FE 第9戦 プエブラ

ABB FIA Formula E CBMM Niobium Puebra E-Prix
Autódromo Internacional Miguel E. Abed 2.982km
45minutes+1Lap
winner:Edoardo Mortara(Rokit Venturi Racing/Mercedes-EQ Silver Arrow 02)

 フォーミュラE第9戦、前日に続いてプエブラです。プエブラはメキシコ第4の都市ですが、言うなれば都市の部分は『プエブラ州プエブラ市』にあたるところで、このサーキットがあるのはそこから車で30分ほど東へ移動したアモソク デ モタという町にあります。

 グループ予選では第1グループがまだ大混雑のグダグダ予選。これはもう、『どうせ路面が汚れててタイムなんて出ないので、自分がタイムを出すよりも相手にタイムを出させない』という考えに基づいて走ってる気がしますね。
 スーパーポールに進出したのはまたグループ2の人が多く、しかも顔ぶれはこのうち5人が前日と同じ。そんな中で前日は無線故障&電気系故障&失格の憂き目に遭ったオリバー ローランドがPPを獲得、パスカル ベアラインが2位で、前日と逆の並びとなります。
 3位エドアルド モルターラ、4位ジャン エリック ベルニュ。グループ予選最速だったジェイク デニスはスーパーポールでこけて5位。路面温度が上がっていくせいか、路面が掃除されたらその後は熱によるグリップの低さが際立った印象です。

 スタート、今日はちゃんと動いたローランド、その後ろは奇数列が優勢なようで、モルターラが2位、デニスが4位となります。中団はかなりハゲしい争いで、1つのミスで順位が変動してごちゃごちゃ。私は未だに今年のジャガーとNIOの色が似ていてすぐ分からなくなるんですが、実況のジャック ニコルズも「そっくりなペイント スキーム」って言ってます、やっぱり似てるのねw
セルジオ セッテ カマラ、部品がもげる


 開始7分、2位との差を少し広げておいてローランドがアタックモードで先手を打ちます。入る角度がちょっと悪くて失速してしまいましたが4位でラインに戻りました。
 2周後には暫定1位のモルターラがアタックモードを使用。コースに戻ったところでデニスと交錯しかかりますが、ターン9でかわして3位で戻ることに成功しました。すると翌周、暫定トップとなっているベアラインが当然のように反応してアタックモードを使用。
 するとこれに追随してローランドがもう2回目のアタックモードを使用。今なら4位に落ちるだけで済むので、下手に後半にごちゃついて順位を下げるぐらいなら、不確定要素が少ない時間帯にさっさと使ってしまおうという考えだと思います、面白い戦略に出ました。

 同じころ、後方ではルーカス ディ グラッシがアタックモードを起動後にニック デ フリースに詰まり、ターン9で思いっきり追突。これでデフリースはリタイア。ディグラッシはこの後もう1回多重事故に参加してしまい18位で無得点です。昨日の優勝が霞みますねえ。


 トップ3は矢継ぎ早にアタックモードを使いましたが、4位~9位の集団はこの段階でまだ使っていない人たち。こちらは15分を経過したところからサイクルに入り、上位3台とは別のレースをしている状態です。

 この後18分ほどのところでベアラインが2回目のアタックモード、そして翌周にモルターラも2回目に入りますが、なんとモルターラはローランドに対してじゅうぶんな差を築いており、1位のままコースに復帰します。なんかよくわからんけどしれっとモルターラが主導権を握っている(;・∀・)

 中団以降の争いでは誰かがミスをすると詰まって接触が起きることが何度か繰り返され、広告バナーを引きずって走る車が複数発生する珍事となります。時間経過で千切れてコース上に落ちたり、車体と後輪の間に絡まって一緒に回転してたりとこの後色んな意味でレースの最後までバナーがつきまとうレースになりました。


 残り19分、2位争いをしていたローランドとベアラインでしたが、どうやらベアラインが優勢の様子。するとターン10でローランドは内側の壁にうっかりカベドンしてしまって加速が鈍り、悠々とベアラインにかわされます。これで優勝争いはモルターラ対ベアラインとなりました。ベアラインはファンブーストを持っているので、追いついたら切り札が使えます。

 ベアラインはすぐさまモルターラを捉えて重圧をかけていきます。車載映像を見ると、パワートレインの効率やエナジー管理よりも、コーナーでの旋回速度に差があるので走行性能面でベアラインが上回っている印象を受けますが、モルターラは最終コーナーの出口でトラクションはきっちりかけており、仕留めるところまで行きません。


 DSテチーターには残り10分あたりで相次いでトラブル。ベルニュがターン9でまさかの単独スピンを喫して5位から8位に後退すると、アントニオ フェリックス ダ コスタはターン7ではみ出してクラッシュ、リタイア。チャンピオン経験者の2人、レースの速さ・安定感には定評があるはずのこの2人が自損事故を起こしていることからして、かなりタイヤが苦しいように感じます。

 優勝争いもベアラインが、おそらくダコスタの事故の1周前だと思いますが、ターン7でミスってしまって差が広がると、この差を詰めるだけの速さがありません。エナジー残量だけなら優勢なんですが、追い上げるのにタイヤを使ってしまってオーバーヒートしたかもしれません。さっきまでコーナーで詰めてたのに、今はその勢いが無くなってしまいました。

 残り3周、ローランドは淡々と走っていたニック キャシディーに抜かれて4位に後退。その先のターン1でローランドが抜き返そうとしますが、猛烈にロックさせてしまいあやうくただのヤケクソミサイルになりかけました、あぶねえ~。

 モルターラはタイヤとエナジーを見事に管理下においてそのまま優勝、2年ぶりです。いやあ、FEの優勝争いとしては歴代のレースでも上位に入る熱戦だったように思いますね。ベアラインはちょっと残量管理を無視してリフトせずにターン1に突っ込めば抜けた場面が2回ほどあったようにも思いましたが、無理せず待っているうちに自分が先に音を上げてしまった感じもあります。


 モルターラはこれでドライバー選手権でも1位に躍り出ました。レース前の時点での選手権上位6人では2点を獲得したドライバーが2人、残りは0点と上位勢が点数を伸ばせませんでした。
 
 昨日は優勝かと思いきやチームの不手際で失格になったベアライン、今日はとりあえず2位だわ、とほっとしたのも束の間、今日もまさかの展開が待っていました。レース後に『最大出力超過』の疑いで審議と表示され、しかしすぐに結論は出ずに表彰式は行われました。
 そして中継ではそのまま終わってしまったと思いますが、レース後数時間経過して調査結果が確定、ベアラインには『ファンブーストの不適切使用』によって5秒加算の裁定が下りました。これにより順位が2つ下がって正式結果は4位。繰り上がりでキャシディーが2位、ローランドが3位となりました。

 しかしながら、画面を見る限りアタックモードは使ってもいなかった気がするので意味が分かりません。というわけで調べたところ、motorsports.comに解説がありました。この記事によると、ベアラインはレースの終盤にアタックモードを使用したものの、バッテリー残量が少なかったために本来の出力を出すことができなかったそうです。アタックモードに関しては、競技規則37.4(b)にこう規定されています。

原文(英語版)
FanBoost to be used is limited to an extra energy of maximum 100 kJ (power min.240 kW, max. 250 kW, and time to be managed by the Competitor). 

意訳
使用するファンブーストは最大で100kJの追加エナジーに制限されます。(出力は最小で240kW、最大250kW、時間は競争者が管理します)

 ファンブーストは一般に『250kWの出力を5秒』と紹介されていますが、実際は100kJが追加で与えられ、240kW~250kWの間で出力を各自で設定できます。あれ?今さらながら通常より50kW追加するなら、100kJだと2秒しか使えないな、何か計算間違ってるのかな・・・

追記:ダメ元でニスモ様にこの件について質問メールを送ってみたのですが、なんとこんなしょうもない質問の相手をわざわざしていただきました。で、答えの内容は

規則書にはフォーミュラ―Eのファンブーストについて、100kJの記述だけで使用秒数に関するものはありません、おっしゃる通り100kJでしたら使用できるのは2秒間ほどです。以上、宜しくお願い申し上げます。

やっぱり2秒が正解な気がする。でもニスモの2021年のFE関連ページにすら『5秒』って書いてあるんだよなあ。5秒は150kWだった第1世代の規定だと思うんですが。。。

 とりあえず横に置いといて、規則では『ファンブーストは240kW~250kWの間』とされています。ということは逆から言えば、ファンブーストを使ったのに240kWに満たなかった場合は規定に反している、ということにどうやらなってしまうようです。
 当初『出力超過』として調査されましたが、大抵の場合この違反は路面のバンプなどによる激しい空転によって、一時的に出力が規定の200kWを超過することで生じています。『出力のスパイク』とか呼ばれています。今回も出力が一時的に200kWを超えていたと確認されたので調査され、調べてみたらそれがバンプなどではなく『失敗ファンブースト』だったと明らかになった、とこういう話みたいです。
 前日のタイヤの登録の問題に続いて、どちらかといえば形式的な話でこれによって利益も得られていないんですが、またもや規定違反とみなされてしまいました。ドライバーにはどうすることもできない問題ですね。うーん、ベアラインの問題より、100kJと+50kWの計算の話の方が気になってしまってコメントが浮かばないw

 ローランドは序盤の戦略は悪くなかったと思いますが、タイヤの面で苦しかったのかペースが伸びなかったのが痛かったですね。アタックモードは連続で使うとどうしても熱の問題もあって、235kWの出力を使い続けるわけにはいかず、ただの義務消化になってしまうので、理論上のレース時間ではやや不利になる、というのもあったかもしれません。
 日産のパワートレイン自体は悪くないと思うんですが、チームメイトのセバスチャン ブエミと随分と予選タイムに差ができているレースが多く、セッティング面で何かまとまっていないのか、ブエミがこの規制が多いご時世にWECと掛け持ちしてて疲れてるのか。2台揃ってないのも悩みです。
 
 レネ ラストは予選でグループ1に入ってビリでしたが、レースでは追い上げて終わってみたら10位。ファステストも獲ったので2点を手にしました。今回もやっぱり周囲のドライバーより残量が多く走らせていて、それが順位を上げることに繋がっているんだと思いますが、この先の3ラウンドで要注目かもしれません。

 終盤の各車の動きを見ていると、特に右リアのグリップ力が落ちてしまってバランスが悪くなり、荒い舗装の上でズルズルと滑って走っているので他のタイヤも軒並み性能が落ちていったように見えました。FEでこれだけタイヤの摩耗がレース展開に目に見えて影響したレースというのも珍しかったです。昨日も書きましたけどなかなか良い塩梅のトラックですね。次戦はニューヨークです。


コメント

okayplayer さんの投稿…
すごい、わざわざ問い合わせたんですね笑笑
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん

 ええ、アホでしょ 笑