昨日のネイションズ カップ2021 シーズン2 ラウンド3のレースで約1年ぶりに部屋爆発による回線落ちを経験してGT SPORTの動画作成の予定が丸ごとすっ飛んだので、その時間を注ぎ込んで今日は思いっきりネタに走りますw
先週のフォーミュラE 第12戦の記事内で、普通に書いたんじゃ面白くないので鉄道のネタを盛り込んだりしましたが、コメント欄でVVVFインバーターについて触れたところどうやら世間一般の方にはついていけず置いてけぼりになったようです。
だーいぶ昔にも一回似たような記事を書いたことがある気がしますが、たぶん今後も言葉の端々に鉄オタ要素が混ざってくると思うので、VVVFインバーターとは何者で、一体この人は何にハマっているのかを解説(?)してみようと思います。フォーミュラEにも関係あると言えば関係ありますかね。
なお、音の要素が出て来るので、日本の名だたる素晴らしい動画投稿者の皆様方がアップロードしてくださっているYouTubeの動画を時々参考資料として貼り付けるので、ややページが重くなるかもしれません。
・そもそもV、、、なんとかってなんやねん
VVVFインバーターって何ぞや、というところから話を始めるわけですが、正直具体的な内容は大学で専攻でもしてないと理解できないレベルな気がします。私もさっぱり分かっておりません。
VVVFとは Variable Voltage Variable Frequency の頭文字で、可変電圧可変周波数という意味合いです。こう見えて完全に和製英語(略語)だそうです。そう言われても英単語の意味ぐらいしか理解できず一切意味不明ですね。これを理解するには話と時代を遡る必要があります。
・直流モーターの話
1980~90年代まで、鉄道用のモーターは『直流モーター』というのが主流でした。ミニ四駆なんかを想像していただくと分かりやすいですが、あれは電池を入れてスイッチを入れたらその瞬間からギャンギャン回ってくれます。一番分かりやすい直流モーターの基本で、学校でも習うと思います。構造が簡素で大きいものを動かすにも適しています。
ただ、人が乗る乗り物は電源を入れた瞬間から延々と同じ回転数でギャンギャン回られては困るので出力を調整する必要があります。直流モーターでそれを行うには流れる電圧の量を調整しないといけませんが、電線から流れて来る電圧は一定で変えられません。そもそも、電線を流れている電圧をそのままぶち込むと、モーターを動かすには力がありすぎて壊してしまったり、出力が出過ぎてホイール スピンを起こすかもしれません。そこで取り込んだ電圧を内部でいじる必要があります。
そのために考えられたのが『電気抵抗制御』と呼ばれるもので、名前の通り内部に抵抗を作ってしまい、力を抑えたい時には抵抗を増やしてモーターに強い電圧が流れ込まないようにし、たくさん力がいる時には抵抗を無くしてしまうという仕組みが考えられました。これによって比較的簡素に、低速から高速まで自在にモーターを取り扱えるようになりますが、抵抗をかける=熱としてエナジーを捨てる、ということなので、排熱が熱いし無駄も多いです。
世界的にも1970年代後半からは石油危機が起きるなど省エネが叫ばれた時期、他の方法はないものか、と考えられた仕組みとして『チョッパ制御』というものがありました。簡単に言うと、抵抗ではなく高速でスイッチをオン/オフすることで電圧を制御するというもので、これなら不要なエナジーは熱として捨てるのではなくそもそも使ってないので効率的、というものでした。ミニ四駆では無理ですw
チョッパ制御ではこの高速のスイッチ制御の時に独特の『プーン』という音が鳴るのも特徴でした。当時の日本国有鉄道(国鉄)が投入した201系が非常に有名ですが、制御装置が非常に高価だったことなどからこの制御方式はそこまで流行ることなく次世代の技術へと進んで行きます。
チョッパ車の代表格・201系 |
なお、ラジコンはミニ四駆と違って回転数を制御していますが、これも最初期には抵抗制御が使われていたそうですね。ただ当然ながらあんな小さいもので熱源があると機械にとってよろしいわけは無く、現在はPWM方式というのが使われているとのこと。
PWMとは pulse width modulation の頭文字を取ったものでパルス幅変調という意味です。半導体を使ってパルス、つまり電気信号の波を変化させるということで、細かい内容は異なっていますが電気のオン/オフを細かく切り替えて制御を行っているという点で、思想としては基本的にチョッパ制御と同じようなものと考えれば素人レベルではたぶんじゅうぶんなんだろうと思います。既にわけが分からなくなりつつありますが、PWMによるパルス変動はこれから出て来るインバーター制御でも用いられている技術です。
とりあえず直流モーターについてぐらいなら素人でもギリギリ理解で良そうな気がしなくもないので、もっと具体的なことが知りたい方は、このサイトの解説が詳細で順を追っていて分かりやすいかなと思いますのでぜひ。
・交流モーターの時代へ
直流モーターはこの後も色々と改良が行われていくわけですが、1980年代後半から世の中では半導体の技術が大きく飛躍し始め、これが鉄道に革命をもたらすことになります。それが、VVVFインバーターによる制御を用いた交流モーターの車両です。
この辺からますます素人では理解ができなくなりますが、簡単に言うと交流モーターは一定の回転数で回るのは得意な一方で、速度域に合わせて回転数を変化させることは苦手なために鉄道には不向きだとされていました。そもそも日本の電化区間の多くは直流なので交流に変換する必要がありますし交流区間であっても電圧が高すぎるので結局それをそのまま使うことができません。
それを一変させたのがインバーターでした。インバーターは半導体を用いて直流の電気を交流に変換してくれる装置で、ものすごく大雑把に言うと太くて強い一本の糸が、装置を通すと3本の細くてしなやかな糸になって出て来るような仕組みになっていて、電圧と周波数を自在に制御できるようになりました。これによって、交流モーターの利用を妨げていた問題点が一気に解消されます。
直流モーターは構造上摩耗しやすい部品というのがありますが、交流モーターはそれが不要なために整備性に優れ、消費電力も直流モーターと比べて半減と言えるほど高効率。もはや直流モーターを新たに採用するメリットは消滅しました。
なお、交流電力の区間であってもその電力はそのまま使われるわけではなく、交流をコンバーター(交流を直流にする装置)で一旦変換してから、またそれをインバーターで交流にしてモーターに供給しています。
・そしてインバーター音というジャンルが生まれた
電力を半導体によって常時変動させるインバーター装置。大きな特徴の1つに独特の音が鳴るというものがあります。厳密には主な発生源はモーター側になるそうなんですが、直流モーターの車両が速度に比例してひたすら音が高くなっていくのに対して、インバーター車両では、主に起動からの加速時に自動車が変速するような音を立てます。そして、それは仕様によって実に多様であるため、私を含め多くの人間が虜になることになりました。技術革新が新しいオタクのジャンルをも生み出した形です。
私が人生で初めて遭遇したのは207系1000番台、デビューして間もないころでした。元々、それまで真っ青な単色の鋼鉄の車両しかいなかった東海道本線の普通に、ステンレスで近代的な見た目の車両が出て来る、というだけでワクワクしていましたが、初めて乗ることができて、動きだした瞬間は衝撃的でした。当時小学校2年生ぐらいだったかな?
なんというか宇宙から来た乗り物みたいな印象でしたね。その後、阪急電鉄の8000系に乗って『似た音だなあ』と思い、ホーム上で207系0番台が発車する姿を見て『あれ、音が違う』と思ったのが小学校2~3年のころのインバーター体験でした。車に例えれば、1000番台が長いギアを組んでいるのに対して、0番台はすごくクロスで組んであるような音がします。
インバーター制御では電磁波が発生するため、信号機などの鉄道施設に干渉して不具合を起こしては困るので、かなり念入りなテストが必要とされています。この電磁波の周波数、場合によっては我々が聞いているラジオと干渉することもあり、自動車でラジオを聞きながら走っていたら、突然並走する列車のインバーターの影響を受けて、場合によっては音が聞こえることがあります。
これを利用して、なんとインバーター音を聞くためだけの『モハラジオ』という機器も発売されました。ただ鉄道の音を聞くための道具であって、普通のラジオは周波数が違うので一切聞けません。興味のない人にとっては全く意味が分からない商品です。現在は製造されておらず手に入りませんが、仕方なく自作する猛者もいるようですw
・使用する半導体素子で違いが出る
VVVFインバーター制御の肝となるのが、制御に用いる半導体素子だとされています。初期に多く用いられたのが GTO と呼ばれる素子でした。Gate Turn Off の略だそうですが、説明を読んでも1ミクロンも理解できませんw
GTOを用いたインバーターのサウンドは、207系1000番台がまさに典型ですが自動車がギアを切り替えるような変調音がくっきりと出て来るのが特徴です。初期のものは変調が低速域で素早く行われ、後期に進むほど長くのびる傾向があるように思います。いろんなサウンドを実際に聞いたり、ネット上で探したりしましたが、207系1000番台は世界で一番美しいGTOサウンドだと本気で思ってますw
なお207系0番台は『パワー トランジスター+サイリスタ チョッパ』という全国的にも極めて稀な制御素子が使われており、チョッパ制御特有の『プーーーーーン』という音が同時に聞けるというかなり珍しいものとなっています。珍しいゆえに部品在庫も無いし初期のもので最新鋭のものより効率で劣るので順次置き換えが進んでおり、この音を生で聞けるのはそれほど長くない期間かもしれません。
車両製造の時期のメーカーの技術の関係か、鉄道会社ごとになぜか妙に特徴が出たり、その製造メーカーによっても特徴が出るあたりが面白く、沼にハマってしまう一番の原因です。近畿日本鉄道のGTO車はなんかテンションが低いものが多いw
阪急の8300系は初期型と後期型がありますが、私は後期型のハスキーな起動音がたまらないと思いますね。
そしてGTOが生んだ世界最大の遺産とも言えるのが、ドイツのジーメンス社が製造したインバーターでした。インバーターはどうやったって音が出るんだから、だったらその音に人為的に細工してしまえ、ということで音階を付けてしまったというものです。京浜急行電鉄の2100形と1000形、JR東日本のE501系で採用されました。
残念ながらジーメンスが日本から撤退、日本メーカー制へと機器は更新されて行ってしまい、去る2021年7月に最後の1編成となっていた京急2100形も機器更新のため姿を消し、この音を日本で聞くことは不可能となりました。一度でいいから聞いてみたかった・・・
・時代はIGBT素子へ
1990年代の中盤以降になると、GTOに代わってIGBTという素子が使われ始めます。Insulated Gate Bipolar Transistor の頭文字を取った略語で、絶縁ゲート バイポラー トランジスターというものだそうですが、もはやこれを覚えるために脳の記憶領域を1ビットたりとも使おうとは思えませんw
GTOよりさらに効率が良く消費電力が削減できるうえに静粛性も高いのが特徴です。IGBTの車両は明確な『シフト チェンジ音』という感じのサウンドは少なくなり、高音域で滑らかに伸びていくようなサウンドが圧倒的に増えました。じゃあ静かで単調になって面白味が無くなったか、というと、そうならなかったところが面白いところです。
メーカーごとの特徴が益々顕著になったように個人的には思うんですが、JR西日本の223系(0番台を除く)には日立、東芝、三菱の3社のインバーターが採用されており、違いを堪能しやすいです。このうち日立はなんというかすごくメカメカしいサウンドを奏でます。
東芝は対照的に非常に静かなんですが、最初期に投入された223系1000番台・2000番台の初期型インバーターでは起動時に「キー―――――――――ーン」というものすごく高い音を発します。私はこの初期型がとても好きです。大半は制御ソフトウェアの更新によって後期型と同じように音が出ない静かなものに変わってしまいましたが、未だに一部残っているところを見ると、ひょっとしてファンのために残してくれてるんじゃないかと思ってしまいますw
そして、制御素子が変わると色々違うことが起きるのか、耳を疑うようなものまで登場してきました。JR東日本のE231系は、通称『墜落インバーター』と呼ばれます。なぜ墜落なのかというと、我々の一般的に勝手に根付いた常識である『加速するほど音が高くなる』という常識を覆し、起動後少しすると一旦音が下がるのです。加速しているのに、穴の底に落っこちていくように音が下がっていくので墜落というあだ名がついたと思われます。逆に減速時は停車直前に音が上がります。
近鉄の21020系・アーバンライナーNextに採用されている三菱のIGBTもかなりおかしな音を発しており、これまた墜落系サウンドです。50000系・しまかぜもやっぱりちょっと墜落サウンド、なぜこうなったのか作った方々に聞いてみたいですw
こうしてIGBTはインバーター音の可能性(?)を無限に拡張してくれたので、沼にハマった人はもはや脱出不能になりました。近年は機器更新でGTOからIGBTに載せ替えられてGTOサウンドが希少になっているところも増えて来たので、GTOを駆逐する存在という側面もあったりしますが、207系1000番台ではなぜか機器更新したのにサウンドがほぼ旧来のまま、という不思議なものが投入され、「やっぱり俺たちのこと意識してるのでは?」と思ってしまいます。
・そして時代はSiCへ・・・
半導体技術の進歩はすごいので、現在はIGBTに次ぐ新しい世代としてSiCが普及し始めています。SiCというのは silicon carbide シリコーン カーバイドの略で炭化ケイ素という物質名です。近年登場した山手線のE235系などはSiCを採用しており『最新のSiCインバーター』なんて言われたりします。あ、この車両インバーターが機器更新されたな。SiCかな、IGBTかな、帰ったら調べよ、みたいなことを心の中で呟く人も多い(?)と思います。
が、ここでちょっと待った。SiCは『物質名』です。IGBTは『半導体素子名』です。自動車で例えるなら、ターボ チャージャーか、スーパー チャージャーか、という話をしているところに『セラミック』と言っているようなものでカテゴリーの違う単語ですね。
半導体素子というのは言うなれば電気回路を指すわけですが、その材料としては従来は安価で汎用性の高いシリコンが使用されてきました。SiCはシリコンと比べるとお値段はとても高いのですが、耐熱性や絶縁性などで非常に優れているために半導体の素材として非常に有望であるため、近年採用が進み始めています。
で、SiCという素材の特徴を利用するのであればIGBTよりももっと優れた素子があるそうで、それがMOSFETと呼ばれるものだそうです。もう何の略語か書くのが面倒になってきましたが、SiCを採用しているインバーターでは多くがMOSFET素子を採用しています。
ですから、言葉の定義として考えれば本来は GTO→IGBT→SiC ではなく、GTO→IGBT→MOSFET というのが正しい考え方になります。例えば北大阪急行の9000形は、素材にはSiCを採用していますが素子はIGBTです。ですから『9000はIGBTじゃなくてSiCなんだぜ~』なんて得意げに話すと間違っていることになります。さらに厳密に言えばMOSというのは『金属酸化物半導体』の略称でこれまた素材の名前なので、素子名としては『FET』ということになるそうですが。
というわけで、SiCというもの自体は半導体素子に使う素材のことなので、厳密に言えばSiCだから違う音がする、というわけではないと思われます。結果的に技術が進んで今までと違う素子を使ったり、モーターの設計が可能になったりすることで今までとまた異なる音を発するものが出て来た、と解釈するのが手順としては正しそうです。
で、そんな技術革新の中で生まれたのが『三相交流永久磁石同期電動機』と呼ばれるモーターです。制御する装置であるインバーターではなく、今度は鉄道を動かす本体であるモーター(電動機)の方に技術革新の波が押し寄せました。英語の略称から PMSM と呼ばれます。インバーター制御では初期から『三相交流誘導電動機』というモーターが使われてきましたが、これに変わる新しい技術のものです。
もう詳しいことはさっぱり意味が分かりませんし、SiCを使ったインバーターがあるから使えるようになったのか、たまたま同じような時期に実用化されたからセットで出て来たのか分かりませんが、PMSMは誘導電動機よりも効率が良く、発熱量が少ないので外気による冷却が不要になってしまうそうです。
外気を導入する必要が無いのでモーターを閉じた空間に入れられるため、簡単に言えばお掃除する手間が減りますし、囲ってしまうので騒音も低減されてしまう、という優れものだそうです。騒音を下げたら我々の楽しみが・・・(´・ω・`)
上述した北大阪急行の9000形がまさにPMSMを早い時期に採用した代表格です。PMSMでは起動時に『ベェェェェ―――――――』みたいな独特な起動音がします。
起動時の音は独特ですが、高速域に入っていくと非常に静粛性が高い印象を受けます。自動車分野ではテスラのモデル3がSiCを使用したインバーターとPMSMを使用しているそうですね。たまに自動車を無理やり絡めます。
PMSMには値段が高くなる、高速で惰性で走行する時に損失が出る、などのデメリットもあるためこれを使うと何もかも良い、というわけではないらしく、また鉄道会社は現在COVID-19パンデミックの影響をもろに受けているので、今後しばらくは新車両の投入は進まなくなる可能性がありますし、色々な品物が混在する時代が続きそうです。
ちょうど今年、三菱電機はさらに新しい『同期リラクタンス モーター』というのを東京メトロと共同で実験に乗り出したとのこと。こちらの技術、理論は昔からあったけど制御できないから使えない、というのが半導体技術の進化でできるようになったという代物だそうです。どんどん先に進んでおじさんは付いて行くのが大変ですが、インバーターとモーター、双方にまだまだ進化の余地があり、進化の数だけサウンドが期待できる、といいなと思います。
2025年1月5日追記
2024年11月に営業運転を開始した福岡市交通局 4000系に営業運転の量産車両として初めて同期リラクタンスモーターが搭載されて営業運転を開始しました。
この趣味の魅力の1つは、ただ仕事で通勤しているだけでもその時間を楽しめる、しかもタダ!というところがあります。あくまで大都市圏に居住してそこで鉄道を使って通勤している、という条件が整っていないと成立しませんが、生で音を聞きたくてそのためだけに旅行し始めない限りは極めてお得です。通勤中にホームで待っていて「・・・何や今の音!( ゚Д゚)」となったことは一度や二度ではありません。
そんなわけで、沼にハマった人によるインバーター話でした。これを最後まで読む事ができた強者の方は明日から鉄道の音に少し耳を傾けてみてはいかがでしょうか?
コメント
当時、なんだこの音はって笑ったのをめっちゃ覚えてます笑
まさにその「なんだこの音は」という体験から、深く調べるかどうかが人生の大きな分岐点になるわけです 笑