨て去りましたね。
 新車の場合開発の伸びしろが大きい上にタイヤ開発の要素もあるので、BoP的にちょっと有利にされすぎたんじゃないか?と感じる方がいるかもしれませんが、仮にそうだとしても全然違う成り立ちの車が走っているので当然有利不利は出ます。それも含めてSUPER GTです。
 新車ながら去年までの車両での知見を活かし、問題を起こさず、早期に車を仕上げていったのはここまでの長年苦労して築き上げてきたものがあってこそでしょう。自分たちでくみ上げるGTA-GT300規定車両はBoPが有利だから勝てる、というほど簡単ではないですし、過去4年のチャンピオンは全てGT3規定。2016年もマザーシャシーによるチャンピオンだったので、JAF-GT300規定でチャンピオンというと2013年のCR-Zまで遡ることになります。
 もうこれ以上パワーを出すとエンジンが悲鳴を上げそうなEJ20型エンジンを、煮詰めすぎてもうそろそろ水分もなくなって空焚きしそうなぐらいにまで仕上げてついに壊れずに1年走ったんですから、よく考えたらこれだけでもすごいことです。
 たぶん来年は今年の速さを勘案してBoPの基準が考えられるので、チャンピオンを獲ろうが獲るまいがおそらく性能は下げられるはず。そういう点で今年勝てないとまたしばらく遠のいた可能性もあったと思うんですが、ドライバーもチームも力が入るというよりは、苦労して苦労して、ようやくチャンピオン争いに入って最終戦を迎えられるのが楽しい、という雰囲気を感じました。
 他陣営ですら応援したくなる存在だとレース前のリポートで伝えられていましたが、いやもうホントおめでとうございます、素晴らしいシーズンでした、としか私も出て来ないですね。正直、最後にはGT-Rにひっくり返されると思っていたので^^;

 思い返せばこのチームは元々東京R&Dの関連企業として2001年からJGTCに参戦し、2002年に驚速のVEMAC RD320Rを投入してチャンピオン争いをしましたが、信頼性の低さと最終的に150kgにまで達したというとてつもない性能調整ハンデに阻まれてチャンピオンは獲得できませんでした。
 今はSTi主体の開発体制でR&D SPORTはメンテナンス・運営の担当ですが、ふと振り返るとあの重すぎて能力を削がれたVEMACからの19年がかりのリベンジ、という風にもなんとなく思えてきました。古い話なので知らない人の方が多そうですけどw

 今年も8戦ハゲしいレースでした。個人的には日産のエンジン性能が随分と一気にトヨタ、ホンダに追いついたのが印象的でした。来年車体が変わると空力特性もついでに大きく変えられると思うので、規則が変わる節目の年でもないのに新規則のような見方ができるシーズンになりかもしれません。
 GT300は土屋エンジニアリングがGRスープラを自製している真っ最中だそうで、無事に来年のサーキットに現れることを期待したいですね。

コメント

首跡 さんの投稿…
タクティー、山ちゃん、ついにキター!素晴らしい!
GT500も関口/坪井、チャンピオン獲得おめでとう!
正直、色んな「タラレバ」を思わずにはいられない最終戦でした。
ミスはミスですが、これがきっかけで佐藤が自信を失わないか、個人的にはちょっと心配しています。
SCfromLA さんの投稿…
>首跡さん

 「タクティー」は知ってますけど山内選手は「山ちゃん」なんですねw
佐藤くん20歳ですから、精神的にそうとう打撃を受けてるのは当然でしょうし、周囲の人たちも自信を失わせてはいけないと思いつつ、どこかでは評価してふるいにかけないといけない立場でもあるのでその匙加減も難しいでしょうから、お互いに大変だと思います。
来年GTにいてもいなくてもどちらの道でも苦難だと思いますが、レースを続ける限りは失敗はきちんと活かして自分の力を出しきってほしいですね。