FE 第5戦 バレンシア

ABB FIA Formula E DHL VALENCIA E-PRIX
Circuit de la Comunitat Valenciana Ricardo Tormo 3.376km
45minutes+1Lap
winner:Nyck de Vries(Mercedes-EQ Formula E Team/Mercedes-EQ Silver Arrow 02)

 フォーミュラE、第5戦と6戦はバレンシアでの2連戦。常設サーキットであるリカルド トロモ サーキットが舞台です。FEではオフのテストで使用する常設サーキット、どうしても今の車両では迫力に欠けてしまうで、どうなるのかちょっと不安です。
 ここは基本的に2輪のレースで使用することが多いですが、NASCAR Whelen Euro Seriesでは毎年開幕戦の開催地になっており、以前にはDTM、FIA GT、フォーミュラ ルノー V6 3.5などのわりとでっかい車でのレースも行われています。
 
公式動画で見た目上ラウンド6と書いてありますが5も同様です

 いくつかのレイアウトを使えるように設計されたコースですが、ターン9はその先の区間を短縮して、鈴鹿サーキットで言えば東コースのショートカットみたいな部分でものすごく鋭角。
これ以上ないV字コーナーのターン9

 そしてターン13~15は本来なら直線のところに壁を作って、ピット入り口側へ迂回するように無理やりコーナーを追加した形状になっています。
仕掛けたら200%事故りそうな最終シケイン

 市街地では加速と減速を繰り返し減速時に回生を行うことになりますが、ここは普段のFEのレースから考えると、全開時間が長くていくつかのコーナーは中高速なので、エナジー管理が大変ではないか、と前日のブリーフィングでも話題に上がっていたようで、SC導入時のエナジー削減をいつも通りに行うべきかどうか、という話し合いがなされていたそうです。
 あ、見て分かりますが、今回から『エネルギー』ではなく、英語に寄せて『エナジー』と書くことにしました。エネルギーはドイツ語のEnergieから来た発音ですし、Monster Energyをモンスター エネルギーとは言わないので、前からちょっと違和感がありましたw

 予選、スーパー ポールで最速だったのはストフェル バンドーンでしたが、タイヤの使用に関して、登録されていないものを使ってしまったということで予選結果から除外され最後尾となってしまいます。
 FEの場合、タイヤの仕様は1種類しかないですし、タイヤの登録はインチキしても絶対バレるのでわざとやることはありません。単純に手続きや作業上のチームのミスだと思われますが、ドライバーからしたら何とも言いようがない最後尾スタートです。これによって、アントニオ フェリックス ダ コスタがPPとなりました。


 決勝は雨になって3戦連続のSCスタート、1周だけしてすぐ退出し2周目からレースが始まります。ダコスタはいきなりリードを築き、2位のマキシミリアン グンターは3位のアレックス リンとの争いになります。
 しかしいきなり事件発生、ターン9でアンドレ ロッテラーがセバスチャン ブエミに対して完全にミサイル。ブエミはグラベルに後輪がハマってしまい動けず、FCY→SCとなります。ロッテラーはノーマン ナトと並走して争っていましたが、そっちに気を取られてブレーキが奥に行き過ぎた感じです。ロッテラーは当然ながらこの後ペナルティー。
こんな角度で当たられたら絶対避けれない


 残り35分ほどでリスタート、SC中に雨が増えた気がします^^; ダコスタはまたもすぐにリード、グンターはこの状況ではペースが上がらないようです。リンが煽りますが、その後ろからはニック デ フリースが急接近。前戦で事故を起こしてグリッド降格ペナルティーを受け7位からのスタートでしたが、さすがメルセデス自慢の若手だけあってものすごい速さで追いつきます。

 デフリースはリンとグンターを相次いでかわして2位へと浮上。リンもグンターを抜いて行きます。いつもならエナジー管理のためにそこまで極端なペース差が出ないレースですが、今日はかなりの雨でそんなことよりも単純な速さがかなり重要です。とはいえ車載映像を見るとリフト&コーストは行っているので、雨だからエナジー管理を無視して全力でレースできるというわけではなさそうです。

 段々と路面水量が増えて行く中で各車1回目のアタック モードのサイクル。といっても、この状況で出力を上げてもらってもほとんど役に立たないので、義務消化のために捨ててる感じすらあります。変に残した結果、赤旗で未消化のままレースが終わるようなことがあると困るのでその方が得策ですね。

 残り25分、苦しんで徐々に順位を下げて6位になっていたグンターがターン2で飛び出してしまいスナ―バックス突入。これでSCとなってダコスタは築いたリードがリセットされてしまいました。ドライバーのバイザーにカメラを仕込んだ車載映像では、ステアリング上の数字が見えないようモザイク処理がされていますが、下を向くとモザイクの範囲からステアリングが外れて数字が見えてしまっています、大丈夫でしょうか^^;
※グンターのステアリングに卑猥なものが映っているわけではありません


 5分ほどで作業が終わり残り20分ほどでリスタート。ダコスタとデフリースの正面からの争いになります。デフリースにはエンジニアから「ダコスタの後ろについていけ」と指示。無理にしかけず、まずはエナジー管理をして様子を見ようという流れでしょうか。

 この後、3位との差が少し開いた隙にデフリースが2回目のアタックモードを発動、するとその直後に10位争いのあたりでミッチ エバンスとセルジオ セッテ カマラがターン9で接触。序盤のロッテラーと似たような当たり方で、セッテカマラが砂場にハマりました。これでまたもやSC導入、選手権2位のエバンスはこれで車を壊してリタイアです。
 残り15分ですからリスタートから5分しか経ってないですね。ダコスタはこれで1回のアタックモード消化義務を残した状態でデフリースと争わないといけません。

 残り10分ほどでリスタート、ダコスタはここで持っていたファン ブーストを使って少し差を広げ、すぐさまアタックモードを取得。ギリギリ抜かれずに済みました。デフリースは2%ほど残量が多い状態でうまく管理できているので、ダコスタのアタックモードが切れたところが勝負です。

 が、残り5分、アンドレ ロッテラーとエドアルド モルターラが接触し2台ともグラベルへ。モルターラはアクセルを踏み続けて脱出に成功。しかしロッテラーがハマってしまい、またもやSCとなりました。今日は5分ごとに何か起きます^^;

 元々シミュレートしている状況とはだいぶ異なるのでエナジー残量は普段よりもバラバラ、そしてこの後に前代未聞の事態となります。

 SC退出のタイミングで、ダコスタの先導ペースによって残り時間0で通過してあと1周か、時間を残して通過し2周か、という状況でした。見た目上各車は17%前後の残量表示ですが、SC中は走行時間1分に対して1kwh=約2%の残量削減が行われるので、約5分のSCでここから10%が取り除かれます。
 ダコスタはターン12の出口あたりから一気に加速していき、残り15秒というところでコントロール ラインを通過。これで残りは2周、そして、加速して既に数%使ったところで10%削減を行った結果、なんと各車の残量は4%前後、え、これ2周できるの???
ほぼ全員の残量が既にヤバいけどここから2周あります


 ナトに至ってはリスタートしてすぐにもう1%でどう考えても無理。そしてリーダーのダコスタですら、4%でリスタートし、1周して戻ってくるとあと1%、どう考えても配分がおかしい状況です。他の車も多くは既に1%を割り込む状況で完走できるかが怪しく、上位ではデフリースだけがちゃんと走っている状態です。

 ダコスタは最終周に入った瞬間に失速、デフリースはトップに立ちますが、もう残量が0のオリバー ローランドがヤケクソなのか、指示されている情報と違ってしまっているのかこれを追走。デフリースにはローランドを無視するように指示が飛びます。


 結局デフリースはきちんと管理してトップでチェッカー、しかし2位以降は残量の無い人が大量に帰ってきて見た目と結果が全く一致しない状況となりました。
 ローランド、アレクサンダー シムズはチェッカーを受けるも失格。4番目に戻って来たニコ ミュラーが2位で初の表彰台を獲得しました。スタートは22位、リスタート時は15位でしたが、残量がたっぷりあったのでうなだれている他の車を楽々抜いてきました。
 3位にはなんと最後尾スタートのバンドーン。アタックモードをレースの最後に起動したせいで消化しきれずペナルティーを受けましたが、4位のニック キャシディーがあまりに離れていたのでタイム加算を受けても順位が変わりませんでした。
 レース後の暫定結果時点で完走は12台でしたが、何せ検証することが多いので結果はさらに変動し、暫定では完走扱いだったダコスタ、リン、そして選手権リーダーのサム バードも失格。正式な完走は、なんと入賞台数を下回る9台だけとなりました。
 最後にチェッカーを受けたジャン エリック ベルニュは通常の2倍の4分近くをかけて最後の1周を回って来る異様な光景でしたが、この献身的低速走行によって貴重な2点を手にしました。

 当然レース後はこの騒動であれこれと発言が相次いだようです。何が起きたのかを含めて海外サイトをいくつか見ましたが、SCの導入が繰り返されたことで、終盤に向けてチームの計算が狂ってしまったのが最大の要因なのは間違いなさそうです。
 今回は残り2周か1周か、という微妙な距離で、チームによっては「ダコスタは残り時間を0にしてあと1周でリスタートするだろう」と考えていたと思われます。というか、私もそう思いました。
 フォーミュラEと革新的スポーツ プロジェクトのFIAディレクター・フレデリック ベルトランは
「それが失敗かどうかは分かりません。レース終盤のグローバルなアプローチだと思います」
「確かに、この選択が行われ、余分に1周することになったのは驚きでした。印象としては、それが多くのドライバー、特にリーダーにとって困難だったのは明白です。」
「これは驚くべき選択であり、おそらく彼らの数多くのエナジーの管理方法と関連していて、同様に蓄積する方法も理解しています。」
「全ての状況を見ると、とてもトリッキーなレースでした。最後の数秒のところで何かが起こるわけですが、おそらく最後のその決断は正しくありませんでした。」
「しかし、終わってから何が悪かったかを口にするのは、起こる前に言うよりも遥かに簡単です。」
「別の選択(=残り2周でリスタートすること)によって明らかにレースの終盤は困難なものになりました。2周の方が遥かに難しい挑戦でした。15秒というのはとても重要でした。」


と、やはりダコスタの選択がレースに大きく影響を与え、言ってしまえばライバルも巻き添えに自爆したというような印象です。
 しかし当然ダコスタとすれば、はいそうです自爆でした、とはならないので、FIAの主張に反論しました。

「悪いけど、FIAのこの話は受け入れられない。もし自分がSCの後ろでもっと遅く走っていたら、何チームがウチに抗議して来ただろうか?それに、自分がゆっくり走ったら、もっと多くのエナジーが削減されていただろう。」
「モータースポーツ ファンからすると、今日はフォーミュラEにとって大きな日だった。なぜなら、我々が初めてパーマネント サーキットで行うレースだからね。」
「自分では新しい目を惹きつけたと確信しているけど、彼らにもっと見てもらおうという気ではない人たちもいるみたいだね。」
「これがフォーミュラEの全てではない、自分たちが伝えたいイメージではないよ。ジョーク オブ ザ ウイークになるんじゃないかな。我々にとって良い日ではなかったし、ファンにも申し訳ないと思うよ。」

 ダコスタからすると、レースの最後をぐちゃぐちゃにした非は運営側にあるという考えのようです。仮にダコスタがもうちょっとゆっくり走って削減量が6kwh=約12%になってしまったら、それはそれでこっちに文句が来るからそんなことできるかい、というのと、そもそもレースの最後にいきなりあんな少ない残量で走らせるのがおかしい、と、若干ファンを盾にしてる気もしますが主張しています。

 実は、SC/FCY中に1分=1kwhを削減すると規定した競技規則37.9の条文には
「レース ディレクターには、必要と判断すればこの削減を行わないよう決める裁量がある」
と定められているので、ダコスタがこの条文を念頭に置いているのなら、「ここは必要だと思う場所だろ」というところかもしれません。

 しかし実際のところ、ダコスタが15秒粘ったとして、困ったのってナトぐらいで、あとは2%ぐらいの残量でひいこら言いながらもなんとか走れた気がするので、2周の方が困難だったと思います。そんなに抗議が来たとは正直思えません。
 計算して指示したのはチームやエンジニアでしょうから、あれこれ計算しているうちに判断を誤ったという方が解釈として妥当だと私も思いました。確かにひどい結末になってしまいましたが、元々そういうことをさせるレースなわけですし、ダコスタに関しては52kwhを使い果たした面々より僅かながら残量が多い状態でリスタートしていたので、損切りして最初からマネージメントしていれば完走は行けたように思います。
 映像を見返すと、ダコスタはデフリースの加速のタイミングを外すためにターン12の出口から踏んでいき、ここからストレートに戻るまでの短い区間であっという間に3%ほどエナジーを消費しています。もっとひきつけてターン14から踏めば1%は稼げたように思いますし、そこまで待ったらたぶんあと1周でした。

 チームも『裁量』に期待したのかもしれませんが、すぐに目標を切り替えられずに妙に攻めて走ってしまったのがまた失敗なわけで、もちろん当事者なので怒る気持ちも、この件でチームを批判なんてできないので矛先をFIAに向けるしかないのも分かりますが、反論はやや的外れに感じました。
 後から言うのは簡単なので、実際はあれこれと計算した末の決断だったと思いますが、これはやっぱりFIAではなくチーム側と、なぜこうなったのかの話し合いをした方が建設的だと思います。たぶんしているとは思いますけどね。

 ずっとフォーミュラEを見てきましたが、誰も完走できないんじゃないかと思うレースはさすがに初めてでした。結果的にメルセデスの管理の上手さが光ってF1と同じ感想になってしまいました。
 前戦終了時点ではジャガーの2人が1、2位だったわけですが、これでドライバー選手権はデフリース、バンドーンが1、2位、チームでもメルセデスが1位となりました。

 次戦も同じバレンシアが舞台です。日曜日は雨の予報ではないので普通のレースが見られそうですかね。

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