FE 第13戦 ロンドン

ABB Formula Heineken E London E-Prix
ExCel London Cuircuit 2.25km
45minutes+1Lap
winner:Alexsander Lynn(Mahindra Racing/Mahindra M7 Electro)

 FE第13戦、2戦連続でのロンドンです。お天気は前日に続いてイギリスらしい曇り空。予選から天候は微妙に影響を与えます。
 雨が時々降ってくるので、チームとしては降らないうちにさっさとアタックしてしまうべきか、いつも通り1周のウォーム アップを挟むべきか迷いが生じてしまい、ニック キャシディーは思い切ってアウト→アタックと行ったところ大外れ、18位に沈みます。結局タイムに影響するほどの雨は降りませんでした。
 PPはストフェル バンドーン、2位にオリバー ローランド、3位アレクサンダー リン。リンはグループ予選では最速で、前日のPPに続いて2戦連続での予選上位となりました。そして最大の出来事は選手権4位で予選グループ1にいるニック デ フリースがグループ予選6位でスーパー ポールへ進出、4位となったこと。選手権で一気にトップに立つ大きな機会を得ました。開幕から好調すぎてシーズン中盤に存在感が薄かったメルセデスが復活です。
PPを獲得したバンドーン


 決勝前のグリッド紹介では1台ずつスポットでライトを当てるはずが何かうまくいかずにやめてしまい、しかもBGMも早々にスタート用BGMに切り替わってなんだかグダグダ。そして見ている側は雨が降っているのか天気が気になるのに外の様子が一切映らないのでどうなってるんだかよく分かりません、わざとか?わざと見せずに始まってのお楽しみにしてるのか!?

 スタート、上位勢は綺麗にスタートを決めますが中団はターン2から3ワイドになっていて接触音が聞こえます。その中でアレクサンダー シムズが2日連続で接触により車を壊したらしく脱落。エドアルド モルターラは車がすぐにスタートできずちゃんと走っている中ではぶっちぎりのビリとなってしまいました。

 3周目、映像が一瞬途切れてしまって見れてない間にデフリースがターン10でリンの内側に飛び込んで3位へ浮上。さらに翌周にローランドが上位勢で最初にアタック モードに入ったので見た目上2位に浮上します。この動きを見て翌周にバンドーンとデフリースもアタックモード。これでローランドは2位に戻りますが、1周丸々通常モードのデフリースに抑えられてバンドーンとの差は2周前より広がってしまいました。
 
 開始9分、ターン10でブロックしてるレネ ラストの位置側に無理やりセバスチャン ブエミがこじ開けに来て追突。弾かれたラストはブエミと外側の壁に相次いで当たってサスペンションが壊れ、切り返しのターン11でブエミにまとわりつくように接触。ラストはぶつかりまくってカウルがぐっちゃぐちゃになり、どう見ても邪魔なところに止まったのでSC導入となりました。ブエミには10秒停止の重罰。


 幸い撤収は早くSCは1周で退出、残り33分でリスタートとなります。エナジー削減は3kWh=約6%。SC前にアタックモードを使っていた上位3台は残り時間が少なくなっており、ローランドはリスタートして2周目に時間切れ。これを受けてデフリースはすぐさま狙いを定め、ターン10に入るより前に並びかけてかわしていきました。これでメルセデスが1-2体制。

 残り29分30秒、バンドーンは1回目のアタックモードを終えたらすぐ2回目に入る作戦。一旦デフリースが前に出ますがすぐに翌周のターン1で抜き返してリードを奪還します。するとその直後、ターン1でアントニオ フェリックス ダ コスタが真っすぐバリアに突っ込んでしまいました。アンドレ ロッテラーと争っていてストレート上で壁に挟まれたことが原因でした。
 ストレートでロッテラーは内側に振ってブロックする意思を示しましたが、ダコスタは外から、と見せかけてフェイントでちょうど1台分空いていた内側へ車を滑り込ませました。が、ロッテラーはさらに寄せたのでダコスタが挟まれました。見えてなかった上に、直線に対してびみょーに左方向に斜向して走っていたため、ダコスタが入ったら挟まれた模様。ロッテラーにはドライブスルーのペナルティー。


 またSCが出るか、という状態の中でデフリースは2回目のアタックモード。これでローランドに抜かれてふたたび3位となり、この後にSCが導入されました。デフリース的には無駄打ちなのか、隊列が詰まって使い時が無くなることを考えたら消化しておいて正解なのか、この段階では答えが分からない状況です。今日もアタックモードは8分×2回なので、あんまり機会を探してると消化し損ねる危険性があります。

 そしてSC中にこのレースを左右する大事件が起きました。8位にいたルーカス ディ グラッシがピットに入り、自分のピットに立ち寄るような様子を見せてそのままレーンを通過。そしてコースに戻り、トップに立ちました(。∀°)
 昨年のベルリンでも、FCY中に数台がピットを通過。レイアウト上距離が短いのでピットを通った方が速い、という裏技で、この時はピットの制限速度を急きょ35km/hに下げる突貫工事で穴を塞ぎましたが、なんだか規則に穴が残っていたようです。早速審議になります。

 なんとなく釈然としない中残り22分でリスタート。たぶん走っている側も釈然としないのは同じだったと思いますが、そんな戸惑いの空気の中ターン10で3位のローランドがブレーキで完全にミスってバンドーンへミサイル発射。ローランドは自爆、バンドーンも入賞圏外まで転落しました。ローランドには5秒ペナルティー、え、あれドライブスルーでよくないすか。。。なおSCによるエナジー削減は5kWhで本日合計8kWhの削減です。


 もう何が何だか分かりませんが、ディグラッシは2回目のアタックモードに入ってデフリースがリーダー。ただデフリースのアタックモードはもうすぐ終わり、ディグラッシは5分以上長く使うことができるため、残り17分でディグラッシがデフリースを抜いてトップへ。さらにディグラッシと同じタイミングでアタックモードを使っていたリンもデフリースに迫ります。ディグラッシが万一アウトならこれが優勝争いです。

 残り16分、ファンブーストとアタックモードの合わせ技でリンがデフリースをかわし2位へ。ディグラッシを追うべきか、ペナルティーに賭けてマネージメントすべきか悩みますね。

 残り8分、ディグラッシにドライブスルーの裁定。しかしディグラッシはピットに入らずステイ アウト。チーム代表のアラン マクニッシュが全力疾走でコントロール タワーへ向かっているようで抗議をするつもりのようです。いずれにせよこれでリンが実質的なリーダーとなります。一方バンドーンは何がどうなったのかダメージが進行してもう車が無茶苦茶。フェンダーがもげてヘイローに引っかかってます。このレース15位で終えました。


 おそらくモータースポーツ史上でも極めて稀な『チーム代表が全力疾走する姿をカメラが並走して全力疾走で追いかける』という場面が捉えられて見ていて爆笑ですが、現場は笑っていられません。
 コース上も今日は接触事故だらけでフェンダーがあっちこっちに落っこちていますが、残り1分45秒、11位のサム バードがちょっと無理したかターン10でノーマン ナトのインにバンザイダイブ。ナトが「ここは入るとこじゃねんだよお!」とばかりに閉めたらバードは内側のバリアにぶつかり2台ともクラッシュ。道を塞いでしまってこれでレースが終わり、かと思ったら、あっという間に綺麗に消え去ってレース続行。どうやってあれを回収したんだ!?

 最終周、ディグラッシはペナルティーを無視して走り続けていてとうとう黒旗を出されました。一応優勝っぽくディグラッシが最初にチェッカーを受けますが、失格ですので当然無意味。優勝はリン、念願のフォーミュラE初優勝です。マヒンドラとしても2018/19シーズン第2戦のマラケシュで優勝して以来久々の優勝となりました。レース コントロールも混乱してるのか、一旦ディグラッシの結果を普通にタイム加算して8位にしてました。おいおい、、、

 チーム代表のビバンd、、、ディルバク ギルも大喜びです。

 ロンドンの2日間で44点を稼いだリンは選手権で17点差の6位に浮上。ギリギリ予選グループ1になってしまったのでむしろベルリンでの逆転には難しい位置ではありますが大活躍の週末でした。前日の決勝ではペースの維持に苦しんでいたようですが、きっちりと修正してきた印象です。
 そして2位になったデフリースが2戦連続2位となって選手権でトップに躍り出ました。3位のミッチ エバンスが15点貰って選手権では20点差の8位。4位に入ったロビン フラインスが6点差で2位となっています。エバンスは途中でアタックモードに入り損ねる凡ミスをしましたがなんとか3位を維持。ミスが無くても2位は無理そうだったので結果的には損害は無さそうでした。

 選手権で言えば、トップから少し離されてしまいましたが予選でグループ2に入って上位を狙える可能性のある面々にキャシディー、ラスト、エバンスといったあたりが並びデフリースからは20点ほどの差。デフリースがベルリンの1戦目で苦戦すると仮定して、彼らはそこで大量点を得ると最終戦は1点を争う勝負となりそうです。

 そしてディグラッシ、競技規則ではSC/FCY中のピットに関しては『ピットで一旦停止するのであれば許可』とされています。単に通過だけして近道で得することをさせず、あくまでタイヤ交換などトラブルがあった人のために完全閉鎖はしないという意味合いで文言が整えられたと思います。
 しかし今回、SCの速度がピットの速度制限である50km/hを下回る非常に遅い速度でした。重機が入らないといけなかったので作業を助けるためだったと思いますが、アウディー陣営はこれを見て作戦に出ました。
 ディグラッシはボックス内で減速はしたものの、ちょうどカメラの死角で映像では見辛く中継映像では判別不能。マクニッシュの説明によると車両のデータはレースを終えて車が戻ってくるまで提出・解析ができないので、その場で自分たちの正当性は主張できないとのことでした。で、フォーミュラEのTwitter公式に、その際のディグラッシの映像がアップされていました。未公開映像というやつです、チーム側の撮影でしょうかね。


 止まろうとはしてるけどタイヤは回ってますね。仮にきちんと停止していれば規則上は合法で順位を上げてコースに戻ることが可能で『作戦は見事だったがやり方がまずかった』というのがチーム側としての捉え方だとレース後のマクニッシュのコメントから受け止められます。ただ、良し悪しは置いといて、言葉は安っぽいですがセコイやり方だったのは確かです。

 思い返せば、このチームはおよそ1年前、ダニエル アプトがバーチャル レースで『替え玉』を参加させたことに対して解雇という処分を言い渡しました。その際に出した声明の和訳は以下の通りでした。

「誠実さ、透明性、ルールへの一貫したコンプライアンスの厳守は、アウディにとって最優先事項にあたる。私たちは間違いを容認するという文化を支持しているが『レース・アット・ホーム』での出来事は単なるミスというものではなく、ルールに違反するという意図的なものだった。私たちにとってそれは大きな違いだ。」

 確かに、ちゃんと止まらなかったという一点が失敗だっただけで規則上は『見事な作戦』だったので、チームとしては法令順守の原則は守ったということにはなるでしょうし、マクニッシュはFIAの決定を受け入れるとしましたが、はたして誠実さ、透明性はあったでしょうか。個人的にはそもそも『法令順守=法律に書いて無いことは何でもやって良い』と考える企業というのは信用しません。
 バーチャルレースに詳細な競技規則がどう設定されていたか分かりませんが、具体的に文言で『替え玉禁止』と書いてあったんでしょうか。書いて無かったのなら、アプトの一件とこれには大差が無いようにも思います。
 元々フォルクス ワーゲン グループはいわゆる排ガス不正問題でズルい会社だという悪い印象がついていると思いますが、レース活動はブランドの広報活動であり、悪いイメージをわざわざつけて勝つことがチームとして求められていることなのかも疑問です。
 今季限りで撤退することになるので、レース現場の人たちとすればなんとか結果を出して、自分たちが来年以降もメーカー内で何かしらの活動に携わって生活できるようにしなければならない、という心理もあったのかもしれませんし、レース屋さんはどうやっても勝ちたいものですが、メーカーの顔に泥を塗ってしまっては逆効果。
 競技としての良し悪し以前の話として、ああ、アウディーっていきなりやめるし、インチキするし、自分勝手な会社だな、と思われてしまっては参加している意味がないので、そういった点でも自制すべきだったように思います。仮にきちんと制止して作戦に成功、優勝していたとしても、結果以上に評判を下げたように思います。

 一方で、去年既に実例があってピット通過で順位を上げられる事例があることが分かっていたにも関わらず、その週末だけの一時的な規則設定だけで競技規則をいじらなかったフォーミュラEとFIAも情けないと思いました。
 レース後にFIAは「今後こうした抜け穴が起きないようにする」と言ったみたいですが、優勝争いで大事になるまで手をつけない、というのはリスク管理としては失敗の部類です。詳細に文言に落とし込めない難しい問題というほどでもなく、『ズルを防ぐために、悪いけど特殊な事情でやむを得ずピットに入るしか無かった人は諦めて最後尾からリスタートしてね』とすれば良いだけだと思うので、何でまだ穴が残ってるんだ、というのが正直な感想ですね。

 優勝者よりも失格になった人が目立ってしまいましたが、次戦はいよいよ最終ラウンド、ベルリンでの2連戦です。


コメント

okayplayer さんの投稿…
今回のレースで1番ビックリしたのは、最後の事故車撤去の速さでした笑
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん

 映像を確認したら1分15秒後には既に撤去が終わってましたね。画面左奥に撤収されたんだと思いますが、2台で絡まってたものをどうやってそんな短時間で動かしたのか謎です。自走可能だったのならそれはそれで車が異様に頑丈でけっこうおそろしいと思います 笑
首跡 さんのコメント…
今回のレース、アウディとしては散々な結果になってしまいましたね。
(ディグラッシの件はアウディにも責任ありですが…)
ラストのチャンピオン争いはちょっと厳しいかも。
あと「マクニッシュが全力疾走する姿をカメラが並走して追いかける場面」を見たとき、
「ボイヤーがゴードンの元へ全力疾走する姿をカメラが追いかける場面」を思い出して笑ってしまいましたw
SCfromLA さんの投稿…
>首跡さん

 これですねw
https://youtu.be/GQjk1KPDFAE
改めて見たらボイヤーが強引にエイプロンに突っ込んでレーシングラインのゴードンの鼻先に絡んでるんだからゴードンはどうしようもないしボイヤーの自爆にしか見えないんですが^^;
ラストが注目だと言ったとたんグダグダになってしまって、HAGENOTEが発動したようでとりあえずラストに謝っときますw