フォーミュラE、新たな予選制度と延長戦を導入

 ABB FIA フォーミュラE 世界選手権の2021/2022シーズン(シーズン8)は2022年1月28日、サウジアラビアのディルイーヤで開幕します。まだ未定となっている箇所もありますし感染症の状況次第でまた変更はあるでしょうが、ジャカルタ、バンクーバーなどの新しい開催地を経つつソウルで終える全16戦が予定されています。

 シーズン9から新型車両・通称Gen3が導入されるため現行のGen2車両では最後のシーズンとなりますが、相次いだメーカーの撤退や思ったほど伸びないテレビ視聴者にテコ入れの必要性を感じたのか、シーズン8で予選制度が大きく変更されることになりました。

 従来は全体をまずはドライバー選手権順に4つのグループに分けてグループ予選を行い、その中で全体の上位6台が今度は1台ずつアタックするスーパー ポールでポール ポジションを競いました。
 グループ予選では選手権で上位のグループは最初に出走するためにタイムが伸びず、これによって上位の人は下位に沈みやすく、逆に選手権下位の人は出走順が遅くなって上位に来やすくなるので、予選制度がある種のハンデ制のような機能を持ち合わせていました。これは多くの勝者や決勝での追い抜きを生み出す一方で、上位のドライバーが罰ゲームのように予選で不利になることには批判も多くありました。

 そこでフォーミュラEは新しい制度を導入することになりました。が、普通にやるのは面白くないと思っているのか、やっぱりクセのある制度になりました。こちらが公式サイトで示された新たな予選方式の概念図です。


 まずは人数を半分に割って2グループに分けた上で、上位8台で勝ち抜き戦をやる、という方式です。デュエル方式とか呼ぶみたいですね。この図だけでは全てを説明しきれていないので細かく見て行きます。

・グループ予選

 グループ予選では、まずそのレースの段階でのドライバー選手権に基づいて選手権で奇数の人がグループA、偶数の人がグループBとなります。開幕戦だけは順位がまだないので、各チームが任意でドライバーをAとBに振り分けます。
 各グループは12分間のセッションを行い、先にグループA、続いてグループBのセッションが行われます。最大出力は220kWモードとなっており、アタックの回数に制限はありませんが少なくともセッション開始から6分経過時点までに一度はタイムを記録する義務があります。各グループでの上位4台がデュエルの準々決勝へと進みます。グループ予選全体で最速だったドライバーにはドライバー ポイント1点が与えられます。
 12月15日に国際モータースポーツ評議会で採択された改訂版競技規則でグループ予選の1ポイントは撤廃されました。セッション時間も修正されたため記事内容を更新しました。

・デュエル

 ここからは勝ち抜き形式になります。

A A組1位 vs B組4位
B A組2位 vs B組3位
C A組3位 vs B組2位
D A組4位 vs B組1位

というたすき掛けの組み合わせとなって1台ずつのアタックを行います。便宜上組み合わせにA~Dの記号を付与します。出力は250kWモードとなり、アウト ラップ、アタック ラップ、イン ラップ、という1回だけのアタックを行うスーパーポールと同様の方式で、速いタイムを記録した方のドライバーが勝ち抜いて準決勝へ進みます。先に走行するのは3位、4位の側の人です。万一同タイムだった場合は先にタイムを出した人の勝ちです。

 準決勝はA vs Bの勝者、C vs Dの勝者の2組となり、どちらの組も準々決勝で速いタイムだった人が後から出走します。ここで勝ちあがった2名のドライバーが決勝に進みます。

 決勝も同じく準決勝のタイムで速かった人が後攻となって1回だけのアタックを行い、この対決で速かったドライバーがポール ポジション、負けた人が2位です。PPにはドライバーポイント3点が与えられます。
 3位と4位は準決勝で敗れた2名をタイム順に並べ、5~8位も準々決勝で敗れた人をタイム順に並べて決定します。
 9位以降のドライバーはグループ予選の結果に基づきますが、PPを獲得したドライバーがどちらのグループから輩出されたかで結果が変わります。グループAのドライバーがPPならグループAで5位だった人が9位のグリッドとなり、以降グループAのドライバーが11、13、15・・・と奇数グリッドに並んでいきます。グループBの人がPPなら逆にグループBで5位だった人が9位となります。

 狭い市街地に20台以上の車が同時に予選の走行をやろうとすると混乱するのと、走行時間が長くなると全力で走るにはバッテリー容量が足りないのでF1のようなノックアウト方式は導入できないんだと思いますが、その中でも予選にも面白さを入れようと頭をひねったらこうなった、というところでしょう。
 今度は偶数/奇数の振り分けで2グループなので、選手権上位の人が総じて下位に沈むケースは理屈の上ではなくなります。シーズン序盤はランキングに不確定要素が多くて必ずしも速い人が同じような順位に固まらないため、「こっちのグループだけ異様に速い人多いな・・・」みたいなことが起こるかもしれませんが、シーズンが進むほど影響は逓減されると思います。

 なお、この予選制度の大幅な変更によって予選の時間が従来より長くなってしまうため、練習走行の時間が従来の45分から30分へと短縮されます。新しく参加するドライバーにとっては走行機会が少しばかり少なくなってしまいそうです。


 そしてもう1つ大きな規則の変更点があり、セーフティー カー/フル コース イエローが導入された際にエナジーを差し引く規則に代わって、レースの時間を延長する規則が導入されることになりました。DTMでも似たような延長制度がありますね。
 新しい規則では、SC/FCYが導入されると1分ごとにレース時間が45秒追加されます。最大で10分まで延長され、レース開始から41分が経過したところで延長時間が通達されます。ただし、SC/FCYがレース開始から40分の時点を超えて導入されている場合には延長の対象となりません。急に延長されると、各チームの計算が狂ってしまって全員が電池切れを起こしてしまう可能性があるためです。


 その他にもいくつかシーズン7からの変更点があるので見て行きます。まず、最大出力が向上し、レースでの通常モードが200kW→220kW、アタック モードが235kW→250kWになりました。出力が向上しましたがエナジーの最大使用量は従来通り52kWh、最大回生出力250kWに変更はありませんので、上がった分の出力をうまく使う管理能力が求められます。
 ファンブーストは変わらず100kJの追加エナジーを貰い、240~250kWの範囲で任意に出力を設定して使用することになります。アタックモードの出力向上によって、アタックモードもファンブーストも同じ出力になってしまいましたので爆発力という点では相対的に弱くなりました。仮に持続性重視で240kWに設定していたらアタックモードの車には追いかけられてしまいます。
 ただ、通常モードが220kWに上がっていますので、250kWの設定でも差が+30kWですから、100kJで3.33秒使えることになり、従来の+50kWで2秒間より持続時間は少しばかり向上していると思われます。なお、あんまり影響は無いですがこれらの変更に伴って競技規則には『アタックモードの使用中はファンブーストは使用できない』という文言が追加されています。

 シーズン7のロンドンでは、SCの走行速度がピットの制限速度より遅かったという状況をついて、ルーカス ディ グラッシがピットを通って順位をいきなり上げる、という荒業に出て問題となりました。
 そのためようやく規則に手が加えられ、新しい競技規則ではSCが第1SCラインを通過するとその時点でピット出口の信号は赤となり、隊列最後尾の車が通過してから緑になることとなりました。もうインチキはできませんし、アラン マクニッシュが全力で走ることもありません、あ、どのみち撤退したからマクニッシュはいないやw

 そして、見る側には全然関係無かったですが、シーズン7では装着するセンサー類の数量等について設けられていた規定が撤廃されました。調べた範囲では、シーズン7を開催するにあたり、パンデミックの状況においてコスト削減を図るため『データの量が減れば分析等に関係する部門の仕事が減るからコストが減るだろう』という意図で規則が急にできたようなんですが、正常化に向けたか、チームの不評を買ったので元に戻したんでしょう。

 果たしてこれらの変更がどう影響するのか分かりませんが、今シーズンも楽しみに待ちたいと思います。

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