SGT 第3戦(4戦目) 鈴鹿

2021 AUTOBACS SUPER GT Round3 FUJIMAKI GROUP SUZUKA GT 300km RACE
鈴鹿サーキット 5.802km×52Laps=301.704km
GT500 class winner:MOTUL AUTECH GT-R  松田 次生/Ronnie Quintarelli
(NISSAN GT-R NISMO GT500/NISMO)
GT300 class winner:たかのこの湯 GR Supra GT 三宅 淳詞/堤 優威
(TOYOTA GR Supra/Max Racing)

 SUPER GT 2021年の4戦目は5月開催の予定から延期になっていた『第3戦』の鈴鹿です。当時『まん延防止等重点措置の適用』を理由に延期したんですが、結果的にその時よりも三重県内で確認される陽性者数は現在の方が多く、緊急事態宣言の発出を要請している状態なので結果論で言えば5月の方がまだマシな状況ですが開催されることとなりました。
 本来であれば鈴鹿10時間耐久レースが開催されている週末でしたが、こちらは3月に早々に中止が決定してサーキットの予定が空いていたためにここに滑り込んだ形です。真夏の暑い時期の鈴鹿ということになりましたが、日本列島はこの前の週から前線が停滞した影響で雨天が続き、この週末もまだ曇天といった感じで例年のこの時期よりはいくぶん気温の低い気象条件となりました。

 予選、GT300クラスではSUBARU BRZ R&D SPORTがQ1・グループAを最速で通過するとQ2も最速で今季2度目のPP獲得。グループBで最速・Q1全体で最速タイムだったのはたかのこの湯 GR Supra GTでしたが、Q2では3位にとどまり、マッハ車検 GTNET MC86 マッハ号が割って入る2位となりました。
 JLOC ランボルギーニ GT3、PACIFIC NAC CARGUY Ferrari、グッドスマイル 初音ミク AMGとGT3車両が続き、もてぎの勝者・muta Racing Lotus MCが7位。サクセスウエイトを60㎏以上(累計獲得ポイント20点以上)搭載した車両としては最上位です。

 一方GT500ではModulo NSX-GTの大津 弘樹がQ1で2位に0.8秒の大差をつける圧倒的速さを見せると、Q2でも伊沢 拓也がこれを引き継いで見事PPを獲得。ウォームアップの途中でうっかりコースオフして砂場に突っ込んでしまったので、その瞬間はおそらくみんな凍り付いたと思いますが、無事アタックを決めました。
 2位にはRedBull MOTUL MUGEN NSX-GTでダンロップ装着車両が1、2位。おそらく2006年の最終戦富士でEPSON NSXがPP、BANDAI DIREZZA SC430が2位となって以来の記録です。ちなみにこの時はそのまま決勝もこの2台が1、2位で、3位はWOODONE ADVAN KONDO Zでした。こちらはヨコハマなのでブリヂストン不在の表彰台ですね。
 3位にMOTUL AUTECH GT-R、4位がリアライズコーポレーション ADVAN GT-Rとここはミシュラン、ヨコハマの並びで、ブリヂストンが2列目までに1台もいません。5位のARTA NSX-GTがブリヂストンの最上位。
 一方GRスープラ勢は全車がQ1でノックアウトされて9位以下。ハンデの重いランキング上位の6台のうちスープラが4台。この6台のうちQ2に進んだのはAstemo NSX-GTだけだったので重さはかなり影響していますが、ブリヂストン全体としてタイヤの想定温度と実際の気象条件が合ってないようにも思えました。


 決勝前のフリー走行ではUPGARAGE NSX GT3が130Rで脱輪するというかなり危険な事象に見舞われて大クラッシュ。名取 鉄平は現時点で大きな怪我はないという情報ですがかなり怖い事故で、この影響でスタート時間が10分遅延となりました。
 
 スタート時には天候は曇り気味ですが日差しはあり、路面温度は予選より10℃以上高く43℃、このままならブリヂストンが起動しそうな予感がします。ただ近隣の地区では一時的な大雨に見舞われている地域があり、雨雲が流れてくるようだとまた様相は一変します。天候や路面温度がレースにかなり影響しそうです。

 スタート、GT500は概ね順位通りの流れからダンロップ2台が2周目にはもう逃げ始めました。一方GT300はマッハ号がスタートでやや出遅れたのと、おそらくここは無交換想定でしょうからタイヤの発動が遅いと思われて4位に後退します。その間にBRZは単独走行。


 ヘアピンではリアライズ日産自動車大学校GT-Rが誤ってピットの速度リミッターを押してしまい、これが原因でいきなりの低速走行、ほぼ最下位になります。LEON PYRAMID AMG も回避のために芝生上の走行を余儀なくされていました。玉突き事故が起きなかったのは不幸中の幸い、LEONはこのレース15位で無得点でした。

 5周目、Modulo NSXは2位以下を引き離して独走態勢に入っていましたが、なんとシケインでブレーキのトラブルが発生。右前のブレーキが壊れて性能不足で減速が完了できず、シケインを直進してバリアに突き刺さりました。速度的には大事故というほど高速ではなかったですが、クラッシュ パッドに深くハマる状況になってしまいました。
 ちょうどその瞬間にカメラは別の個所を映していたので、カメラを130R側からシケインに振ったらなぜか黄旗2本振動で、そういえばトップがいない、という状況になっていました。これでFCYとなり、その後回収作業のため結局はSC導入となりました。


 ドライバーの伊沢は後退して抜けようとしたけどそれができず、そうこうしている間に車両の熱がクラッシュパッドに伝わって出火。消火器を使った上で脱出しようとしたらパッドに囲まれてドアが開かず閉じ込められてしまいましたが、オフィシャルの迅速な作業によって脱出に成功し事なきを得た、とのことです。映像から事故が発生したおおよその時間を推察すると、伊沢が車両から出たのは事故から約1分25秒後、障害物が無くなってドアが開いた瞬間に這い出すように出てきました。
 映像を確認すると、事故からFCYボードが掲示されるまでに50秒ほどかかっていますが、個人的にはたとえ空振りでも良いので、オフィシャルがリスクを負うことなく安全な作業を保証できるよう、もっと早い決断はできないものか、と感じました。

 9周目を終えるとピット クローズは解除され、GT300の後方車両6台がピットへ。この後も散発的にピットにはいる車が出てきます。コース上は壊れたクラッシュパッドの代わりのものをターン1側から持ち込まないといけないので、撤去と輸送の作業でけっこう長引いています。
 
 12周目にようやくリスタート。GT500は無難な展開で進行しますが、GT300はBRZのタイヤが居眠りしてしまったのか、たかのこの湯スープラに追いかけ回されます。そして13周目のダンロップコーナーでインを伺われ、リスク回避でブレーキを踏んで避けたら思いっきりラインを外れてしまってフェラーリにも抜かれてしまいました。


 BRZはリスタート後にリアのグリップが無くなり、ピットではそのリアだけを交換したけどペースは戻らず、最後にはフロントが摩耗して抜かれまくるという悲惨な終わり方となって10位で終えました。スバリストはションボリ、タイヤの作動温度領域が関係している気がしますね。

 18周目、レッドブルNSXは後ろから重圧を受けての走行。昨年のModulo NSXと同じような状況で、ダンロップが明らかに劣勢です。MOTUL GT-R、リアライズ GT-R、さらにCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rと続き、10位スタートから上げて来たZENT CERUMO GR Supraが5位でここに近づいていきます。ブリヂストンのスープラがとうとう来ました。
 GT500ではこの周を終えたところからピットには入れるため、7位のカルソニックIMPUL GT-Rと13位のSTANLEY NSX-GTがピットに入ります。レース周回で言えば12周ほどしかしていないので自ずと給油できる量は限られており、30秒ほどの早い静止時間でコースへ復帰。ちょうどGT500の先頭が本日初めてGT300の集団に追いついたタイミングですので、タイヤの履歴差よりも集団に起因したペース差でアンダーカットができそうな状況です。

 Red Bullはこの集団が味方して2位との差を広げてしまい、そのまま20周を終えてピットへ突入。しかしRed Bullはタイヤの発動が遅くて同じく20周目に自分たちの後ろで入ったCRAFTSPORTSにアウト ラップ中に抜かれてしまいました。さらに、集団に出会う前にピットに入ったカルソニックもアウトラップ中にRed Bullを仕留めて事実上のアンダーカットに成功します。これでピット組ではCRAFTSPORTS、カルソニック、Red Bullの順位。


 見た目上の先頭となったMOTUL GT-Rは空いた場所で残ったタイヤを使って飛ばしまくり24周目を終えてピットに入りますが、やはりピットを出たらクラフトスポーツ、カルソニックの後ろ。アウトラップ中にRed Bullにも抜かれて実質4位となります。ところがRed Bullの笹原 右京はデグナーではみ出しかけるなど未だに挙動不審な状態で、26周目にMOTULが抜き返しました。
 レース後のドライバーのコメントから推察するに、前半はタイヤが路面温度に対して柔らかすぎて寿命が厳しかった様子。おそらく後半は別の高温用のスペックを入れたんだと思いますが、こちらは作動温度領域になかなか入らずに出足が遅く、かつピックアップが出たとのことで、今度はレンジが高すぎて綺麗にタイヤが溶けなかったものと思われます。


 コース上はそこかしこでハゲしい争いが展開されてもう何が何か分からないしリプレイも無いので誰がいつどこでどう抜いたか見ている方は置いてけぼりですが、一方で雨雲の方がサーキット近隣を取り囲むように発生しており、もういつ降ってもおかしくない状態になってきました。
 仮にレイン タイヤが必要なほど降ってきたら、まだピットに入っていない人は1ストップでレインへの交換とドライバー交代を同時に終えられるので有利ですが、ことGT500に関しては早々にみんな入ったのでそのリスクは無くなりました。降ったら降ったでそこから第2幕です。

 一方GT500の争いがハゲしすぎて情報不足なGT300ですが、ピットを終えた中では予想通りタイヤ無交換のマッハ号が1位、たかのこの湯スープラが背後に迫ります。タイヤの状態を考えるとマッハ号はかなり厳しい状態。このチームは今年、平木 湧也と平木 玲次の兄弟コンビですが後半担当は弟の玲次。『れいじが弟』なので『中川家と同じ』と覚えましょうw

 GT500はタイヤが合わないRed Bullのペースがガタ落ちでこの後ろが大渋滞。トップ3を占めるGT-Rはその間に逃げることができます。ラッキー!MOTULは30周目、画面に映ってない間にカルソニックGT-Rも抜いて、先頭のCRAFTSPORTSを追い上げます。ダンロップのワンツーで始まったレースが気づいたらミシュランのワンツー( ゚Д゚)
 
 38周目、とうとう西コース側で雨が降ってきました。GT500は1位と2位が約1.7秒差、一方GT300は86とスープラの争いにウラカンが加わってまた3台が接近して終盤に向かいます。前を走る人は雨量が急に増えてリスクにならないかも気にしつつ後ろを見ないといけないので非常に難しい状況です。

 40周目、GT500の1位争いがテール トゥー ノーズとなると、同じころにGT300ではデグナーの2つ目でたかのこの湯がついにマッハ号をかわします。続く41周目にはGT500でもMOTULがCRAFTSPORTSを抜いて、両クラスでほぼ同時にリード チェンジが起こりました。

 雨は幸い強くはならずドライバーがワイパーを動かした程度にとどまり、そのままMOTULは後続を引き離し独走でチェッカーを受けました。昨年から鈴鹿でのレースはなんと3連勝。CRAFTSPORTS、リアライズ、とGT-Rが上位3台を独占しました。


 リアライズはGT500で最も遅い25周目にピットに入り、そのためにピット前の3位から6位に順位を下げて後半を迎えましたが、コース上で失った順位を36周目にはもう取り戻していました。逆にタイヤが古い上に燃料でも一番厳しかったカルソニックは6位となり、さすがにGT-Rで上位4台独占とはなりませんでした。

 脅威だったと言えるのは4位に入ったSTANLEY NSXだと思います。スタートは11位、ハンデは64㎏と燃料流量制限も強化されており、真ん中のあたりで書きましたがピットに入った時点でも13位でした。
 そこから、早めのピットが奏功してピット後は実質8位に浮上。ここからコース上でさらに順位を上げていき4位でした。1位からは25秒差なんですが、2位のCRAFTSPORTSからは15秒差。この15秒というのはピットを出た時点とほぼ変わらない差です。STANLEYはカルソニックを抜く際に詰まったりしていて一時は20秒以上の差になっていますから、終盤は差を詰めたことになります。
 もちろん、CRAFTSPORTSは前後が離れて争う相手がいませんでしたのである程度安全に走ったとは思いますが、これだけのハンデを背負って、それも真っ先にピットに入ってタイヤも燃料も厳しい中で2位と同じペースで走った車の仕上がりはすごいと思います。山本 尚貴の混戦での技術も想像以上にすごいものがあったことでしょう。もし車載映像が公開されたら一見の価値があるのではないかと想像します。
 驚くべきことに、決勝中のベスト ラップではGT500で最も遅く、唯一1分52秒を切れなかったので、自分のペースで走れる状況が全く無かったことが窺えます。

 GT300もたかのこの湯が奪ったリードを譲らずそのまま優勝。終盤S字区間でGT500と接触してコース外を走った上に空力部品がいくらか吹っ飛びましたが、既に大きな差を築いていたことが効いて逃げ切りました。チームもドライバーもGT300クラスで初優勝、そしてドライバー選手権でも1位となりました。次戦はもうウエイト100㎏の上限に到達ですw


 JLOC ランボルギーニが2位、グッドスマイル 初音ミク AMGが3位で、この2台とも今季初の表彰台でした。マッハ号は終盤にデグナーでスピンして見事に一回転。最終的に5位となりましたが、平木 玲次はなんと熱中症で朦朧としていたようで、レース後搬送されたとのことです。前戦ではNSX GT3のドライバーがことごとく熱中症になり、これを受けてGT3車両に特例で換気ダクトの設置が認められたんですが、マザーシャシーでも事情は同じですね。
 リアライズGT-RはSC導入に救われた部分もあり8位で堅実に3点を手にしました。SC中に給油とタイヤ交換を行い、スティントを目一杯伸ばして空いているところを走ることで順位を上げることに成功しました。エヴォーラも9位です。

 まさかGT500のトップが早々にクラッシュするとは思いませんでしたし、MOTUL GT-Rの3連勝も、そううまくはいかんだろうとレース前は思っていたので想定外でした。とにかくタイヤと路面状況が常に影響しているレースだったと思います。
 ブリヂストンはレース前の取材では「土砂降りか高温になってほしい」と言っていたそうなので、持っているタイヤのレンジが路面温度30℃あたりでは作動せず大外れだったというのは想像に難くないですが、決勝で温度が上がったらある程度仕事をするようになった、と思われます。もしレースがレインを履くほどではないけど小雨が時々降る、というような条件ならかなり苦戦していたのではないかと思います。
 逆にダンロップは予選の時のような状況が最も適していたんでしょう。GT300のBRZもタイヤがもろに影響しました。リアのグリップ不足がオーバーヒートなのか冷え性なのか分かりませんが、この車はもともと軽量・小型の車両で荷重をグッとかけて走る車ではないせいだと思いますが、タイヤの作動レンジが狭いという弱点はずっと続いているように思います。
 映像を見ながら「きっとここはタイヤがこういう感じで今こうなってるんだろうなあ」と想像し、概ねその通りの状況であることが事後取材で分かってくると面白かったりしますが、他方でそういった内容は相当知識を持って調べている人でないとなかなか分からない部分なので、伝える側にその知識が無いとただの『よくわからんレース』になるなと今回も思いました。解説者に技術関係に詳しい方がもう1人必要な気がします。

 GT300はこれで開幕からGT-R、GRスープラ、エヴォーラMC、GRスープラという優勝者になりました。特性の違う車を性能調整して無理やりタイムを合わせている上にGT3車両は基本的にヨーロッパでの基準。タイヤ競争のおかげで特定のタイヤと車両の組み合わせが速くても関係ない、といった状況で、こうした環境に包み隠さず不満を打ち明けるのが、HOPPY Team TSUCHIYAの監督・土屋 武士。
 前戦もてぎでは、GT3車両の公平性について、かなり毒のある記事がオートスポーツwebに掲載されています。


 以前のオートスポーツ誌の話でも、土屋監督はBoPなどの問題に加えて、どうも本来誰が購入しても同じ性能であるはずのGT3車両に、そうではないものが使用されている疑いについてかなり気にしている様子で、ポルシェを選んだ理由について「そういうことを絶対しないメーカーだから」と語っていました。
 そして今回もまた、同様の観点から『少なくとも年に1回ぐらいはチャンスがみんなに訪れるような競争環境が欲しい』といった趣旨の記事となっています。Max Racingのメンテナンスは土屋さんのところが担当しており、数年前まで現役だった土屋”選手”はテストで自らスープラと911を両方乗って比較するなど、他のチームではなかなか出来ないことを行っています。


 次戦からはスポーツランドSUGO、オートポリスと昨年は開催されなかった場所で開催予定です。

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