SUPER GT、今さらの初歩的なお話(競技編・1)

  今回はSUPER GTの主に競技面について、良く出て来る単語の解説なんぞもしつつ書いて行きます。すごく基本的な話が中心ですが、たまに脱線したりしつついつも通り進めていきます。なお、競技規則面では2020年のもので書いているので、2021年以降変更されてこの内容と異なる可能性があります。

※書いてたら思ったより長くなったので2つに分けます


・基本的なレース方式

 SUPER GTは基本的に300kmのレース距離で行われ、セミ耐久などと呼ばれます。2020年は特殊な日程となったため全戦300kmでしたが、2019年で言えば250km、500km、800kmが各1戦、残りの5戦が300kmでした。

 GT500クラスとGT300クラスの2クラス混走で、GT500はGT300を周回遅れにしつつレースを進めていきます。別クラスの車両を抜く技術、抜かれる技術もかなり重要で、新人ドライバーは速さはあってもこの駆け引きでベテランに後れをとることが非常に多いです。

 なお、レース距離が300km、例えば66周だったとしても、両クラスそれぞれ66周するのではなく、全体で1位の車(よほど天地がひっくり返ることが無い限りGT500の1位)が66周を終えるとチェッカー フラッグが振られ、以降そこを通過した人から順次チェッカーを受けてレースは終わります。

 GT300のトップも例えば61周でチェッカーを受けたらそこで終了ということになりますから、通常GT300の実際のレース距離は設定よりも短くなります。レースを知ってると当たり前なんですが、本当に初めて見る方はたぶん分からないので一応記しておきます。


・ドライバー交代義務と2/3ルール

 レース中にはドライバーを必ず交代する必要があり、なおかつ1人のドライバーは設定レース距離の2/3以上を走ってはいけないと規定されています。66周のレースであれば最大44周までです。

 よくテレビ中継では『1/3走ったからピットに入っても大丈夫』『まだ1/3走っていない』などと、『1/3ルール』のような表現が多いですが、実際は2/3ルール。逆算するより経過周回数で考えた方が分かりやすいので、なんとなく1/3の方が定着しています。

 どちらも同じ意味に思えますがそうではなく、例えば上の項目のGT300のトップが61周で終わったケース。もし1/3ルールなら22周が最低周回ですが、実際は2/3ルールなので最大44周=相棒は1/3に満たない17周でOKとなります。

 最大運転距離はあくまで『元々設定されていた距離』が基準で『結果的に走った距離』ではないので、特に周回数が少ないGT300では1/3か2/3かで意味合いがかなり違います。あくまで『最大で2/3』です。

ドライバー交代はSUPER GTの見どころの1つ

 また、500km以上の距離のレースでは第3ドライバーを登録することが認められますが、近年は優勝争いするようなチームでは採用しないことが多く、登録されても本当にレギュラーに何かあった時の非常用の意味合いが強いです。一方、中団~下位チームであれば、3人いる時は3人で回すことも多いです。

 2人のドライバーで同じ車に乗って争うので、可能であれば好みのセッティングや運転スタイルが似た人、できれば背格好も似た人を組ませるのが良いとされています。好みが違うと、片方に合わせてもう1人が妥協するか、間をとるか、といった判断をする必要ができてしまいます。

 ただ、普段自分ではやらないようなセッティングの車で走ったり、データを比較したりする中で、新たな発見をしてドライバーが成長するということもあったりするので、似た嗜好の方が絶対うまく行く、とは限りません。

 ちなみにドライバーの契約については、GT500はメーカーとドライバーが契約し、それをメーカーが傘下のチームと相談しながら振り分けるような形になっています。彼らは『お金を貰ってレースできる』立場の人たちで、世界でもメーカーと直で契約してお金を貰ってレースできる立場というのは決して多くないため、GT500のシートは海外のドライバーから見ても魅力的です。

 貰える給料は不明ですが、以前に松田 次生がテレビ東京の番組で「Jリーガーのトップ選手ぐらい」とぼんやりした回答をしていたので、エースと呼ばれるレベルになれば、数千万円単位にはなっているのではないかと思われます。

 一方GT300クラスはチームによって形態が色々です。メーカーが若手の育成枠として使っているところもあれば、小さいチームならドライバーがスポンサー(資金)を持ち込むこともあります。小規模チームでも「うちは額は僅かだけど、ドライバーがお金を貰ってレースをする形にしたい」というところもありますし、オーナーが自分で乗るケースもありますから様々です。


・ドライバー/チーム選手権

 レースの最大目的は優勝ですが、年間の最大目的はチャンピオンです。ドライバーのコンビは各レースの順位に対して、1位から10位に順に

20-15-11-8-6-5-4-3-2-1

の点数が与えられ、他に予選でのポール ポジションにも1点が与えられます。PPを獲ったのは片方のドライバーの個人の功績ですが、PPボーナスはちゃんと両ドライバーに与えられます。シーズンを通じて最も獲得点数が多かった人がチャンピオンです。

 なお、700km以上のレースは距離が特に長いので点数がちょっと高めの設定。

25-18-13-10-8-6-5-4-3-2 となります。

 だいたいSUPER GTを見ると「カルソニックが」「レイブリックが」などと、出走車名で呼びますが、選手権はあくまで『ドライバー』に対するものなので、「RAYBRIG NSX-GTがチャンピオン」ではなく、正確には「山本 尚貴と牧野 任祐がチャンピオン」となります。

 世界のレースを見渡しても、だいたい個人戦ならドライバー名、複数が乗る耐久レースならチーム名で呼ぶことが多いので、SUPER GTのような『車名』というのは結構珍しいと思います。稀にスポンサーに何かしら起こったりして、シーズン途中で名前が変わることもあります。


 点数が与えられるのはあくまでドライバーなので欠場があると点数は貰えず、他のレースに出たとか、怪我をしたとかで欠場があると、コンビで獲得点数が分かれてしまい2名のうち片方だけがチャンピオン、ということもあります。

2015年のGT300クラスでは、GAINER TANAX GT-Rの
アンドレ クートだけがチャンピオン。
千代 勝正は海外レースとの掛け持ちで3戦を欠場していた

 また、ドライバーと比べるとあまり注目されませんがチームにもポイントと選手権があります。獲得ポイントは基本的にドライバーと同じですが、これに加えて、トップと同一周回で完走すると3点、1周遅れで2点、2周遅れ以上でも1点貰えます。逆にPPの1点はありません。

 入賞圏に入れないGT300の下位チームはこの1~3点の獲得状況が順位に大きく影響し、そしてチーム選手権の順位がシード権に影響するので、いつも15位あたりのチームは毎回点数の関係ないレースをしているのかと言えば決してそうではないのです。

 昔は複数台で参加するチームではチーム内の上位になった方のポイントが加算されていたのでまさに団体戦という感じですが、現在は車両ごとの競争なのであまりドライバー選手権とチーム選手権には差が出ません。ただ、僅差のシーズンで、片方が堅実、もう片方が優勝かリタイアか、みたいな点の取り方だった場合、ドライバーとチームのチャンピオンが異なるケースが出てきます。


・ウエイトハンデ制

 SUPER GTの大きな特徴がウエイトハンデ制度。前々回の記事でも書きましたが、多くの車に勝てる機会をもたらし、一人勝ちをさせず、コース上のあちこちで争いが起きるようにする、そして、過度な開発競争を防ぐ意味で導入されました。現在は使用する車両規定などから鑑みて、開発抑止の意味合いはかなり薄いというかほとんど無いかもしれません。

 2008年まではレース結果に応じて増減されていましたが、シーズン終盤になると、次のレースに向けてウエイトを増やしたくない車が『ウエイトを積まずに最大の点数が得られる順位』『ウエイトを下ろせて最大の点数が得られる順位』を欲しがってわざとゆっくり走る行為が行われるようになりました。

 2002年の第7戦では4位欲しさにお互いに3位を押し付け合い、2003年の第7戦ではゴール目前にガス欠を装って失速し2位を捨てて4位になる事件が発生。運営はこれを見て、『美味しい順位』を引き下げて対応していきましたが、2008年の第7戦でこれも決壊。

 9位狙いの車で大渋滞が発生した上、追いついてきた『順位を狙わない車』がこの脇をすり抜けたためにいきなりみんなの順位が変わってしまい、慌ててレースし始めて大混乱、クラッシュ車両まで出てしまいました。そのため2009年からは獲得点数に応じてハンデを課し、積んだら下ろせない制度になりました。

 ハンデはkg単位で表記され上限は100kgですが、クラスによって運用が異なります。

 GT500では、ハンデは保有ポイント×2kg。ただややこしいのが51kgを超えた場合で、ここからは燃料流量リストリクターの流量引き下げと組み合わせられます。51kgになると流量が1ランク下げられ、物理ウエイトは減少。これを68kg、85kgの段階でも繰り返し、最大で3ランク下げられます。↓





 2014年に新型車両になった際には、51kgで流量ダウンと引き替えにウエイトが一旦下ろされてそこから積み上げる制度でしたが、ウエイト50kgと51kgでは、パワーが下がっても重量が軽い51kgの方が明らかにお得だったのでハンデ制としては微妙な制度でした。

 ならば単純にウエイトを100㎏まで積んでいったらどうか、と2015年はそうしてみましたが、DTMとの共通モノコックは剛性があまり高くない上に、そもそもDTMより格段に速くて負荷が高いのでシャーシがボロボロになってしまいかねず、2016年からこの流量段階制限制度になりました。

 ただ、すごく覚えズラいので、放送やサイトの表記も『60kg』じゃなくて『43kg -1』とか書いてほしいなと思いますね。

 GT300は上位チームがかなり強くて固定化されつつあったため、2020年からポイント×3kgになりました。上限は100kgのままなので、34点で上限に当たります。

 比率ではなく実数でウエイトが積まれますので、軽い車の方が『増加率』は大きくなってしまい、同じ重さのハンデ同士なら、マザーシャシーは性能の落ち幅が大きく(ウエイト感度が高い、とも表現する)、逆にGT-R GT3のように元が重い車は影響度が低いのではないか?とも言われています。

 いずれのクラスでも、最終戦はハンデ無し、その1つ前はかける数字が半分になります。厳密には『その車両にとってシーズン何戦目か』で決まるので、欠場があるとズレます。2戦欠場したGT300車両がいたとすると、最終戦では大半が0kgの中でポイント×3kgのハンデを背負います。

中継映像ではハンデ51kg以上はオレンジ色にしてあるGT500クラス
ただそれ以上の説明は無いので、知ってないと具体的に分からない

・タイヤ

 世界の多くのレースでは、タイヤは運営が契約したメーカーによって独占供給されるワンメイクが主流です。コスト削減が大きな狙いです。

 一方でSUPER GTはチームごとに使用するタイヤを選ぶマルチメイクで、いわゆるタイヤ競争があります。空力部品やらエンジンやらは規則でやっていいことが厳しく決まっていますが、タイヤはある種自由自在。特にGT500やGT3車両は複数のチームが全く同じ車を使っていますから、タイヤのよる差がレースに大きく影響します。

 レースに持ち込めるのは、300kmまでのレースではスリック タイヤは各車最大6セット。長距離レースではさらに追加されます。各チームはレース時の気象条件を予想して、手持ちのデータから何を使うかを決めて持ち込みます。

 便宜上ソフトとかハードとか陣営内で呼びますが、それぞれが自分たちでタイヤを選んでいるので、同じブリヂストンのNSXが『ソフト』と呼んでいても、同じタイヤとは限りません。もちろん外観からは違いが分かりませんから、F1のように「このドライバーはソフトだから最初だけ速いな」とか読み取ることは全くできません。


・2デイ イベント

 元々SUPER GTは金曜日に練習走行、土曜日に予選、日曜日が決勝という3日間の日程でした。しかし2008年のいわゆるリーマン危機を受けて経済状況が悪化したことから、コスト削減のため土曜日に練習と予選をやる2デイイベントに変更。以後この形態が維持されています。練習時間が短いので、事前に組んだセッティングがある程度決まっているかどうかでレースの結果が大きく変わります。


・予選

 予選はQ1とQ2の2ラウンドに分かれるノックアウト方式でクラスごとに行われます。Q1ではGT500は上位8台、GT300は上位16台がQ2に進出、脱落した人は予選順位が確定します。

 GT300は台数が多いので、混雑してアタックできなくてションボリする人が出ないよう、組み分けが行われることがあります。2019年は狭くて短いコースである岡山国際サーキットとスポーツランドSUGOだけでしたが、2020年は全戦で実施されました。

 組み分けする場合、選手権順位の奇数をA組、偶数をB組と機械的に割り振って、2組に分けてQ1を行い、それぞれから上位8台がQ2に進出します。総合タイムではなくそれぞれの組の中での上位8台なので、たまたま片方の組に強豪チームが固まると、全体で見たら11位タイムなのに落ちた!みたいなことも起きなくはないです。

 組み分けでQ1落ちした人のグリッドは、A組の人は17位~の奇数順位、B組は18位~の偶数順位で確定します。

 そしてQ2のタイムの順位で各クラスのスタート順位が全て決まります。予選では各セッションともタイヤは1セットのみ使用可能です。

 SUPER GTはタイヤウォーマーが使えないので、ピットを出たら3周ほどは熱入れのための周回に充てられます。タイヤのピークは長くても2周、GT500クラスだと本当に極めるならチャンスは1周だけなので、自分がアタックしたいタイミングに向けて、完璧に温度と内圧を上げてアタックに入る必要があります。見る側にとってはアタック以外は退屈ですが、ドライバーにとっては極めて重要な周回です。

 また、コースオフやクラッシュが発生してコース上に危険がある場合、赤旗が振られて予選は中断され、赤旗の原因となった人はタイムを抹消されます。F1では残り時間が1分とかだと、再開しても時間が足りないのでセッションはそこで打ち切りますが、SUPER GTではそういう場合、各車が1回だけアタックできるぐらいの時間に残り時間を増やして対応します。

 予選中はコースの白線=トラック リミットが厳しく監視され、四輪全てコース外まではみ出てしまった場合には、四輪脱輪でタイムが抹消となることがあります。

 ちなみにSUPER GTに初めてノックアウト方式の予選が導入された際には、Q1~Q3の3ラウンド制だった上にタイヤは1セットのみという規則だったので、走り終えたらタイヤを水につけて冷やすという摩訶不思議な光景が見られました。



・シード権

 SUPER GTの公式サイトを見ると、予選結果の画面だけ、車両名の横に"S"と書かれている車両があります。これは『シード権』というもので、普段はあんまり関係ないですが、稀に関係することがあります。

 シード権制度では、参加チームを『Aシード』『インターナショナルチーム』『Bシード』『Cグループ』の4つに分類します。

 現在SUPER GTのシーズン参加台数は45台までとなっていますが、ピットの数に制限があるスポーツランドSUGOや海外戦では43台など少し台数が減らされています。この際に45台が参加しようとするとこぼれる人が出てきますが、シード権を有していると、決勝の参加が保証されてこぼれる心配がありません。NASCARのチャーター制度に似た仕組みです。

 具体的には、AシードはGT500の全チームと、GT300の前年度チーム順位18位までに与えられます。SUPER GTのサイトでSマークがあるのはこのAシードのチームです。

 インターナショナルチームは、海外から参戦してくるチームに向けた特別な枠で最大2チームまで。2020年で言えば、香港のチームであるX worksとarto Ping An Team Thailandが認定されています。

 Bシードはちょっと定義が分かりズラいですが、簡単に言えば、上記2つではまだ対象に入らなかったチーム(必然的にGT300)の中で、GT500のチーム順位→GT300のチーム順位、と上から数えていった時に42位までに入っているチームです。GT500が15台いたとしたら、GT300のランキング27位までのチームが対象になります。

 ここまでの3つの条件で該当したチームは『シード権を有している』ことになり、例えば最大出走台数が42に設定されているタイのレースでも必ずレースに出場することができます。また、本来予選を走ってタイムを出さないと決勝に出ることはできませんが、シード権があれば、出れるのであれば出走は認められます。

 そしてここまでで権利を得られなかったチームは『Cグループ』になり、すなわちシード無しです。シードが無いと、例えば43台しか出られないSUGOのレースに45台全員が揃ってエントリーをした場合、このCグループ3台の中で2台が『予選落ち』となってしまいます。

 仮にCグループの人が神がかり的速さで予選でトップ3を独占したとしても、このうち2台は決勝に出られないということに理屈の上ではなります。実際に起こったら議論になりそうだけど。。。

 そしてこのCグループ、既存チームが優先的に権利を有することができ、仮に既存チームだけでシーズンのエントリー枠が45に到達してしまった場合、新規参戦は受け付けないことになっています。既存チームとの売買や譲渡は可能なので、どうしても参加したいなら権利を他所から入手することになります。

 実際は欠場があったりしてなかなか予選落ちの場面は少ないんですが、GT300のチームとするとBシードは是が非でも欲しい権利。下位のチームが稀にスポットで速いドライバーを起用することがありますがこれはBシード獲得対策で、同一周回で完走して3点、あわよくば入賞圏でさらに大量点、という狙いがあると思われます。



・スタートタイヤ

 F1では、予選でQ3まで進んだ人はQ2でベストを出したタイヤでスタート、落ちた人は自由選択ですが、SUPER GTはちょっと違います。

 必ず予選で使用したタイヤでのスタートが義務付けられており、Q1落ちした人はQ1で使ったタイヤ、Q2に進出した人は、予選後の抽選でQ1、Q2いずれかに決まります。1台ごとに抽選するのではなく、代表者としてGT500クラスのポールポジションを獲った人がクジを引いた、と思います。確認しようと調べても案外出て来ないから断片的な記憶が頼り^^;

 ですので、予選のタイヤはレースで使いたいもの、かつQ1とQ2は同じ仕様のタイヤを選ぶのがセオリーです。もちろん、戦略上「どうしてもPPから優勝したい!」と考えて、Q1は寿命の長いタイヤでも通過する自身があるからレース向きタイヤ、Q2は寿命が短い予選スペシャルを使い、あとは運に賭ける!Q2タイヤが選ばれたら諦める!というのも逆にありといえばありです。

 Q1落ちした人は自由に選べた時代もあるんですが、2011年・タイヤに厳しいオートポリスで、予選12位だったMOTUL AUTECH GT-Rがめっちゃレースに強いタイヤを選んで決勝でごぼう抜きして優勝した、なんてことがありましたねえ。

後半に続く・・・

コメント

okayplayer さんの投稿…
もう頭がパンクしてます笑