F1 第10戦 イギリス

Formula 1 Pirelli British Grand Prix 2021
SilverStone Circuit 5.891km×52Lap=306.198km
winner:Lewis Hamilton(Mercedes-AMG Petronas F1 Team/Mercedes-AMG F1 W12 E Performance) 


 F1第10戦イギリス。このレースでは運営さんが今年に入ってから急に通した方針により『スプリント予選』というものが導入されることになりました。通常のレースと異なり、金曜日にフリー走行と予選、土曜日にまたフリー走行と約100kmの距離のスプリント予選、そして日曜日に決勝、という流れです。F1史上でいわゆる予選レースが行われるのは初めてとなります。今回のレース以降は全てこれに置き換わるのではなく、イギリスを含め3戦での導入を予定しており実験的な意味合いがかなり大きいです。

 金曜日、フリー走行を経て予選へ。3ラウンド制なのは同じですがタイヤはソフトを5セット(うちQ3用1セット)のみの供給で、スプリント予選/決勝に対するスタート使用タイヤの義務というものがありません。
 また、車両のセッティング変更を加えられなくなるパルクフェルメ規定については、この金曜日の予選で車両がコースに出た段階で適用されるため、週末のサスペンションやパワー ユニットのセッティングを1回のフリー走行だけで決めないといけません。

 さすがに60分の走行を1回行っただけなので予選セッション中の路面のグリップ向上が大きい様子。Q3ではルイス ハミルトンとマックス フェルスタッペンのハゲしいタイムの争いとなりハミルトンが制しました。うーん、素晴らしいアタック合戦だったのでこれでグリッド決定にしてあげたい気分。
 この設定だと練習する時間が少ない上に予選中のコンディション変化も激しいためどう考えても新人には難しく、角田 祐毅は16位でQ1脱落となりました。違った見方をすれば、10年に一度の天才というのはこういう時に平気な顔してタイムを出せる人だろうなあとか思います。ジョージ ラッセルはこのダウンフォースが必要なコースでまたもやQ3に進出しました。スプリント予選いらねえ、と思ってるかもしれません。

 土曜日、フリー走行を2回目を経て17周のスプリント予選。ピットの義務はないので好きな種類のタイヤで走り切るだけ。おすすめはミディアムですが、3位のバルテリ ボッタスがソフトを履いて決勝へ向けてフェルスタッペン潰しの意図がうかがえます。
 しかしスタートの蹴り出しではなぜか偶数列が健闘、フェルスタッペンがターン1までにリードを奪いました。温め過ぎたのかグリッド停止中に左前のブレーキから煙どころか炎が出ていたフェルスタッペンですが、ここは大してブレーキを使わないトラックなので大丈夫だったようです。


 抜けない、というか後ろについて走るのも大変なシルバーストーン、レースが落ち着いたら何も起きないと思われる中、11位スタートからソフトを選んで一気に5位へ急浮上したフェルナンド アロンソが目立ちます。前に出たとはいえアロンソは車の面でもタイヤ選択でもやや不利なので後ろが大渋滞、アロンソはやったらあかんレベルで蛇行してスリップストリーム外し^^;
 5周目、アロンソの2台後ろだったセルヒオ ペレスがターン13で乱気流の影響か追い風のせいか単独スピン。このスプリント予選最大の波乱となり、結局18位から上がれずにリタイアを選択しました。

 そのままフェルスタッペンがトップでチェッカー、スプリント予選の勝者が記録上で『ポール ポジション』となり、ドライバー選手権に3点加算されます。2位のハミルトンに2点、3位のボッタスに1点です。うーん、ポイントをあげるのはいいけど、だったら普段の予選のPPにも何点かあげるべきでは?たぶん同じドライバーが荒稼ぎしてすぐチャンピオンを決めるのが嫌だからやりたくないんでしょうね。

 ラッセルはスタートからの混戦でカルロス サインツと接触して押し出し。レース後に3グリッド降格のペナルティーを受けてしまい12位スタート、接触で順位を下げたサインツはコース上で一生懸命挽回し、ラッセルの降格で10位スタートと予選から1つ下げただけで済みました。そしてアロンソはマクラーレン2台にはさすがに抜かれたもののセバスチャン ベッテルを抑え込んで7位からの決勝スタートです。

 ペレスについてはオーストリアでも予選からフェルスタッペンと比較して今一つで今回も単独で回ってしまい「何やってんの」と思う方も多いでしょう。想像ですが、レッド ブルはオーストリアでもウイング等にアップデートを投入し、フェルスタッペンは好感触を得ているようです。
 しかしフェルスタッペンの好感触というのはとにかく軽快にすごい速度で車が曲がって行くような方向性だと思われるので、常人が乗るとリアが不安定に感じてしまい攻めきれなくなります。高速で空力依存度の高いここや、高低差が大きくて特に下りでリアの荷重が抜けるオーストリアでは顕著になります。
 レッドブル最大の悩みだと思いますが、結局誰がチームメイトになってもフェルスタッペンに特化させた車は相棒にとっては乗りにくく、そうすると攻めきれないかリアの安定性を上げたセッティングにして性能を出しきれないかになります。しかし遅いと首脳が直接・間接的に重圧をかけてくる。走ってる方からしたら「もうちょっと乗りやすい車くれ」と言いたいけど聞いちゃもらえずストレスだけたまる、この悪循環になります。
 ペレスはタイヤをもたせるのは上手いし、低速やストップ&ゴーのトラックだといくらかこの問題もマシになるので戦闘力を発揮するように思いますが、結局のところ「フェルスタッペンと同じだけの働きをしてくれるチームメイト」を「フェルスタッペンに特化させた車で」実現させようとするのは事実上難しいように思います。シャア専用ザクは他のパイロットが乗っても扱いにくいだけなのです。
※進行方向は画面左側です



 
 決勝、自由にタイヤを選べるのでピットからスタートするペレス以外は全員がミディアムを選択。普通に考えたらミディアム→ハードの1ストップ戦略一択で幅が無く、なおかつ抜けないコースなのでスタートから半周ぐらいが重要です。この週末の観客数の合計は35万6000人とスタート前にアナウンス。

 スタート、今日はフェルスタッペンがやや出遅れたおかげでハミルトンがターン1から並ぶもののフェルスタッペンが絶妙に防御。なおもスリップストリームを使ってハミルトンは攻撃を続けますが、フェルスタッペンもうまいことラインを塞ぎます。
 ターン10以降は付いて行けなくなることが明白な中ハミルトンはターン9でインに並びますがこの超高速コーナーで2台があろうことか接触。フェルスタッペンはそのまま吹っ飛んで大クラッシュ。即座にSC導入、のち赤旗でレースが中断しました。



 フェルスタッペンがターン インにかなり近いタイミングで進路を内側に変更し、ハミルトンがその内側に入ったのでハミルトンとしてもターンに対する見切りが少しズレたというのはあったように思いますが、明らかにエイペックスを逃してラインが外にズレているのでハミルトンがアンダーを出した、というか曲がるには進入速度が速すぎたことが接触の主因に見えました。
 事故直後のハミルトンの無線では自分が先にコーナーに入っているしラインを残したという主張ですが、フェルスタッペンとしても内側にハミルトンの場所を残しつつ入っているし、ハミルトンが無理しすぎたと私は思います。
 レッドブルの代表・クリスチャン ホーナーがFIAに主張している無線が放送されましたが、100%マックスのコーナーであんな風にホイールを入れる場所じゃない、という言い分は分かります。立場が逆だったらメルセデスのトト ウォルフとハミルトンも同じ事を言っているはずです。


 今回フェルスタッペンはたまたま車両は空を飛ぶようなことがありませんでしたが運が良かっただけ。もちろんフェルスタッペンがものすごくリスク管理して1位を捨てれば接触はしませんが、それでは事故を起こしにいったもの勝ちなので『避けられたかもしれない理由』ではあっても『避ける義務があった』のとは全く意味が違います。これが通ったら鈴鹿の130Rなんて頭を突っ込んだもん勝ちになって競技が成り立ちませんね。
 レース審査委員としてもハミルトンに責任あり、という判断で10秒加算のペナルティーが課せられることになりました。個人的にはかなり危険でしたしハミルトンには事故を避ける責務が多分にあったと思うのでドライブスルーが妥当ではないかと思いましたが。。。
 フェルスタッペンの方は最大51Gというかなりの衝撃を受けたので念のため医療施設へと向かいましたが、今のところ大きな問題はないようです。衝撃で骨折してないか心配でしたがとりあえず今のところ安心しました。

 バリアの修復が終わって赤旗解除、スタンディングでのリスタートとなり1位はシャルル ルクレール。最初のスタートでボッタスを抜き、事故の後にハミルトンを抜いて先頭に立っていました。ハミルトンはまた2位から、以下ボッタス、ランド ノリス、ダニエル リキャード。
 ルクレールはスタートを決めて、この週末3回目のスタートでしたが初めてPPの人がスタートをまとめました。ボッタスはノリスに抜かれて2度のスタートで2度とも順位を失ってしまいました。オーストリアに続いて今日もまたノリスを追うレースに^^;
 ターン6出口ではセバスチャン ベッテルがスピンし旧ピット方向へ一人だけ滑っていきました。赤旗中に氷で頭を冷やして頭皮ケアをしていたんですが、ドライビングの方でハゲてしまいました。結局このレース、トラブルでリタイアしていますがレース後にゴミ回収に参加している様子がSNSにアップされていたみたいですね。やっぱフェラーリにいると精神的にしんどいから余裕がなかったのかな。なんかイキイキとしているように見えます。


 トップ争いに話を戻します。さすがにこの空力サーキットではハミルトンでも簡単にルクレールをどうにかすることはできず1.5秒ほどの差で追走。ところが15周目、ルクレールが無線で「おーい、エンジン カットがあるぞ、、、どうなってんだ!」
 壊れたわけではなくヘジテーション、いわゆる息つきとかの症状が起きていると思われますが、ドライバーズ ディフォルトで対応。不具合を起こしているセンサーを切るとかの対処方でなんとかしようとします。この高速トラックで走りながらステアリングのボタンをいじるのも大変です。

 しかしルクレールの方は「まただ、まただよ!」と治っていないようで、これを聞きつけたハミルトン側はここぞとばかりに攻撃。1秒以内に入って行きます。抜けなかったら無駄に接近してタイヤだけ酷使するのでやるならさっさと決着をつけないといけません、ハミルトンもずっとタイヤの温度を気にしています。

 結局ルクレールの問題は出たり直ったり、という状況のようですがちゃんと走っているとハミルトンは攻略できずまた1.5秒差に戻りました。20周目に入りますがルクレールのペースによってレースが進んでいるのでまだ3位のノリスが1位から5秒差となっていて、よくある『もうマクラーレン以下は別のレースをやってる』という状態ではありません。
 マクラーレンは20周目にリキャードをピットに呼びここからピット サイクル。21周目にノリスもピットに入りますが右後輪がなかなかハマらず通常より3.5秒は余分にかかってしまいました。これを見てボッタスは22周目にピットへ、ノリスをオーバーカットしました。マクラーレンとしては痛いミス。ボッタスは2周連続でノリスをコース上以外で抜きました。

 27周目、ハミルトンがピットへ。10秒ペナルティーを消化してからの作業なのでノリスの4秒ほど後方、実質4位でコースに復帰しました。翌28周目にサインツがピットに入りますがこちらは左前輪がなかなかハマらない!これでかなり時間を食ってリキャードの4秒ほど後方の6位で復帰。普通に作業を終えていたらオーバーカットしていたはずでした。
 そして満を持して29周目にルクレール、こちらはきっちり作業を終えて1位のままコースへ復帰、2位のボッタスは7秒も後方で自分の方が7周新しいタイヤですからまさかの優勝が見えてきました。

 31周目、ハミルトンはノリスを抜いて3位へ復帰。ここで問題はメルセデスが2人を入れ替えるのかどうか。ボッタスはルクレールから少し離されてまた戻して、という状況で勝てそうもありません。そこで40周目にチーム オーダー発令。ボッタスはハミルトンを全く邪魔しないように譲ってこれでハミルトンが元いた2位へ戻ってきました。残り12周でルクレールと8.3秒差、このペースで行けば理屈の上では最後の最後に追いつきそうなペース差です。

 ハミルトンはボッタスに譲ってもらった後ファステストを連発してタイム水準を切り上げて行きます。ルクレールも対抗してペースを上げていますが時には1周で1秒追いついて行き、残り6周でとうとう3秒差になりました。そしてちょうどこの後ルクレールは周回遅れの集団に入っていくことになります。

 前が気になる中で残り3周、とうとうDRSを得たハミルトンは2時間前にフェルスタッペンをすっ飛ばしたターン9でルクレールに対してまたもやインから攻撃。今回はきっちりインを維持して曲がれる速度にとどめたのでルクレールが外ラインで順位を守った、かと思いきや内側を気にしすぎたか外側の縁石に乗って姿勢を乱してしまいました。これでハミルトンがとうとうリーダーとなり、こうなるとルクレールに逆転の力は無し。


 そのままハミルトンが1位でチェッカー、通算99勝目を挙げました。しかし1周目の出来事を考えると腑に落ちないと思う方はおそらく多いでしょう。やっぱドライブスルーで良かったんじゃないですかね。
 アスリートは競技中や直後は興奮状態ですし、仮に内心そう思っていたとしても自ら非を認めるような発言はしないものではあります。また、フェルスタッペンについては無線で『大丈夫だ』という情報だけを貰っていて、その後念のため病院に行ったことまでは知らなかった、という事情ももちろんありました。
 それでもやはり、仮にもレース審査委員会から非があるという裁定を受けて、その行為によって相手がかなり危険な事故に陥ったという状況を経ての態度としては、レース後に大はしゃぎして、自分の正当性を主張するという態度はさすがにスポーツマンシップとして問題があると感じました。
 ただ、先週のサッカーのUEFA EURO2020でもそうでしたが、批判を超えてSNSで差別投稿をする下劣な人間がそれなりにいるようで、そういう人はもう見る資格無いので出て来ないでください。災害に乗じてデマを撒くような人間と同じで最低です。

 今回の問題はかなり尾を引くでしょうし、この先のレースでフェルスタッペンが逆にやらかす場面も出て来るのではないかと思いますが、フェルスタッペンには同じ土俵でどんぐりの背比べをしないで戦ってもらいたいなと思いますね。

 ルクレールは惜しかったですが、おそらく車両性能で言えばお世辞にも速いとは言えない条件でボッタスやノリスと同等かそれ以上のペースで走り続けたのはやはりさすがと感じました。ハミルトンに抜かれる直前に滑ったのも結構危なかったんですが、平然と止めてしまうのはF1ドライバーの腕ですね。
 3位からボッタス、ノリス、リキャード、サインツ、アロンソの順でした。サインツはピット後延々と攻撃を続けるもやはり抜けずに終わりましたがお互い良い争いだったと思います。アロンソは決勝でも後続を引き連れて結局7位で終えてしまい、こちらも恐れ入りました、という感じです。

 私は途中ですっかり存在を忘れてしまったペレス、埋もれるので2ストップ作戦にしなんとか入賞圏まで持って行きましたが、ハミルトンにファステストの1点をやらないために入賞を捨ててピットに入ったので16位で終えました。チームプレイ(;・∀・)
 角田は終わってみたら10位でした。キミ ライコネンを抜けずに13位で詰まって入賞は難しい状況だったはずでしたが、ピエール ガスリーがあと5周というところでパンク、ほぼ同時にペレスがライコネンと接触して撃墜してしまい、そして最後にペレスが上記の通り順位を捨てたので、最後の5周で3つも順位が上がってしまいました。
 時間を遡ると、抜けないのでミディアムを温存してピットを引っ張り戦略で2台をオーバーカット、これが最後に順位が転がり込んで10位になる要因となりました。新人には難しい設定のレースであることと、車両性能から本来得て欲しい順位を考えた時にどう評価すべきか難しい部分ではありますが、少なくとも決勝ではこなすべき仕事を果たせた、と言えるかもしれません。

 次戦はハンガリー、これを終えると夏休みに入ります。

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