FE 開幕戦 ディルイーヤ

ABB FIA Formula E World Championship
Diriyah E-Prix 2021
Riyadh Street Circuit 2.49km 45minutes+1Lap
winner:Nyck de Vries(Mercedes-EQ Formula E Team/Mercedes-EQ Silver Arrow 02)

 7年目のフォーミュラEが開幕しました。今季からFIAの世界選手権となって格が上がりましたが内容は同じです。従来の慣例に従って『2020-2021シーズン』と呼ばれますが、昨年のCOVID-19感染拡大による影響で2020年にはレースを行えず、2021年に全レースが開催されます。しかし元々予定されていた開幕戦・サンティアゴは延期されて、当初2ラウンド目だったディルイーヤが開幕戦となりました。

 本来であれば世界選手権に合わせてGen2 Evoと呼ばれる改良型車両を導入予定でしたが、これも延期になったので昨年と同じ見た目の車両となっています。ただパワートレインは各チーム開発をしてきており、アウディーは従来のシェフラー主導のものではなく、自社開発のものを開幕前に誇らしげにお披露目していました。

 ところが、その誇らしげなお披露目の僅かに数日後、アウディーは今季限りでのフォーミュラE撤退を発表。同時に2022年のダカール ラリーに電動車両で出場すると発表し、パワートレインお披露目会はどうも来年のダカール参戦プロモーションのダシに使われた感があります。
 さらに、その2日後にはBMWも同じく今季限りでの撤退を発表。なんだかDTM崩壊を思わせるドイツ企業の唐突な撤退により、フォーミュラEは早くも重要な節目を迎えてしまった感じがあります。
 パワートレインに関しては、今季のパワートレインでホモロゲーションを取得すると来季終了までの開発凍結となっているようで、チームは開幕段階で新型を投入するか、旧型で戦っておいて、後々より開発に時間をかけたものを投入するかを決めることができ(別に旧型のままでも可)、DSテチーター、日産e.dams、ドラゴン/ペンスキー オートスポートの3陣営は開幕段階では旧型の継続使用となっている模様です。


 レースの方に参りましょう、このレースはフォーミュラE史上初の夜間レース。グリッド紹介ではトップ10にはそれぞれスポットでライトが当たる演出もされて、環境に配慮してるんだか電気無駄遣いしてるんだかよく考えたら謎ですw

 PPはニック デ フリース、2位にポルシェに移籍したパスカル ベアライン。昨年の選手権上位勢は予選で路面が汚れている第1グループに回されるので、当然タイムは遅いため軒並み下位に沈みます。

 スタートではデフリースが抜群のスタート。ベアラインはやや出遅れたため、安全にデフリースがリードを奪います。これをレネ ラストが追う展開となりました。タイヤ内圧の僅かな設定の差がレースに大きく影響するレースですが、夜にレースをすると予選と比べて大きく路面温度が下がるので、このあたりのセッティングが気になるところです。

 ちなみに、J SPORTSの放送内で『フォーメーションで半周した人よりピット レーン スタートを選択した人の方が電力的に得するのでは?』という話になっていましたが、バッテリー容量は54kwhで設計されており、『レース中にドライバーが使用できるのは52kwh』と規定されているため、レース開始前に2kwh以上無駄遣いしてレースを開始していない限り、どっちからスタートしても使用可能量52kwhは変わりません。

 デフリースは1.5秒前後のリードで維持。4位のエドアルド モルターラがラストから3秒ほど離されており、この後ろに大きな隊列が形成されています。しかし開始12分、後ろが少し詰めてきているし、ベアラインのペースが落ち気味だぞ、と前を抜くよう発破をかけられたラストがターン18で外から豪快に抜いていきます。抜かれたベアラインはすぐそばにあるアタック モードのアクティベーションを通過して逆襲の構え。
 このあたりからアタックモードを使うドライバーが増えてきて、コース上の順位変動も多くなってきますが、ベアラインはアタックモードを使ったのに後ろから追われている状況で苦戦を強いられます。
 これで後続とうまく差を広げることができたラストは順位を下げることなくアタックモードを起動、一気にデフリースを追い上げることに成功します。

 開始20分、ターン1で6位を争っていたサム バードとアレックス リンが接触。ちょうど向かい合ってお互いの車が刺さる格好となりました。バードは動けたものの、リンの方は自走できずに車を止めてしまいSC導入となります。ちょうど各車は1回アタックモードを使い終えたぐらいなので、似た条件での後半戦となりそうです。
ちょうどええ感じにノーズが刺さる


 この接触、バードはフェイントでアウトからインへ動き、それをリンが閉めていきましたが、バードはあの角度で入ってもたぶん曲がれないから当たるか相手を追いだすかだし、かといってリンも閉めすぎて直線部分でもうバードが壁に押しやられてるので、避けられたはずの接触事故をわざわざ起こしてしまった責任はあります。個人的にはバードから見て6:4ぐらいの責任かなあと思いました。
後からノーズを突っ込んできたならまだしも、
車両長の半分は並んでる相手に寄せていった結果相手が壁に当たり
最終的に自らもダメージを負ってどっちにも何も良いことは無かった


 残り約14分30秒でリスタート、デフリースはすぐさまペースを上げて1.5秒差をつけ、順位を下げずに2回目のアタックモードを消化します。するとその直後に6位のマキシミリアン グンターがミスってバリアに直撃。SCが出るかどうか、という雰囲気の中で2位のラストもアタックモードを使用。これでモルターラに抜かれ、その直後にSC導入となります。
 リスタート直後の間隔が狭い時間帯に、ラインが1本の連続S字区間にいきなり壊れた車がスロー走行したのに、後続車両が被害なく通過していったのは幸運でした。グンターは前の事故で6位に上がったのに、自らそれを捨てる形となりました(´・ω・`)

 ラストは一見するとSCでアタックモードが無意味になったようにも見えますが、残りのレース時間が短くなっており、アタックモードをまだ消化できていないと、リスタート後には状況がどうであろうとアタックモードを使わざるを得ません。そういう点で、ここであえて空打ちさせた方が良かった可能性もあります。

 残り6分弱で2度目のリスタート。デフリースはやはりリスタートから速く、モルターラもできるだけアタックモード発動前に差を広げるべく追跡。結果、モルターラはアタックモード使用でラストに抜かれはしたものの、すぐ後ろで復帰したため、翌周の裏ストレートであっさりと2位に返り咲きました。
 デフリースがあえて少し緩めて走っておけば、モルターラはもうちょっと苦労をさせられたはずなので、前が速かったのはお得でした。ベンチュリーはメルセデスのカスタマーなのでメーカーの偉い人はにこにこしていることでしょう。

 ラストとすれば、後続もみんな既に2回目を使った後であれば、アタックモードをSC後に使った人はその集団に埋まりますが、今回はほぼみんな2回目を残していたせいで後続はみんな同時使用=順位が変動せず壁も無い状態でアタックモードの車が追っかけてきます。結果としてはやはり空打ちはやや不利に働き、この後ミッチ エバンスにもかわされ、このレース4位でした。

 デフリースは抜群の速さでそのままトップでチェッカー、フォーミュラE初勝利を挙げました。メルセデスはベンチュリーとともにパワートレインで1、2位となり、メルセデスのもう1台・ストフェル バンドーンも8位ですからかなり良いものを仕上げて来たのかもしれません。


 序盤やや抑え気味でしたが、ストレートでアタックモードを使って豪快な2台抜きを見せるなど映像的にも盛り上げたモルターラ、2位は見事な結果だと思います。この2台抜きの際には130mph=209km/hを記録したとのこと。かなり速いですね( ゚Д゚)
 ジャガーのミッチ エバンスが6位スタートで3位。パナソニックがスポンサーなら抜けましたが、今年も私はエバンス推しで行きます。旧型でがんばった日産のオリバー ローランドは6位、一方チームメイトのセバスチャン ブエミは最後の電力切れしたらしく13位でした。
 ラストは去年はスポットで出ただけでまだまだ経験が浅い中で良いレースでしたが、最後にみんなが電力ギリギリな中で1%も余っており、そういう点では使いどころがちょっとうまく行かなかったところがあったかもしれませんね。

 F1だけにとどまらずFEまでメルセデス無双かよ、なんて言われると返答に窮しますが、ドイツの2メーカーが背を向けた中で、『いやいや、どんなレースにも技術的にフィードバックする価値があるんだぞ』と、とりあえず表向き発言して、きっちり仕上げる仕事をしてきたのですから称えられてしかるべきです。
 そもそも、見る側からすると退屈だとはいえ、その退屈になる道具は空から降って来たわけでもお金を積めば勝手に完成するわけでもなく、人が考えて働いて作り上げたものなのですから、道具の源泉にある人間や組織の力というところまで見て考えると、「つまらない」の一言で切り捨ててしまうのはいささか作った方に失礼では?とここ数年思うようになってきました。
 次戦も連戦でディルイーヤです。

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