レースにおいて、前の車を追い抜くというのは参加していて楽しい瞬間ですし、見る側としても面白い場面です。しかしながら、GT SPORTで上手い方のレースを見ていると、順位変動が少なく、密集しつつも動きの無い隊列でレースが進行する状況を目にすることは多いと思います。
そして当然のことながら、実際のモータースポーツでも、プロが集うレースではやはり同様に追い抜きというのはそれほど多いものではありません。なぜそうなるのか、というと、いくつかの理由が重なっているんですが、簡単に言えば『抜くのは難しいから』ということになると思います。
今回は『なぜ追い抜きは難しいのか』について、主にGT SPORTのオンライン対戦に参加する側の視点から、理屈で色々と書いてみようと思います。これをなんとなく理解すると、逆説的に『どういう時は抜けるのか』も分かってくるので、無用に仕掛けて接触するような場面を減らすことができるかもしれません。また、レース観戦しているときに、状況をより理解して見れるという効果も期待できます。
・そもそも追い抜きとは
最初に押さえておくべき点として、前の車を追い抜くというのはどういうことなのか、を一応頭の片隅に入れておかないといけません。というのも、後で説明する時に出て来るからですw
追い抜くということは、無理やり言語定義化すると『ある一定の区間内において、後続車が先行車に対して区間内速度で差を付け、両者間の距離と車両長の合計に相当する距離を追いつくこと』とかいう感じになると思います。とても当たり前なことですが、ここを起点に考えて行きます。
・追い抜きの際の基本的考え方
もう1つ抑えておきたいのは追い抜きにおける基本的な考え方です。過去にも同じような話は出てきていると思いますが、基本は『先にコーナーに入った車に優先権がある』『追い抜きに伴うリスクは、後ろの車が背負う』ということです。
前の車がもうコーナーの頂点に向かって曲がり始めているのに、それよりも後ろからやや曲がれない速度で突っ込んでいき、相手に『ぶつかるか避けるかの選択肢しかない』ような状態になる、いわゆるミサイルというのはフェアではありません。
ぶつかったとしたら、それは突っ込んでいった側の責任で、避けなかった側の責任ではない、というのが基本ですし、万一相手が気づいてくれて避けてもらえたので抜けたとしても、それはうまく抜いたのではなく、相手が見てくれたからたまたま抜けただけ、というのが基本概念です。
先行車は事故によって生じる自らの損失を避けるために回避行動を取ることが最善となることがありますが、それは自身のためであって相手のためではなく、回避しなかったことで起こった事故の責任は後続車両が負うのが基本です。
日本から見ればぶつけあいレースだと思われてるかもしれないですが、NASCARドライバーでもちゃんとこの原則を守ってレースをしています。当てて相手を回しても、よほどの悪質な蛮行でない限りいちいちペナルティーは出ないですが、それでもみんな正々堂々とレースしています。
唯一違うのは、ブロックはしないのが流儀で、ブロックを多用した場合に後ろから押してどけられることがある、ということぐらいでしょうかw
もちろん、コースの形状などの多くの要素が絡むので一概にこの言葉だけで説明がつくわけではなく、極端に分かりやすい例だと、富士スピードウェイの最終コーナーは、レコードラインを通ると内側にとんでもなく大きい空間ができるので、かなり後方からでも、インベタに入ればコーナーで並ぶことができます。とりあえずはこうしたコーナーではなく、直線からブレーキを踏んでコーナーに入る状況で考えます。
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ヘルマン ティルケがデザインしたコースは、追い抜き機会と競争を生むために 意図的に間口の広いコーナーを設けていることが多い |
・まずワンメイクで考える
話の前提が変わると結論がいくらでも出て来るので、まずは前提条件を定めて1つ見て行きます。ネイションズカップで時々ある方向性、同一車種によるレースで、タイヤも同一、消耗倍率も低め、スポーツモードのマッチングなのでタイムも前後ほぼ同じような人たちが集った、という状況で考えてみます。
例えば、自分が前の車を追いかけているとします。前の車と1周の速さは互角か、僅かに自分が速いぐらいで0.4秒差前後で追走していたとします。さて、抜くことはできるでしょうか?
あるコーナーで、先行車がコーナー手前150mの位置から70mに渡ってブレーキを踏み、コーナーに向かっていたとします。では自分はどうかというと、ほぼ同じタイムの人が集っているので、通常であればやはり自分も150mで踏んでいることがほとんどだと思います。
まず、抜くためには相手と同じラインでは当然抜けないので、相手がレコード ライン=外側にいるのであれば、内側に動く必要があります。そして、抜くためには速度差が必要なわけですから、相手と同じ150mの位置でブレーキを開始したのでは自分のゴーストを追いかけているのと同じで速度差は生まれません。少しでも奥で減速を開始する必要があります。
ところが、レコードラインよりも内側を走っているということは、コーナーでの旋回半径は自分の方が小さくなりますから、いつもと同じ150mで減速を開始しただけでもやや曲がるのは窮屈になります。ましてやそれより奥で、となると曲がれないおそれがでてきます。ということは、一見すると抜けそうに見えて、抜くのはそう簡単ではないということが分かるかと思います。
GT SPORTでは1つ分かりやすい状況を作ることができます。オフラインのタイムトライアルを使って、ゴーストを0.4秒ほど前方にオフセットして出現させるようにしておき、ある程度きちんと止まれた自分のゴーストに対して、0.4秒差からイン側に並びかけて、接触すること無く抜こうとしてみましょう。
おそらく、中途半端に進入で自分のゴーストに車両の前端部分を引っ掛ける形になったり、止まり切れなかったりして、そうそう綺麗にはいかないと思います。
ノーズが引っかかる形というのは、ミサイルと違って全くダメだというわけではないですが、やったところで、自分は相手を押し出さないよう減速して小さく旋回しないといけないし、相手は外を回るので抜けません。
抜けない上に、お互い理想的なラインとは程遠い走り方をして、コーナー1つで0.3秒とか失っているので、ただ損をしてしまっています。勝負のかかった最終盤の順位争いで相手を威嚇するなら分かりますが、レース途中でやってもただ損するだけなので、それなら最初から仕掛けない方が良いため、あまりやる意味が無いんです。
上級者のレースではそれを理解しているために中途半端な仕掛けというのはみんな行わないため、結果的に綺麗な隊列のレースが続くことが多いです。本当に上手いサッカーは、ボールがラインの外に出て行かないでずっとフィールド内のプレーによって進行するので流れるような美しい試合に見えるのと似てますかね。え、そうでもない?
見た目上も心理的にも、0.5秒差とか言われると抜けそうに思いますが、こうして理屈で考えると、たかが0.5秒、されど0.5秒、抜くためには、前提条件である『相手が正しい位置でブレーキを踏んでいる』というのが崩れてくれていないと、実は難しいということが分かってきます。
・最初から並んで抜くのがセオリー
追い抜きというと、後ろからブレーキで豪快にインに飛び込んで、というイメージですが、実際そうもいかないことがなんとなく分かりました。じゃあどうすれば?という話になると、結局のところ、ブレーキを踏む前の段階で、既に相手に並んでいる状況を作っておかないといけない、ということになります。
既に並んでいるのなら、速度差は既にそこに至るまでに作ってしまっているので、あとは同じ場所でブレーキを踏んだって内側にいる方が圧倒的に有利です。逆から言えば、ブレーキの位置で並ばれることが分かった時に、初めて先行車はブロック ラインを使う意味が出てきます。
実際には、無理やり突っ込んで来る人がいたら、0.5秒差だろうが1秒差だろうがインを抑えておかないと何をされるか分からないので予防策を取ることはありますが、上述のようにその距離から普通に抜くのは無理なので、ぶつかっておいて『ブロックラインをとっていないのが悪い』というのは違います。
・高速コーナーは基本的に抜くのは不可能
レースに慣れている人だと、「ここはラインが一本だから抜けない」といった概念をお持ちの方も多いでしょう。分からない側からしたら「そんなん知るかい」と言われてしまいそうですが、上の理屈で考えれば大まかに説明できます。
追い抜くには速度差が必要で、コーナーの入り口で速度差を作るにはブレーキ位置を相手より遅くするしかありません。先ほどは70mのブレーキ区間があるコーナーだと仮定しました。ではこれが20mしかなかったらどうでしょうか。
ちょっとしか減速しないのですから、たいていは高速コーナーの手前だと思います。そもそも20mしかないブレーキ距離で相手より奥で、と言ったら、ちょっと奥まで行けばもうコーナーです。そんな短距離で相手の内側に入って、なおかつ内側から曲がれるかと言われたら物理的に無理です。
そして、ブレーキで100km/h以下のゆっくりした速度まで落として曲がるコーナーと比べて、こうした高速コーナーは減速を終えるや否やコーナーに向かってすぐハンドルを切り、ちょっとそのタイミングがズレると曲がれないことが多いと思います。相手が来たと認識した時にはもう既に曲がっていて、避けようにもラインを外れたらコース外だし、そもそも高速なのでラインの変更自体が容易ではありません。
鈴鹿サーキットのデグナーや130Rは『ライン1本コーナー』の代表格と言えますが、こうしたコーナーで相手より奥でブレーキを踏んだって、確実に曲がり始めている相手に接触します。
先ほど書いた『前端が引っかかる』状況、低速コーナーなら先行車にも内側を空けるだけの時間と速度とグリップの余裕があるでしょうが、こうしたコーナーでは困難です。ですので、こうしたコーナーでは引っ掛けるような動きは事故を招くので、状況としてはよりミサイルに近くなりますので要注意です。
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デグナーで鼻先だけ入れられても、先行車にはどうしようもない。 こういう場所では牽制はしても、相手のラインに重ならないよう 後続車が気を付けて走るのが重要 |
・なぜリアルでは遠くから抜けるのか?
とまあここまで書けば当然、「いやいや、F1でもGTでもすんごい遠くからブレーキで抜いてるぞ」という話になると思います。ここでようやく話が次の段階に進みます。いつも通り回りくどくて長いですが、世の中144文字で説明できるほど簡単にはできてないのでもうしばらくお付き合いください。
先ほど前提条件として設定したのは、
『同一車種によるレースで、タイヤも同一、消耗倍率も低め、スポーツモードのマッチングなのでタイムも前後ほぼ同じような人たちが集った』
という状況でした。これらの条件では、ブレーキを踏んだ際の制動距離も基本的に同一になります。
というのも、GT SPORTはゲーム内の標準ABSがあり、基本的に誰が遊んでもABSを入れて100%のブレーキを使用すれば、トップランカーでも私でも今日ゲームを初めて開封した人でも、単に制動距離という一点だけを切り取れば差は出ないからです。しかも、いつどんな状況でも同じ制動力を得られます。
制動距離が同じになってしまうので、ブレーキで勝負しようとしても、相手より短距離で減速を完了できずに追い抜きができないわけです。
ところが実際のレースではそうはなりません。理由はいくつもありますが、1つはブレーキの摩耗です。ブレーキは使えば摩耗して性能が低下しますから、常に同じ性能を発揮させることができません。適切な温度でなければ性能は下がりますし、酷使して限界温度を超えると猛烈に摩耗しますし、最悪の場合壊れます。ですから、常に全力でブレーキを踏めるわけではありません。
ステアリング コントローラーの方の場合どうなのか分かりませんが、デュアルショックなら指先一つで楽々ブレーキをかけられます。実車はそれなりの脚力が無いと完全に効かせること自体が楽ではありません。こうした要素は、当然GT SPORTにはありません。
制動距離が大幅に異なるのであれば先ほどの前提は崩れます。普段なら150mから減速している人が、ブレーキを使いすぎて冷やさないといけないので普段より早く180mで踏んでいれば、こっちがいつも通り150mで良いのであれば、相手から速度差を作ってくれることになりますから抜ける可能性が高まります。
タイヤの状態も内圧や摩耗状況、フラット スポット、場合によっては使用メーカーやスペックもバラバラなので、全て制動距離に影響してきます。レースを見ていて思い描く『カッコいい追い抜き』には、こうした様々な要素が絡みあっているので、言い換えればそういう条件が揃っていない状態でゲームでやろうとすると、ただ事故になってしまうわけです。
言い換えれば、最初に設定した条件に該当しているのであれば、プロが実車でレースをしても追い抜きは極めて困難になると思います。
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オフラインの対AI戦ではブレーキでどんどん抜けるが、 これはAIのブレーキ位置がかなり手前だから。 対人戦、ましてや似た力量の相手ではそうはいかない |
一方でリアルでより顕著になる、より追い抜きを困難にしている要因というのもあります。特に影響が大きいのが後方乱気流と路面の汚れです。
後方乱気流は後続車のダウンフォースを減らして曲がりにくくしてしまうので、そもそも追い抜くための距離に近寄れないという問題を生み出します。速度域の高いカテゴリーほど顕著になりますね。
GT SPORTでも相手の後ろにつくとダウンフォースは多少失われますが、実車の影響度合いと比べればはるかに小さい影響だと思われます。実車の影響をリアルに反映していたら、スーパーフォーミュラなんて扱えたもんじゃないと思います。
また、追い抜きをするためにラインを変更すると、路面の汚れやタイヤカスを拾ってグリップ力が低下してしまうため、ただでさえブレーキで相手より短い距離で止まる必要がある後続車両に悪条件が襲い掛かります。
レースが進むほどタイヤカスは増加しますし、一回踏むとしばらくグリップ力が戻らないこともあるので、追い抜きをかけるのは勝負所で少ない回数にしておかないといけません。
プロのドライバーはこうした全ての事柄をもちろん把握していますので、今自分が置かれた状況で、追い抜きをするための条件が整っていないと考えれば無駄な勝負はしません。条件が揃ってくれるように、相手を追い込んでタイヤやブレーキを使わせていくわけです。この間の争いというのが、外から見ていると『追い抜きの無い隊列走行』の状態と考えられます。
それを見誤った時が、ペナルティーを伴うような接触事故が起こる時だと考えられますね。
・GT SPORTで"条件"が崩れる場面とは?
では、GT SPORTでは絶対起こらないのかと言えばもちろんそんなことはありません。まず、先ほどはワンメイクを前提にしましたが、車種が異なれば制動距離も変わってきます。
BoPを適用したGr.3車両の場合、マクラーレンF1 GTRのようにあからさまに仕様が異なる一部車種を除けば、単体での制動距離はほとんど同じだと考えた方が良いですが、Gr.4だと軽量なFFと重たい4WDでは差が出ます。もちろん、旋回速度の速い車はそもそも減速は少なくて済むのでその差も出ます。
と言っても、何十mも極端に変わるほどではないので、シロッコなら3車身も4車身も離れたところからブレーキでGT-Rを抜けるわけではありません。過信するとぶつかります。
タイヤが複数スペック制だとグリップにも差が出ます。新品同士であれば、レーシング ソフトとミディアムはそこまで極端な差が出ないのでうまくやらないと難しいですが、新品ソフトvs中古ミディアム、といった状況なら進入速度を含めて総合的にかなり差が出るので、後ろから行って深くブレーキで飛び込んで抜けることはあります。
当たり前ですが、タイムが1周で2秒も違う人同士だと、車の曲げ方もだいぶ違うのでそもそも基本的なブレーキ位置がだいぶ違います。ABS禁止の設定なら、ブレーキの巧緻そのものが制動距離に露骨に影響してくるでしょうがスポーツモードではまず無いでしょう。
とはいえ、こうした場面は局所的なものなので、『基本は抜けないんだけど』ということはまず前提として常に頭に入れておいた方が賢明だと思います。
スリップストリームから出て、パッとインに動いて内側に飛び込むことを考えるのであれば、こうした差が生まれる状況にあるのかどうか、ということを頭の中できちんと整理しておく必要があります。そうでないと、ただ強引に突っ込んでは相手を引っ掛けたり、抜いたと思ったら2台前方の車を撃墜したり、自分が飛び出したりするだけです。
そうした場面が多く出てしまう、という方は、そもそもそのやり方をするにはまだ実力が不足している可能性があるので、『抜かずに待つ』という選択肢を持ち、確実に並んでコーナーに入れる時を待つ、というのをまずは身に付けた方が良いと思います。
・抜くために重要なのは脱出
序盤にも一度書きましたが、追い抜くための必要条件を考えて行くと、理屈の上ではコーナーの入り口でブレーキで追い抜くのはかなり難しいことが分かります。ではどうやって抜くかと考えると、当たり前ですが入り口に辿り着くまでに並んでしまって、何なら抜いてしまうのが最適なわけで、そのためには抜きたい手前のコーナーの脱出が大事です。
考え方を転換して、『コーナーの脱出~コーナーに入るまでに勝負する』と考えると、手前のコーナーのライン取り、手前で相手が脱出速度が鈍るように誘うための牽制、重圧のかけ方はどうすれば良いか、という風に考え方が発展していきます。
ブレーキでインに突っ込んで抜くことだけを考えるとボコボコぶつかってしまうわけで、発想を転換してみると、違ったものの見え方がしてくるのではないかと思います。
・制動距離を短くする方法は?
最初に挙げた条件下では、基本的に制動距離は同じになると書きましたが、その限られた条件の中でも厳密に言えば制動距離を短くする方法はあります。
1つは、単純に荷重移動やライン取りを最適化させて、そもそももっとブレーキを奥で踏んでも曲がれるようにすることです。これは絶対的に力量が上昇して、他のドライバーの条件が変わっていなければ『同じようなタイムの人が集う』状況を自分から崩しているので、今回は話の対象から外しました。
もう1つはブレーキの強さとABSの設定です。理屈の上では、最も制動距離が短くなるのはABSを使用せず、それでいてロックさせずに完璧な踏力でブレーキを使用することだと思います。でもまあ99%のプレイヤーには無理難題でしょう^^;
ABS弱と標準では、弱の方が制動距離は僅かながら短くなります。ただ、それはあくまで制動という一点を見た時の話で、弱の場合介入が弱くなる分だけ前輪に旋回に回すだけのグリップ力の余力が少なくなるため、踏力をある適切に調整しないと、ステアリングを切っても車が曲がってくれません。調整できないとなると、曲がってくれないから早くブレーキを踏んでしまい逆効果になります。
で、標準でABSを使う人が多数だと思いますが、介入の度合いによって微妙に制動距離は変わります。高速域で真っすぐブレーキを使用する場合などは、ABS任せに100%で使用するのは最も効きが良くなります。
一方で、100km/hを下回るような低速域では、ブレーキを80%ぐらいに抑制してあげた方が、実は僅かながら効きが良くなることが多いです。(いくつかの実証実験をしたことがあります)
ABSの介入具合が影響しているようで、多く介入する(ブレーキを踏んだ時に、ゲージの赤い領域が多くなる)場面ではある程度緩く踏んだ方が多少効きが良くなります。タイヤのグリップが圧倒的に高くて、かつ路面がスムーズな箇所であれば、赤い部分はほとんど出て来ない=ABSはほぼ不要な状態となっており、全力で踏んだ方がよく効きます。
旋回ブレーキを行うコーナーはABSが猛烈に介入してくるので、緩く踏んだ方が止まるし、タイヤのグリップを横方向に余らせているので当然こちらの方が曲がります。ドライビングにおいて力量差が出る箇所と言えます。
インテルラゴスのターン1なんかは、長い直線から低速域まで減速が必要で、かつやや曲がっていて旋回ブレーキの要素もあり、しかもレコードラインをとると間口が若干ですが広いので、仕掛けやすいような構造になっていますね。それでも無理するともちろんぶつかりますよ^^;
・プロだって譲る時はある
なんとなく、プロのドライバーは常に100%争い続けているというイメージがあるかもしれませんが、実際はそういうわけではありません。いわゆる登竜門カテゴリーで、レース距離が短く、このレースでレース人生が全部決まる、という若い人が集まるようなレースであれば全周全力という感じですが、距離が長い、我々が多く目にする類のレースではそうとは限りません。
実際の車はゲームと違って消耗品でもあり、上述したようにブレーキ1つとっても大事にしてあげないといけません。現実的に、優勝を狙える立場の人・組織とそうでない立場の人たちがいますし、最終的にこのレースで何を達成したいかは異なります。
ですので、今無理をしてブレーキとタイヤを酷使してでも順位を守ることが自分たちにとって有益ではない、と考えれば、争わず相手を先行させることはあります。
F1だと、マクラーレンはランド ノリスとカルロス サインツが非常に堅実に入賞していましたが、彼らは展開でたまたま上位を走ることがあっても、メルセデスやレッド ブルが後ろから来たら、一切ブロックもせず抜かれていることが多いです。
NASCARでも、ブレーキとタイヤに厳しいマーティンズビルあたりでは、相手に道を譲っていることは非常に多いですし、SUPER GTでもそういった場面はあります。こうした知識が頭にあると、レースの展開を見る時にまたちょっと違った見方ができて面白いです。
明確にアクセルを戻したり、ウインカーを出して譲るようなことはもちろんしませんが、『インに入ってくるんでしたらご自由にお先どうぞ』という感じで無理をせず走る場面というのはあります。
中には、見ていて「これは譲ったなあ」と感じる部分で、えらい大げさにすごい追い抜きをしたような実況をしている時もあります。ですので、こうした追い抜きを「ブレーキングで抜いたんだ」と誤解してゲームで真似すると、相手は譲ってくれてはいないので、やっぱりぶつかります。
というわけで、長々と、プレイヤーの視点から見て、なぜ追い抜きは難しいのかについて理屈っぽく書き連ねてみました。
まとめとしては、追い抜きは基本的に既に並んでいる状況でないと無理だと考えておき、基本は相手のミス待ち。状況判断ができるようになったらそこからバリエーションを増やす、ということになると思います。
レースを観戦しているだけでは実感としてなかなか分からない部分が、ゲームで体験してみると実体験としてより理解が深まる部分がありますし、理解が深まると、またレース観戦でそれを念頭においてより深くレースを理解することができます。これはなかなか他の競技では起こらない、リアルとバーチャルの面白い関係性だと個人的には思いますね。
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