こちら『世の中で一人ぐらいの役に立つかもしれない』シリーズ、NASCAR観戦の際に知っておくと1.7倍ぐらい楽しくなる(当社調べ)、ついでにSUPER GTなんかの観戦でも知らないよりは知ってる方がお得な『ドラフティング』と『サイド フォース』に関する話題です。元々の記事はもう5年以上前に書いた古いものが土台ですが、ちょうどテレビアニメ・MFゴースト Turn35(第35話)『最強トレイン』の作中で『スリップストリームで前を走る車の最高速が伸びる』という描写があったため、せっかくだからそこも含めてちょいとまた加筆して再投稿しました。
NASCARを見ていると頻繁に登場するドラフティングという言葉ですが、意外とちゃんと理解しきれていない、知られてない部分もあったりするので、そのあたりを素人なりに解説していきます。あくまで素人なので細かい部分はたぶん色々間違いがありますがご勘弁を。〇ドラフティング=スリップストリーム?
まず、ドラフティングという単語、調べるとたいてい『スリップストリームのこと』と書いてあります。

Wikipedia 日本語版ページ ドラフティング と検索した場合のページ
しかし、NASCARにおいてこの答えでは50点ぐらいの回答内容です。NASCARにおいてドラフト、ドラフティング、というのは複数の事象に対して用いられ、どちらかというと『空気の流れが走行中の車両に影響する様々な事象』を現す単語とも言えます。なお英語版のWikipediaで"drafting"と検索した場合には"slipstream"とは別項目で"Drafting(aerodynamics)"という独立したページが存在しています。
・いわゆるドラフティング
まずは『スリップストリーム』という意味でのドラフティングから見て行きましょう。と言っても空気の流れというものは流体力学という大変高度な事象の理解が必要で、一般人の私に正確な現象を説明することはとてもできるものではありません。あくまで概念、とりあえずこう思っておけばよいだろう、という程度の説明ですのでご了承ください。本気で知りたい方は大学レベルの専門的な知識の勉強が必要になるかと思います。
レーシングカーは高速で走っていますから、大きな空気抵抗を受けます。空気抵抗は速度の2乗に比例する、というのが証明されており速度が上がれば上がるほど影響が膨大になります。空気の壁に穴を開ける、なんて表現もしますがレーシングカーはダウンフォースを多く必要とするため、車両の前部から綺麗で速くエネルギーの大きな風を運び込んで、リアのウイング等に集めて強烈にすっ飛ばして下に車を抑えつける力にしてやる必要があります。
レーシングカーは高速で走っていますから、大きな空気抵抗を受けます。空気抵抗は速度の2乗に比例する、というのが証明されており速度が上がれば上がるほど影響が膨大になります。空気の壁に穴を開ける、なんて表現もしますがレーシングカーはダウンフォースを多く必要とするため、車両の前部から綺麗で速くエネルギーの大きな風を運び込んで、リアのウイング等に集めて強烈にすっ飛ばして下に車を抑えつける力にしてやる必要があります。
そうして高エネルギーの空気を跳ね飛ばすとその周辺部では空気の渦が発生、また圧力が周辺より低下します。カルマン渦と呼ばれるやつですね。イメージとしては、車両後部に発生する渦というのは車両の後ろから車の進行を妨げる抵抗の役割を果たしてしまう、と考えるとこの後の話が分かりやすくなる、と思います。そう思いましょう、思うことにして下さい・・・
さて、ここに別の車が後ろから近づくと、空気が跳ね上げられていて抵抗が少ない上に、圧力も車両後方は低い=物体が吸い寄せられる状態なので速度を伸ばすことができます。これがスリップストリーム効果、ドラフティングです。ゲームでも今どきのものならたいてい再現されているでしょう。効き具合のリアルさは別ですけどね。
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| 車両提供:kei-rc-55さん |
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抵抗が減りますから後ろにひっついて走っていれば多少燃費も改善します。ただスリップストリームは良いことばかりではなく、風が当たらないので冷却風が車両に当たりにくくなるほか、直線ならまだしもコーナーだと気流が乱れている上にそもそも当たる風の絶対量が少ないので本来のダウンフォースが発揮されず不安定になります。
F1やスーパーフォーミュラのように絶対速度も必要ダウンフォース量も桁違いのカテゴリーではこれが顕著になり、F1だと『このコースでは前の車から2秒差以内には近づけない』なんてことが言われたりします。グランツーリスモだとこの部分の再現性がそこまで高くないので、スリップに入ると単純に最高速が伸びる分有利になるというパターンが多くなりがちです。感覚としてはGr.2車両ぐらいの速度域からダウンフォース抜けが顕著に感じられるようになってきて、人の後ろを走るのがすごく難しくはなってきますね。
余談ですが、クローズド ボディーの競技車両だとフロントのバンパー角によく『カナード』と呼ぶ小さな部品を数枚装着することが多いと思います。
イメージとしては「上に反った形状をしているから空気が上に跳ね上げられて車を下に抑えつけられるんだろう」と考えると思いますが、実際は最初に風を受けるこの部分で空気に刺激を与えて強力な渦を作り、側面を流れる空気の流れを制御・強化して車体下面や後部でのダウンフォースを獲得する、という役割が主目的のようです。オープン ホイール車両のウイングと比べればカナードなんてちっさい部品なので、これ単体で空気を跳ね上げたぐらいでフロントのダウンフォースがギュン!っと増えはしないわけですね。空力好きの人はこのちっさいヒレ1枚1枚に込められた意図、空気の流れを想像することでご飯3杯ぐらいおかわりできると思います()
と、最もよく知られるスリップストリームとしてのドラフティングの意味合いはここまでですが、NASCARでは他にも色々なものがドラフトという概念で説明されており、これがむしろ大事になってきます。
〇バンプ ドラフト
よく知られているのが『バンプドラフト』です。後ろの車が前の車に追い付いたらそのまま前の車をバンプ、つまり押すことです。本来的な意味合いとしては、デイトナ インターナショナル スピードウェイに代表されるような1周丸々ずっとスロットルを踏みっぱなし開催地・ドラフティング トラックで、先行車両が200mph付近で走行してもう動力性能が空気抵抗に負けてしまってこれ以上加速できません!となったものを、後ろから押してあげて運動エネルギーを分けてあげること、という定義づけになるでしょうか。
〇バンプ ドラフト
よく知られているのが『バンプドラフト』です。後ろの車が前の車に追い付いたらそのまま前の車をバンプ、つまり押すことです。本来的な意味合いとしては、デイトナ インターナショナル スピードウェイに代表されるような1周丸々ずっとスロットルを踏みっぱなし開催地・ドラフティング トラックで、先行車両が200mph付近で走行してもう動力性能が空気抵抗に負けてしまってこれ以上加速できません!となったものを、後ろから押してあげて運動エネルギーを分けてあげること、という定義づけになるでしょうか。
押す→先行車加速→それにドラフティングで付いて行く→押す、
を繰り返し、前の車に速く走ってもらうことで自分も速く走れるようにする技術・事象を指します。何で抜かないのかというと、抜くと自分の前に人がいなくった瞬間から空気の壁に当たって同じ運命をたどるからです。そこで後ろから誰かついてきて押してくれれば今度は自分が先頭の立場になれますが、もし誰も来なかったら最悪の場合自分の後ろにいた数十台全員に抜かれます。
バンプ自体はどこのオーバルでも起こますしリスタートの時なんてみんなゴッツンゴッツン押しますが、これはあくまで一時的に前の人を押すことで詰まることを避ける、とにかくいっしょに前に出る、ということが主題。押して相手を加速させてその加速した相手の後ろに付くことで自分もさらに加速して、という連鎖をするわけではないので、ついついバンプドラフトと言いがちですがバンプしててもドラフトはしてないので別物と考えた方が良いです。
〇リーディング ドラフト
バンプドラフトとよく誤解されがちなのがこのリーディングドラフト、Wikipedia日本語版では『バックスリップ』として紹介されています。後続の車両がドラフティングから接近して車間距離が限りなく近づいた際に起こる現象で、ピッタリと後ろの車がくっついたことで先行車の後方にできるはずの渦が無くなって綺麗に空気が流れ、前を走る車の空気抵抗が減って速くなる、という現象です。ものすごくザックリ言えば2台が大きな1台の車の塊になったように空気が流れるわけですね。MFゴーストで登場した『最強トレイン』がこれですが、実際問題作中の表現が原理的にどうなのかという話はある程度解説した後に書きます。
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また、空気の渦といういくらかは力を持った部分が後方車両の接近時に圧縮されたようになるので、丸いゴムボールを押しつぶしたような状態になって反発力が生じ『空気の塊に後ろから押してもらう』ような現象も起こります。
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| 後ろにできた乱れた気流の部分が |
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| 車の接近に伴って押しつぶされて反発力を生む |
車が集まってみんなで長い1台の車のようにして綺麗に空気を流し抵抗を少なく走るので、抵抗が減る→先頭の人が速い→ドラフティングで付いて行く→そっちの隊列が速い→参加者が増える→抵抗が減る、の好循環ができます。投資で言うところの順張りの考え方で、勝ち馬に乗ってみんなが集まるからますますそこが勝ち馬になる、という連鎖になります。そして最後は誰かが蹴落とされます(。∀゜)
とはいっても、車が離れたらその瞬間にカルマン渦は復活して抵抗になりますから先頭車両は自分だけが逃げることは不可能ですし、前の車に引っ張ってもらうのと比べればリーディングドラフトはそれほど効果も大きくありません。この現象単体は意識して使うというものではなくあくまで副次的な効果、概念として大まかに理解しておく存在かなと思います。また、リーディングドラフトが効いてる時はスポイラー(ウイング)の効果も薄れてしまってリアのダウンフォースがかなり減ってしまうので、油断するとスピンしやすくなるので注意です。
グランツーリスモ5では山内プロデューサーがこの状況を再現しようと挙動プログラミングを試みたため、真後ろに車がいる時にステアリングを切ったらいきなり後ろのグリップが無くなってパンクでもしたのかと思うぐらい一瞬でスピンする挙動がありました。でも一切説明されていないので全然意味が分からず、私もリプレイを見てずっと首をかしげていました(笑)
なお、一時期F1で流行ったFダクトという装置、ウイングに本来とは別の風をちょろっと当ててウイングの機能を低下させ最高速を伸ばすというカラクリでしたが、これも車両後部の空気の渦を消して抵抗を減らすためのカラクリ装置だったので、理屈としてはちょっとリーディングドラフトと似ています。リーディングドラフトを自分1人で発生させる装置、みたいな感じでしょうか。
〇タンデム ドラフト
言うなれば上記2つを合体させたのがタンデムドラフトです。2020年のブッシュ クラッシュでデニー ハムリンが最後にエリック ジョーンズをアシストして優勝しましたが、あれもタンデムドラフトと捉えて良いと思います。
なお、一時期F1で流行ったFダクトという装置、ウイングに本来とは別の風をちょろっと当ててウイングの機能を低下させ最高速を伸ばすというカラクリでしたが、これも車両後部の空気の渦を消して抵抗を減らすためのカラクリ装置だったので、理屈としてはちょっとリーディングドラフトと似ています。リーディングドラフトを自分1人で発生させる装置、みたいな感じでしょうか。
〇タンデム ドラフト
言うなれば上記2つを合体させたのがタンデムドラフトです。2020年のブッシュ クラッシュでデニー ハムリンが最後にエリック ジョーンズをアシストして優勝しましたが、あれもタンデムドラフトと捉えて良いと思います。
後ろの車がびっちりと背後について、コース全域で延々と押し続けるがタンデムドラフト。英語版Wikipediaによれば元々カイル ブッシュが2007年のタラデガのテストで”発見”。2011年にデイトナの再舗装が行われてグリップ力が向上し、それまでは押された状態だとスロットルを戻さなければ危なかったターン部分を全開で走れるようになったので、タンデムがものすごい速さを見せるようになりました。するとみんなこぞって真似するようになっていきます。
このレース、結局トレバー ベインがデイトナ500初出場、史上最年少でいきなり優勝するという結末を迎えますが、ベインは新しい概念に基づいてただ押されてたら勝った、というような感じでした。タンデムドラフトが有効だと分かるとみんなこぞって真似をし始めるので、『長い隊列の車が走るド迫力のレース』が売りだったはずのスーパースピードウェイが、なんと『2台1セットの車がコース上にバラバラに配置されるレース』になるという想定外の事態に陥ってしまいました。俗に『ニコイチレース時代』と呼んでいます(笑)
| 意味を理解しないと何が起きているか分からなかった 『ニコイチ』レース 2011年のタラデガより |
ここまで読んで理解できた方ならお分かりかと思いますが、タンデムドラフトというのは要素を分解すればバンプドラフトとリーディングドラフトのある意味究極の合わせ技です。しかしこんなニコイチレースは格好悪すぎるのでNASCARは慌てて規則を変更し、変形しやすいフェンダー、小さいラジエター、ドライバー同士の直接の無線交信の禁止、などの策でタンデムの旨味を排除しにかかりました。
こうした施策によって現在のレースでタンデムは常用しないしできないですが、バンプドラフトもリーディングドラフトも効き目があるわけですからタンデム走行そのものの効果が失われる、なんてことはありません。エンジンの冷却ができなくなるので持続時間は1~2周程度になってしまいますが、勝負所で上手くハマればむっちゃ速いです。でも押す側が斜め後ろから押してしまったり、前の人が姿勢を乱したりするとクラッシュして全く意味がありませんし、押している人も最後のどこかの段階では裏切って前に出たいので腹の探り合いもあります。勝負どころのタンデムドラフトはそうと分かって見ると非常に見ごたえがあります。
〇サイド ドラフト
そして、最も今のレースで出番も威力も大きいのがこのサイドドラフト。日本のドライバーも『サイド スリップ』と呼んでいるようで、最近はGT500クラスの何人かの選手が富士スピードウェイのレースで有効活用している姿を目にするようになってきました。これは名前の通り車両の側面で働く空気の力の作用です。車体の周辺を流れている空気、通常はざっくり言えば正面から受けたやつはボンネット、屋根、ウイングを通って情報へ跳ね上げられ、側面のやつは車体側面を通過していきますが、
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| 上の空気は上を、横の空気は横を流れる |
ここで斜め後方から車が近寄ってくると、側面の空気の流れが乱されて後ろへ流れるはずの空気が経路を捻じ曲げられてスポイラーへと運ばれてしまい、結果空気抵抗が増えてしまいます。これを利用するのがサイドドラフトです。
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かつてFOXの解説者・ジェフ ゴードンは「dumping the air to the rear spoiler」(空気をリア スポイラーに浴びせています)といった表現を時々使っていました。サイドドラフトというのは一般的な『後ろの車が速くなる』というイメージのドラフティングとは全く逆で『相手の車を遅くする』もの。相手の斜め後ろから近づいてスポイラーにいらない空気を浴びせてやることで、相手の空気抵抗を増やし加速を鈍らせることで相対的に自分が速くなって追い抜く、という高速トラックでは今や必須の技術です。前方の車に対して「おい待たんかいコラア」と窓から手を出してスポイラーを掴んで邪魔してると考えると、見えていない空気の流れが概念としてつかめてきます。
抜いた後はできるだけすぐ相手から離れないと、今度は位置関係が逆になって自分がサイドドラフトを食らってしまい結局2台とも失速することになります。先ほども書いた通りSUPER GTでも直線の長い富士スピードウェイだと結構威力があり、2019年の富士500マイルの映像は分かりやすいです。
14秒あたりからの映像。前方の2台がサイドドラフトを使い合って失速し、後の車が簡単に抜いているのが良く分かる映像です。またこちらの動画の49秒~も似たようなシーンです。
ただ日本の放送コメンタリーはサイドドラフトをあまり知らないので、「いやー〇〇はストレート伸びますね~」という解説になってしまいます。実際は直線が伸びてるんじゃなくて前を走る車が空気の力に足を引っ張られて引きずり落されているわけで、これは知っていると見た時の印象が大きく変わります。
14秒あたりからの映像。前方の2台がサイドドラフトを使い合って失速し、後の車が簡単に抜いているのが良く分かる映像です。またこちらの動画の49秒~も似たようなシーンです。
ただ日本の放送コメンタリーはサイドドラフトをあまり知らないので、「いやー〇〇はストレート伸びますね~」という解説になってしまいます。実際は直線が伸びてるんじゃなくて前を走る車が空気の力に足を引っ張られて引きずり落されているわけで、これは知っていると見た時の印象が大きく変わります。
たとえばGT300でちょっと直線の遅い車や、GT500で最大燃料流量が絞られていて出力が落ちている車はこれを使うと上手く抜ける場合があり、富士で言えば最終コーナーであえてがら空きの内側に飛び込んで一旦先行。普通に考えたら直線が遅い上に立ち上がりが遅れるライン取りなので抜き返されて無駄な時間になりますが、相手が加速して横に並んできて抜き返されるタイミングで上手いこと斜め後ろに車を寄せると、場合によってはサイドドラフトが効いてそこで急に加速が鈍ります。上手く行ったら直線の最後まで並んだり、最高速では劣っている車のはずなのに抜き返すようなことも起きます。実際au TOM'S GR Supraは出力が下がってる車なのにこれで何台も抜いてました。
DTMでもレッド ブル リンクのレースで、ターン3~ターン4の直線でDRSを使って追い抜いたはずの車に対して抜かれかけた車がサイドドラフトを仕掛け、ターン4のブレーキングまでサイドドラフトを浴びせてそれ以上先行させずブレーキング競争で抑え切った、というものすごい場面がありました。なんとDRSはサイドドラフトでほぼ無力化できたのです。さすがにオープンホイールだとそんな距離に近寄れないのでまずお目にかかれないですが、箱型の車だと速度域次第では起こる現象です。
・MFゴーストの描写は実際どうなのか
ここでMFゴーストの話題に戻りますが、結論から言えばリーディングドラフトは現実的にほとんど起きないと思いますので、あくまでファンタジーの世界のお話でしょう。作中では貰い事故で出遅れて順位を挽回したいという展開でベッケンバウアーが目の前にいるカナタをあえて抜かずに適切な距離を保って走り、それに気づいたカナタが「ベッケンバウアーが絶妙な距離でスリップストリームに入っているから自分の86も最高速が伸びる」と利益を受けて2人セットで順位を上げて行きます。
ですが、上記の通りリーディングドラフトが起きるのはかなりの接近が必要で、そもそも車両後方に大きなカルマン渦が出来るぐらいの速度域か空気抵抗が必要です。MFGの車両が実際にどの程度の速度で走っているのかは分かりませんが、市販車改造程度の外観ですし最高速はけっこう伸びてても平均速度域はそこまで高くないはずです。ましてやカナタの86は前面投影面積も小さいし、このレースからかなりお金のかかってそうなウイングが追加されて彼もその効果を感じてはいましたが、リーディングドラフトが起きるほどの抵抗があるなら単独走行でむっちゃ空気抵抗が多いはずなのでそこまでではないと思います。
また、舞台となるシーサイドダブルレーンというコースは海側は高速区間だとされていますが高速で左右に曲がっていてきちんとした直線はそんなにありません。適度に減速もしてるでしょうからずっと真後ろに張り付いているのは現実的ではなく、仮にそうだったとするとカナタの86はコーナー入り口でダウンフォースが抜けてすっ飛ぶか、ベッケンバウアーのフロントのダウンフォースが抜けてドアンダーを出すでしょう。
コーナーのたびに一旦距離をきちんと取って影響のない箇所だけまた追いついてる、というにはちょっと個々の直線が短いし話にだいぶ無理があります。たぶんそんな面倒なことをするより、ベッケンバウアーがカナタをコツコツと適切に押して空気の力なんて借りず物理的に押した方がたぶん手っ取り早いと思います^^;
それに、狭い2車線の高速区間で抜きにかかったら抜いてる途中からどうしても相手からのサイドドラフトが効いてしまって避けれないので、カナタ&ベッケンバウアーまではともかくとして、この2人の後ろに便乗してくっ付いて行ったヤジキタ兄妹の望ちゃんはサイドドラフトを食らって抜き切れずに足止めを食らった可能性があります。
よくある架空世界の話をリアル概念で語る感じの話をしてみましたが、MFゴーストのアニメーションは頭文字Dのアニメ 5thステージあたりのようにわりと作り込んだ車両挙動では描かれておらず、けっこう加減速も荷重移動も無く物理法則を無視したような曲がり方をしているので、物理世界を超越して走ってると思った方が手っ取り早そうです(笑)というわけで特に面白味も何もない考察でした、ちゃんちゃん♪リーディングドラフトという現象が存在すること自体は事実なので、その点では面白い描写を持ってきたなとは思いました。
さて話を本筋に戻します。ここまで書いてきたように、ドラフティングといってもNASCARではこうした空気の流れが生み出す様々な現象たち全てに対して用いられる表現なので『ドラフティング=スリップストリーム』は全てを網羅できていない50点の回答になる、という最初の話になるわけです。少しでも観戦の参考になれば幸いです。
そしてもう1つ、サイドフォースという概念もNASCARでは重要です。名前の通り横方向での力の作用、もちろん空気の流れに関するものでサイドドラフトも広義的にはサイドフォースの一種と捉えることができます。サイドフォースには大きく2つの意味合いがあります。
〇サイド フォース(壁)
サイドフォースという単語はサイドドラフト以上にあまり出てこないものですが、現役時代によく大外ラインを好んで走っていたデイル アーンハート ジュニアが解説をしていました。現在の選手の中でも特に大外ラインを走ることを好むミスター壁走り・カイル ラーソンの走りについてのものでした。
壁ギリギリの大外を走るミニ四駆みたいな走り、ダート出身の選手の方が得意だと聞きますが実際にやる人は少ないです。理由は単純に壁に近くて危ない、制御が難しい、他の人が走ってないから路面が汚れてる、など色々ですが、そもそも大外だけ走ってなぜ速いのかという理由の1つにサイドフォースがあります。
もちろん大きな理由としてダーリントン、ホームステッドのようなトラックでは『大外のバンク角が内側に比べて非常に大きく付けられていて理論上速いラインである』というのがあるんですが、ジュニアさんの解説によれば壁ギリギリを高速走行すると、車体と壁に挟まれた空間の空気の流れによって壁が車両を押し返すような力が働き、旋回を助けてくれるんだそうです。車が通過すると周囲にはすんごい風圧が来ますので、これが壁に当たると押し返される、という話でしょう。新幹線に乗ってて対向列車とすれ違うとすごい風圧で脱線したんじゃないかぐらい横に車両がズレるのを感じますが、ああいうイメージだと思います。
もし道が真っすぐで、車体も綺麗に空気を流す形状をしていたら壁側の流速が反対側より速くなって車両はむしろ壁に吸い寄せられると思いますが、実際はそんなことは無いので壁側から押し返され、壁に当たらないよう見えないアシストをしてくれます。外を走ると理論上速いトラックで、単体で車両が持っている旋回性能に壁からの空気の力による押し返しというやってみないと分からない見えない力も手懐けられるとむっちゃ速い、ということなんでしょう。でも実際にそれをやるのは極めて難しいので、ほとんどの選手は壁から離れてしまうわけですね。
ただ、当然ながらサイドフォースは壁との距離感によって連続的に変動し続けます。そして、前方に車がいれば空気の流れもまた変化してしまうので、安定して走らせるのは大変なこと、ちょっとした失敗で
壁にこすります。ラーソンの大外走りは非常に魅力的ですが、安定して結果を出すには向かない走りです。ドライバーによってはレースの最後の勝負所、あるいはこのままではどのみち勝負権がない、というタイミングでギャンブル的に大外走りを繰り出す人もいますね。
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| 壁との間に見えない反発力が生まれる |
もし道が真っすぐで、車体も綺麗に空気を流す形状をしていたら壁側の流速が反対側より速くなって車両はむしろ壁に吸い寄せられると思いますが、実際はそんなことは無いので壁側から押し返され、壁に当たらないよう見えないアシストをしてくれます。外を走ると理論上速いトラックで、単体で車両が持っている旋回性能に壁からの空気の力による押し返しというやってみないと分からない見えない力も手懐けられるとむっちゃ速い、ということなんでしょう。でも実際にそれをやるのは極めて難しいので、ほとんどの選手は壁から離れてしまうわけですね。
ただ、当然ながらサイドフォースは壁との距離感によって連続的に変動し続けます。そして、前方に車がいれば空気の流れもまた変化してしまうので、安定して走らせるのは大変なこと、ちょっとした失敗で
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サイドドラフトについても、相手にグーっと近づいて相手に空気を浴びせたあとに瞬時に離れると、相手との間に発生したサイドフォースで反発力が生まれるので僅かながら加速を助けてくれることがあるようです。相手の車はそのせいでますます失速するので、相手に蹴りを浴びせたようなもんですね。ちなみに接近して並走している車両がお互いに小刻みに左右に動いたりやたらと車体をこすり合わせたりすることがSUPER GTでもありますが、これもサイドフォースの影響で車が吸い寄せられたり反発して飛ばされたりして真っ直ぐ走れないためと思われます。
〇サイドフォース(車両)
そして、オートスポーツNo.1525で知ったのが車両側でのサイドフォースの概念。車体下面を流れる空気を上側より速くするとベンチュリー効果ですごいダウンフォースが発生して路面に吸い付く、というグラウンドエフェクトというのがありますが、サイドフォースはこれの側面バージョンです。オーバルでは車は左にしか曲がりませんから、車体左側の空気の流速を右側より速くなるように設計してやれば左側の圧力が低くなって左へ自然と回ろうとする、というものです。

NASCARは現在カップ シリーズ、オライリー オート パーツ シリーズとも車体が頑丈なカーボン製、かつレーザーによる計測で車検が行われていますが、以前は定規を組み合わせたようなものを車体に当てて測るテンプレートと呼ばれるものを使っていました。テンプレートで測られる部分、規則で形状が定められている部分以外には一定の自由度が残ったため、これを活用しようと考えた人たちが車体に施した細工が『側面の形状を左右で微妙に変える』というもの。『バナナ カー』という俗称が付いているそうですが、真上から見た場合に極端な書き方をすると

こんな風に左側が膨らみ、右側はへこんでいます。かつてピット作業時にクルーが偶然を装って車体右側に体当たりを仕掛けて変形させた場面がありましたが、真っ直ぐな車体で車検を通過しながらも『たまたま不運にもレース中に車体が曲がってしまった』ということにしてバナナカーを作り、サイドフォースを生んで旋回速度を上げる戦略だったと思われます。
冗談抜きに、レース中の接触で車体を損傷してしまったらむしろサイドフォースが増えて車が速くなる、ということは稀に発生していると考えられています。2021年のカップシリーズ最終戦では追突されたラーソンの右後部のフェンダーが外側に向かって曲がってしまい、ちょうどウイングのような機能を果たして速くなったのではないか、と中継の際に話題になりました。何年の誰だったか忘れましたがオライリーシリーズの最終戦でも『調子が悪かったけどミスってぶつけたら急に良くなった』というのがありました。ぶつけて速くなった車でなんとチャンピオン獲得です。
全国シリーズの中でクラフツマン トラック シリーズだけは未だに鉄製ボディーとテンプレート計測なので、職人さんが規則の範囲内で丁寧に板金作業で曲げているそうです。レーザー計測ではこういった大らかな『改造』はなかなか通らないし、そもそもカーボン製パーツは加工が困難なんですがオートスポーツ誌の記事では
レーザー計測には当然誤差や許容範囲があるはずで、その範囲をNASCARは自ら言わない(言ったらその範囲までOKと考えてみんな狙うから)から、探りに行くはずだ、
レーザー計測には当然誤差や許容範囲があるはずで、その範囲をNASCARは自ら言わない(言ったらその範囲までOKと考えてみんな狙うから)から、探りに行くはずだ、
と書かれています。つまり、よく起こっている車体規則違反の中にはチームがわざとちょっと違反したレベルを狙い「このぐらいなら加工しても良いかな、あちゃー、通らんかったか(´・ω・`)」といった駆け引きが行われている可能性はありそうです。
NASCARと空力というのはすごく縁遠い印象を持たれがちですが、実際は『空力部品』を作るという要素が無いだけであって『空気力学』を最大限に理解し、活用して戦うレースであるということが薄らぼんやりと分かるだけでもずいぶんと見方が変わってきます。見えない空気がモノを言いすぎてしまうレースが良いか悪いかというのは別の問題ですが、高速で物体が動いている限り避けては通れない要素なので知っておいて損はありませんし、知ってた方が絶対面白いです。というわけで、今回は過去にも書いた内容に新ネタを追加してお送りしました。
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