NASCAR用語 タ行

           
・タイト tight

 ステアリングを切っても車が曲がりにくい状態。日欧で言うアンダーステア。
 厳密にはハンドリングの原因、解決方などは多種多様であるため一般論になるが、タイトをルース方向へもっていくには、ウエッジは減らす方向、トラック バーは上げる方向にアジャストするとされている。
 高速オーバルでは、タイトの車はインを走ろうとすると旋回速度を大幅に落とす必要に迫られるため、アウト側のラインを取ることが多くなる。


・ダメージ ビークル ポリシー Damage Vehicle Policy
 または
 ダメージ クロック Damage Clock
 
 2017年から導入された車体修理に関する規則。DVCと略称表記されることもある。クラッシュにより車体を破損した場合、修理作業はピット ボックス内のみで行うことができ、その作業時間は総計6分以内でなければならない。(2017年は5分だったが2018年に1分増加した)
 また、作業内容もテープを貼ることや車体を叩くことぐらいで、新たなカウルなどを用意して取り付けることは認められない。この時間は複数回に分けてピットに入った場合でも累積で計算され、レースごとに設定されている規定最低ラップ タイムをクリアできればリセットされて6分に戻る。
 6分を使い切ってなお規定タイムをクリアできなかった場合には、その時点でレース続行が認められずリタイアとなる。ピット内で修理できずガレージに車が送られた場合もその時点で即リタイアだが、クラッシュではなく、メカニカル要因のトラブルの場合にはガレージでの修理が許可される。
 ボロボロの車がコースに復帰して安全性を損なったり、部品をバラまいてコーションを出すことを減らすほか、予算の潤沢なチームが壊れた車を綺麗に直して簡単に復帰してしまうことで、コスト高や不公平を生むことを是正するために設けられた規則である。


・チャーター制度 charter system

 2016年にNASCARとオーナー側が合意して導入された制度で、予選落ちすることなくシーズン全戦への出場することがNASCARから保証される権利のこと。あえて日本で例えるならSUPER GTのシード権制度と似ている。2024年までの制度の継続が決定されている。
 カップ シリーズでは全部で36のチャーターがあり、チャーターを保有しているチームは予選落ちをすることなくレースに出場することが可能となるため、スポンサーとの契約などチームの参戦計画を立てやすくなる。また、具体的金額は非公表だが成績に応じてNASCARから分配金も支払われる。
 チャーターは売買を行うことも可能なほか、5年間につき一度だけ貸し出すこともできる。チャーターを有しないチームは『オープン チーム』と呼ばれ、オープンでもフル参戦やチャンピオンシップを争うことは可能だが、分配金の額は決して小さくないと見られ、継続参戦にはチャーターは必要不可欠と目される。
 現状、上位チームがチャーターを手放すことはほとんどないために、新たに参戦を希望するオーナーは中~小規模チームのオーナーが保有するチャーターの売買、貸し出しに依存するため、いわゆる『売り手市場』となって価格が高騰している。
 取引価格は非公表であるため情報筋による推測だが、チャーターの売買価格は日本円にして5億円を超えるような価格となっており、結果的に新規参入希望者に対する参入障壁となる弊害も生じている。
 NASCARは、3年連続で34~36位の成績になったチャーターがある場合、オーナーからチャーター権をはく奪する権利を有すると規定されているが、2020年段階で実際に剥奪された例は無い。


・チューズ ルール Choose Rule

 リスタートの際に各ドライバーがイン/アウトのどちらのレーンからリスタートするか各自で選ぶことができる規則で2020年途中から採用された。従来はリーダーのみにレーン選択権があり、2位はその反対側、3位以降は 3位=2列目イン、4位=2列目アウト、5位=3列目イン・・・と決まっていた。それ故にリーダーがアウトを選ぶと4位の人が実質3位になったり、イン側が圧倒的に有利なトラックでは2位が異様に不利になったりしていた。
 チューズルールではリスタートの準備が整うとオフィシャルからの指示で各車がレーンを選択することになり、トラック上に描かれたV字のペイント部分を通過するまでにいずれかを選ばなければならない。選びきれずに踏んでしまうとペナルティーで最後尾リスタートとなる。
 1位は当然最も有利と思われるレーンを選ぶが、2位以降は見た目の順位とリスタート後の動きを天秤にかけ、先を読んでレーンを選ぶことになる。極端に片方のレーンが不人気だと、1位からアウト、アウト、アウト、と選んで4位の人がインを選び2位の位置からリスタートするようなこともある。
 ロード コース、スーパー スピードウェイ、ダートではこの規則は適用されず、従来通りリーダーだけにレーン選択権がある。


・テイパード スペーサー tapered spacer

 エンジンに用いられている吸気制限装置のこと。NASCARで使用されているエンジンは本来は900馬力ほどの出力を発揮するが、吸気量を制限してこれより下げて使用している。吸気する前にテイパー=円錐状の穴が開いた金属部品を取り付けることで吸気が制限される。
 2021年現在、1.5マイルを超えるトラックでは約550馬力に、これより短いトラックとロード コースでは750馬力の出力になるよう2種類のスペーサーが使用されている。以前スーパー スピードウェイで用いられていたリストリクター プレートと役割は変わらないが、ラリー マクレイノルズの解説によれば、テイパードスペーサーの方がスロットルの応答性に優れている。
 ただ、スーパースピードウェイでは安全性の問題から結局他の550馬力仕様より僅かに径の小さいものを使用して速度の抑制を図る方向に進んでいるため、実際は3種類の運用となりつつある。
(左)リストリクタープレート
(右)テイパードスペーサー

・テン-フォー 10-4

 無線で度々用いられる単語で、単に『了解』を意味する。原義は警察などの無線で了解の意で使われていた単語。元よりレース中の無線では、音声不良による聞き違い等を防ぐため、極端に短い単語(例えばyesなど)や似た発音の単語(例えばgoとno)は用いないのが鉄則。
 10-4はそれなりの長さがあって聞き取りやすいため好都合と言えるが、単に『なんかカッコいいから』、という面もあると思われる。なお、F1等ではもっぱら『copy』や『understood』を使うことが多い。


・トゥー メニー メン オーバー ザ ウォール too many men over the wall

 直訳すると『壁を超えた男が多すぎる』。ピット作業におけるペナルティーの一種で、作業にあたるクルーの人数が多すぎることに対する違反。
 現在ピット作業でウォールを超えてピット ボックス内で作業できる人数は最大で5人まで(このうち給油作業を行う場合、担当者は専用の安全装備を整え、他の作業を行ってはいけない)と規定されており、これを超過して6人以上が作業すると違反となる。
 かつては、車両の損傷がひどい場合、受けるペナルティーによる損失よりも、素早く車両の修復を行うことによる利益が上回っているため意図的に違反することが多かったが、ダメージビークルポリシーの導入に伴い、故意に人数を増やす行為は制度趣旨や公平性を損なう重罰とみなされるようになったため、最悪の場合失格が言い渡される。
 なお、NASCARの現場にはほぼ男性しかいなかったため『men』の単語が用いられているが、近年は女性の起用が各所で行われるようになってきているため、いずれは『crew members』などの性別を隔てない単語に置き換えられるかもしれない。


・トラックバー trackbar

 リアの車軸の下部に取り付けられているつっかえ棒のようなもの。NASCARの競技車両はリアのサスペンションが一般的な独立懸架ではなく、左右の車輪が車軸で繋がった車軸懸架であることを利用した機構で、バーを上下させることでリアのロール剛性を変化させてハンドリングに変化を与えることができる。

 アジャストはリア ウインドウの右側下部にある穴にレンチを差し込んで回転させることで行い、一般に上げるとルース、下げるとタイト方向にハンドリングが変化するとされている。長らくNASCARの特徴的な構造の1つだったが2022年から使用される新型車両では独立懸架のサスペンションとなったため、2021年限りでこの機構も消滅することになっている。
レンチを入れてネジを回すと

バーがそのぶんだけ動く


・ドラフティング drafting

 日欧で言うスリップストリームに相当する。前方を走る車両の背後に付くと、前の車が壁となって空気抵抗が減少、また、車両の後方が負圧になるために引き込まれる作用も働いて、後続車両の車速が伸びる現象。
 ただ、NASCARにおいては、単にこの作用のみではなく、空気の流れが影響するいくつかの現象を総称した意味合いもあり、リーディング ドラフト、バンプ ドラフト、サイド ドラフト、という関連語句があるのがスリップストリームとは異なっている点と言える。


コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
チャーター制度について一度聞きたいと思っていましたが、なるほどと納得しました。売り手市場になっているという面では、大相撲の親方株(年寄株)みたいなもんですね。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 親方株、比喩に書こうかと思ってあんまり詳しくないので書かなかったんですがその通りだと思いますね。SUPER GTの参戦枠もそうなんですが、こんな世の中でも参加したいという意思のある人が枠の数を上回っているってすごいことだなと思います。
デイルJrのJRモータースポーツも参戦は希望してるけど現実的にチャーターが無くて壁に阻まれているみたいですね。