スチュワートハース、不振の原因は車検制度?

 NASCAR Cup Series、強豪チームの1つであるはずのスチュワート-ハース レーシングが今季は多いに苦戦しています。
 エースであるケビン ハービックこそ8戦で6度のトップ10フィニッシュとなんとか結果を出しているものの、内容を見ると『10位以内にはなれるけど3位以内にはなれそうな気がしない』というものばかり。残る3人のドライバー、エリック アルミローラ、コール カスター、チェイス ブリスコーの3人はトップ10に一度も入っていません。
 新人のブリスコーはとりあえず横に置くとしても、アルミローラはハービックとは真逆で6戦で20位以下、最高位は11位。今年の序盤は特殊なレースが多いとはいえ、過去3年間のトップ10フィニッシュ率43%のドライバーとは思えない絶不調ぶりです。

 で、何か情報は無いかと調べてみたら、とっくの昔に現地では報道されていましたw 第5戦フェニックスを終えた後の3月16日に、ハービックのクルー チーフであるロドニー チルダースがその理由をSiriusXM NASCAR Radioで語っていました。

「いくつかの規則の変更と新しいテンプレートにより、後輪の開口部の形状が変わりました」

とチルダース。NASCARでは3年前から車検にテンプレートではなくレーザーによるデジタルの計測を用いるようになりました。テンプレートというのはNASCARで長年使われてきた車検方法で、車体形状に合わせた定規のようなものを作り、定規を当てて隙間や出っ張りがあったら違反、とするものでした。出っ張ってたら叩いて直して合格させる、なんてのは日常風景でしたw
テンプレートによる車検の様子

 しかし、技術とインチキの進歩に伴い、2018年からレーザーを使用した3次元計測を行うことになりました。NASCARの公式YouTubeチャンネルには、何人見てるのか分かりませんが、毎回『OSS Inspection』という題名の、車検の様子の映像が生配信でアップされています。
 OSSはOptical Scan Stationの略で、光学計測所、とでも略せばよいでしょうか。人間がX線検査を受けるみたいに、計測する部屋の中に車を運び、計測機器を付けたら暗室にして測定を行います。

 ところが、全く知らなかったんですが、NASCARは今年、リアのホイール ウェル部分に関して、テンプレートを復活させました。ホイールウェルは日本でいうホイール ハウスと同義でしょう。
 レーザー計測では窪んでいるホイールウェルの内部を正確に計測できないのか何なのか分かりませんが、人力のテンプレート計測作業に対して精度で劣っている部分があったとのことです。そしてこれが、SHR不振の原因だとチルダースは説明します。

「大まかに、これによって車から70カウントのダウンフォースが失われ、それだけのダウンフォースが主にリアから無くなると、空力バランスは完全に崩れました。」

 規則は全員に共通ですが、どうやらSHRはこのリアの計測制度の甘さを見抜き、過去数年にわたって、この部分の形状の解析に最も力を入れていたチームであるため影響が大きかったと考えられています。ライバルはそこまで気合いを入れて研究しなかったために、あまり影響を受けずに済んだということになります。

「空力バランスが崩れ、風洞実験の時間にも制限がある、開幕前にそれを想定するのは難しい話です。私たちは戦い続け、願わくば他の人たちほど自分たちが影響を受けず、解決していきたいところです。」

 ほぼ単一車両で車体の基本的性能に手を加えられないNASCARで、車検の甘そうな箇所に積極的に開発という名のインチキを働きに行くのは常套手段ではありますが、NASCAR的にはこれを抑えにかかり、結果的か意図的かは別にして、SHRが撃墜されたという構図のようです。
 チルダースが言う通り、風洞実験には時間制限がかけられているのでお金をかければ実験しまくって答えを見つける、というわけにいかず、しかしテストもほとんど無いし、大半のレースでは練習走行も予選も無いので実走データもあまりありません。そうするとCFDによる解析が主になると思われます。
 CFDは数値流体解析という手法で、コンピューター上で空気の流れを解析する手法です。現実世界の空気の流れは、本気で数値解析しようとしたら、スーパーコンピューターを常時稼働させるぐらいしないといけない難しい世界なので、当然ながら精度は落ちてしまいます。一般論で言えば空力データの精度は

実走>風洞実験>CFD解析

という感じです。ちょっと話が逸れましたが、リアの形状で何かをまだ探しに行くのか、もうクソ真面目に規則を遵守した上でどうにかバランスを取るためにリア以外で何かセッティングを考えるのか、といった部分を一生懸命作業しているものと思われます。
 それにしても、あまりダウンフォースがいらないショート トラックですらかなり苦しいことを考えると、よほど効果的なものだったのか、車両作りの概念がバラバラで穴にハマってしまったかでしょうから、これは時間がかかりそうな気がします。
 SHRが解決策を見つけた雰囲気がるかどうか、というのを頭の片隅に入れながらこの先のレースを見て行こうと思います。とりあえず、このチルダースのラジオ出演以降の2レースでも解決していないことだけは見ていてよく分かりました。

 それにしても、レーザーだCFDだ風洞だと、NASCARもずいぶん近代的になったもんですねえ(謎)

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