NASCAR用語 ア行




・アジャスト adjust

 調節する、というの意味の単語でNASCARでは主にレース中に行うセッティング変更を指す。NASCAR、とりわけカップ シリーズはレース距離が長く、ほとんどのレースで総時間が3時間を超え、トラック上を約40台の車が走行している。
 それ故、時間と共に路面温度や路面状態が変化していき、基本が全く同じ車で競争しているため、このちょっとした変化に車が合うか合わないかが車の速さに大きく影響する。そのため、レース中に出来る範囲で車のセッティングに微調整を加え、常に競争力のある車を保つよう努力している。
 ウエッジ、トラック バー、タイヤ空気圧、の3つがレース中に可能な調整項目で、他にスプリング ラバーの出し入れもある。過去にはフロントのスプリッターを削る、というかなりの荒業も出たことがあるほか、車体の一部を変形させると空力的に有利になるから、とピット作業時にさりげなく車に体当たりして変形させることもあった。
 車体の変形は規則違反でインチキ行為だが、偶然だと言い張れば違反と言い切れないので、インチキするならバレないようにやらないといけない。しかし近年は監視の目が厳しいのでほぼ間違いなくバレる。


・アンコントロール タイヤ uncontrolled tyre


 ピット作業における反則行為の1つで、名前の通りタイヤを制御できなかったことに対するもの。重量物であるタイヤがピット上を転がってしまうと危険であるために各チームが安全に管理下におかなければならないとするもので、違反するとリスタート時なら最後尾リスタート、アンダー グリーンならパス スルーのペナルティーとなる。

・自身のピットボックスを外れて走行レーン上に転がる
・自身のピットボックスから大きく外れて他車のピット作業を妨害する
・ボックスの真ん中より外側にあったタイヤを内側に移動させ、それが再度外側に移動する
・明確に跳ねさせたり投げる

といった行為が該当する。一時期は『タイヤが常にクルーの腕の長さの範囲にある』ということが求められたが、あまりに厳しい規則でペナルティーが乱発されたため現在は撤廃され、転がしてウォール側のクルーにパスする程度は許容されている。



・イニシャル スタート initial start
 または
 オリジナル スタート original start


 
 レースのスタートをリスタートと区別する際の呼び方。リスタートとは一部で違いがある。
 イニシャルスタートではイン/アウトのレーン選択をポールシッターが行い、後続は順位通りに2列で並ぶ。1位がアウトを選べば2位が1列目イン、3位は2列目アウト・・・となる。
 イニシャルスタート時は後続車がスタート/フィニッシュ ラインまでにリーダーを抜くことは禁止、後続車もリーダーがラインを通過するまでに追い抜いてはならず、リスタート時とは追い抜きを許可されるタイミングが微妙に異なる。
 ごく稀にある、コーション下でレースが開始される手順が取られた場合、最初のスタートは『1回目のコーションからのリスタート』となるため、扱いはリスタートである。


・ウエーブ アラウンド wave around


 コーション発生時に行われる隊列整理の1つ。リスタート1周前に、ペース カーとリーダーに挟まれた車がペース カーを追い越して1周取り返すことができる。
 例えばコーション発生時、リード ラップ車が17台で18位以下が周回遅れだったとする。コーション時にはペース カーは必ずリーダーの前に立ち、以下はリード ラップ車がイン、ラップ ダウン車はアウトに、コーション発生時の位置関係のまま並ぶ規則があるため、下図のような並びになる。(丸数字は順位)
              
               


外だけ、内だけで前に詰めたりはせず、1列に1台のみ並ぶ。コーション時はまずリード ラップ車のみがピットに入ることを許可される。ここでもし全てのリード ラップ車がピットに入ると、ピット後は並びが



となる。ラップ ダウン車がここでピットに入らなかった場合、ペース カーとリーダーの間に挟まることになり、この場合にリスタート前にそれらの車はペース カーを抜くことを許可される。
 1周遅れだった場合、これでリード ラップの最後尾に戻ることになる。但し、リスタートはウエーブ アラウンド車を待たないため、トラックによっては急いで隊列を追いかけないと、リスタートした時点で既に大幅に遅れてしまうこともある。

 なお、追い抜けるのはペース カーのみなので、リーダーがピットに入らない場合にはウエーブ アラウンドは全く発生しない。また、上記図のケースでは例えば4位の車が入らなかった場合には、20位の車はペースカーとリードラップ車両の間に挟まれないので、ウエーブ アラウンドは19位までしか受けられない。ウエーブ アラウンドを受けれない車はリスタート手順に従ってリード ラップ車の後ろに並ばされる。


・ウエッジ wedge


 レース中にアジャストできる内容の1つで、右前輪-左後輪と左前輪-右後輪にかかる荷重の比率=クロス ウエイト、ないしはそれを調節する部位を指す。リア ウインドウ上部の左右に開けられた穴にレンチを差し込んで回すことで調整ができる。
左右にあるのがウエッジ用
右側にだけあるのがトラック バー用


 例えば4脚の1㎏の机があったとする。足の長さが均等であれば、各脚部には250gの荷重がかかっており、クロス ウエイトは500g:500gで1:1である。
 ここで、左手前の脚の下に紙きれを差し込んだとする。すると、机の左後ろが高くなって不安定になり、右前-左後にかかる荷重が増して残る2脚からは抜けていることが分かる。これを『ウエッジを足す』等と表現する。このように、車両の基礎的な荷重を変化させることでハンドリングを調節する。
例えばレンチを時計回りに回すと

棒の先はスプリング上部の受け皿に繋がっており、
同じく時計回り=締める方向に回る


 スプリングの付け根部分の受け皿のような部分がネジを回すことで上下し締め付け具合を変化させ、結果クロス ウエイトを変化させる。調節はピット作業中、リア ウインドウ上部にある穴にレンチを入れて回すことによって行う。一般的に右側のウエッジを足すとタイト、減らすとルース方向になる。


・オーバー ザ ウォール トゥー スーン over the wall too soon


 ピット作業違反の1つで、ピット クルーがボックスに出るのが速すぎる違反行為。規則ではクルーは自車が自分の1つ前のボックスに相当する距離に差し掛かるまではボックス内に降りてはいけない。

                   

 緑色が自ピット ボックスなら、赤い線が基準となるラインとなる。この場面ではクルーの一人が既に足をついており違反となる
 『相当する距離』と書いたのは、自ピットの手前がガレージとの接続路になっている場合、1つ前のピットが遠くなるからで、その場合基準線は


 このように、あくまで距離が基準であり、隣のピットの真ん中あたりが基準となる。これもジャッキさんが既に降りていてペナルティー。なお、早く降りてしまった場合でも、クルーが引き返してもう一度ウォールに両足を置くことができればリセットされてペナルティーを回避することができる。


・オーバータイム overtime


 延長戦のことを表す単語でモータースポーツでは異例のNASCAR独自規則。以前はグリーン-ホワイト-チェッカーと呼ばれていた規則で、レースがイエローのままチェッカーを受ける味気ない終わりとなるのを防ぐための措置。
 レースの最終盤でコーションが発生した際、コーション中に規定の周回数に達すると判断された場合に適用され、周回数が当初の規定を超えて元々の残り周回数に関わらず残り2周で再開される。
 オーバータイムでは、事前に設定されたオーバータイム ラインをリーダーが通過した場合、その後にコーションが出てもレースは再スタートされずその時点で順位確定、一方でそれよりも前に再びコーションとなった場合、何度でも残り2周からリスタートを繰り返す。
 2017年まではラインはスタート/フィニッシュの約半周先に設定されていたが、2018年から翌周のスタート/フィニッシュ(すなわちホワイト フラッグ)に移動され、実質的に旧来のグリーンホワイトチェッカーと同じになった。
(ステージ終了時に緑色のチェッカーを振り、グリーンチェッカーとも呼ぶことから混同を避けるためにもオーバータイムという表現を続けていると思われる)


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