NASCAR用語 ラ行


・ラグ ナット lug nuts

 ホイールを固定するために用いる傘状の形状をしたナットのこと。NASCARではホイールは真ん中の一本のセンター ロック式ナットではなく、市販車と同様に5本のナットで固定しているため交換の際には素早く5本を緩め、そしてまた締めなければならない。
 一時期『5本のうち3~4本締まっていればじゅうぶん走れる』という解釈から、故意に5本全てのナットを締めずに交換作業の時間を短縮する行為が常態化したために、現在は規則で5本すべてを締めることが求められ、レース後には全てのナットが締められているか検査される。1本でも緩んでいれば罰金の対象となり、3本以上の場合失格となる。
 センターロックの場合ナットはインパクト レンチで受けて、次のホイールに再度そのナットを装着するが、5穴の場合そうはいかないので外したナットは散らかりっぱなし。ホイールには予め接着剤でナットが仮留めされているので、締める際はこれを上から潰すようにして締める。ピット上には大量のナットが転がっており、時々タイヤが弾き飛ばしたものが体に当たって本当に痛いという。
 残念ながらというべきか、2022年からの新規定の車両ではセンターロック方式に切り替わるため、こうした非常識なピット作業は2021年限りで見納めとなる予定。




・ラップ リード lap lead


 リーダーがコントロール ラインを通過した際に記録されるもの。一度リーダーで戻ってくれば1周のラップ リード、1周目から40周目、225周目から334周目までをリードしたなら、
『このレースでは150周のラップ リード』と言う。日本ではよくこれを『リード ラップ』と表現しているが、

〇リード ラップは1位と同一周回の車を指す単語である
〇英語での表現でも『today:150laps led』(ledはleadの過去形)となる
〇周回をリードしている人は『lead lapper』ではなく『lap leader』である
〇GAORA中継時代には使い分けを行っていた

 といった理由から、当ブログでも明確に使い分けをしている。


・リーダー leader


 レースの1位の選手のこと。トップ、レース リーダー、ラップ リーダー。


・リーディング ドラフト leading draft

 ドラフティングの一種で『後ろに車が近づくことで前の車が速くなる』現象を指す。高速走行する車両の後方では乱流が発生、これが抵抗となって加速を妨げるが、真後ろに車が接近するとこの乱流が消えて車両の上部をスムーズに空気が流れるようになるため、先行する車両は空気抵抗が低減されて単独走行時よりも速く走ることができる。
 また、後続車両が接近してほぼ車間距離がゼロになる過程では、乱流が押しつぶされることで、まるでゴム ボールを押しつぶして反発させるかのように先行車を押す力も生じる。


 ただしリーディングドラフトが効いている状態ではダウンフォースも減少しているため、簡単なことでリアのグリップが失われてスピンしやすくなっている。

 


・リード ラップ lead lap


 トップと同一周回のこと。周回遅れではない人。コーションが多いNASCARではとにかくリード ラップにさえいれば何かしらチャンスが来るかもしれず、なんとかラップ ダウンを阻止しようとリーダーが来ても安易に譲らない人も多い。
 また、コーション時のピット作戦には『リードラップ車が何台いるか』は重要な要素なので、リードラップ車の台数は把握しておくと良い。
 日本ではラップ ダウンという単語は使うのに、リード ラップはあまり定着しておらず、レース中の無線ですら『トップと同一周回の車』が後ろから来るといった回りくどい言い方がされているのを耳にしたことがあるので、できれば日本でも広まってほしいと思える単語。


・リスタート restart
 
 コーションからレースが再開されること。イニシャル スタートとは若干規則に違いがある。リーダーは予め設定されている”リスタート ゾーン”の範囲内のどこかで、自身のタイミングでスロットルを全開にしなければならない。
 2位の車はリスタート ゾーンの加速段階でリーダーを抜いてはならないが、そこさえ守っていれば、イニシャル スタート時と違ってスタート/フィニッシュ ラインまでに抜いても構わない。
 3位以下の車は原則として、先頭車両がスタート/フィニッシュラインを通過し、正式にグリーンとなるまで追い越しをしてはいけない。

 なお、リスタート時のオーダーは原則的に
リード ラップ車 → ラップ ダウン車 → フリー パスを受けた車 → ペナルティーを受けた車 → ウエーブ アラウンドを受けた車
の順になる。ただ、あまりに混乱すると整理しきれずラップ ダウンが間に挟まったり、収拾がつかなくてなぜか3台並んだままリスタートされてしまうことも稀にある。


・リストリクター プレート restrictor plate

 エンジンの吸気量を制限することで出力を抑制する金属板のこと。多くのカテゴリーのレースで出力抑制のために用いられている一般的なものだが、NASCARではそのままだと900馬力もあって速度が出過ぎて危険であるため、スーパー スピードウェイでのみ使用した。そのため、スーパースピードウェイのレースは別名『リストリクタープレート レース』、あるいは単に『プレートレース』とも呼ばれた。
 しかし2019年からはシリーズの他のレースと同様にテイパードスペーサーを用いることになったため、リストリクタープレートと呼ばれるものは消滅した。ただ両者とも吸気を制限して出力を下げるという役割は基本的に同じであるほか、スーパースピードウェイだけはテイパードスペーサーの径をさらに縮小したために、結局従来と変わらないといえば変わらない。


・ルース loose


 ステアリングを切った以上に車が旋回してしまう状態。日欧で言うオーバーステア。グリップ力がフロント>リアの状態で起こる。発音は ルーズ ではなく ルース。
 厳密にはハンドリングの原因、解決方などは多種多様であるため一般論になるが、ルースをタイト方向へもっていくには、ウエッジは足す方向、トラック バーは下げる方向にアジャストするとされている。高速オーバルでは、ルースの車は自然に内側へと巻き込んでいき、
外側を走ると姿勢を乱して壁に当たる危険性が高いためイン側のラインを取ることが多くなる。


・ルース ウィール loose wheel

 主にラグナットが緩むことによってホイールが適切に締め付けられていないことを指す。故意にナットを5本締めていなかった時代には頻発していたが、ピット作業を急ぐあまりきっちり締めたつもりでもそうなっていないことがある。また、路面の凹凸が激しいトラックでは衝撃が大きいためにナットが緩みやすいことがある。
 チーム側とすればなんとかピットのタイミングまでは我慢して走り続けることを模索することが多いが、あまりに振動が大きくなって危険と判断されると諦めるしかない。


・レッド フラッグ red flag


 レースの中断を意味するフラッグ。赤旗。日欧のレースではレッドフラッグが通知されると全車ホーム ストレート上やピット ロードに移動するが、NASCARの場合クラッシュ車両や破片が散乱していると、トラックの途中であっても停止させられることがある。
 またオーバルでは雨でのレースは行わないため、雨量が増加してレースの続行が困難と判断されるとレッドフラッグとなって全車ピットロードへ誘導される。レッドフラッグ中には一切の作業を行うことはできず、万一作業を行ったとみなされる場合には2周加算のペナルティーなど重い処分が科せられる。
 夏のレースでは、強い日差しの下トラック上でじっと待つこともあるため、場合によってはオフィシャルから水の差し入れが行われるなど柔軟な対応が行われる。ストレート部分でもバンク角の高いトラックでは、単に真っすぐ車を止めると体が左に傾いた状態になってしまうので、少し内側を向けて停車し、左にだけ体がもっていかれないようにすることが多い。


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