SGT 第1戦 岡山

2021 AUTOBACS SUPER GT Round1 たかのこのホテル OKAYAMA GT 300km RACE
岡山国際サーキット 3.703km×82Laps=303.646km
GT500 class winner:ENEOS X PRIME GR Supra 大嶋 和也/山下 健太
(GR Supra GT500/TGR Team ENEOS ROOKIE)
GT300 class winner:リアライズ日産自動車大学校GT-R João Paulo Lima de Oliveira/藤波 清斗
(NISSAN GT-R NISMO GT3/KONDO RACING)

 2021年のSUPER GTも開幕です。昨年はCOVID-19の影響で富士、鈴鹿、もてぎの3か所で回していましたが、今年は海外戦こそないものの概ね例年通りの全8戦で予定されています。
 今年の変更点についていくつか見ておくと、まずGT500クラスでは空力開発は凍結されており、開発の主体はエンジンとタイヤになります。
 もちろんエンジンの中でも鋳物など既にホモロゲートされて開発が凍結されている部分はありますが、手を加える余地はまだまだありそうです。タイヤに関しては、Team Red Bull MUGENが昨年までのヨコハマからダンロップに変更し、久しぶりにダンロップが2台体制となりました。
 またドライバー面では移籍や新人もいますが、KeePer TOM'S GR Supraのサッシャ フェネストラズはフォーミュラEの仕事で海外にいるせいでこちらに来れず、またSTANLEY NSX-GTの牧野 任祐は昨年末に髄膜炎を患い、まだ競技できる状態に戻っていないということで開幕戦は不在です。今後の予定も未定の状態です。

 そしてどうでも良いですが、車両のカラーリング的にWAKO'S→ENEOS、RAYBRIG→STANLEY、KEIHIN→Astemo、とスポンサー企業/ブランドの変更があったおかげで、青系の車が激減しましたw

 GT300クラスはGT3車両では新車は特に無い一方、いわゆるJAF-GTではBRZが新車になって登場。GR Supraは埼玉トヨペットがカスタマー供給するような形で2チームに供給して全部で3台になりました。


 そして迎えた開幕戦ですが、ハンデの無い状態でかなり速い車と狭い岡山は危ない、ということで特別BoPというものが適用されることになりました。GT500クラスは最大燃料流量が通常の95kg/hから90.2kg/hに絞られます。GT300の方はウエイトでの調整ですが、GT500と比べると多少有利不利が出るかもしれません。


 予選、GT500ではQ1でGT-R全車とブリヂストン装着のNSXが全滅。KeePer TOM'S GR SupraがPPを獲得しました。フェネストラズの代役・阪口 晴南がいきなり仕事を果たしました。上位5台をGRスープラが独占しています。

 GT300の方はGAINER TANAX GT-RがPP。安田 裕信のスーツにFUE植毛のロゴが見えますが、去年からありましたっけ?2位に埼玉トヨペットGB GR Supra GTが並び、残る2台のスープラも5位、6位とやはり速さを発揮します。この3台、みんなタイヤが異なるのでそのあたりの面白さもあります。
 一方期待されたBRZはQ1落ちで19位。この車、軽量な車に大きなダウンフォースをかけて走るため、タイヤが合わなくてうまく作動しない状況になると全く性能を発揮しなくなる傾向があります。相性が良さそうに見えて、岡山は過去最上位が4位、毎年開発して持ってくる初戦なのでトラブルでリタイアしているレースも多く入賞自体が少ないです。



 スタート、GT500は多少の争いはありつつ大きな変動なく進行しますが、MOTUL AUTECH GT-Rが相変わらずミシュランの発熱特性の関係か12位スタートから7位へいきなり浮上。予選ではミッションの不具合があったそうで不本意なスタート順位となっていました。
 GT300では3位のLEON CVSTOS AMGをリアライズ日産自動車大学校GT-Rがかわします。他は大きく変動がありませんでした。


 7周目、KeePerがGT300の後方集団に追いつくと慣れていない阪口には試練の時間帯。一気に上位の間隔が詰まり、かつ大量のGT300が混ざった結果、ヘアピンで玉突き事故が起きてしまって、黄色い方のNo.30 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTがスピン。カメノコ状態で動くことができないようで翌周にSC導入となりました。
 MOTUL GT-RはModulo NSX-GTも抜いて6位に上がっており、追い上げたところでSCで追いついてやり直せるという美味しい展開です。

 追突されたプリウスをけん引して亀さん状態から脱出させたいけど、追突を食らって牽引フックが壊れたようで処理に時間がかかり、13周目にリスタートされます。
 リスタート後、GT500はKeePerと2位のENEOSの2台の争い、GT300もGAINER GT-Rと埼玉トヨペットスープラの2台の争いです。両者はSC前からずっとテール トゥー ノーズ、抜けばスープラのペースが早そうなんですが、いかんせんGT-Rをこのコースで抜くのは難題です。とりあえずミスを待って、その間は燃料とタイヤをセーブしておくしかありません。変にやりあって3位以下に追いつかれる方が厄介です。

 20周目、再度GT300の集団登場。しかし阪口はこれをうまく切り抜けます。この後リードを拡大していき、30周目には2位のENEOSに2秒、3位のau TOM'S GR Supraにはなんと14秒以上の差をつけています。MOTUL GT-Rはずっとリスタートから6位のままですが、auからならまだ7秒差。ダンロップ使用のNSXは順位を下げ気味で、NSX最上位はAstemo NSX-GTの7位。

 30周目にModulo NSX-GTがピットに入るとここからピット サイクルとなり、GT300もこのあたりから中団を中心にピットに入る車が増加します。すると、ここで恐れていたおなじみの問題が発生しました。
 33周目、ターン1の先でRUNUP RIVAUX GT-Rがスピンしてコース脇に停止。SC導入の危機となったため、各陣営が大慌てでピットの準備を行います。GT300の埼玉トヨペットスープラはRUNUPのスピンからほどなくピットに突入、GT500は1台を除いて全てピットに入りますが、いかんせん全車突入する大騒動、ピット内大混雑で多くの車は斜めに入るしかありません。
 結局34周目の途中、多くがピット作業を終えたあたりでSCボードが出されました。多くの車にピットに入るだけの機会はある状態だったように思います。ただ、入ったはいいけど中は無茶苦茶です。
今日こそ大事故が起きるのでは、という不安が大きい


 これが影響して、ピットを先に出たのはENEOSでした。KeePerは脱出に手間取ってしまい、なんとau、DENSO KOBELCO SARD GR Supraの2台にピット内で抜かれて4位に後退。15秒も差をつけていたのになんたる不運であることか。
ピットで右側から抜いて行くという通常では起こりえない事態に・・・


 GT300は真っ先に入った埼玉トヨペットが有利かと思われましたが、翌周に入った2台、リアライズGT-RとLEON AMGの2台がここで逆転。実質1、2位となりました。埼玉トヨペットスープラはピットを出る際に他車との交錯を避けるために少し待ったのと、元々後から入った方がオーバーカットできるため、思わぬ形で逆転を許しました。
 GAINER GT-Rもこの2台と同じ周に入りましたが、斜めにピットに入ってしまい、作業に非常に時間がかかってしまい実質4位となりました。そして、この後なぜか放送席からサッシャが一旦離席したようで、なぜか解説の光貞 秀俊が実況して繋いでいます、サッシャさん緊急ピットでしょうか^^;

 40周目にリスタート、一応リーダーはステイ アウトしたリアライズコーポレーション ADVAN GT-Rなんですが、2位のENEOSは変に詰まるリスクを警戒してだと思いますが、なんと追走せずにリアライズがリスタートで独走、すごいリスク管理です。でもリアライズ、結局ミスったのかこの後集団の中に混ざります^^;

 GT500はENEOSとauの2台が当面トップ争いという状況、KeePerはDENSOを攻略できずに前から離されてしまいます。GT300はリアライズ、LEON、埼玉トヨペット、GAINERの4台の接近戦です。

 50周目、多重事故からMOTUL GT-Rがクラッシュ、カルソニックIMPUL GT-Rもスピンしてコース外へ飛び出します。ヘアピンからリボルバーへと向かう部分で混雑しており、ここでARTA NSX-GTがMOTUL GT-Rと接触。姿勢を乱してコース内側の芝生をほぼ直進し、前方にいたmuta Racing Lotus MCに突撃してしまったようです。
 MOTUL GT-Rは大きく損傷しガレージ送り、ロータスもダメージが大きくリタイア。ARTAは走り切って7位でした。


 レース結果には、ARTAの野尻 智紀に対して黒白旗、MOTUL GT-Rの松田 次生に対してはドライブスルー(リタイアのため執行留保)と書かれてあり、少なくとも松田はこの件が原因です。(公式サイトのリザルトはいつの何に対して出したペナルティーなのか書いていないので野尻がいつ貰ったのか断定できない)

 ここはヘアピンで先行車がインをブロック、後続車が外から大外回りでリボルバーの入り口でインを取ろうとすると時々交錯します。ヘアピンを外回りで勢いよく脱出する後続車に対して、先行車がまだ相手が並んでいないのでヘアピンをイン、イン、アウト、で外へ行って相手を抑えようとしたり、リボルバーのブレーキで速度が乗って来た相手に対してインを閉めすぎると車が引っかかります。
 ただこの接触はこのいずれでもなかったようで、松田は追いかける側で、先行する野尻をヘアピンでインを取って車両長の8割ぐらいまで抜き切ったものの、右前方にGT300がいるのでミドルからインに向かってパイパーへ進入しようとして、まだ自身の全長内にいたARTAと当たった、という流れだったようです。
 松田からすれば「あの状況なら引いてよ」というところかもしれませんが、判定としては『抜ききっていないのに相手に寄せて事故を招いた』ということでしょう。この2台だけの争いならペナルティーは無かったのではないかと思いますが、GT300を1台ガレージ送りにしたのでペナルティーやむなし、という感じでしょうか。


 56周目、KeePerはようやくDENSOを抜いて3位へ、一方トップ争いはauがかなり優勢になっているようで距離が近くなっています。というか、坪井 翔がパッシングして先輩の山下 健太に煽り運転をしていますw ちょっとENEOSのブレーキ温度が上がっているようなので、防御にかなり力を奪われている様子。
 ブレーキが甘くなるのでブロックラインをとるしかなく、そうすると旋回半径が小さい中で頑張るので前輪も傷めて、という状況に見えます。抜いたらあっという間に坪井が逃げそうな雰囲気です。

 61周目、ヘアピンで外側から坪井が仕掛けるも山下が防御。ここから長い長い争いに突入します。坪井は手を変え品を変え山下に仕掛けますが、山下もなかなか厳しい守りを見せて激しい争いは続きます。
 66周目にはアトウッドで外回りのラインをとってバックストレッチで既に並んでしまい、今度こそ抜けるかと思いきやこももちょっと接触しつつ山下が行く手を阻みます。山下は先ほどのヘアピンの話で言うと前者のパターンで、外回りで速度が乗っている相手にアクセルを戻させるような形になるので、動きとしてはかなり際どいものです。

 GT300もずっとリスタート後は同じ状態で争い続けているんですが順位変動なし、もしGT500が独走のレースならこっちばっかり映っていたと思いますが、いかんせん今はGT500の優勝争いが一触即発です。

 71周目、坪井が今度はターン1で外から仕掛けて成功しかけますが、ちょっとルースになってしまい軽くはみ出してこれも失敗。山下はフロントが辛そうな動きでブレーキも甘くなってしまってブロックラインの連続ですが、それを外から刈ろうとしてアクセルを踏んでいる坪井は左リアがちょっと減り気味に見えます。


 そして75周目、またしてもヘアピンで外から仕掛けますが、やはり先ほどまでに何度も抑えられているのでもっと頑張らないといけないと思ったのか、ロックさせてしまって砂場へ突入。勝負は決しました。なんか中嶋 一貴が2017年に同じ場所に同じ色の車でハマっていた気が^^;


こちら2017年の中嶋 一貴



 最後はペースを落としてENEOSが優勝。ROOKIE Racingにとっての初優勝です。山下 健太/大嶋 和也のコンビに、エンジニアには阿部 和也という、チームルマンがチャンピオンを獲得した2019年と同じ体制での早速の優勝、間違いなく今季のチャンピオン争いの一角を担うことになるでしょう。

 そしてGT300は、最終周のセクター3に来て、リアライズがやや失速したのか一気にトップ4がひと固まりになりましたが、結局順位変動なく終了。昨年のチャンピオンが開幕戦も制しました。いやあ、どちらも熱かった。
※これでもゴール直前です



 GT500のトップ争いは非常に面白かったです。レース後に山下自身もやや防御が手厳しかったことを自分から言っていましたが、追いかける坪井としても、相手が同一メーカーだからなんとか接触をこらえていたところはあったかなと思います。相手がホンダならひょっとしたら一回ぐらいノーズをねじ込みにいってたかもしれません。
 今回やはりGRスープラが速かったですが、通常より燃料流量が絞られた条件だったので、エンジン性能、希薄燃焼の部分でより性能の高いエンジンだと有利に戦えるレースでした。トヨタのエンジンがその点で優れていたという可能性がありそうですが、95kg/hに戻った時に同じように行くのかはまだ見通せません。

 GT300は、今回に関しては単独で開催されていても2時間盛り上げれる争いでした。トップ4があれだけ僅差で走り続けるということはなかなか無いので、全部映像で見れなくて残念だったと思えるほどです。

 しかしながら、影響したのはSCでした。今回もSC導入を感じ取って全車ピットに飛び込みましたが、はっきり言って危険でした。arto RC F GT3は斜めにピットに入ろうとして失敗し、走行レーンを塞ぐ一歩手前の状態でした。
 そもそもSC中のピット作業が禁止されている要因は、第1にはえらい得する人がいるとよくないから、第2にみんな同時に入って危ないから、ですが、現在の状態を見ていると、えらい得する人はいるし、危険だし、どっちの目的も達成できていません。
 以前から何度か書いていますが、FCY制度が実現できない間は、NASCARのようにSCと同時にピット入り口を閉鎖し、その後ピットを
『GT500のリード ラップ車→GT500の周回遅れとGT300のリードラップ車→GT300の周回遅れ』の順でオープンし、最後にステイ アウト車両をウエーブ アラウンドさせてリスタートさせた方が安全で確実です。

 ただ、これでも周回遅れにならなければSC前のピットが特になって、結局殺到する可能性があるので、いっそSC導入時のピットを許可した上で、『SC導入時点で順位を凍結し、SCに抜かれて周回遅れにさえならなければ、作業時間がいくらかかってもリスタート順位は変わらない』として、ピットを安全確実に行えるようにし、ピット競争を制度で不要にすれば良いと思います。
 これならSC前にピットに入らない方が得なので、事故を見てピットに駆け込む人は減ると思いますし、SC中の作業は落ち着いて1~2分かけられるので遥かに安全です。
 どうやっても損得は出るんですから、それなら危険がより起きにくい仕組みにする方がよほど合理的ではないでしょうか。とても厳しく嫌な言い方ですが、このままでは、いずれ死人が出ても私は全く驚きません。

 次戦は富士スピードウェイでの500kmレースです。オフのテストでは、スタートをより密集させて行うテストが行われていましたが、実戦投入されるんでしょうか。

コメント

okayplayer さんの投稿…
なんで自分で1から作らなきゃいけない300のスープラが2台増えたのか聞きたいと思ってたら冒頭で書いてくれてました、さすがSCさん笑

もういっこ気になってることがあって、
GT3マシンだと例えばAMGって4チームいますが、どうして改造できないGT3でここまで差が出るんでしょうか?
タイヤとドライバー?と思いかしたがそれ以外に何か理由があるんかな…と

あ、そういえばフェラーリが1台いましたが、壊すと色々面倒だと以前のブログにあったのを思い出して「このチームお金沢山あるんかな」とか思って観てました笑
SCfromLA さんの投稿…
>okayplayerさん
まずはドライバーの差が大きいですね。植毛GT-Rはたぶん富田 竜一郎が一人で300km走ったら入賞はじゅうぶんできるレベルですが、やはりジェントルマンの方々ではそういったタイムはなかなか出ません。
そしてドライバーやエンジニアリング体制が異なれば当然セッティングの詰めも変わるので、2つ合計するとかなりの差になります。
車両メーカーによっては、メーカーが支援してくれてエンジニアさんが派遣され、セッティング等のデータを提供してくれたりもするので、購入して自分たちで動かすだけの小規模チームとはその面でも差があります。
(本来全ての同一形式GT3車両は同一仕様のはずが、国際的なGT3レースでメーカーの実質ワークス的チームが使用している車両は、何か特別な車になっていてどうやっても明らかに速い、という噂がまことしやかにささやかれています)
GT SPORTで例えるなら、てきとーにセットしたGT-Rを私が走らせるのと、きちんと詰めたものにAkagiさんが乗るのとでは平気で2~3秒タイムが異なってくるのと同じです(笑)
okayplayer さんの投稿…
なるほどー
同じカテゴリ内でもドライバーの腕の差は結構あるんですね!確かWECもそんな感じでしたよね〜